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結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

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「いい加減やってらんねぇわ」

 戦士が言った。振り下ろした戦斧で一角牛を仕留め、なぜかルクスを睨んでいる。
「はい?」
 お疲れなのだろうか。
「ああ、わかるぜ、やりきれねぇよ、まったくな!」
 答えたのは武闘家だった。自慢の筋肉でさっそく一角牛を解体にかかっている。その名の通り見事な角と、蹄が高く売れるのだ。

「殺す……殺す……殺す」
 狂戦士はいつものように殺意十分だ。血の匂いに興奮したのか、ルクスに襲いかかろうとして結界に阻まれている。
「グアアアアアア」
「ったくよ、いっそそいつに喰われちまえばいいってのに」
 ルクスは笑った。
「いやあ、さすがにキョーさんでも牛1頭は無理じゃないですかね」
「ちっげーーよ! 馬鹿か、おまえ馬鹿なのか? ずっと言ってるだろうが、おまえは何で、何のために、何の価値があってこのパーティにいるんだよ!」
「へ?」
 驚いた。

 ちょいちょい当たりがきついなーとは思っていたが、なにしろ脳筋ばかりのパーティである。こんなもんかなとルクスはスルーしてきた。
「僕は結界師なんで、そりゃ結界を張ってますよ」
「ハッ、結界! 結界だとよ。なぁそれ、魔物を倒すのに役に立つかなあー? 今、役に立ったかなあーっ!?」
「え、それは……」
 魔物を倒すのには役に立っていない。
 立ちようがない。この三人は本当に脳筋なので、魔物を見るや全員で飛びかかっていき、結界の中にいるのはルクスだけだ。なんならルクスが結界を張るより先に始末がつく。

 戦いにおいてルクスは役に立っていない。
(いやまあ、それは、そうなんだけど)
 困った。結界師はわりあい人気の職なので、役立たず扱いされるとは思っていなかった。
 だいだいこの脳筋達に、どんな言葉が通じるだろう。

「そーらみろ。俺達は強い。三人いれば敵はいねえ! 結界師なんざお呼びじゃねえんだよ。それを毎回毎回分け前だけ取っていきやがって、どんな面の皮してやがんだ、ァア!?」
「つよいつよいつよいつよぉおいいい!」
「ハッ、さすがは結界師様って図々しさだ。ひよっこ冒険者に持ち上げられていい気になりやがって」
「そんなことは……」
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」
「テメェはひよこ相手にガイドでもやってな! 小銭くらい稼げるだろ。テメェにゃ相応だ」
「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」

「ま、まってくださ……!」
「誰が待つかよバーーーーーカ!」
「そっちは危な……っあ」
 遅かった。
 さすがの戦闘職の素早さで、三人はもうルクスの結界の外に出ていた。

 ここは魔物の住む森だ。ただの森でも前準備なしに歩き回るものではないが、ここには瘴気があふれ、地面が腐り、得体の知れない生物が罠を張り、汚染された木々は有害な花粉を飛ばす。

「ぐっ、なんだ、歩きにく……ぎゃぁっ!」
「おい兄弟、なにやって……ひぃっ! なんだ、なんだなんだなんだ、なんだこのっ、鳥」
「イタイイタイタイタイタイタイタイ!」
「やめろぉ! 鬱陶し……なんだ、うごけねぇ! なんでだ、足が、足が!」

「うわあ……」
 まんまと彼らは腐れ沼に足を取られ、人肉を求める虫につつかれている。
「すごい。初心者みたいな反応だ」
 とても上を目指すパーティとは思えない。初心を取り戻せてよかったね、という気分になり、ルクスはしばらく眺めることにした。

