南国特有のスコールが初恋を連れてきてくれました

波木真帆

文字の大きさ
上 下
61 / 70
番外編

香りの悪戯 <伊織&悠真Ver.> 7

しおりを挟む
<side周平>

女性が男に着替えを手伝って欲しいと言うなんて信じられなかった。もしかしたら下着姿、いや裸でも見せて籠絡するつもりなのかとさえ思ってしまった。そんな思惑を持った女性に純粋な敬介が騙されているのではないか。そんな疑心が湧き上がる。

だが、伊織は生粋のゲイで女性に全く興味を持たない。だからたとえ誘惑されようとしてもそれに流されることはないだろう。だから、行かせたのだがそれでもやはり気になる。

「敬介、その女性とは知り合いなのか?」

伊織を女性のいる客間に案内して戻ってきた敬介に尋ねてみた。

「えっ? あ、はい。友人です」

「友人……。敬介に女性の友人がいるのは聞いてなかったな」

「あ、えっと……」

「私に何か隠しているか? 私には言えないことか?」

「そうじゃないんですけど、一緒に話した方がいいのかなって……」

いつも冷静な敬介が妙にオドオドしている気がする。友人だと言っているが、それが真実かはまだわからない。

どうしたものかと思っていると、着替えを手伝いに行ったはずの伊織が焦った様子でこちらに戻ってきた。やはり何か誘惑されそうになったのか?

そう思っていると、私の想像を凌駕する言葉が伊織の口から告げられた。

その女性が自分の胸のサイズを知らないと言っているから計り方を教えてほしい、と。

下着を必要とする大人の女性が自分の胸のサイズを知らないなんてことがあるとは思えない。
だが嘘はついていないと伊織は言う。あの伊織が嘘に騙されるような人間ではないことは私はよくわかっている。
色々と不可解なことはあるが、とりあえずサイズの測り方を教えると伊織はほんのりと頬を染めながら女性の待つ客間に戻っていった。

伊織が女性に対してあんな反応をするとは意外だな。どうみても興味を持っているとしか思えない。
あの伊織が女性に興味を持つなんてありえないはずなのに。だがありえないのは彼女も同じだ。どうにも不可解なことが多すぎる。まずは一つ一つ疑問を解決していくしか方法はない。

「敬介、彼女は一体どういう女性なんだ?」

「えっ? どういうって?」

「伊織は彼女が下着のサイズを知らないと言っていたがそんなこと、大人の女性ではありえない。一度は自分のサイズを測るものだからな。彼女がどこかに監禁されて知識を与えられずに育ったとでも聞かない限りは信じられそうにない。悪いが、彼女の話を聞く前に敬介から私にだけは教えてもらえないか? 彼女は一体何者なんだ?」

「周平さん……あの、実は……その彼女は……周平さんも知っている子なんです」

「私が知っている子? いや、敬介の友人で女性は知らないと言ったろう?」

私の言葉に敬介は意を決した表情を浮かべて私を見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「その、彼女は……悠真くんなんです」

「はっ? 今、なんと?」

「周平さんが信じられない気持ちはすごくよくわかります。俺だって目の前で見なかったら信じられるかわからない。でも本当なんです。お茶会をしていたら突然悠真くんの身体が女性に変わってしまったんです」

「お茶会をしていたら、突然?」

それは何かおかしなものを食べたと言うことか?
でも性別を一瞬にして変えてしまう食べ物なんて……。

いや、ないとは限らない。普通の人には何もなくても特定の人には毒になる食べ物だってある。
もしかしたら悠真くんの体質に何かが合わさってそのような不思議なことが起こったのかもしれない。

「敬介、悠真くんが直前に口にしていたものは何か覚えているか?」

「はい。兄さんが作ってくれたスコーンに、兄さんがホームステイをしていたイギリスのお家から送られてきた薔薇ジャムをつけて食べてました」

「スコーンと、薔薇ジャム……もしかして、それが関係あるのか?」

「わかりません。でもうちに来て悠真くんが口にしたのはそれだけです」

「なるほど……んっ? 伊織か? どうした? 着替えは終わったのか?」

突然扉が少しだけ開いたと思ったら、伊織が顔だけ出してこちらを伺っていた。

「は、はい。もうすぐ彼女も出てくるはずです。あの、それでトイレをお借りしたいんですが……」

トイレと聞いてピンと来た。が、表情には出さずに冷静にトイレの場所を伝えた。
伊織は焦って扉を閉めると、トイレに駆け込んだようだった。

「安慶名さん、体調でも崩したんでしょうか?」

「いや、気にすることはないよ。大丈夫だ」

伊織は彼女、いや彼に興味を持ったんだ。女性の姿であってもやはり運命の相手を見逃さなかったと言うことなんだろうな。それはそれで本当にすごいことだ。
悠真くんが、伊織の運命の相手だったのか……世の中は狭いものだな。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...