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「王よ、私が望んでいるのだぞ?」
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「まあ、あなた方の国がどうなっていようと私には無関係。ライファン陛下には真っ当な判断を望む。我が国への謝罪を」
「ふざけたことを、こちらこそが謝罪をされて叱るべきだ。貴様のような毒を俺の前に出してきたのだぞ、侵略にも等しいことだ!」
「……ふむ?」
無茶な言い分だが、現実的に可能だったのだなとルナは気づく。
獣人にとって番は絶対のものだ。嫌がっても体が反応するのは、もうさんざん見せられてきたこと。
もし母国アリアレッサの王がルナを押さえてしまえば、それはもう、ほとんどライファン王を思い通りにできる、に等しい。
(いやいや、そこまでではないだろう。さすがに)
国なのだ。
いくらなんでも王の裁量で動かせることは限定されている。はずだ。
「……」
目の前の短気な男を見ていると、ちょっと、かなり疑わしくなってくるが。
「……ひとまずそれでもいいが。とにかくアリアレッサへの帰国を望む」
「させるものか。こうなった以上、貴様は我がものだ。汚らわしく、忌々しいが……」
そう言いながらも男の視線は、じっくりとルナの頭から足先までを見るのだ。ルナは少し考え、言ってみた。
「王よ、私が望んでいるのだぞ?」
偉そうだ。
自分でそう思うくらいなので、王にとっては数倍そうだっただろう。歯ぎしりの音が聞こえてきそうだ。形相もすごいものだったが、ご面相で人は殺せない。
「私が、帰国を望んでいるのだぞ?」
番というものがどれほどの強制力を生むのか。確かめるようなつもりで、瞳をじっと見つめながら言った。
「私を帰してくれ」
直接的な言い方に変えてみた。
見る間に王の顔が赤くなる。
(怒らせたか?)
さすがに上からすぎただろうか。しかしこの状況下であれば、媚びて舐められることは得ではないように思う。
できればこちらが上だと、少なくとも上を譲る気がないのだと知らしめたい。
王が重みのある動きで前に出た。
「……」
威圧か。ルナは引かずに、腕を組んで見上げる。王は番であるルナを害せない。だが何事も絶対ということはない。
警戒はゼロではない、だが気づかせない。ほんのわずかに口の端を吊り上げて見せた。
「逃がすものか……!」
腕を掴まれた。
ルナは振り払いもせずに男を見上げている。男の目は見開かれ、熱は上がりきっている。顔が近い。恐れはしないがルナは相手の意を測りかねた。
あまりにも近い。
「俺の、ものだ……」
そして男は隙だらけだった。
やってくれといわんばかりだ。
何か罠でもあるのだろうか?
いや、そんな気配もないのだ。ただただ、男の赤い顔が近く、
「俺のものだ、これは俺のものだ、誰にもやらん、どこにも帰さぬ。俺だけを愛して俺だけに抱かれて俺の子を生むのだ! 感謝しろ、それがおまえの幸せなのだ!」
あ、これは何もないな。
ルナは理解したので、遠慮なく男の股間を蹴り上げた。
「ンッ、グゥ!?」
王は見事に沈没して、ルナがどいた寝台の上にぐたりと倒れた。
「へ、陛下ッ!」
「貴様ぁ!」
「どうした!?」
「陛下! 陛下に何を!」
「陛下をお守りしろ!」
護衛の悲鳴を聞きつけて、なだれ込むように兵士が飛び込んできた。ルナはまず襲いかかってきた騎士二人を冷静に床に沈めたが、数が多い。
それでもやるしかないと迅速に雑に、ちぎって投げようと決めたところ、
「貴様らぁああ、俺のものに何をするゥゥウ!」
「へ、陛下っ!?」
「おやめください、ああ!」
股間の痛みはまだあるらしく、前かがみになりながら、王は大きな両腕で男たちを薙ぎ払う。
なんとも大味だが力強い。そして何より王に逆らうわけにもいかない兵士たちは、慌てきった顔で撤退していく。
「ううん、惜しいな。豪快なのは悪くないが」
格好いいと言うには、やはりあからさまに乱心である。距離を取りながらルナはため息をついた。
危機感は大変に萎えさせられたが、兵士たちも「ルナを逃がすな」という命令にはしっかり従うだろう。
