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番外編
帰京の日 <前編>
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ああ、とうとうこの日がやってきた……。
石垣で悠真に出会ってからの時間が濃密すぎて、半身をもがれるような思いだ。
とはいえ、いつまでもここに留まるわけにはいかないのはわかっているんだ。
これから先の将来を共に歩くと言ってくれた悠真のために基盤を整えるという大事な役目があるのだから。
だが、一度知ってしまったこの肌の温もりを感じられない距離にいかなければならないのは本当に苦しい。
今日は悠真が石垣空港まで一緒に行ってくれると言ってくれたから、身体を合わせるのは少し控えめにしておいた。
それでも少し無理をさせてしまった感は否めないが、悠真はそんな私を愛していると言いながら腕の中で眠ってくれた。
吸い付くような肌に触れられながら、生まれたままの姿で眠るのも初めての経験だったろうに随分と慣れてくれた。
今夜からは悠真なしで眠れるか心配だ。
私は起きなければいけないギリギリの時間まで、愛しい悠真を腕の中に閉じ込めて過ごした。
そろそろか……。
ベッドからでなければいけないタイムリミットが来た。
「悠真、起きてください」
私の声に微笑む悠真を見て、悠真がもうすでに起きているとわかった私は悠真の唇にちゅっとキスを贈った。
嬉しそうに目を開けた悠真に
「おはようございます、私の眠り姫」
と声をかけると、
「おはようございます、私の王子さま」
と甘い言葉が返ってきた。
ああ、何て可愛いんだろう。
やっぱりこのまま帰りたくない!
人生で初めてのわがままを言いそうになったが、流石に私も大人だ。
悠真に恥ずかしいところは見せられない。
後ろ髪を引かれつつ、
「着替えて朝食を食べましょうか」
と声をかけた。
昨夜あらかじめ選んでおいた悠真の着替えは私が石垣島で選んだあの服。
悠真がその服に着替えるのを堪能しながら、私も急いで適当な服を見繕った。
着替えを済ませ、キッチンへと向かうと
「伊織さん、今日は私が朝食を作りますね」
とエプロンをつけながらそう言ってくれた。
悠真の手料理!
それだけで胸が高鳴った。
「伊織さんはこっちで見ててください」
キッチンがよく見える席に座るように言われて、そこに腰を下ろすと悠真が嬉しそうに料理を始めた。
何を作ってくれるのだろう。
悠真が作ってくれるものならばなんでも美味しいだろうが、他ならぬ愛しい悠真が私のためだけに作ってくれる料理だ。
ああ、私は朝からこんなにも幸せでいいのだろうか。
それにしても悠真の手際がいい。
一人暮らしにしては調味料も揃っていたし、調理器具も使いやすいように工夫されていた。
本当に毎日自炊をしているのだろうな。
これは本当にすごいことだと思う。
20分もかかっていなかっただろう。
あっという間に朝食を作り終え、私の前へと並べてくれたその料理はなんとオムレツ。
「これ……」
「伊織さんのおじいさま直伝のオムレツと比べられるようなものではありませんが、伊織さんに私のオムレツも食べていただきたくて……私の一番の得意料理なんですよ。ふふっ」
オムレツが好きだとは言っていたが、私にオムレツを作ってくれるとは思わなかった。
ああ、自分以外の作ったオムレツを食べるのはいつ以来だろう……。
皐月さんや宗一郎さんにも私が作るだけで誰かに作ってもらったことはなかった。
もしかしたら祖父以来のオムレツかもしれないな……。
そう思うと、どんどん嬉しくなってきて
「悠真、いただいていいですか?」
我慢できずに私は悠真が頷くと同時にすぐにオムレツを掬い口に入れた。
ああ…………。
これだ……ずっと私が欲しかったのは。
寂しかった私の心を埋めるように一生懸命作り続けた祖父のオムレツ。
私が作ったオムレツを食べ喜んでくれた人の笑顔が私の心を埋めてくれたとばかり思っていた。
だが、違った。
私の心にはまだあの時に開いた穴が残っていたんだ。
それを悠真のオムレツが埋めてくれた。
「ああ、悠真。美味しいです」
「よかった……」
「あの、悠真にお願いがあるんです……」
