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番外編
可愛い孫ができました <前編>
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<可愛い孫ができました>観月家Ver.
話の都合上、時系列的には日本編が終わった後辺りを想定しています。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side凌也>
クリスマスから正月まで、理央にとっては初体験ばかりの日々を過ごし、ようやく落ち着いた一月下旬。
俺は理央を連れて、郊外までやってきた。
「凌也さん、あとどれくらいですか?」
「ふふっ。もうそろそろ着くよ。そんなに待ちきれないか?」
「はい。すごく楽しみです!」
チラリと理央の表情を見ると目を輝かせて喜んでいるのがわかる。
その首元には同じくらい輝きを放っているネックレスがあった。
今日、理央を連れてきたのは母方の祖母が入所しているシニアハウス。
祖母は特に病気もなく自活も十分にできるほど元気だけれど、数年前に連れ合い――俺から見れば祖父――を亡くし、一人で思い出の詰まった家にいるよりは友人たちと楽しい老後を過ごしたいと言って、同じように連れ合いを亡くした学生時代からの長い付き合いの友人二人と一緒に郊外にあるシニアハウスに入所した。
ここは入居するだけで平均で一億ほどかかり――入居する部屋によって料金が変わる。ちなみに祖母の入居金は二億円――月額料金も百万を優に超えるけれど、生活環境もよく広い施設内には病院も併設され何かあった時にはすぐに診てもらうことができる。
また名だたるホテルで腕を振るってきた和洋中の料理人たちが作る料理を好きな時に食べることができ、シアタールームではいつでも映画を観て楽しむことができ、祖母は友人たちと毎日学生の時に戻ったように楽しんでいるらしい。
一人娘である俺の母さんは月に一度はこの祖母のもとに必ず足を運び、一緒に食事をしたり、話をしたり過ごしているようだ。
もうとっくに理央のことは母さんが話しているようで、祖母は理央に会えるのを楽しみにしていると言っていた。
理央は結婚式で貰ったパールのネックレスのお礼が言いたいと言っていたから、今回ようやく二人を会わせることができたのだ。
礼儀や言葉遣いには厳しい祖母だったが、俺の中には優しい祖母の印象しかない。
きっと理央のことも気に入ってくれるだろう。
「さぁ、ついたよ」
「わぁー、弓弦くんたちのおうちみたい」
「ふふっ」
キョロキョロと辺りを見回す理央が可愛い。
駐車場に車を止め、クリスマスプレゼントでもらった羊のような可愛いコートを着せ、シニアハウスの入り口に向かった。
入り口で名前をいい、身分証明書を出すと中に入ることができる。
「凌也さん、ここ、前にお母さんたちと一緒に甘いもの食べに行ったホテルみたいです。ほら、お庭もありますよ」
「ああ、そうだな。あっちでスイーツも食べられるからおばあさんと一緒に行こうか」
「はい!」
嬉しそうな理央の手を引き、祖母が待っていてくれているはずのラウンジに向かうと、
「凌也っ!」
と聞き慣れた元気な声が聞こえた。
「おばあさん!」
結構久しぶりだから、俺も少し嬉しくて手を振ったけれど、祖母の嬉しそうな視線は理央にしか向いていないことに気づいてしまった。
やっぱりそうだよな……。
孫として少し寂しくなりながらも、理央を受け入れてもらえたことに関しては嬉しい。
待ち侘びている祖母のもとに理央を連れて行くと、
「は、初めまして。観月理央です」
と少し緊張した様子で可愛い挨拶をしていた。
「ふふっ。理央くんね。麗花から話を聞いた時から、ずっとずっと会いたかったわ! こんな遠いところまで来てくれてありがとう」
「僕も、会いたかったです! あ、あの……このネックレス、ありがとうございます! 僕……大切にします」
