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昼下がりの幸せな時間

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「ここ広くていいね。ここなら大きなベッドも置けそう」

「そうだな。アルは身体が大きいから大きなベッドじゃないとよく眠れないみたいだし」

晴と理玖がそんな話をしているが、大きなベッドって。
2人とも恋人とは一緒に寝るって完全に刷り込まれているみたいだな。

まぁ、刷り込んだのは俺とアルなんだけど。

晴も理玖も俺たちが初めての恋人だから、俺たちが言ってることが全て正しいと思ってくれてるところがあるんだよな。
お互いにそれで助かってるから、訂正は何もしないけどな。

俺とアルは2人の会話をこっそり聞きながら顔を見合わせて微笑んだ。

理玖は寝室の中を晴と見回っていて、寝室の奥に扉を見つけたようだ。

「あ、ここにも部屋がある。ここはなんだろう?」

「本当だ、なんだろう?」

理玖が緊張した面持ちで扉を開けると、そこには広々としたお風呂があった。

「わぁっ、お風呂だ。すごいな」

「寝室の隣がお風呂だなんて使いやすくていいね」

晴がどういう状況を頭に浮かべながらそんなことを言っているのかわからないが、俺はHの後の色気たっぷりの晴を抱きかかえてバスルームに連れていく姿が思い浮かんでいる。

でも、それはいいな。
やっぱりうちも寝室の隣に風呂を作るか。

身体を綺麗に洗い流しながら風呂場でもう一回っていうのも楽しそうだ。

俺がそんな妄想を繰り広げている間に晴も理玖もアルも風呂場に入って話をしている。
慌てて俺も風呂場に入り話の中に加わることにした。

「あっ、隆之さん。どこにいたの?」

「悪い。寝室をゆっくり見てたんだ」

「そっか。ここの寝室広くて素敵だよね」

「ああ。そうだな」

「だけど、うちの寝室の方が僕は好きだよ」

「そうなのか?」

「だってここには隆之さんがいないもん。ふふっ」

そう言ってふわりとした笑顔を見せる晴を俺は小悪魔だと思った。
だって俺がいないからうちのがいいだなんてそんなこと言われて我慢できるわけないだろう。
思わず抱きしめてキスをしたい衝動に駆られたが、流石にここでしたら怒られるだろうか?

いや、アルと理玖ならいいか。
高木は寝室には入ってきていないし。

一瞬でそう考えた俺は晴を抱きしめ、唇を重ね合わせた。

「んっ……ん」

一瞬驚いたような顔を見せていたが、晴は拒むことなくそのままキスを受け入れてくれていた。
それが嬉しくてつい長く続けてしまったのは許してほしい。

「ん゛っんっ」

咳払いの音に晴がビクッとして唇を離した。
流石に長すぎたか。

アルを見ると苦笑いをしているが、どうやら理玖は見てみないふりをしてくれているようだ。

「そういえば、さっき話してたセールスポイント、リクに話してもいいのかい?」

「あ、ああ。もちろんだよ」

「えっ? なに、セールスポイントって」

理玖は初めて聞く話に目を輝かせていて、そういうところは晴と似ていて可愛らしいなぁと思う。

「ここの蛇口から温泉が出るようになったらしいよ。家でも温泉が楽しめるんだそうだよ」

「ええーっ、ここから温泉が出てくるってこと? すごいじゃん!」

「リクは風呂が好きだからな。ここならゆっくり温泉を楽しめそうだ」

「それにもう一つすごい話があるんだが……」

俺はアルと理玖の話に加わって、さっきはまだ話していなかった特別な話を出してみた。

「実は、まだ内緒の話なんだが来年初めに各階に専用の貸切家族風呂ができる予定になってるんだよ。
自宅で温泉も楽しめるし、家族風呂はまさに温泉気分を味わえるし最高だろ?」

「おおっ、それは本当かい? それは素晴らしいな」

「うん! ここ、すごい気に入っちゃったな、俺」

どうやらアルと理玖がお隣さんになる日は近そうだな。


アルと理玖はひととおり部屋を見て回って、満足そうな表情を浮かべ見学していた部屋を出た。

「ベルガーさま。戸川さま。いかがでございましたか?」

「ああ、部屋の様子はもちろん、設備もいいし、何より景色も素晴らしい。それに騒音も全然気にならないな」

そういえば、アルはマンションに移るにあたって騒音を気にしていたな。
一軒家では騒音の心配がないから確かに一番気にするポイントかもしれない。

しかし、うちのマンションの構造的に隣とは部屋と部屋がくっついていないし、生活空間が全く違うため気になることはない。
上下階についても二重床と二重天井の両方が採用されていて、上下の遮音性に優れているのも売りなのだ。
だから俺自身、隣の騒音はもちろん、上下の騒音も気になったことは一度もない。

