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番外編
クマが見つめたこの世界 <後編>
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飛行機に乗り込んだ真守くんの腕にはもちろん僕がいる。
飛行機の広い席に僕も一緒に座らせてくれた。
真守くんが明さんと楽しそうに食事をしているのを眺めたり、真守くんにギュッと抱っこされながら眠ったりしている間に外の景色はどんどん日本から離れていった。
イギリス、どんなところだろう。
不安だけど楽しみもある。
飛行機から降りて、真守くんは緊張しているのか僕を抱っこする腕がちょっと震えている。
大丈夫だよ、僕がずっと一緒だから怖くないよ。
そう言って安心させてあげたいけど、僕は喋れないからそばにいることしかできない。
うーん、本当にもどかしいな。
そう思っていると、
『アキラっ! おかえりーっ! 会いたかったぁーっ!!!』
という声と共に、突然明さんに抱きついてきた人がいた。
白っぽい金色の髪をした小柄な男の子。
真守くんとタイプは違うけどとっても可愛い子だ。
あれ?
明さんは抱きつかれて困っているかと思ったけどすごく嬉しそうだ。
そうか、きっとこの子のことが好きなんだな。
だって真守くんをみる時の穏やかな目とは違う、とっても優しい目をしているんだもん。
みんなで車に乗り込むと明さんは彼・アロンくんを自分の恋人だと話した。
ふふっ。やっぱりそうだった。
うん、お似合いだもんね。
明さんのお家は真守くんが住んでいたお家よりも庭も広くて大きく見えた。
でも、僕は真守くんと一緒ならどこでも幸せなんだ。
お家の中から、ジョージさんっていう執事さんが出てきて真守くんに挨拶をする。
そして、僕のことを優しい目で見つめながら僕の名前を聞いてくれたんだ。
でも真守くんは
『えっ、あ、まだ決まっていなくて……』
とちょっと困ったように答えたけど、僕は覚えている。
僕を見つけてくれたお父さんが僕をクマと呼んでいた。
――お家に帰ったらこの子の名前を一緒に考えよう。
そんな話をしていたことを……。
だから、真守くんは僕をずっとクマと呼ぶんだ。
お父さんが最後に呼んでくれた名前だから。
ジョージさんは真守くんの表情で気づいてくれたのか、それ以上名前には触れなかった。
本当に優しい人だ。
部屋に案内され、真守くんは僕をソファーの一番端に座らせてくれた。
「ねぇ、クマ。僕……いっぺんにいろんなことが起きて、まだ心がついていけないんだ。父さんと母さんがいなくなったことも、自分がイギリスにいることも……。僕、ここでやっていけるかな?」
明さんとアロンくんの前では笑顔いっぱいでこれからの生活が楽しみって笑っていたけど、やっはり不安だったんだよね。
だって、僕を抱っこしてくれている手がちょっと震えていたもん。
あの事故からまだ一週間も経ってないんだから当然だよ。
――大丈夫。僕がついているから。不安も何もかも全て受け止めるから、なんでも吐き出して……
真守くんを見ながら、そう訴えると
「ふふっ。なんだか元気もらえた気がする。言葉にすると気持ちが楽になるのかな」
と言いながら、僕を抱きしめてそのままソファーに横たわった。
「クマ……いつでも僕のこと見守っててね。父さんと母さんと一緒に……」
そうポツリと呟いて、真守くんは一筋の涙を流した。
イギリスに行くことを決めてから真守くんの涙を見たのは初めてだな。
これからはなんでも吐き出していいんだよ。
それからは真守くんは僕になんでも吐き出してくれるようになった。
――ねぇ、聞いて。クマ。今日、明さんのお仕事手伝ったら褒められたんだよ。
――ねぇ、聞いて。クマ。今日ね、アロンくんと一緒にお菓子を作ったんだ。
――ねぇ、聞いて。クマ。明日、湖に遊びに行くんだって。クマも一緒に行こうね。
毎日毎日報告をしてくれるのが楽しくて、僕は真守くんが部屋に戻ってくるのが楽しみでたまらなかった。
そんなある日、
「ねぇ、聞いて! クマ!」
といつもより興奮した様子で部屋に飛び込んできた真守くんは、
「あのね、グランヴィエ家のセオドアさまからパーティーの招待状が届いたんだ!!」
と教えてくれた。
「パーティーに来ていくタキシードも一緒に贈られて……ねぇ、どうしよう。ドキドキする!」
僕をギュッと抱っこしたり、ソファーに座らせたりしながら、タキシードを何度も見つめたりしてなんとも落ち着きがない。
ああ、真守くん。きっとこのセオドアさまが好きなんだ。
そう直感した。
だって、明さんがアロンくんを見ていた時と同じ目をしているんだもん。
それからパーティー当日まで、真守くんは毎日何度も何度もタキシードに触れては幸せそうな顔をしていた。
「はぁー、どうしてこんなことになっちゃったんだろう……」
あんなに楽しみしていたパーティーなのに、真守くんは帰ってきてからなんだかため息ばかり。
どうしたんだろうと思っていると、いつものように報告してくれた。
「ねぇ、聞いて。クマ……」
いつもより言葉に力がないのは、落ち込んでいるからかな。
「僕、なぜかわからないうちに、セオドアさまとラミロさまとデートすることになったんだ」
セオドアさまとデートは嬉しいはずだよね?
