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番外編
香りの悪戯 <伊織&悠真Ver.> 7
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<side周平>
女性が男に着替えを手伝って欲しいと言うなんて信じられなかった。もしかしたら下着姿、いや裸でも見せて籠絡するつもりなのかとさえ思ってしまった。そんな思惑を持った女性に純粋な敬介が騙されているのではないか。そんな疑心が湧き上がる。
だが、伊織は生粋のゲイで女性に全く興味を持たない。だからたとえ誘惑されようとしてもそれに流されることはないだろう。だから、行かせたのだがそれでもやはり気になる。
「敬介、その女性とは知り合いなのか?」
伊織を女性のいる客間に案内して戻ってきた敬介に尋ねてみた。
「えっ? あ、はい。友人です」
「友人……。敬介に女性の友人がいるのは聞いてなかったな」
「あ、えっと……」
「私に何か隠しているか? 私には言えないことか?」
「そうじゃないんですけど、一緒に話した方がいいのかなって……」
いつも冷静な敬介が妙にオドオドしている気がする。友人だと言っているが、それが真実かはまだわからない。
どうしたものかと思っていると、着替えを手伝いに行ったはずの伊織が焦った様子でこちらに戻ってきた。やはり何か誘惑されそうになったのか?
そう思っていると、私の想像を凌駕する言葉が伊織の口から告げられた。
その女性が自分の胸のサイズを知らないと言っているから計り方を教えてほしい、と。
下着を必要とする大人の女性が自分の胸のサイズを知らないなんてことがあるとは思えない。
だが嘘はついていないと伊織は言う。あの伊織が嘘に騙されるような人間ではないことは私はよくわかっている。
色々と不可解なことはあるが、とりあえずサイズの測り方を教えると伊織はほんのりと頬を染めながら女性の待つ客間に戻っていった。
伊織が女性に対してあんな反応をするとは意外だな。どうみても興味を持っているとしか思えない。
あの伊織が女性に興味を持つなんてありえないはずなのに。だがありえないのは彼女も同じだ。どうにも不可解なことが多すぎる。まずは一つ一つ疑問を解決していくしか方法はない。
「敬介、彼女は一体どういう女性なんだ?」
「えっ? どういうって?」
「伊織は彼女が下着のサイズを知らないと言っていたがそんなこと、大人の女性ではありえない。一度は自分のサイズを測るものだからな。彼女がどこかに監禁されて知識を与えられずに育ったとでも聞かない限りは信じられそうにない。悪いが、彼女の話を聞く前に敬介から私にだけは教えてもらえないか? 彼女は一体何者なんだ?」
「周平さん……あの、実は……その彼女は……周平さんも知っている子なんです」
「私が知っている子? いや、敬介の友人で女性は知らないと言ったろう?」
私の言葉に敬介は意を決した表情を浮かべて私を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「その、彼女は……悠真くんなんです」
「はっ? 今、なんと?」
「周平さんが信じられない気持ちはすごくよくわかります。俺だって目の前で見なかったら信じられるかわからない。でも本当なんです。お茶会をしていたら突然悠真くんの身体が女性に変わってしまったんです」
「お茶会をしていたら、突然?」
それは何かおかしなものを食べたと言うことか?
でも性別を一瞬にして変えてしまう食べ物なんて……。
いや、ないとは限らない。普通の人には何もなくても特定の人には毒になる食べ物だってある。
もしかしたら悠真くんの体質に何かが合わさってそのような不思議なことが起こったのかもしれない。
「敬介、悠真くんが直前に口にしていたものは何か覚えているか?」
「はい。兄さんが作ってくれたスコーンに、兄さんがホームステイをしていたイギリスのお家から送られてきた薔薇ジャムをつけて食べてました」
「スコーンと、薔薇ジャム……もしかして、それが関係あるのか?」
「わかりません。でもうちに来て悠真くんが口にしたのはそれだけです」
「なるほど……んっ? 伊織か? どうした? 着替えは終わったのか?」
突然扉が少しだけ開いたと思ったら、伊織が顔だけ出してこちらを伺っていた。
「は、はい。もうすぐ彼女も出てくるはずです。あの、それでトイレをお借りしたいんですが……」
トイレと聞いてピンと来た。が、表情には出さずに冷静にトイレの場所を伝えた。
伊織は焦って扉を閉めると、トイレに駆け込んだようだった。
「安慶名さん、体調でも崩したんでしょうか?」
「いや、気にすることはないよ。大丈夫だ」
伊織は彼女、いや彼に興味を持ったんだ。女性の姿であってもやはり運命の相手を見逃さなかったと言うことなんだろうな。それはそれで本当にすごいことだ。
悠真くんが、伊織の運命の相手だったのか……世の中は狭いものだな。
女性が男に着替えを手伝って欲しいと言うなんて信じられなかった。もしかしたら下着姿、いや裸でも見せて籠絡するつもりなのかとさえ思ってしまった。そんな思惑を持った女性に純粋な敬介が騙されているのではないか。そんな疑心が湧き上がる。
だが、伊織は生粋のゲイで女性に全く興味を持たない。だからたとえ誘惑されようとしてもそれに流されることはないだろう。だから、行かせたのだがそれでもやはり気になる。
「敬介、その女性とは知り合いなのか?」
伊織を女性のいる客間に案内して戻ってきた敬介に尋ねてみた。
「えっ? あ、はい。友人です」
「友人……。敬介に女性の友人がいるのは聞いてなかったな」
「あ、えっと……」
「私に何か隠しているか? 私には言えないことか?」
「そうじゃないんですけど、一緒に話した方がいいのかなって……」
いつも冷静な敬介が妙にオドオドしている気がする。友人だと言っているが、それが真実かはまだわからない。
どうしたものかと思っていると、着替えを手伝いに行ったはずの伊織が焦った様子でこちらに戻ってきた。やはり何か誘惑されそうになったのか?
