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怒りが抑えられない
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直くんを腕に抱いたまま朝を迎えた。ゆっくりと休めたせいか、直くんはあれから熱は出さなかったみたいだ。今も平熱のようでホッとする。大おじさんに会えたことも元気になった理由の一つかもしれないな。
いつもよりはまだ早い時間だけれど、直くんが起きる前にやっておかないといけないことがある。そっとクマを手に取り俺の場所と交代して、ベッドから抜け出し急いでトイレに向かった。これだけはまだ気付かれるわけにはいかないからな。
処理を済ませてリビングに向かった。伯父さんがもう起きているのか確認のためだ。一応ポケットには昨日の夜直くんの言葉を録音したスマホを入れている。リビングに足を踏み入れると、キッチンの方から音が聞こえて伯父さんが起きていることにホッとする。
「伯父さん、おはよう」
「今日はやけに早いな。何かあったか? 直くんの様子はどうだ?」
矢継ぎ早に質問されて困ってしまうが、それも直くんを想ってこそだ。
「直くんは大丈夫。熱はないし、ぐっすり眠れたみたい」
「そうか、ならよかった」
「でも、どうしても伯父さんに知らせておきたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「話をするより聞いてもらったほうがいいと思う。大事な話を伯父さんのスマホに送っておくから早めに聞いてほしい。出来たら、今すぐにでも……」
俺がここまで言ったから、ここでは聞かせられない話だと理解してくれたんだろう。伯父さんは手を止めて俺をみていたから、すぐにスマホを操作して録音データを伯父さんのスマホに送った。
「わかった。じゃあ、昇……この人参の残りを切っててもらっていいか? それが終わったら部屋に戻っていいから」
「俺ができるところまでやっておくよ。直くんはまだ起きないだろうし」
「ありがとう。直くんがもし呼びに来たら無理するなよ」
「わかってるって」
伯父さんは俺の言葉に安心したように急いで部屋に戻って行った。
昨日の夕食が天ぷらうどんだったからか、今日は野菜が多いみたい。切りかけの野菜を見るに具沢山の味噌汁を作ろうとしていたみたいだ。炊飯器からは醤油の香ばしい匂いがしているし、きっと炊き込みご飯だろう。匂いを嗅ぐだけで腹の虫が鳴り始めてきた。急いで野菜を切り、スープ用の片手鍋に出汁と野菜を入れ火にかけた。味噌汁が出来たら、直くんの様子を見に行こう。まだ夢の中だろうから……。
<side卓>
絢斗と甘い夜を過ごし、いつもより早く目を覚ました。夜中まで愛し合っていたというのに、身体に疲れもなくむしろ身体が軽く感じるのは、それほど絢斗と愛し合うことが私の活力になっているのだろう。絢斗はまだぐっすり眠っているから今のうちに朝食を作っておくとしよう。
炊き込みご飯と、豚汁……は重いか。具をたくさん入れた味噌汁にしておこう。あとは卵焼きと……
頭の中で献立を考えてそっと部屋を出てキッチンでまずは炊き込みご飯をセットして、味噌汁用の野菜を切っていると昇がやってきた。
いつもより早いが何かあったのか? と心配になったが直くんに特に心配はないらしい。それよりも私に知らせておきたい話があると言ってきた。すぐにでも話してほしいが、言葉にするより聞いてほしいと言う。すぐにデータをスマホに送ってきたから余程の内容に違いない。
昇に後を任せて私は自室に戻った。絢斗を起こさないようにそっと書斎に向かい、イヤホンを装着して昇が送ってきたデータを再生させた。どうやら動画ではなく、音声データのようだ。
――直くんは、何か……病院に、嫌な思い出でもあるのかな?