だって、真守くん……セオドアさまが好きなんだもの。
ラミロさまっていう人とのデートが不安なのかな?
「セオドアさまはタキシードも贈ってくださったしお礼もしたかったけど、ラミロさまは王子さまなんだって。僕みたいな庶民と王子さまがどんなデートしたらいいの?」
そっか。
ラミロさまは王子さまなんだ。
きっと可愛い真守くんが好きになっちゃったのかな。
当然だよね。
僕の真守くんは誰よりも可愛いもの。
って、そんなことを言ったら明さんに怒られちゃうかな。
大丈夫。
心配はいらないよ。
自分の心に忠実になればいいんだ。
ぎゅって抱きしめてくれる真守くんに訴えかけると、
「ああ、クマも一緒に連れていけたら緊張しないかもしれないんだけどな……」
と不安そうな言葉を口にしながらも最後には
「頑張ってくるから、応援しててね」
と笑顔を見せてくれた。
大丈夫。
僕もお父さんもお母さんもついてるからね。
無事にデートが終わりますように。
そして、笑顔で真守くんが帰ってきますように……。
そう願いながら真守くんが帰ってくるのを待っていると、
「ねぇ、聞いて! クマ!」
と今までにないくらいの勢いで部屋に飛び込んできた。
「僕ね、これからセオドアさまのお家で暮らすことになったの!」
えっ?
どうして?
いつの間にそんなこと?
頭の中にハテナがいっぱい浮かんでいるけれど、でも真守くんがとっても嬉しそうだからいいのかな。
僕は連れて行ってくれるかな……。
ちょっと心配しちゃったのも束の間、
「クマも一緒に行こうね。僕とずっと一緒だからね」
と言って、僕を抱っこしてくれたんだ。
荷物を持って、片手に僕を抱っこしてくれてどこかの部屋に向かう。
真守くんが声をかけると、
『ああ、マモルっ! 無理をしなくても私が荷物を取りに行ったのだぞ』
と甘く優しい言葉をかけながらこっちに駆けてくる人がいる。
うわっ! すっごくかっこいい。
お父さんも明さんもジョージさんもみんなかっこよかったけど、この人はその誰よりもかっこいい。
もしかして、この人がセオドアさま?
真守くんを好きだって気持ちがいっぱいいっぱい溢れてる。
僕もこの人がいるお家に一緒に行けるんだ。
真守くんが幸せな姿を見守れるんだな。
よかった。
『僕の宝物なんです。父からの最後の贈り物で……このクマさんが僕の命を救ってくれた恩人、ふふっ、恩クマかな、なんですよ』
僕のことを聞かれて、真守くんはセオドアさまにそう説明してくれた。
セオドアさまはぬいぐるみの僕を馬鹿にすることもなく、それどころか、
『実は私の家にも大きなクマのぬいぐるみがあるのだ。その隣に一緒に座らせよう』
と言ってくれた。
えっ? セオドアさまのお家にもクマがいるの?
どんなクマだろう。
僕と仲良くしてくれるかな。
ドキドキしながら、真守くんと一緒にセオドアさまのお家に行った。
お城みたいな大きなお家に驚いている真守くんと同じくらい僕も驚いた。
真守くんの部屋に案内されて、僕はリビングのソファーに置かれた。
ねぇ、早くセオドアさまのお家にいるクマさんに会いたいな。
早く連れて行って!
そう訴えたけれど、セオドアさまはずっと真守くんにつきっきりで僕をソファーから動かしてくれない。
うーん、ここのクマさんに紹介してくれるのはまだ先なのかな?
明日には連れて行ってくれるかな?
