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「おぉ、お待ちしておりましたぞ。」

開かれた扉の先を見遣ると、そこにはノイラート侯爵と、ずらっと並んだ兵たちと共に立ち尽くすレティシアの姿があった。

「お話を受けてくださりありがとうございました、ノイラート卿。」

そう言うと、ノイラート侯爵と今しがた到着したビルヴォート伯爵は手を握りあった。


何故ノイラート侯爵、否、レティシアがこの話を受けてくれたのか皆目見当もつかない。


挨拶が終わると、直ぐに僕達は部屋へと通された。


そこからはあっという間だった。

僕は、その話に一切口を挟むことなくただ流れていくその光景をぼんやりと眺めていた。


ただそんな中、顔には出ないものの、レティシアの手は小刻みに震えていたように見えた。

「ねぇ、レティシア、レティシア………大丈夫?」

ルークは、ノイラート公爵達に聞かれないよう小さな声でそう囁いた。


「えぇ、大丈夫です。ごめんなさい、少し気疲れしちゃったみたい。」

「…………ねぇレティシア。もし………」

「いやぁ!今日はありがとうございました。式は何時になるのか本当に楽しみだよ。」 

ルークが言いかけた言葉に被さるようにビルヴォート伯爵が声を張り上げ、笑いかけてきた。

そんなビルヴォート伯爵の期待の声に、レティシアは苦々しい笑顔を浮かべている。


きっと父上は僕が何を言い出そうとしたのかを察したのだろう。父上には私達など眼中に無い、欲しいのは侯爵家との繋がり、と言った所だろうか。

今ルークは初めて、あの時首を縦に振ってしまったことを後悔した。

もしあの時僅かな期待に自分が傾かなければ、レティシアにこんな顔をさせなくて済んだのに。

そう考えれば考えるほど、自分がどれだけ利己的な人間だったのか思い知らされる。

ルークもレティシアと同様苦笑いを返すことが精一杯であった。


私達がこの屋敷に着いてから既に数時間が経過していたようで、西の方に日が傾き始めていた。


「よし、今日はこのあたりにして置くか。」

そう言ってノイラート侯爵が手を叩いた。

「よし、今日はこのあたりにして置くか。」

そう言ってノイラート侯爵が手を叩いた。


ビルヴォート伯爵が屋敷に着いてから既に数時間が経過し、西の方に日が傾き始めていた。


そしてルーク達は、ノイラート家の面々と共に敷地に止まっていた馬車まで足を運んだ。


「ノイラート卿、今日は本当にありがとうございました。」

「いや、こちらこそ。是非また。」


父上がそう言い終えると私達は馬車に乗り込んだ。 

そんな馬車を後ろ目に、レティシアは首から下げたペンダントをきゅっと握りしめていた。


最後に彼女に何か声でもかけようか、と悩んだが彼女の行動を見て、その言葉を飲み込んだ。

あのペンダントはきっといつの日にか彼女が話してくれた品であろう。はめ込まれたその碧色の石を見てそう確信した。


やはり、彼女を幸せにするのは私では無いんだな。


そんなに苦しそうな顔をしないでくれ。今すぐにでも抱きしめて、声をかけてあげたい。でもそれは私の仕事では無いのだな。

そんな私の心の中の葛藤をまるで無視するかのように、その馬車は無情にもゆっくりと動き出した。

ルークは窓から顔を離し、その光景から目を背けるのであった。





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