その問いかけにドキッとする。やはりその内容だったか。直くんの状態は大丈夫だろうかと心配になったが、いつもよりも幼い声に眠りかけなのだろうと推測できた。
静かにその音声を聴いていると、次々に明かされる事実に怒りが抑えられない。昇はよく耐え忍んでここまで情報を引き出してくれたものだと感心する。
まだ幼い直くんを裸にして、身体中に訳のわからないものを塗りたくるとは……想像もしたくないが、よからぬものまで肌に擦り付けられているようで気分が悪い。
あの母親と共謀して幼い直くんに猥褻行為を働いていた医師を絶対に見つけ出してやる。
直くんが小学校入学式前といえば、今から7年半ほど前か……。賢将さんはすでに日本を離れたあとだが、倉橋くんの父上に協力を頼むことができたら、見つけられるだろう。
あとは医師のネットワークにも明るい成瀬くんに協力を依頼するのもいいかもしれないな。
とにかく今日、賢将さんに相談するとしよう。
その後、できるだけ平静を装いながら、みんなとの朝食を済ませ、私は急いで事務所に向かった。今日中に進めておきたい案件ができたといえば、絢斗も直くんもすぐに納得した。
いや、きっと絢斗は気づいていただろう。それでも私が告げるまでは聞き出したりはしてこない。そういう子だ。
中谷くんが来るまでに必要な仕事をいくつか済ませておき、中谷くんが来てからスケジュールを組み直してもらって、午前中に二時間ほどの空き時間を作った。そうして、私はようやく賢将さんの住むマンションに向かった。
いつもよりはまだ早い時間だけれど、直くんが起きる前にやっておかないといけないことがある。そっとクマを手に取り俺の場所と交代して、ベッドから抜け出し急いでトイレに向かった。これだけはまだ気付かれるわけにはいかないからな。
処理を済ませてリビングに向かった。伯父さんがもう起きているのか確認のためだ。一応ポケットには昨日の夜直くんの言葉を録音したスマホを入れている。リビングに足を踏み入れると、キッチンの方から音が聞こえて伯父さんが起きていることにホッとする。
「伯父さん、おはよう」
「今日はやけに早いな。何かあったか? 直くんの様子はどうだ?」
矢継ぎ早に質問されて困ってしまうが、それも直くんを想ってこそだ。
「直くんは大丈夫。熱はないし、ぐっすり眠れたみたい」
「そうか、ならよかった」
「でも、どうしても伯父さんに知らせておきたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「話をするより聞いてもらったほうがいいと思う。大事な話を伯父さんのスマホに送っておくから早めに聞いてほしい。出来たら、今すぐにでも……」
俺がここまで言ったから、ここでは聞かせられない話だと理解してくれたんだろう。伯父さんは手を止めて俺をみていたから、すぐにスマホを操作して録音データを伯父さんのスマホに送った。
「わかった。じゃあ、昇……この人参の残りを切っててもらっていいか? それが終わったら部屋に戻っていいから」
「俺ができるところまでやっておくよ。直くんはまだ起きないだろうし」
「ありがとう。直くんがもし呼びに来たら無理するなよ」
「わかってるって」
伯父さんは俺の言葉に安心したように急いで部屋に戻って行った。
昨日の夕食が天ぷらうどんだったからか、今日は野菜が多いみたい。切りかけの野菜を見るに具沢山の味噌汁を作ろうとしていたみたいだ。炊飯器からは醤油の香ばしい匂いがしているし、きっと炊き込みご飯だろう。匂いを嗅ぐだけで腹の虫が鳴り始めてきた。急いで野菜を切り、スープ用の片手鍋に出汁と野菜を入れ火にかけた。味噌汁が出来たら、直くんの様子を見に行こう。まだ夢の中だろうから……。
<side卓>
絢斗と甘い夜を過ごし、いつもより早く目を覚ました。夜中まで愛し合っていたというのに、身体に疲れもなくむしろ身体が軽く感じるのは、それほど絢斗と愛し合うことが私の活力になっているのだろう。絢斗はまだぐっすり眠っているから今のうちに朝食を作っておくとしよう。
炊き込みご飯と、豚汁……は重いか。具をたくさん入れた味噌汁にしておこう。あとは卵焼きと……
頭の中で献立を考えてそっと部屋を出てキッチンでまずは炊き込みご飯をセットして、味噌汁用の野菜を切っていると昇がやってきた。
いつもより早いが何かあったのか? と心配になったが直くんに特に心配はないらしい。それよりも私に知らせておきたい話があると言ってきた。すぐにでも話してほしいが、言葉にするより聞いてほしいと言う。すぐにデータをスマホに送ってきたから余程の内容に違いない。
昇に後を任せて私は自室に戻った。絢斗を起こさないようにそっと書斎に向かい、イヤホンを装着して昇が送ってきたデータを再生させた。どうやら動画ではなく、音声データのようだ。
――直くんは、何か……病院に、嫌な思い出でもあるのかな?
その問いかけにドキッとする。やはりその内容だったか。直くんの状態は大丈夫だろうかと心配になったが、いつもよりも幼い声に眠りかけなのだろうと推測できた。
静かにその音声を聴いていると、次々に明かされる事実に怒りが抑えられない。昇はよく耐え忍んでここまで情報を引き出してくれたものだと感心する。
まだ幼い直くんを裸にして、身体中に訳のわからないものを塗りたくるとは……想像もしたくないが、よからぬものまで肌に擦り付けられているようで気分が悪い。
あの母親と共謀して幼い直くんに猥褻行為を働いていた医師を絶対に見つけ出してやる。
直くんが小学校入学式前といえば、今から7年半ほど前か……。賢将さんはすでに日本を離れたあとだが、倉橋くんの父上に協力を頼むことができたら、見つけられるだろう。
あとは医師のネットワークにも明るい成瀬くんに協力を依頼するのもいいかもしれないな。
とにかく今日、賢将さんに相談するとしよう。
その後、できるだけ平静を装いながら、みんなとの朝食を済ませ、私は急いで事務所に向かった。今日中に進めておきたい案件ができたといえば、絢斗も直くんもすぐに納得した。
いや、きっと絢斗は気づいていただろう。それでも私が告げるまでは聞き出したりはしてこない。そういう子だ。
中谷くんが来るまでに必要な仕事をいくつか済ませておき、中谷くんが来てからスケジュールを組み直してもらって、午前中に二時間ほどの空き時間を作った。そうして、私はようやく賢将さんの住むマンションに向かった。
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