「どうしたんですか? そんな真剣な顔をして」
「これからも一生悠真のオムレツを食べさせてください。私はこれからオムレツは悠真のだけを食べたいんです」
オムレツごときで必死に懇願するなんて笑われるかもしれない。
そう思いながらもお願いせずにはいられなかった。
それくらい私にとって悠真のオムレツは私の心そのものだったのだから。
「いいですよ。その代わり……私には伊織さんのオムレツだけ食べさせてくださいね」
悠真の出してきた可愛らしい交換条件に胸を打たれながら、私は
「はい。約束します!!」
と言い切った。
一緒に朝を迎えた日にはお互いにオムレツを作り合おう。
それが私たちの一生忘れない大事な約束となった。
キャリーケースを引き、もう片方の手で悠真と手を繋ごうとして、流石に人に見られるからだめかと躊躇ったのだが、悠真はなんの躊躇いもなく私と手を繋いだ。
しかも、恋人繋ぎと呼ばれる繋ぎ方で。
「悠真、いいんですか? 人に見られてしまいますが……」
「ふふっ。大丈夫ですよ。私たちがお付き合いをしていることはもうとっくに島中に知れ渡ってますから」
「えっ? そうなんですか?」
「この前、私を抱っこして家へと連れて行ってくれたでしょう? その時に平良のおばあちゃんたちに出会ったのを覚えてますか?」
「はい。お会いしましたね」
「あの人たちに見られたら、もう1時間後には島中に私に恋人ができたって噂が流れてるはずですから」
「1時間で? そんなに早く?」
「いえ、もしかしたらもっと早いかもしれません。伊織さんが格好いいからもうあっという間ですよ」
まるで私が格好いいと言われるのが嬉しいとでもいうような笑顔を見せてくれる。
だが、皆が皆祝福してくれるとは限らないのではないか?
なんと言っても男同士、偏見などはないのだろうか?
「私が悠真の恋人でも祝福してくださるんでしょうか?」
「ふふっ。もちろんですよ、皆さん私が誰にも興味を持たないのを心配してくださってたので、伊織さんみたいな素敵な方が恋人になってくれてホッとしていると思います」
離島は閉鎖的でマイノリティは受け入れてもらえないのではと勝手に思っていたが、悠真がこんなにも島民から愛されていて本当に助かったな。
これでここでは心置きなく外でも悠真と手が繋げるわけか。
ああ西表島、最高だな!
石垣で悠真に出会ってからの時間が濃密すぎて、半身をもがれるような思いだ。
とはいえ、いつまでもここに留まるわけにはいかないのはわかっているんだ。
これから先の将来を共に歩くと言ってくれた悠真のために基盤を整えるという大事な役目があるのだから。
だが、一度知ってしまったこの肌の温もりを感じられない距離にいかなければならないのは本当に苦しい。
今日は悠真が石垣空港まで一緒に行ってくれると言ってくれたから、身体を合わせるのは少し控えめにしておいた。
それでも少し無理をさせてしまった感は否めないが、悠真はそんな私を愛していると言いながら腕の中で眠ってくれた。
吸い付くような肌に触れられながら、生まれたままの姿で眠るのも初めての経験だったろうに随分と慣れてくれた。
今夜からは悠真なしで眠れるか心配だ。
私は起きなければいけないギリギリの時間まで、愛しい悠真を腕の中に閉じ込めて過ごした。
そろそろか……。
ベッドからでなければいけないタイムリミットが来た。
「悠真、起きてください」
私の声に微笑む悠真を見て、悠真がもうすでに起きているとわかった私は悠真の唇にちゅっとキスを贈った。
嬉しそうに目を開けた悠真に
「おはようございます、私の眠り姫」
と声をかけると、
「おはようございます、私の王子さま」
と甘い言葉が返ってきた。
ああ、何て可愛いんだろう。
やっぱりこのまま帰りたくない!
人生で初めてのわがままを言いそうになったが、流石に私も大人だ。
悠真に恥ずかしいところは見せられない。
後ろ髪を引かれつつ、
「着替えて朝食を食べましょうか」
と声をかけた。
昨夜あらかじめ選んでおいた悠真の着替えは私が石垣島で選んだあの服。
悠真がその服に着替えるのを堪能しながら、私も急いで適当な服を見繕った。
着替えを済ませ、キッチンへと向かうと
「伊織さん、今日は私が朝食を作りますね」
とエプロンをつけながらそう言ってくれた。
悠真の手料理!
