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「あのうお嬢様、カール様がお見舞いにいらっしゃいました」

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 これは腹いせに何か奪われるなと予感したが、今の私には下着とノートしかない。
 私にとって勉強のためのノートが大事なものでも、勉強の苦手なアイラには見ているだけで嫌なものだろう。下着を奪われたら、奪われて驚いたもの上位が更新だ。

 お母さまは昨日一日、アイラを的外れに慰め続けていたようだ。
 そして今日、私はやはり部屋で下着で勉強するしかなかった。ちょっとした軟禁状態だ。いや、どうしても出たければナディに服を借りるけど。

「あのうお嬢様、カール様がお見舞いにいらっしゃいました」
 ナディが困った顔で知らせにきた。

「お母さまは?」
「アイラお嬢様につきっきりで、カール様には帰ってもらうようにと」
「帰ってくれた?」
「せめて容態は聞きたいと」
「まあ、そうね……」

 たとえ情がなくても婚約者だ。それも婿入り予定。病気と聞けば礼儀として見舞いに来るものだし、病状の説明も受けるのが普通だ。
「本当に下着姿でいるのか……」
「旦那様!」
「お父さま。ええ、そうなんです」

 お母さま以上に疎遠な家族の登場に、私は内心動揺した。下着姿を見られるほど親しくない。全く。
 けれどそう言うわけにもいかないので、できるだけ体を縮めてナディの後ろに隠れた。

「アイラがドレスをたくさん持っているだろうから、借りてきてあげよう」
 お父さまはのんきにそう言った。
 大抵のんきに事を面倒にしてしまう人だ。少なくとも、大抵の場合で役に立たない。

「お父さま、アイラには断られてしまったので、」
「いや、仕方のない状況だろう」

 当主であるお父さまを止められる人はいない。アイラ付きの使用人も逆らえなかったのだろう、お父さまは適当なドレスを両手に抱えて戻ってきた。
 こうなればもはや仕方がない。
 お母さまとアイラが、どこにいるかわからないが、気づかないことを願うしかない。

「ナディ、急いで」
「はい!」
 私はナディに身支度をさせ、学園を休んだ言い訳を考えながらカール様のもとへ向かった。どうせお義理の関係なので、用事がすめばすぐに帰ってくれるだろう。

「お待たせして申し訳ありません、カール様」
「ああ、ようやく支度が終わったか」
 応接室にいたお父さまが笑顔で余計なことを言う。

 しかし先に応対してくれていたのだから、そこは感謝するべきなのだろう。どうもうんざりするんだけど。
「カール様、ご機嫌麗しゅう」
「……病気と聞いたが」
 うさんくさそうに見られてしまった。心配して見舞いに来た、というていなのだから、元気そうで良かったくらい言ってほしいものだ。

「いえ、ものもらいが。もう収まりました」
「そんなものがあろうとなかろうと、……大したことじゃないだろう」
「そう言ってくださるとありがたいのですが、女にとってはつらいものです」

 私は微笑みました。
 たぶん「ものもらいで損なわれるような大層な顔じゃないだろ」と言いたかったのを、お父さまがいるので遠慮したのだろう。

 たぶん見舞いに来たのも、あわよくばアイラに会いたかったんだろうな。造作は同じだというのに、解せない。

「様子を見ておりましたところ、ご連絡が遅くなり、ご足労いただきまして申し訳ありません。カール様にはお変わりありませんでしょうか」
 とても久々に顔を見たので、まあ礼儀として聞いておこう。というかそんな嫌そうな顔をしているなら、早く帰ってくれればいいのに。

「……ああ。何も……」
「お姉さま!」
「……アイラ」

 私は半笑いで振り向いた。
 まったく、勘がいいというかなんというか、私の運が悪いというか。最も、なんとなく見つかるような気はしていた。そんなもんよね。

「どうしてお姉さまが私のドレスを着ているの!?」
 あれだけドレスを持っていて、よくわかるなあ。
 感心した。それにそんなふうに声をあげていても、怒った子供のようで愛らしいのだ。これをただ可愛がっていられるなら、それは楽しいだろうなと思う。
 私は頭が痛いので今すぐ寝込みたいけど。
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