「くそっ、ただの虫じゃねえか! おまえら、なに情けねえことしてんだ!」
「け、けどよ、この沼が……っ!」
「這って抜けろ!」
「誰かが足を掴んで引っ張ってんだよぉ!」
「そんなわけがあるか、この……ぐあっ、おい、一回離……」
「た、助けてくれぇ!」
「離せと言ってんだろうが! このっこのっ」
「ぬっ、ぬっ、ぬまぬま!」
 もうめちゃくちゃだ。
 助けようとして引っ張られ、抜け出そうとして引っ張られ、蹴り合い引き合い、ドロドロのぐちゃぐちゃになっている。

「こういうことになるんだよね……」
 結界師なしに魔物の出没地域を歩くのは困難だ。注意して進めば不可能ではないが、結界師を雇った方が効率がいい。
「どうしよ」

 助けようかな。
 でもついてくるなって言われちゃったしな。

「僕が結界師だからいいけど、他の職の子だったら、こんなとこ置いていかれたら危ないし」
 パーティを抜けてもらうにも常識というものがある。
 脳筋の勢いで済まされることではない。

「お、おい、ルクス……」
「うーん?」
「……しかたねえ! おまえを認めてやる! 一流パーティのガイドとして雇ってやるから、」
「ガイドねえ」
 雇ってやる、ときた。
 かわいそうだから助けてあげようか、という気になっていたルクスも、さすがにボランティア気分はなくした。
 パーティなら報酬は分配だが、雇用なら契約額だ。

「じゃあちょっと待ってよ。今、書面をつくるから」
「そんなことしてる場合かよ! 助けろ、助け……助けて!」
「大丈夫、一流パーティならそうそう死なないって。回復アイテムも持ってるよね」
「アイテム!? おい、おまえが持って……ああああ! し、沈んでるじゃねえか!」
「あっ、あきらめろ! これはもう」
「あいてむててむてむてむて」

「えーっと、村に戻るまでの短期契約……契約額は」
「1万ドニーだ!」
「必死な割にけちくさい額だね。もう一声」
「……1万2千!」
「まあいいよ。前払い1万2千。用意してね」
 あんまり釣り上げて恨みをかうのも馬鹿馬鹿しい。正当な報酬がもらえればそれで十分だ。
「荷物っ、荷物、どこにやりやがっ……」
「おまえが、おまえがおまえがおまえが!」

 あちらは大変そうだが、ルクスも別に嫌がらせをしているわけではない。成功報酬になんかしたら踏み倒されるかもしれないだろう。
 誰だって結界師がいなくて困った経験があるはずなのだ。
 その初心をまったくすっかり忘れてしまったわけだから、今の必死さだって忘れてしまうに違いない。

「で、今日の日付……今日って何日でしたっけ?」
「三日だ、三日!」
「馬鹿、四日だろ!」
「どーでもいいだろうが!」
「いやどうでもよくはないよ。ほんとに四日だったかなあ?」

 なんだかんだと書類を完成させ、ルクスが結界で泥を押し除け助け出した頃には、三人は危うく頭まで泥に浸かるところだった。

 冷静にしていればそこまで早く沈まないのが沼である。

 ルクスは苦笑した。
 ほんとうに自分が抜けて大丈夫なのだろうか。結界師を追放したなんて知られたら、新しい結界師は呼べないかもしれない。
 それにルクス自身、新しいパーティを探すのが面倒だというのがある。結界師はどこでも安全に行けるが、魔物を倒すことはできない。魔物の討伐こそが冒険者の大きな収入だ。
 その点において彼らは申し分ない前衛だ。魔物をガンガン狩る。

(いや、同情は禁物。ないない)
 冒険に出たらそんな甘い考えは通じないのだ。
 結界も万能ではない。非常識な仲間と組んでいたらこっちの身が危ない。

「これに懲りたら、脳筋もいいけど、もうちょっと脳に栄養回した方がいいですよ」
 最後の忠告は届いただろうか。

 村についたルクスは新しいパーティを見つけ、新しい冒険を始めたので、彼らが生きて楽しくやっているのか、あるいは死んでしまったのかは知らない。
 少なくとも噂になるほどの活躍はしなかったようだ。
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