それだけで胸が高鳴った。
「伊織さんはこっちで見ててください」
キッチンがよく見える席に座るように言われて、そこに腰を下ろすと悠真が嬉しそうに料理を始めた。
何を作ってくれるのだろう。
悠真が作ってくれるものならばなんでも美味しいだろうが、他ならぬ愛しい悠真が私のためだけに作ってくれる料理だ。
ああ、私は朝からこんなにも幸せでいいのだろうか。
それにしても悠真の手際がいい。
一人暮らしにしては調味料も揃っていたし、調理器具も使いやすいように工夫されていた。
本当に毎日自炊をしているのだろうな。
これは本当にすごいことだと思う。
20分もかかっていなかっただろう。
あっという間に朝食を作り終え、私の前へと並べてくれたその料理はなんとオムレツ。
「これ……」
「伊織さんのおじいさま直伝のオムレツと比べられるようなものではありませんが、伊織さんに私のオムレツも食べていただきたくて……私の一番の得意料理なんですよ。ふふっ」
オムレツが好きだとは言っていたが、私にオムレツを作ってくれるとは思わなかった。
ああ、自分以外の作ったオムレツを食べるのはいつ以来だろう……。
皐月さんや宗一郎さんにも私が作るだけで誰かに作ってもらったことはなかった。
もしかしたら祖父以来のオムレツかもしれないな……。
そう思うと、どんどん嬉しくなってきて
「悠真、いただいていいですか?」
我慢できずに私は悠真が頷くと同時にすぐにオムレツを掬い口に入れた。
ああ…………。
これだ……ずっと私が欲しかったのは。
寂しかった私の心を埋めるように一生懸命作り続けた祖父のオムレツ。
私が作ったオムレツを食べ喜んでくれた人の笑顔が私の心を埋めてくれたとばかり思っていた。
だが、違った。
私の心にはまだあの時に開いた穴が残っていたんだ。
それを悠真のオムレツが埋めてくれた。
「ああ、悠真。美味しいです」
「よかった……」
「あの、悠真にお願いがあるんです……」
「どうしたんですか? そんな真剣な顔をして」
「これからも一生悠真のオムレツを食べさせてください。私はこれからオムレツは悠真のだけを食べたいんです」
オムレツごときで必死に懇願するなんて笑われるかもしれない。
そう思いながらもお願いせずにはいられなかった。
それくらい私にとって悠真のオムレツは私の心そのものだったのだから。
「いいですよ。その代わり……私には伊織さんのオムレツだけ食べさせてくださいね」
悠真の出してきた可愛らしい交換条件に胸を打たれながら、私は
「はい。約束します!!」
と言い切った。
一緒に朝を迎えた日にはお互いにオムレツを作り合おう。
それが私たちの一生忘れない大事な約束となった。
キャリーケースを引き、もう片方の手で悠真と手を繋ごうとして、流石に人に見られるからだめかと躊躇ったのだが、悠真はなんの躊躇いもなく私と手を繋いだ。
しかも、恋人繋ぎと呼ばれる繋ぎ方で。
「悠真、いいんですか? 人に見られてしまいますが……」
「ふふっ。大丈夫ですよ。私たちがお付き合いをしていることはもうとっくに島中に知れ渡ってますから」
「えっ? そうなんですか?」
「この前、私を抱っこして家へと連れて行ってくれたでしょう? その時に平良のおばあちゃんたちに出会ったのを覚えてますか?」
「はい。お会いしましたね」
「あの人たちに見られたら、もう1時間後には島中に私に恋人ができたって噂が流れてるはずですから」
「1時間で? そんなに早く?」
「いえ、もしかしたらもっと早いかもしれません。伊織さんが格好いいからもうあっという間ですよ」
まるで私が格好いいと言われるのが嬉しいとでもいうような笑顔を見せてくれる。
だが、皆が皆祝福してくれるとは限らないのではないか?
なんと言っても男同士、偏見などはないのだろうか?
「私が悠真の恋人でも祝福してくださるんでしょうか?」
「ふふっ。もちろんですよ、皆さん私が誰にも興味を持たないのを心配してくださってたので、伊織さんみたいな素敵な方が恋人になってくれてホッとしていると思います」
離島は閉鎖的でマイノリティは受け入れてもらえないのではと勝手に思っていたが、悠真がこんなにも島民から愛されていて本当に助かったな。
これでここでは心置きなく外でも悠真と手が繋げるわけか。
ああ西表島、最高だな!
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