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再会の喜び

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<side卓>

――僕、外に出られるんですね……

直くんの口からその言葉が漏れた瞬間、車内はしんと静まり返った。

直くんを連れて自宅に戻ったあの日から、窓の外を眺めたり、外に行きたいと言い出すこともなかったから、直くん自身も外に出ることに怯えているのではないかと思っていた。

だから、安全が確保されるまでは外に出すのはやめておいたほうが安心だろうと思っていたし、直くんに余計なストレスを与えずに済むと思っていたのだが、今の言葉でわかった。

直くんは外に出たいのを我慢していたのだと。

私はそんなことにも気づかずに、ずっと部屋に閉じ込めて帰ってストレスを与えてしまっていたのかもしれない。
直くんが外に行きたいと願っていたのなら、しっかりと対策を講じてほんの少しの時間でも外に出してあげれば良かった。
父として申し訳ないな……。

だが、過ぎてしまった時間を取り戻すことはできない。

これからいつでも直くんの望みを叶えられるようにしよう。

そう心に誓っていると、隣に座っている絢斗がそっと私の手を握ってくれた。

「大丈夫だよ」

私にだけ聞こえる優しい声で、私の過ちを許してくれる。
絢斗がいてくれて本当に良かった。

そっとミラー越しに後部座席を見ると、興味深そうに外の景色を眺める直くんに寄り添っている昇の姿が見える。

「直くん、あっち見てごらん」

「わっ! おっきなタワー!」

「今度、あのタワーの展望台に行ってみようか?」

「えっ、行けるんですか?」

「ああ、カールも行きたいって言っていたし、一緒に観光しようよ」

「わぁー! 楽しみです!!」

直くんに昇がいてくれて良かったな。

まぁ、観光するときはしっかりと守るように教えてからでないと外には出せないが、そこは後で考えるとするか。

直くんの楽しげな声を聞きながら、車はあっという間に国際空港に到着した。

幸いにも空いている駐車場にすぐに車を止めることができ、絢斗は私が、直くんは昇がエスコートしながら車を降りた。

駐車場にはそこまで人の姿は見えなかったが、空港に一歩踏み入れるとそこには大勢の人の姿。
直くんは怖かったのか一瞬立ち止まってしまったが、昇に優しく促され歩き出した。

毅たちとの約束の場所に向かう途中、当然だが絢斗への視線を感じる。
いつも以上に多いのは私たちのすぐ後ろを歩く直くんへの視線も感じるからだろう。
その視線の全てが不躾に好意を送ってくるものばかりで、いい気はしない。

昇もその視線に気づいている様子で、ジロリと周りを睨みつける。
高校生とはいえ、愛しいものに邪な思いをぶつけられるのは許せないのだろう。

だが、きちんと直くんを守れる姿に、私は父としてホッとした。

「あ、いた! 二葉さーんっ!!」

一足早く二葉さんを見つけた絢斗が声をあげ、手を振ると二葉さんも嬉しそうに手を振りかえす。
その光景は見ているだけで微笑ましいが、同時に周りの人の視線を浴びてしまっている。

だが、絢斗も二葉さんもそれには全く気づいていないようだ。

それどころか、

「あーっ! 直くん!! きてくれてありがとう!!」

「ふーちゃん!! 会えて嬉しいです!!」

と直くんとの微笑ましい光景が増えてしまっている。
私と毅、そして昇は絢斗たち三人を囲むように立ち、周りから絢斗たちが見えないように睨みを効かせた。

毅たちが壁を背に立ってくれていたおかげで、私たち三人でも余裕で隠せるのは良かったな。
そういうことも考えての待ち合わせ場所だったのだろう。

再会の喜びが一段落するまで待ってから、そろそろお茶をしに行こうと声をかけると、絢斗たち三人は喜びの笑顔を見せた。

待ち合わせ場所から程近い場所にあるこのカフェは、二葉さんが最高に美味しいと豪語するドーナツがあるらしい。
支店もなく、場所が場所だけになかなか食べられる機会もないからどうしても直くんに食べさせたいのだと言っていた。

考えてみれば、直くんはドーナツは初めてじゃないか?
可愛い息子の初めての瞬間が見られるわけだな。
しっかりとカメラにおさめておかないとな。

待ち時間の間に予約をしてくれていたようで、店に行くとすぐに席に案内された。

私たちの席は窓際の奥。
周りに観葉植物と隣席との間に仕切りのようなものもあって、半個室のような席だ。
ここなら、直くんと、絢斗と二葉さんも、ゆっくりと過ごせるだろう。

大きな窓の外は待機中の飛行機が並んでいてその迫力に直くんは目を丸くしていた。

「すごいっ!!」

「でしょう? 私たちが乗る飛行機はあれなの」

二葉さんが指さしたのは一際大きな飛行機。
日本の航空会社の直行便だと話していたから、不自由はないだろう。

だが、飛行機を見て直くんはさっきの興奮が急に落ち着いて、静かに腰を下ろした。
きっと実際に毅たちが乗る飛行機を見て、別れてしまうことを実感したのかもしれないな。
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