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「ニコラウス様は………」

「ニコラウスでいいよ、堅苦しいのは嫌い。その代わりと言ってはなんだけど、俺もレティシアと呼ばせてもらっていいかな?」

「わ、っかりました……。に、ニコラウス……?」

「どうした?」

ニコラウスは動揺するレティシアに対し、明らかに意地の悪い顔で聞き返して来る。

「もう!やめてください………」

「ごめんね、つい面白くって。」

レティシアは顔を赤く染め、俯いてしまった。


「そ、そんなことより、ここから街に行くための馬車を捕まえないと!」

そしてエルナは少し小走りをし、少し大きい道へと駆け出した。

日中は普通に陽光が差しているので、特に瞳について気にする必要は無い。暗所にさえ入らなければ良いだけなので、至って普通の人と変わらず生活することは苦ではない。


「ニコラウス、こっち!」

レティシアがそう言いながらニコラウスの方を振り返ると同時に、脇にあった草むらから小さな蛇が飛び出してきた。

「いゃぁああ!!!」

レティシアは蛇に驚き、その場に尻もちをついた。


「………………………………っく、」

ニコラウスは、何とかそこまでは堪えていたがついに耐えられなくなったようで、手で口を覆うことを辞め、高らかに笑い始めた。

そんなに笑うことないじゃないでしょ!と内心思いつつも、中々笑い止まないニコラウスに釣られ、レティシアも笑いだしてしまった。


「どれだけ笑うのよ……もういいでしょ?」

「ごめんついね、はぁ……………こんなに笑ったのは久しぶりだよ。」

そうは言いながらも、屈みながらこちらに右手を差し伸べてくれている。


レティシアは立ち上がり、ワンピースの裾に着いてしまった土を手で払うと、2人は目を見合せた。

「そろそろ行きましょうか。」

「うん、そうしようか。」

地面に落ちてしまったポシェットを拾い上げ、2人は馬車に乗るため、開けた道に向かい歩き始めた。




♢♢♢




そこから馬車に揺られること数十分。レティシアの家がある、カルトレアの町の大広場に馬車が停車した。

 
2人は降車し、運転手に一礼すると、馬車は次の客を乗せ、早々に去って行った。


「ねぇ、レティシア。この辺に女性が喜ぶような土産が買える店ってないかな?残念だけどそう言うことには疎くて……」


……………はっ!さては彼女さんのために……。これまた出来た紳士だこと。そうと来たら、彼女さんのために飛びっきり可愛いお土産を選ばなきゃね!

「この道を真っ直ぐ行った所にある雑貨屋さんなんてどうかしら?最近この町で、あのお店を知らない女の子はいないのよ!……実を言えば私が行きたいだけなんだけれど。」

「レティシアがそう言うならそこに寄ろうかな?」

「本当ですか!………あっ、でも体調は……?」

「そんなこと今更でしょ?なんならまた本を…」

「分かった、分かりました!行きましょう。」

そう言うとレティシアはニコラウスの腕を取り、ずんずんと先へ進んで行った。


2人は、雑貨屋に向かう道中も他愛もない会話を弾ませていた。


「へぇ、そうなんですね。じゃあニコラウスはその『ぷでぃんぐ』とやらを食べたのですか?」

「あぁ、遠征に行った時にね。こちらの地方では食べたことの無い味でとても美味しかったよ。」

「私も1度食べてみたいですね………。」

お菓子好きの私にとってそんなに羨ましい話は無いわね……いつかその『ぷでぃんぐ』とやら、食さねば…うぅ、なんだか想像しただけでお腹が減ってきたわね。


そんなことを話しているうちにお目当ての雑貨屋の前に到着した。

うわぁ……!外から見るだけでも乙女心が擽られる!
あの羽根ペン物凄く可愛いっ……!!


「ね、ニコラウス早く入りましょう!」

「あ、あぁ……。」

そう言うと、レティシアはニコラウスの腕を掴み店の中へと入って行った。

ニコラウスが動揺するのもそのはず。この店は女性人気が非常に高く、ここから見る限り男女比は大体1:9と言った所だろうか。

ニコラウスはあまり女性が得意ではないのだ。

結果、ニコラウスはその場に棒立ちになり、非常に居た堪れない様になっている。

そんなことはつゆ知らず、レティシアの意識は綺麗に陳列された小物に引っ張られており、ニコラウスの様子を気にかけている余裕は微塵も無いようだ。


この店に来るべきではなかったのかも、と、少し後悔のため息を漏らすニコラウスであった。
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