そう思っていると、私の想像を凌駕する言葉が伊織の口から告げられた。
その女性が自分の胸のサイズを知らないと言っているから計り方を教えてほしい、と。
下着を必要とする大人の女性が自分の胸のサイズを知らないなんてことがあるとは思えない。
だが嘘はついていないと伊織は言う。あの伊織が嘘に騙されるような人間ではないことは私はよくわかっている。
色々と不可解なことはあるが、とりあえずサイズの測り方を教えると伊織はほんのりと頬を染めながら女性の待つ客間に戻っていった。
伊織が女性に対してあんな反応をするとは意外だな。どうみても興味を持っているとしか思えない。
あの伊織が女性に興味を持つなんてありえないはずなのに。だがありえないのは彼女も同じだ。どうにも不可解なことが多すぎる。まずは一つ一つ疑問を解決していくしか方法はない。
「敬介、彼女は一体どういう女性なんだ?」
「えっ? どういうって?」
「伊織は彼女が下着のサイズを知らないと言っていたがそんなこと、大人の女性ではありえない。一度は自分のサイズを測るものだからな。彼女がどこかに監禁されて知識を与えられずに育ったとでも聞かない限りは信じられそうにない。悪いが、彼女の話を聞く前に敬介から私にだけは教えてもらえないか? 彼女は一体何者なんだ?」
「周平さん……あの、実は……その彼女は……周平さんも知っている子なんです」
「私が知っている子? いや、敬介の友人で女性は知らないと言ったろう?」
私の言葉に敬介は意を決した表情を浮かべて私を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「その、彼女は……悠真くんなんです」
「はっ? 今、なんと?」
「周平さんが信じられない気持ちはすごくよくわかります。俺だって目の前で見なかったら信じられるかわからない。でも本当なんです。お茶会をしていたら突然悠真くんの身体が女性に変わってしまったんです」
「お茶会をしていたら、突然?」
それは何かおかしなものを食べたと言うことか?
でも性別を一瞬にして変えてしまう食べ物なんて……。
いや、ないとは限らない。普通の人には何もなくても特定の人には毒になる食べ物だってある。
もしかしたら悠真くんの体質に何かが合わさってそのような不思議なことが起こったのかもしれない。
「敬介、悠真くんが直前に口にしていたものは何か覚えているか?」
「はい。兄さんが作ってくれたスコーンに、兄さんがホームステイをしていたイギリスのお家から送られてきた薔薇ジャムをつけて食べてました」
「スコーンと、薔薇ジャム……もしかして、それが関係あるのか?」
「わかりません。でもうちに来て悠真くんが口にしたのはそれだけです」
「なるほど……んっ? 伊織か? どうした? 着替えは終わったのか?」
突然扉が少しだけ開いたと思ったら、伊織が顔だけ出してこちらを伺っていた。
「は、はい。もうすぐ彼女も出てくるはずです。あの、それでトイレをお借りしたいんですが……」
トイレと聞いてピンと来た。が、表情には出さずに冷静にトイレの場所を伝えた。
伊織は焦って扉を閉めると、トイレに駆け込んだようだった。
「安慶名さん、体調でも崩したんでしょうか?」
「いや、気にすることはないよ。大丈夫だ」
伊織は彼女、いや彼に興味を持ったんだ。女性の姿であってもやはり運命の相手を見逃さなかったと言うことなんだろうな。それはそれで本当にすごいことだ。
悠真くんが、伊織の運命の相手だったのか……世の中は狭いものだな。
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