上 下
117 / 213

威圧に怯える

しおりを挟む
<side昇>

貴船さんが持っていたブザーが鳴り、一花さんを迎えにいく貴船さんについて行ったのは直くんが心配だったからだ。

伯父さんは一花さんの体調が良ければ、この後もここで話がしたいと言っていたけれど、どうなるだろう。

ドキドキしながら貴船さんと一緒にキャンピングカーの扉を開け、貴船さんの後に続いて階段を上ると直くんと一花さんらしき声が聞こえた。

その仲睦まじい様子に驚いていたが、それは貴船さんも同じだったようで慌てたように一花さんの名前を呼ぶ声が聞こえた。

けれど、当の本人たちは何も気にしない様子で折り紙をしていたと答える声が聞こえた。
俺の場所からは二人の様子が見えなくて、身を乗り出して様子を窺うと、一花さんとおしゃべりができて楽しいと言って笑顔を見せる直くんの顔が見えた。

ああ、あの笑顔は本物だ。
無理も何もしていない。
素直な直くんの表情だ。

俺でもその笑顔を引き出すのに結構時間がかかったというのに、一花さんはこの短時間で直くんからあの笑顔を引き出したのか?

きっと伯父さんと絢斗さんも今の直くんの表情を見れば驚くに違いない。

階段を上り、貴船さんの横に立って直くんの名前を呼ぶと、急にさっきの笑顔から一転、俺を見てほんのりと頬を赤らめる。
なんだ?

今までにない直くんの反応に驚いていると、直くんのすぐ近くに座っていた子が僕に向かって笑顔を見せる。

「こんにちは。一花です」

その途轍もない可愛い笑顔と声で呼びかけられ、焦ってしまった。

いや、決してときめいたわけじゃない。
けれど、なんて言えばいいのか……この世に女神が存在するなら、一花さんじゃないかと思うくらいのオーラにただただ圧倒されてしまったと言うのが一番近いのかもしれない。

声を震わせながらも何とか名前を言って自己紹介をすると、二人には見えないような角度で背中に衝撃が走った。

一瞬何が起こったのかわからなかったけれど、

「一花は私のものだぞ」

と牽制されてゾクっと背筋が凍る想いがした。

ああ、この感覚。
覚えがある。

ついこの前、寝起きの絢斗さんに抱きつかれたかを伯父さんに追及された時のあの恐怖と同じだ。
いや、それよりも激しいかもしれない。

貴船コンツェルンの総帥という日本どころか世界でも一目置かれる彼が、一花さんのことで俺に牽制してくるという事実に驚きつつ、貴船さんにここまで愛されている一花さんの存在に驚きしかない。

貴船さんがこの後、伯父さんの家で話ができるかを尋ねると、一花さんは喜んで賛成していた。

伯父さんよりも絢斗さんが大喜びしそうだな。

「昇くん、一花を降ろすから、先に直純くんと外に出ていてくれないか?」

さっき、俺を牽制していた時とは驚くほど優しい声をかけられ、驚きながらも直くんを連れて外に出た。

「仲良くなれたみたいでよかったね」

「はい。一花さん、すっごく優しくて……女神さまみたいでした。僕と友だちになってくれるって言ってくれて……連絡先の交換もしたんですよ」

そう言って、嬉しそうに一花さんの名前が乗ったメッセージアプリを見せてくれる。

「それならよかった。今日、会えてよかったね」

「はい! 本当に良かったです!! 後で尚孝さんにお礼のメッセージ送らないと!!」

こんなにもはしゃいでいる直くんは初めてかもしれない。
なんだかようやく年相応に見える気がするな。

「お疲れさま」

「あっ、志摩さん!」

「尚孝さんにメッセージ送るんですか?」

「あっ、聞こえてましたか?」

「ええ。尚孝さんの話題はすぐに耳に入ってくるんです」

志摩さんが笑顔を見せると、直くんの頬が少し赤くなった気がした。
勘違いかな?

気になりつつも、ここで尋ねるのも気が引けてとりあえずは俺の心の中だけに留めておくことにした。

「その笑顔を見ると、一花さんとのお話はうまく行ったみたいですね」

「はい! 尚孝さんのおかげです。一花さん、本当に女神さまみたいでした!!」

「ふふっ。ええ、確かにその通りですね」

そんな会話をしていると、貴船さんが一花さんを抱き抱えて車から降りてきた。

貴船さんが抱き抱えているのを見ると、一花さんの小ささがよくわかる。

直くんと同じくらいと言っていたのは大袈裟ではなかったみたいだ。

こんなに小さいのにあんなに酷い目に遭っていたなら、貴船さんが直くんにも怒りの感情をむけてしまったのは分かる気がする。

「志摩くん、これから磯山先生のご自宅にお邪魔するから君も一緒に行こう」

その誘いに志摩さんも了承し、俺と直くんの案内で伯父さんたちが待つ自宅に戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

月明かりの下で

立樹
BL
BL短編。朔也は、ずっと気持ちを隠していたのに、バレてしまい、その場から立ち去ります。 そして、電話もメールも来ず、彼の家へ向かいますが。

処理中です...