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家族の幸せ
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<side磯山卓>
初めての揚げ物を見て、目を輝かせていた直くん。
ああ、やはりこれも初めてだったか。
ハンバーグも食べたことがなかったのだから当然と言えば当然か。
一花くんは誰がみても、酷い仕打ちを受けていたのは一目瞭然であの姿を見れば、誰もが救いの手を差し伸べたくなる。
けれど、両親が揃っていて、比較的大きな家に住み、学校では優秀な成績を収め、習い事にも通い、恵まれた世界にいたはずの直くんに誰が救いの手を差し伸べるだろうか。
直くんは自分の置かれた環境を誰にも告げられず日々苦しんでいたのに……。
直くんの母親とも言いたくないあの女が捕まったことは、一花くんやその家族を救い出すだけでなく直くんも助け出したと言えるだろう。
そう考えてみれば、征哉くんが一花くんと出会い、あの施設やその周りに調査を入れたことで、共犯がいることに辿り着きあの女を直くんから引き離すことができたんだ。
だから、征哉くんと一花くんの出会いが直くんを救ったということだな。
彼らが出会ってくれたおかげで、目の前で美味しそうにメンチカツを食べる直くんを見ることができている。
ああ、本当によかった。
昇が直くんを愛おしそうに見つめながら、食事を食べさせてやる様子を微笑ましく思いながら見ていると、そっとテーブルの下で絢斗が私の手を握ってくれる。
「ふふっ。今の卓さん、すごく優しい目をしてたよ」
「ああ、幸せを噛み締めていたんだ」
「うん、私も幸せだなって思ってた」
食事を楽しむこの時間を幸せだと思える。
これだけでもう私たちは家族なんだ。
食事を終えると、
「伯父さん、片付けは俺がやるから」
と言ってくれる昇の気持ちは嬉しかったが、昇は受験生。
少しの時間でも勿体無いと言ってやろうと思ったが、
「昇さん、僕も手伝います」
と嬉しそうに直くんが近づいてくるのを見たら、邪魔はできない。
「ああ、じゃあ二人に頼もうかな」
「はい!」
私の言葉に満面の笑みを見せる直くんがたまらなく可愛い。
「じゃあ、直くんこっちにおいで」
昇は直くんに拭き取り用のタオルを持たせると、メンチカツのタネを混ぜるのに使った大きなボウルをまず綺麗に洗った。
「これ、拭いてもらえるかな」
「はい。大丈夫です!!」
自信満々にボウルを受け取り、小さな手で一生懸命拭き取る直くんの横で、昇はさっと皿の汚れを洗い流し食洗機に並べていく。
その速さは尋常ではない。
直くんが大きなボウルを拭き終わった時には、もうすっかりシンクの中は綺麗になっていて、食器も全て食洗機に並べられていた。
「直くん、ここのスイッチ入れて」
「はい」
ピッとスイッチを押した途端、食洗機が動き出した。
「わっ! すごい!!」
「これで終わりだよ」
「わぁー、もう終わったんですね! すごい!!」
直くんの手伝いたいという気持ちを汲んでちゃんと手伝わせながらも、他の仕事をあっという間に終わらせる。
きっと毅が二葉さんに同じようなことをやっているのだろう。
昇は旦那として優秀だな。
「直くん、後片付け終わったらお風呂に入っておいで。いい香りの入浴剤入れてるからのんびり入ってくるんだよ」
「はい、わかりました……あやちゃん」
「ふふっ」
絢斗は直くんからあやちゃんと呼ばれて本当に嬉しそうだな。
トコトコと脱衣所に走っていく直くんを見送りながら、
「昇、わかっていると思うがお前は絢斗に今まで通りの呼び方だぞ」
と告げると、
「わ、わかってるよ」
と少し狼狽えた声で返ってくる。
ふふっ。少し怯えさせたか。
だがはっきりと言っておかないとな。
さて、今の時間に今日の最後のメールチェックでもしておくか。
夕食を終えた後にメールのチェックを行うことはいつもの私のルーティーン。
終業後に連絡が来ているのを確認して明日一番に返信をするためだ。
部屋に入り、パソコンをチェックすると
「征哉くんから?」
思いがけない相手からのメールに思わず声が出た。
まさかな……と思いつつ、メールを開いた。
<磯山先生。しばらくご無沙汰しておりましたがいかがお過ごしでしょうか。あの日、彼を磯山先生に預けたまま、その後の様子を伺いもせずにいたこと、まずは深くお詫びします>
そんな謝罪の言葉から始まったメールには、彼の苦悩と直くんへの思いが書かれていた。
<彼と出会ったその日、綺麗な中学生の制服に身を包んだその姿に嫉妬の気持ちが浮かんだのは事実です。義務教育だったのに一花は学校にもほとんど通わせてもらえず施設で働かされ、持っていた制服も誰かのボロボロのお下がりだったから。あまりにも一花とはかけ離れた生活をしていたと想像できて、どうして一花だけが……という思いに駆られてしまったのです>
これだけでよくわかる。
あの日、征哉くんがどんな思いで直くんを見ていたのか。
