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番外編
香りの悪戯 <伊織&悠真Ver.> 5
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目が離せない。こんなの初めてだ。
「あの、安慶名さん、ですか?」
私の名前を呼ぶ声すら愛おしく感じるなんて…。自分で自分が信じられない思いを抱きながら、私は彼女に返事をした。
「えっ、あっ、はい。安慶名と申します。着替えの手伝いに……」
「あ、えっと砂川、と言います。すみません、無理を言ってしまって……」
「い、いえ。そんなっ、お気になさらず」
「あの、どうぞ中に入って扉を閉めてください」
彼女と部屋に二人っきりになることに気づき、扉を閉めていいものかと思ったが、彼女はこれから下着まで着替えるんだ。
流石に扉を開け放して着替えるわけにはいかないのだろう。
「失礼します」
私が緊張しては彼女も着替えにくいに決まってる。仕事の時のような冷静さを思い出し、緊張を顔に出さないことにした。
「あの、こちらが洋服で、こちらが下着です」
「ありがとうございます。それでその……下着のつけ方がわからなくて……手伝っていただいてもいいですか?」
「ええ、私でよろしければお手伝いさせていただきます。ご自分のサイズの下着を選んでください」
「サイズ?」
下着の入った紙袋を渡しながらいうと、彼女は困った顔をしながら紙袋の中の下着を選び始めた。
「――っ!!」
下着の入った紙袋を膝の上に乗せ、両手で下着を選んでいるために、羽織っていたブランケットが開いて中が見えてしまっている。薄いシャツが胸の膨らみをありありと伝えていてそこから目が離せない。
なぜだ? 今まで女性の胸になど興味を持ったこともないのに。
「――なさん? 安慶名さん、どうかしましたか?」
「えっ? いえ、なんでもありません。下着は決まりましたか?」
「あの、それが……自分のサイズがわからなくて……どれを選んだらいいんでしょう?」
「えっ? サイズが、わからない?」
彼女の表情を見るに、それが嘘でないことはよくわかる。でもそれが真実だとして、どうやってサイズを測ればいいのか、私もわからない。
「どうしたらいいですか?」
「あの、少し待っててください。周平さんに聞いてきますから」
私は急いで部屋を出て周平さんたちが待っているリビングに向かった。
「周平さん!」
「伊織、どうした? 着替えは終わったのか?」
「それが……」
浅香さんにも知られていいものか悩み、私は周平さんの元に近づき囁いた。
「実は、彼女……自分の下着のサイズを知らないみたいで、どの下着を選んでいいのかわからないんです」
「何? それは本当なのか?」
「ええ。嘘をついているようには見えませんでした」
「伊織がいうのなら間違いはないのだろうな。じゃあ、伊織が測ってやるしかないな。これを使え」
周平さんは胸ポケットから柔らかいメジャーを取り出した。何かの時のためにいつも持ち歩いているそうだ。さすがデザイナーだな。
「これで、胸のすぐ下を身体に沿うように測るんだ。それがアンダーサイズ。そして、次に胸の一番高いところを一周測るんだ。その差によって下着の大きさが変わっていく。差が大体10cmだとAカップ。そこから2,5cm刻みにカップ数がB、Cと大きくなっていく」
「なるほど……えっ、でもそれじゃあ私が胸に触れることになりませんか?」
「胸の大きさを測るんだ。当然だろう?」
ついさっきまで女性の裸を見ても、たとえ肌に触れても何も気にならないと思っていたし、私がゲイであることを知っている周平さんもそう思っているに違いない。だからこんなことを当然のように言ってくるのだろうが、あの彼女に関しては何かがおかしい。なぜか興奮してしまう自分がいる。
ゲイだったはずなのに、いや、間違いなくゲイなのに、どうしてなのだろう?
「早く着替えを済ませて連れてきてくれ。話を待ってるから」
「は、はい。わかりました」
追い立てられるように急いで彼女の待つ部屋に戻ると、彼女がもう一つの紙袋を開け洋服を選んでいた。
「すみません、遅くなってしまって……」
「いえ。私もわからなかったからお手数をかけてすみません。でも、いざとなったら下着はつけなくても洋服さえ着てれば大丈夫かなって……」
彼女の言葉にシャツから見えていた膨らみを思い出した。あんな無防備な姿で周平さんの前に出るなんて、いや、周平さんだけじゃない。他の男の前に出るなんて絶対に許せない!