「あらあら。よく似合ってるわ。ふふっ。可愛いわね。ほら、理央くん。あっちのソファーでゆっくりおしゃべりしましょう」
理央のもう片方の手を取ってさっさと連れて行こうとする祖母に
「あの、おばあさん。俺もいるんですけど……」
というと、
「わかってるわよ。凌也のおかげでこんなに可愛い子に会えたんだものね。でも今日だけは私の好きにさせてちょうだい。いいでしょう?」
と言って笑顔を向けられる。
ああ、母さんもよく使うこの手。
俺はこの笑顔に弱いんだ。
「理央くん、可愛いコートを着ているわね」
「はい。これ、クリスマスプレゼントでお友達のお母さんからもらったんです」
「そう。よく似合ってるわ。でも、この中では暑いでしょう。汗をかいて風邪をひいたら大変だから脱ぎましょうか」
「はい。わかりました」
理央の頬が少し赤いことに気づいたのか、祖母はさっさとコートを脱がせて俺に持たせた。
「緊張しているんだから、普段より気をつけてあげないと体調を崩してしまうわよ」
小声でそんなことを言われてドキッとしてしまう。
さすが元小児科医。
理央の体調には父さんや母さんと同じくらい過敏に反応する。
「何か飲み物をいただきましょうか」
ラウンジでは常に飲み物を頼むことができ、スタッフが常駐している。
ここの使用料は施設費に含まれていて住居民、客人問わず無料だ。
理央用のミルクと砂糖たっぷりのカフェオレと、俺のブラックコーヒー。
祖母のカフェラテを頼むと、
「ああ、桜のシフォンケーキもお願い」
と追加で注文をしていた。
「この前出たばかりの新作ケーキなの。とっても美味しいから、理央くんにも食べて欲しかったのよね」
「わぁー、僕、桜味大好きです!」
「あら、理央くんは何の桜のスイーツを食べたのかしら?」
「あの、ピンクのマカロンが桜味で……」
「あら、それ! この前麗花が持ってきてくれたわ。私もピンクのマカロン大好きよ」
「――っ!! お揃いですね!!」
祖母の言葉に理央が嬉しそうに笑う。
本当にこの二人、ついさっき会ったばかりとは思えないほど相性が良さそうだ。
本物の孫はどちらか尋ねたらみんな理央が孫だと言いそうだな、絶対に。
話の都合上、時系列的には日本編が終わった後辺りを想定しています。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side凌也>
クリスマスから正月まで、理央にとっては初体験ばかりの日々を過ごし、ようやく落ち着いた一月下旬。
俺は理央を連れて、郊外までやってきた。
「凌也さん、あとどれくらいですか?」
「ふふっ。もうそろそろ着くよ。そんなに待ちきれないか?」
「はい。すごく楽しみです!」
チラリと理央の表情を見ると目を輝かせて喜んでいるのがわかる。
その首元には同じくらい輝きを放っているネックレスがあった。
今日、理央を連れてきたのは母方の祖母が入所しているシニアハウス。
祖母は特に病気もなく自活も十分にできるほど元気だけれど、数年前に連れ合い――俺から見れば祖父――を亡くし、一人で思い出の詰まった家にいるよりは友人たちと楽しい老後を過ごしたいと言って、同じように連れ合いを亡くした学生時代からの長い付き合いの友人二人と一緒に郊外にあるシニアハウスに入所した。
ここは入居するだけで平均で一億ほどかかり――入居する部屋によって料金が変わる。ちなみに祖母の入居金は二億円――月額料金も百万を優に超えるけれど、生活環境もよく広い施設内には病院も併設され何かあった時にはすぐに診てもらうことができる。
また名だたるホテルで腕を振るってきた和洋中の料理人たちが作る料理を好きな時に食べることができ、シアタールームではいつでも映画を観て楽しむことができ、祖母は友人たちと毎日学生の時に戻ったように楽しんでいるらしい。
一人娘である俺の母さんは月に一度はこの祖母のもとに必ず足を運び、一緒に食事をしたり、話をしたり過ごしているようだ。
もうとっくに理央のことは母さんが話しているようで、祖母は理央に会えるのを楽しみにしていると言っていた。