愛しい恋人と住むからこそあの時の・・・・声が聞こえるなどということは心配したくないからな。
恋人には何も気にせず楽しんでもらいたいと思うのは俺だけじゃないはずだ。

「リクはどうだい?」

「うん。キッチンも広いし、テラスも良かったよね。寝室には大きなベッドが置けそうだったし、あと、温泉が出るようになるっていうのはポイント高いな。貸切風呂ができるっていうのも魅力的だな。各階専用って言ってたから、できたらみんなで入れるよな」

「ああ、それ楽しそう!!」

理玖と晴はウキウキと楽しそうにしているが、多分アルが許さないだろうな。
もちろん俺もできれば、いや絶対に晴の裸はいくら友達といえどもアルと理玖にも見せたくない。
まぁ百歩譲って水着でも、いやラッシュガードもつけてくれれば考えてもいいが……プールでもないし、そんなのきて風呂に入るの流石に晴と理玖も嫌がりそうだしな……。

理玖が俺たちと一緒に風呂に入ることを想像しているんだろう、アルの表情が少し硬いが、理玖が喜んでいるから大っぴらに反対はしないようだ。
旅行先でも貸切露天風呂問題はあることだし、アルのためにも俺のためにもまぁ、おいおい説得するとするか。

「まぁ今すぐに決めるのは流石に無理だろう。とりあえず一週間は仮押さえで検討できるみたいだから、2人でゆっくり考えるといい。大きな買い物だから、どちらかが妥協したり我慢したりすることがないようにな」

「ああ、ユキ。ありがとう。高木さんも丁寧な説明助かったよ。今日は私たちのために時間をとってくれてありがとう」

「高木さん、ありがとうございました」

アルと理玖が揃って礼を言うと、高木は嬉しそうな表情で

「こちらこそ、素敵なお二人と楽しい時間を過ごすことができまして幸せな時間でございました。もしこちらに住まわれることになりましたら、お二人が心からお寛ぎいただけますよう、私が誠心誠意お手伝いをさせていただきます。その際はどうぞよろしくお願いいたします」

と頭を下げていた。

アルと理玖はもう一度高木に礼を言って、俺たちの部屋に戻った。


部屋に戻ると晴と理玖がコーヒーを入れると言ってキッチンへと向かった。
俺はアルとリビングのソファーに腰掛けながら、隣の部屋の感想を尋ねた。

「さっきは高木も理玖もいたから気に入ったところを話したんだろうが、実際のところどうだったんだ?」

「いや、本当によかったよ。ユキたちの部屋も素敵だが、隣室のレイアウトは私の思い描いていたものにぴったりだったな。日本のマンションであれだけ広いキッチンがあるのは想定していなかったよ」

ああ、確かに。
日本でマンションを選ぶときには間取りや収納、日当たりなどが優先事項として挙げられるだろう。
キッチンはどちらかというと余裕があればという感じだろうか。
それを考えれば、あのキッチンは本当にアルのためにレイアウトされたようなそんな印象だった。

「リクはテラスが気に入っていたから、そこでゆったりと過ごすのも楽しそうだ。それに何より、蛇口から温泉がでるというのは魅力的だな。バスルームを岩風呂や檜風呂に変えて、温泉を楽しむのも良さそうだ」

「それはいいな。それに来年できる貸切家族風呂は各階専用だから、我々しか使わないし安心だろう?」

「ああ。それはいいんだが、リクがハルと入りたいと言いそうなんだよな。それだけが気になるところだな」

「うーん、確かに。もういっそのこと、水着着用をルールにしておくか。上半身はともかく下半身が隠れていればいいんじゃないか?」

「……うーん、そうだな……。不特定多数が見る銭湯とは違うし、それで妥協するか……まぁ、リクとハルなら間違いが起きるなんてことはなさそうだしな」

「ふふっ。それは絶対にないだろう」

「何が絶対にないの??」

「「うわっ」」

突然聞こえた晴の声に俺もアルも驚きの声をあげてしまった。

「ごめん、驚かせちゃった?」

「いや、話に夢中になっていて晴と理玖がきていることに気づかなかっただけだ。こっちこそ、ごめん」

俺は晴の手からコーヒーを受け取り『ありがとう』と伝えると晴はニコリと笑って俺の隣に腰を下ろした。

理玖もまたアルにコーヒーを手渡し、当然のようにアルの隣に嬉しそうに座っていた。

「このコーヒー美味しいな」

「アルのは俺が入れたんだよ」

「そうか、やっぱりな」

二人が仲睦まじくコーヒーを飲んでいる姿にホッとする。
俺もコーヒーを味わって飲むと、晴は

「美味しい?」

と尋ねてきた。

「ああ、やっぱり俺の好みをよくわかってる」

そういうと晴は満足げに笑った。

ああ、昼下がりにアルたちとお互い気を遣わずに恋人とイチャつけるこんな時間ができるなんて、幸せ以外の何ものでもないな。
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