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新しい呼び名

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絢斗さんは、伯父さんがパパと呼ばれたことに大喜びする一方で、自分も今までとは違う呼び方がされたいようだ、

さっき直純くんと、絢斗さんを気楽に呼んでもいい……なんて話していたけれど、絢斗さんの呼び方は難しい。

現に俺だって、伯父さんのことは伯父さんと呼んでいるけれど、さすがに絢斗さんを伯母さんとは呼べない。
女性っぽい顔立ちをして思いっきり綺麗だけど、女性に見えるわけでもないし、本人の意識も男性なのだからその呼び名はおかしいだろう。

だから、自然に絢斗さんと呼ぶようになったし、母さんも父さんも絢斗さんと呼んでいる。

だから、直純くんが伯父さんをパパと呼ぶようになったからといって、絢斗さんをママと呼ぶのはなんだか違う気がする。
直純くんが伯父さんの籍にはいり、家族になるのなら、戸籍上は絢斗さんは直純くんの兄になるのだし。

けれど、パパとお兄ちゃんという呼び名もしっくりこない気がする。

どうすればいいんだろうなと思っていると、

「戸籍上は私と直純くんは兄弟だから、お兄ちゃんか、あっ、あやちゃんでもいいよ」

という提案をしてくれた。

あやちゃん……ママよりは良さそうだけど、これを呼べるのはきっと直純くんだけだろうな。
俺があやちゃんと呼んだら、伯父さんに嫉妬されそうな気がする。
いや、気がするんじゃなくて確実にされるな。

直純くん自身はなんと呼ぶだろう。
俺の方がなんだか緊張してしまったけれど、直純くんは少し悩んでから

「あ、あやちゃん……っ」

と呼びかけた。

その姿があまりにも可愛くて、思わず見惚れてしまった。

伯父さんも嫉妬するどころか喜んでいる様子。
何より絢斗さん自身が喜んでいるから、きっとこの呼び名で定着することだろう。

「ねぇねぇ、直純くんも呼び方変えようよ」

「えっ? 僕?」

「うん。私をあやちゃんって呼ぶんだし、直純くんも直くんにしよう。その方が距離がずっと縮まる気がするし!」

「直、くん……僕、そんな呼ばれ方したの、初めてです……」

あまり友人もいなかったって聞いてたし、それならきっと苗字にさん付けか、よくて直純くんか……。
親には呼び捨てにされていただろうから、嫌な記憶が甦るのはよくない。

直くんは可愛いかもしれないな。
本人が気にいればだけど。

「直くん、どうかな?」

「はい。僕、そう呼ばれたいです!」

「わぁーっ、よかった!」

嬉しそうな直純くんを見てホッとしながら、伯父さんを見ると、伯父さんも同じように安堵しているのがわかる。
俺に向かって嬉しそうに笑顔を見せる伯父さんを見ていると、もうすっかり父親のように見えるから不思議だ。

「あの……昇さんも、呼んでくれますか?」

「ああ、もちろんだよ。直くん」

「――っ!!!」

俺の言葉にこんなにも嬉しそうにしてくれるなんて……。
いますぐ抱きしめたいくらいに可愛いな。

そんなことを思っていると、急にスマホが震え始めた。
びっくりして画面を確認すると、ドイツにいるカールからビデオチャットの申し込みが来てる。

今はあっちは10時すぎ。
ああ、今日はあっちは休みだから暇なんだな。
きっと日本行きの話が進めたくて連絡してきたんだろう。
俺もカールに村山のことを話したかったし、ちょうどいい。

「どうした? 電話か?」

「前に話していたドイツの友人からのビデオチャットです。日本行きの話がしたいんだと思います」

「そうか、それならここで話したらいい。私たちも挨拶しよう」

伯父さんがそう言ってくれたから安心だけど、直くんはどうだろう?

直くんにはまだ話していなかったからこの会話もちんぷんかんぷんだろうしな。

「直くん、前にドイツに友人がいるって話をしたの、覚えてる?」

そう問いかけると、すぐに笑顔を見せてくれた。

「はい。よくテレビ電話してるって……」

「そうそう。その子、カールって言うんだけど、俺と同じ歳だけどスキップでもう高校は卒業しているんだ。春から日本の大学に通いたいみたいでその前に一度日本に遊びに来たいって話してたんだ。それで、俺の友達の家にホームステイできそうだから、その話をカールにしようと思ってたんだ。直くんも一緒にビデオチャットで挨拶してくれる?」

「えっ、でも僕……まだドイツ語は……」

「大丈夫。日常会話くらいならカールはわかるから問題ないよ」

「すごいっ!! はい、それなら昇さんと一緒に挨拶したいです」

そんな可愛いことを言ってくれるなんて……俺、やっぱり直くんに好かれてるよな?

「じゃあ、ここでみんなで話せるようにパソコン持ってくるから、ちょっと待ってて」

直くんを絢斗さんに任せて、俺は急いでパソコンを取りに行った。
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