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愛しいジーノを失って……

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<sideヴァル>

まさしく一生に一度の恋だった。

野犬に襲われていたジーノを助けたのは本当に偶然だったが、彼を胸に抱き寄せた瞬間、決して彼を手放してはいけないという感情が湧き上がった。

私の腕の中で眠ってしまった彼を父親であるラナーロ伯爵に渡すのも惜しかったくらいだ。
迷惑をかけてしまったと私に謝り続けるラナーロ伯爵に、ジーノは何も迷惑をかけていないと告げ、決して彼を叱ったりすることのないように諭した。

自宅に帰っていくジーノを見送り、私は帰宅後すぐにジーノとの縁談話を進めるように父に話をつけた。

私が誰にも心を開かず、愛する者など一生できないと思っていた両親はこの出会いを喜び、すぐにラナーロ家に縁談話を持ちかけた。

ジーノにとっては寝耳に水のような話だっただろう。なんせ、あの時私の正体など一切明かさなかったのだから。

ラナーロ家で再会した時は、小動物のように緊張に震えていたがそれでも私への好意は感じられた。それに付け入るように必死に説き伏せて、私の婚約者となることを了承してもらった。

すぐにでもジーノを自分のものにしてしまいたい気持ちをグッと抑えて、この五年。ジーノとの愛を育んできた。ジーノが成人を迎えるまであと二ヶ月。ようやくジーノを私のつまにできる。その幸せの絶頂の最中、神は私たちに試練を与えた。

ジーノを原因不明の病が襲ったのだ。

美しい髪は艶を失い、柔らかく滑らかな肌はみるみるうちに痩せ、ひと目見てジーノだとわからないような見た目になってしまった。ラナーロ伯爵はもうジーノは助かる見込みがないといい婚約解消を申し出てきたが、私はほんのわずかでも治る可能性があるのなら諦めたくはなかった。いつでも私のことを思い遣ってくれて、笑顔を絶やさない。そんなジーノを失いたくなかった。私はジーノの全てを愛していたんだ。

けれど、ジーノは、幸せになって……と辛い言葉を残して、天に召されてしまった。

ジーノがいなければ私は幸せになれないのに。
ジーノがいなければ生きている意味すらないのに。

一生手放さないと誓ったのに、私は一人になってしまったんだ。

ジーノのいない世界に未練など何もない。天国でジーノに会えるなら、ジーノを追いかけたい。

そんなことばかり考えていたある日。ジーアレス王国から薬が届いた。

ジーノのためにジーアレス王国の秘薬が欲しいと頼んでいたものが、ようやく届いたのだ。けれど、もうジーノはいない。
もっと早く手に入っていれば私はジーノを失わずに済んだのに。

この薬があることが余計にジーノがいないことを突きつけられているようで我慢できなくなって、感情のままに捨てようとした私の手を父が阻んだ。

――お前がジーノを忘れられない気持ちはわかるが、薬には罪はない。この薬は長年病気を患っているディアンジェロさまにお譲りしてはどうか?

ユーリ・ディアンジェロさまは、王族という誰しもが憧れる身分でありながら、病弱で自室以外で過ごしたことがないお方だ。しかもご両親はすでに亡くなられ、陛下が我が子のように溺愛なさっているお方だと聞いている。

ジーアレス王国の秘薬がどれだけの効果を発揮するかはわからないが、確かに捨てるよりはマシだろう。

薬のことは父に任せると伝え、私はそれからもジーノを思い続けながら自室に篭っていた。


すると、突然父が部屋に入ってきたと思ったら、

「ヴァルフレード。陛下がお前を呼んでいる。すぐに王城に行くぞ!」

と興奮気味に言い出した。

「どういうことですか?」

「お前がジーアレス王国から受け取ったあの薬をディアンジェロさまがお飲みになったところ、主治医のラザロ殿も驚くほどの回復だったそうだ。そして、ディアンジェロさまが直接、お前にお礼が言いたいと仰っている」

「私に直接? 申し訳ありませんが、私が今は誰とも会うつもりはありません。行くのであれば父上だけでどうぞ」

「ディアンジェロさまはお前に会いたいと仰っているんだ。そんな無作法なことできるわけないだろう! 陛下から直々のご通達だぞ。いいからすぐに準備しろ!!」

こうなればもう私には断ることなどできなかった。

ジーノを失って一ヶ月以上。外に出ることもできなかった私が、父と一緒に王城へ向かうこととなってしまったのだった。
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