理央は結婚式で貰ったパールのネックレスのお礼が言いたいと言っていたから、今回ようやく二人を会わせることができたのだ。
礼儀や言葉遣いには厳しい祖母だったが、俺の中には優しい祖母の印象しかない。
きっと理央のことも気に入ってくれるだろう。
「さぁ、ついたよ」
「わぁー、弓弦くんたちのおうちみたい」
「ふふっ」
キョロキョロと辺りを見回す理央が可愛い。
駐車場に車を止め、クリスマスプレゼントでもらった羊のような可愛いコートを着せ、シニアハウスの入り口に向かった。
入り口で名前をいい、身分証明書を出すと中に入ることができる。
「凌也さん、ここ、前にお母さんたちと一緒に甘いもの食べに行ったホテルみたいです。ほら、お庭もありますよ」
「ああ、そうだな。あっちでスイーツも食べられるからおばあさんと一緒に行こうか」
「はい!」
嬉しそうな理央の手を引き、祖母が待っていてくれているはずのラウンジに向かうと、
「凌也っ!」
と聞き慣れた元気な声が聞こえた。
「おばあさん!」
結構久しぶりだから、俺も少し嬉しくて手を振ったけれど、祖母の嬉しそうな視線は理央にしか向いていないことに気づいてしまった。
やっぱりそうだよな……。
孫として少し寂しくなりながらも、理央を受け入れてもらえたことに関しては嬉しい。
待ち侘びている祖母のもとに理央を連れて行くと、
「は、初めまして。観月理央です」
と少し緊張した様子で可愛い挨拶をしていた。
「ふふっ。理央くんね。麗花から話を聞いた時から、ずっとずっと会いたかったわ! こんな遠いところまで来てくれてありがとう」
「僕も、会いたかったです! あ、あの……このネックレス、ありがとうございます! 僕……大切にします」
「あらあら。よく似合ってるわ。ふふっ。可愛いわね。ほら、理央くん。あっちのソファーでゆっくりおしゃべりしましょう」
理央のもう片方の手を取ってさっさと連れて行こうとする祖母に
「あの、おばあさん。俺もいるんですけど……」
というと、
「わかってるわよ。凌也のおかげでこんなに可愛い子に会えたんだものね。でも今日だけは私の好きにさせてちょうだい。いいでしょう?」
と言って笑顔を向けられる。
ああ、母さんもよく使うこの手。
俺はこの笑顔に弱いんだ。
「理央くん、可愛いコートを着ているわね」
「はい。これ、クリスマスプレゼントでお友達のお母さんからもらったんです」
「そう。よく似合ってるわ。でも、この中では暑いでしょう。汗をかいて風邪をひいたら大変だから脱ぎましょうか」
「はい。わかりました」
理央の頬が少し赤いことに気づいたのか、祖母はさっさとコートを脱がせて俺に持たせた。
「緊張しているんだから、普段より気をつけてあげないと体調を崩してしまうわよ」
小声でそんなことを言われてドキッとしてしまう。
さすが元小児科医。
理央の体調には父さんや母さんと同じくらい過敏に反応する。
「何か飲み物をいただきましょうか」
ラウンジでは常に飲み物を頼むことができ、スタッフが常駐している。
ここの使用料は施設費に含まれていて住居民、客人問わず無料だ。
理央用のミルクと砂糖たっぷりのカフェオレと、俺のブラックコーヒー。
祖母のカフェラテを頼むと、
「ああ、桜のシフォンケーキもお願い」
と追加で注文をしていた。
「この前出たばかりの新作ケーキなの。とっても美味しいから、理央くんにも食べて欲しかったのよね」
「わぁー、僕、桜味大好きです!」
「あら、理央くんは何の桜のスイーツを食べたのかしら?」
「あの、ピンクのマカロンが桜味で……」
「あら、それ! この前麗花が持ってきてくれたわ。私もピンクのマカロン大好きよ」
「――っ!! お揃いですね!!」
祖母の言葉に理央が嬉しそうに笑う。
本当にこの二人、ついさっき会ったばかりとは思えないほど相性が良さそうだ。
本物の孫はどちらか尋ねたらみんな理央が孫だと言いそうだな、絶対に。
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