そんな嫉妬にも似た感情が私の中に湧き上がっていた。
「大丈夫です。下着の選び方を聞いてきましたから。とりあえずサイズを測りましょう」
「は、はい。ありがとうございます」
「こちらの鏡の前に立ってください」
部屋の中にあった大きな姿見に彼女を立たせた。
「ブランケット外しますね」
緊張しながらも必死に隠し、そっと彼女の羽織っていたブランケットを取り外すと、小さいけれど形の良い胸が鏡に映ったシャツ越しにはっきりと見えた。
「あの、安慶名さん、ですか?」
私の名前を呼ぶ声すら愛おしく感じるなんて…。自分で自分が信じられない思いを抱きながら、私は彼女に返事をした。
「えっ、あっ、はい。安慶名と申します。着替えの手伝いに……」
「あ、えっと砂川、と言います。すみません、無理を言ってしまって……」
「い、いえ。そんなっ、お気になさらず」
「あの、どうぞ中に入って扉を閉めてください」
彼女と部屋に二人っきりになることに気づき、扉を閉めていいものかと思ったが、彼女はこれから下着まで着替えるんだ。
流石に扉を開け放して着替えるわけにはいかないのだろう。
「失礼します」
私が緊張しては彼女も着替えにくいに決まってる。仕事の時のような冷静さを思い出し、緊張を顔に出さないことにした。
「あの、こちらが洋服で、こちらが下着です」
「ありがとうございます。それでその……下着のつけ方がわからなくて……手伝っていただいてもいいですか?」
「ええ、私でよろしければお手伝いさせていただきます。ご自分のサイズの下着を選んでください」
「サイズ?」
下着の入った紙袋を渡しながらいうと、彼女は困った顔をしながら紙袋の中の下着を選び始めた。
「――っ!!」
下着の入った紙袋を膝の上に乗せ、両手で下着を選んでいるために、羽織っていたブランケットが開いて中が見えてしまっている。薄いシャツが胸の膨らみをありありと伝えていてそこから目が離せない。
なぜだ? 今まで女性の胸になど興味を持ったこともないのに。
「――なさん? 安慶名さん、どうかしましたか?」
「えっ? いえ、なんでもありません。下着は決まりましたか?」
「あの、それが……自分のサイズがわからなくて……どれを選んだらいいんでしょう?」
「えっ? サイズが、わからない?」
彼女の表情を見るに、それが嘘でないことはよくわかる。でもそれが真実だとして、どうやってサイズを測ればいいのか、私もわからない。
「どうしたらいいですか?」
「あの、少し待っててください。周平さんに聞いてきますから」
私は急いで部屋を出て周平さんたちが待っているリビングに向かった。
「周平さん!」
「伊織、どうした? 着替えは終わったのか?」
「それが……」
浅香さんにも知られていいものか悩み、私は周平さんの元に近づき囁いた。
「実は、彼女……自分の下着のサイズを知らないみたいで、どの下着を選んでいいのかわからないんです」
「何? それは本当なのか?」
「ええ。嘘をついているようには見えませんでした」
「伊織がいうのなら間違いはないのだろうな。じゃあ、伊織が測ってやるしかないな。これを使え」
周平さんは胸ポケットから柔らかいメジャーを取り出した。何かの時のためにいつも持ち歩いているそうだ。さすがデザイナーだな。
「これで、胸のすぐ下を身体に沿うように測るんだ。それがアンダーサイズ。そして、次に胸の一番高いところを一周測るんだ。その差によって下着の大きさが変わっていく。差が大体10cmだとAカップ。そこから2,5cm刻みにカップ数がB、Cと大きくなっていく」
「なるほど……えっ、でもそれじゃあ私が胸に触れることになりませんか?」
「胸の大きさを測るんだ。当然だろう?」
ついさっきまで女性の裸を見ても、たとえ肌に触れても何も気にならないと思っていたし、私がゲイであることを知っている周平さんもそう思っているに違いない。だからこんなことを当然のように言ってくるのだろうが、あの彼女に関しては何かがおかしい。なぜか興奮してしまう自分がいる。
ゲイだったはずなのに、いや、間違いなくゲイなのに、どうしてなのだろう?
「早く着替えを済ませて連れてきてくれ。話を待ってるから」
「は、はい。わかりました」
追い立てられるように急いで彼女の待つ部屋に戻ると、彼女がもう一つの紙袋を開け洋服を選んでいた。
「すみません、遅くなってしまって……」
「いえ。私もわからなかったからお手数をかけてすみません。でも、いざとなったら下着はつけなくても洋服さえ着てれば大丈夫かなって……」
彼女の言葉にシャツから見えていた膨らみを思い出した。あんな無防備な姿で周平さんの前に出るなんて、いや、周平さんだけじゃない。他の男の前に出るなんて絶対に許せない!
そんな嫉妬にも似た感情が私の中に湧き上がっていた。
「大丈夫です。下着の選び方を聞いてきましたから。とりあえずサイズを測りましょう」
「は、はい。ありがとうございます」
「こちらの鏡の前に立ってください」
部屋の中にあった大きな姿見に彼女を立たせた。
「ブランケット外しますね」
緊張しながらも必死に隠し、そっと彼女の羽織っていたブランケットを取り外すと、小さいけれど形の良い胸が鏡に映ったシャツ越しにはっきりと見えた。
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