一花くんのことを思えば思うほど憎しみの対象になっても不思議はないな。
初めての揚げ物を見て、目を輝かせていた直くん。
ああ、やはりこれも初めてだったか。
ハンバーグも食べたことがなかったのだから当然と言えば当然か。
一花くんは誰がみても、酷い仕打ちを受けていたのは一目瞭然であの姿を見れば、誰もが救いの手を差し伸べたくなる。
けれど、両親が揃っていて、比較的大きな家に住み、学校では優秀な成績を収め、習い事にも通い、恵まれた世界にいたはずの直くんに誰が救いの手を差し伸べるだろうか。
直くんは自分の置かれた環境を誰にも告げられず日々苦しんでいたのに……。
直くんの母親とも言いたくないあの女が捕まったことは、一花くんやその家族を救い出すだけでなく直くんも助け出したと言えるだろう。
そう考えてみれば、征哉くんが一花くんと出会い、あの施設やその周りに調査を入れたことで、共犯がいることに辿り着きあの女を直くんから引き離すことができたんだ。
だから、征哉くんと一花くんの出会いが直くんを救ったということだな。
彼らが出会ってくれたおかげで、目の前で美味しそうにメンチカツを食べる直くんを見ることができている。
ああ、本当によかった。
昇が直くんを愛おしそうに見つめながら、食事を食べさせてやる様子を微笑ましく思いながら見ていると、そっとテーブルの下で絢斗が私の手を握ってくれる。
「ふふっ。今の卓さん、すごく優しい目をしてたよ」
「ああ、幸せを噛み締めていたんだ」
「うん、私も幸せだなって思ってた」
食事を楽しむこの時間を幸せだと思える。
これだけでもう私たちは家族なんだ。
食事を終えると、
「伯父さん、片付けは俺がやるから」
と言ってくれる昇の気持ちは嬉しかったが、昇は受験生。
少しの時間でも勿体無いと言ってやろうと思ったが、
「昇さん、僕も手伝います」
と嬉しそうに直くんが近づいてくるのを見たら、邪魔はできない。
「ああ、じゃあ二人に頼もうかな」
「はい!」
私の言葉に満面の笑みを見せる直くんがたまらなく可愛い。
「じゃあ、直くんこっちにおいで」
昇は直くんに拭き取り用のタオルを持たせると、メンチカツのタネを混ぜるのに使った大きなボウルをまず綺麗に洗った。
「これ、拭いてもらえるかな」
「はい。大丈夫です!!」
自信満々にボウルを受け取り、小さな手で一生懸命拭き取る直くんの横で、昇はさっと皿の汚れを洗い流し食洗機に並べていく。
その速さは尋常ではない。
直くんが大きなボウルを拭き終わった時には、もうすっかりシンクの中は綺麗になっていて、食器も全て食洗機に並べられていた。
「直くん、ここのスイッチ入れて」
「はい」
ピッとスイッチを押した途端、食洗機が動き出した。
「わっ! すごい!!」
「これで終わりだよ」
「わぁー、もう終わったんですね! すごい!!」
直くんの手伝いたいという気持ちを汲んでちゃんと手伝わせながらも、他の仕事をあっという間に終わらせる。
きっと毅が二葉さんに同じようなことをやっているのだろう。
昇は旦那として優秀だな。
「直くん、後片付け終わったらお風呂に入っておいで。いい香りの入浴剤入れてるからのんびり入ってくるんだよ」
「はい、わかりました……あやちゃん」
「ふふっ」
絢斗は直くんからあやちゃんと呼ばれて本当に嬉しそうだな。
トコトコと脱衣所に走っていく直くんを見送りながら、
「昇、わかっていると思うがお前は絢斗に今まで通りの呼び方だぞ」
と告げると、
「わ、わかってるよ」
と少し狼狽えた声で返ってくる。
ふふっ。少し怯えさせたか。
だがはっきりと言っておかないとな。
さて、今の時間に今日の最後のメールチェックでもしておくか。
夕食を終えた後にメールのチェックを行うことはいつもの私のルーティーン。
終業後に連絡が来ているのを確認して明日一番に返信をするためだ。
部屋に入り、パソコンをチェックすると
「征哉くんから?」
思いがけない相手からのメールに思わず声が出た。
まさかな……と思いつつ、メールを開いた。
<磯山先生。しばらくご無沙汰しておりましたがいかがお過ごしでしょうか。あの日、彼を磯山先生に預けたまま、その後の様子を伺いもせずにいたこと、まずは深くお詫びします>
そんな謝罪の言葉から始まったメールには、彼の苦悩と直くんへの思いが書かれていた。
<彼と出会ったその日、綺麗な中学生の制服に身を包んだその姿に嫉妬の気持ちが浮かんだのは事実です。義務教育だったのに一花は学校にもほとんど通わせてもらえず施設で働かされ、持っていた制服も誰かのボロボロのお下がりだったから。あまりにも一花とはかけ離れた生活をしていたと想像できて、どうして一花だけが……という思いに駆られてしまったのです>
これだけでよくわかる。
あの日、征哉くんがどんな思いで直くんを見ていたのか。
一花くんのことを思えば思うほど憎しみの対象になっても不思議はないな。
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