まだ入りきれない兵士がドアの外に詰めかけている。隙をついて逃げるのはさすがに難しそうだ。
「ふざけたことを、こちらこそが謝罪をされて叱るべきだ。貴様のような毒を俺の前に出してきたのだぞ、侵略にも等しいことだ!」
「……ふむ?」
無茶な言い分だが、現実的に可能だったのだなとルナは気づく。
獣人にとって番は絶対のものだ。嫌がっても体が反応するのは、もうさんざん見せられてきたこと。
もし母国アリアレッサの王がルナを押さえてしまえば、それはもう、ほとんどライファン王を思い通りにできる、に等しい。
(いやいや、そこまでではないだろう。さすがに)
国なのだ。
いくらなんでも王の裁量で動かせることは限定されている。はずだ。
「……」
目の前の短気な男を見ていると、ちょっと、かなり疑わしくなってくるが。
「……ひとまずそれでもいいが。とにかくアリアレッサへの帰国を望む」
「させるものか。こうなった以上、貴様は我がものだ。汚らわしく、忌々しいが……」
そう言いながらも男の視線は、じっくりとルナの頭から足先までを見るのだ。ルナは少し考え、言ってみた。
「王よ、私が望んでいるのだぞ?」
偉そうだ。
自分でそう思うくらいなので、王にとっては数倍そうだっただろう。歯ぎしりの音が聞こえてきそうだ。形相もすごいものだったが、ご面相で人は殺せない。
「私が、帰国を望んでいるのだぞ?」
番というものがどれほどの強制力を生むのか。確かめるようなつもりで、瞳をじっと見つめながら言った。
「私を帰してくれ」
直接的な言い方に変えてみた。
見る間に王の顔が赤くなる。
(怒らせたか?)
さすがに上からすぎただろうか。しかしこの状況下であれば、媚びて舐められることは得ではないように思う。
できればこちらが上だと、少なくとも上を譲る気がないのだと知らしめたい。
王が重みのある動きで前に出た。
「……」
威圧か。ルナは引かずに、腕を組んで見上げる。王は番であるルナを害せない。だが何事も絶対ということはない。
警戒はゼロではない、だが気づかせない。ほんのわずかに口の端を吊り上げて見せた。
「逃がすものか……!」
腕を掴まれた。
ルナは振り払いもせずに男を見上げている。男の目は見開かれ、熱は上がりきっている。顔が近い。恐れはしないがルナは相手の意を測りかねた。
あまりにも近い。
「俺の、ものだ……」
そして男は隙だらけだった。
やってくれといわんばかりだ。
何か罠でもあるのだろうか?
いや、そんな気配もないのだ。ただただ、男の赤い顔が近く、
「俺のものだ、これは俺のものだ、誰にもやらん、どこにも帰さぬ。俺だけを愛して俺だけに抱かれて俺の子を生むのだ! 感謝しろ、それがおまえの幸せなのだ!」
あ、これは何もないな。
ルナは理解したので、遠慮なく男の股間を蹴り上げた。
「ンッ、グゥ!?」
王は見事に沈没して、ルナがどいた寝台の上にぐたりと倒れた。
「へ、陛下ッ!」
「貴様ぁ!」
「どうした!?」
「陛下! 陛下に何を!」
「陛下をお守りしろ!」
護衛の悲鳴を聞きつけて、なだれ込むように兵士が飛び込んできた。ルナはまず襲いかかってきた騎士二人を冷静に床に沈めたが、数が多い。
それでもやるしかないと迅速に雑に、ちぎって投げようと決めたところ、
「貴様らぁああ、俺のものに何をするゥゥウ!」
「へ、陛下っ!?」
「おやめください、ああ!」
股間の痛みはまだあるらしく、前かがみになりながら、王は大きな両腕で男たちを薙ぎ払う。
なんとも大味だが力強い。そして何より王に逆らうわけにもいかない兵士たちは、慌てきった顔で撤退していく。
「ううん、惜しいな。豪快なのは悪くないが」
格好いいと言うには、やはりあからさまに乱心である。距離を取りながらルナはため息をついた。
危機感は大変に萎えさせられたが、兵士たちも「ルナを逃がすな」という命令にはしっかり従うだろう。
まだ入りきれない兵士がドアの外に詰めかけている。隙をついて逃げるのはさすがに難しそうだ。
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