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気の置けない友人  <side晴>

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部屋の見学を終え、理玖とオーナーと一緒に部屋に戻った。
ずっと喋りっぱなしだったから喉が渇いただろうと思って、コーヒーを作りにキッチンに行こうとすると理玖が手伝ってくれると言い出した。

隆之さんとオーナーにはリビングで休んでてと言って、2人でキッチンに行くと

「本当に一部屋一部屋レイアウトが違うんだな。こっちはキッチンが狭いけどその分ダイニングがあるしこれはこれで使いやすそう!」

とすごく興味深そうにキッチンを眺めていた。

「そうなんだよね。僕もさっきの部屋見てびっくりした。このキッチンも僕には使いやすくて気に入ってるんだけど、一つだけ欠点があるんだ」

「欠点? どこ??」

理玖はキョロキョロ辺りを見回していたけれど、気づかなかったみたいだ。

「欠点なんかある? どこもすごく使いやすそうに整理されてるし、香月が料理しやすそうじゃん」

「うん。キッチン自体はすっごく使いやすくて僕の好きなように使わせてもらってるんだけどね。見て、ほら……キッチンにいると、リビングにいる隆之さんが見えないんだよ」

理玖は僕の言葉に隆之さんたちが座っているはずのソファーに目を向けると

「ああ、本当だ……」

とポツリと呟いた。

「いっつもね、ここで料理しながらふと隆之さんの姿を探しちゃって……リビングで仕事してる姿でも見られたら嬉しいのになって思ってたんだ。だから、さっきのキッチン見た時、キッチンからリビングがよく見えて羨ましいって思っちゃった」

「確かにキッチンに1人は寂しいかもな……」

理玖の言葉がすごく感情がこもってて、いつもオーナーが料理してる時すぐ見える位置にいるんだろうなってすぐにわかった。

「だからね、このキッチンをリノベーションしてくれるって言ってくれたんだ」

「そうなのか? すごいじゃん!」

「うん。もうずっとここに暮らすなら、自分たちの好きなように作り替えようって」

「なるほど……。でもさ、それなら自分達で思い思いの家を建てようとは思わなかったのか?」

「一戸建てってこと? うーん、確かにオーナーのお家見たらすごくいいなって思ったけど、来年からは僕も社会人になるから隆之さんも僕も今よりもっと忙しくなるだろうし、十分に手入れとかできないかもしれないじゃない?
それに留守にしてる時間が長くなるならセキュリティもバッチリなこのマンションの方が便利だし。さっき案内してくれてたコンシェルジュの高木さんはすごく頼りになるいい人なんだ。だから、この家を少しずつ変えていけたらなって思ってる」

「そうか……2人で少しずつ作り上げるのも楽しそうだな。それにセキュリティか……アルは仕事柄、夜いないことの方が多いし、それは確かによく考えないとな」

理玖とオーナーの場合は仕事の時間が異なるから、セキュリティは結構重要かもしれないな。

「オーナーとよく考えてゆっくり結論出したらいいよ。僕は理玖とオーナーが隣に住んでくれたら嬉しいけど、他にもいろんなとこ見に行って一番気に入ったとこに住むのが一番だと思うし」

「ああ、ありがとう。アルと話し合うよ」

そう言って笑う理玖がなんだかすごく大人に見えた。


「ねぇ、理玖がオーナーの分、コーヒーを淹れてみない?」

「えっ? いいのか?」

「うん、もちろん! 理玖ならオーナーの好みの濃さ知ってるでしょ?」

「ああ。アルは少し濃いめが好きなんだよな」

「ふふっ。なら、こっちのドリッパー使って」

僕は慣れていない理玖にも使いやすい1つ穴の金属製のコーヒードリッパーを手渡した。
理玖はそれにフィルターを被せ、3種類のコーヒーの粉から一番気に入った匂いのコーヒーを選んで粉を数杯入れ、お湯を少しずつ落とした。

ふわっとコーヒーのいい香りがキッチンに広がる。

「このコーヒー、すごいいい香りするな。どこで買ってるんだ?」

「ここの近くにある喫茶店で買ってるんだ。好みに合わせて焙煎もしてくれるしおすすめだよ」

「へぇー、いいな。これさ、香月の焼くパンにも合いそうだな」

「ふふっ。ありがとう。よかったら今度食べに来てよ。コーヒーに合うクロワッサン焼くからさ」

「クロワッサン?? 俺もアルも大好物だよ! 絶対食べにくるよ!!」

そんな話をしているうちにあっという間にコーヒーを落とし終わり、僕たちは隆之さんたちの待つリビングへと向かった。

何やら真剣な表情で話をしている2人に近寄りがたかったけれど、せっかくコーヒーも淹れてきたしと思ってソファーに近づくと、

「――それは絶対にないだろう」

という声が聞こえてきた。

「なんの話だろう?」

「さぁ?」

僕は気になって


「何が絶対にないの?」

と問いかけると、隆之さんもオーナーも僕たちの存在に気づいていなかったみたいですごく驚いていた。

2人の驚く声なんて滅多に聞くことがないから僕たちの方が驚いちゃったよ。

結局何を話していたのかは教えてはくれなかったけれど、多分あの隣の部屋について話していたのかな。
それとも今度の旅行の話かも。

もしかしたらオーナーから理玖へのサプライズ計画かもしれないと思ってその話は深く追及しないことにした。

理玖と僕からオーナーと隆之さんにそれぞれコーヒーを手渡すと2人とも嬉しそうに受け取ってくれた。
僕と理玖はなんの躊躇いもなくそれ俺の恋人の隣に座り、理玖はコーヒーを飲むオーナーを見つめている。

ふふっ。自分の淹れたコーヒーが気になって仕方ないんだ。
理玖のこういうところほんとかわいいよね、

オーナーがコーヒーを美味しいと言ったのがすごく嬉しかったみたいで、俺が淹れたんだと説明している理玖は褒めて褒めてと言っているワンコみたいで可愛かった。

僕も隆之さんに美味しい? と尋ねると、ああ、やっぱり俺の好みをよくわかってると答えが返ってきて、すごく嬉しかった。
4人でいておしゃべりが盛り上がるのも楽しいけど、こういうゆったりした時間を過ごせるのが気の置けない友人ってことなんだろうな。
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