そう思って待っていたけれど、真守くんはセオドアさまに奥の部屋に連れて行かれたままちっとも出てきてくれない。
それどころか、セオドアさまだけが部屋の外に出てきて
『私が無理をさせすぎて……熱を出しているんだ。だから、すぐにメイソンを……』
と青ざめた表情でここの執事さんのローマンさんに話しかけている。
えっ? 真守くんが熱を?
そんなこと僕と出会ってから一回もなかったのに!
あの部屋でセオドアさまは真守くんに何を無理させたんだろう。
セオドアさまに文句を言ってやりたいくらいだったけれど、ローマンさんとメイソンさんっていうお医者さんからセオドアさまは怒られていたみたいだったから、仕方ない。許してやろうかな。
それから数日経って、ようやく僕をここのクマさんのところに連れて行ってもらえることになった。
『これが私のクマだよ』
セオドアさまが紹介してくれた瞬間、僕はズキューンと心を打ち抜かれたような気がした。
ど、どうしよう。
カッコ良すぎて目が離せない。
どうしよう、どうしよう。
僕が混乱しているのに、セオドアさまは僕を真守くんから受け取り、彼の隣に並べてしまった。
きゃーっ!!
ダメダメ!
まだ心の準備ができてない!
それなのにセオドアさまは、彼を後ろから包み込むように僕に抱きつかせる。
そ、そんなーっ!!
は、恥ずかしくて壊れてしまいそう。
でも、彼の温もりがすごく嬉しい。
僕たちの目の前で真守くんとセオドアさまもギュッと抱きしめあっているのが見える。
あっ、僕たちと同じだ。
そう思った瞬間、心に訴えかけてくる声が聞こえる。
なんだろう?
ドキドキしながら聞いてみると、
『I fell in love with you at first sight』
って僕を抱きしめてくれている彼が言っている。
僕に一目惚れ?
本当?
僕もあなたに一目惚れしたかも……
そう訴えると、彼は嬉しそうに僕をギュッと抱きしめてくれた。
真守くんのおかげで僕も大好きな相手が見つかったみたい。
これからはここで幸せになるね。
そう思いながら、セオドアさまと一緒に部屋を出ていく幸せそうな真守くんの姿を見送ったんだ。
* * *
お遊びの思いつきで書いたのに長くなりすぎて慌てて終わらせました(汗)
次回の番外編は日本編を書けるかな。
どうぞお楽しみに♡
飛行機の広い席に僕も一緒に座らせてくれた。
真守くんが明さんと楽しそうに食事をしているのを眺めたり、真守くんにギュッと抱っこされながら眠ったりしている間に外の景色はどんどん日本から離れていった。
イギリス、どんなところだろう。
不安だけど楽しみもある。
飛行機から降りて、真守くんは緊張しているのか僕を抱っこする腕がちょっと震えている。
大丈夫だよ、僕がずっと一緒だから怖くないよ。
そう言って安心させてあげたいけど、僕は喋れないからそばにいることしかできない。
うーん、本当にもどかしいな。
そう思っていると、
『アキラっ! おかえりーっ! 会いたかったぁーっ!!!』
という声と共に、突然明さんに抱きついてきた人がいた。
白っぽい金色の髪をした小柄な男の子。
真守くんとタイプは違うけどとっても可愛い子だ。
あれ?
明さんは抱きつかれて困っているかと思ったけどすごく嬉しそうだ。
そうか、きっとこの子のことが好きなんだな。
だって真守くんをみる時の穏やかな目とは違う、とっても優しい目をしているんだもん。
みんなで車に乗り込むと明さんは彼・アロンくんを自分の恋人だと話した。
ふふっ。やっぱりそうだった。
うん、お似合いだもんね。
明さんのお家は真守くんが住んでいたお家よりも庭も広くて大きく見えた。
でも、僕は真守くんと一緒ならどこでも幸せなんだ。
お家の中から、ジョージさんっていう執事さんが出てきて真守くんに挨拶をする。
そして、僕のことを優しい目で見つめながら僕の名前を聞いてくれたんだ。
でも真守くんは
『えっ、あ、まだ決まっていなくて……』
とちょっと困ったように答えたけど、僕は覚えている。
僕を見つけてくれたお父さんが僕をクマと呼んでいた。
――お家に帰ったらこの子の名前を一緒に考えよう。
そんな話をしていたことを……。
だから、真守くんは僕をずっとクマと呼ぶんだ。
お父さんが最後に呼んでくれた名前だから。
ジョージさんは真守くんの表情で気づいてくれたのか、それ以上名前には触れなかった。
本当に優しい人だ。
部屋に案内され、真守くんは僕をソファーの一番端に座らせてくれた。
「ねぇ、クマ。僕……いっぺんにいろんなことが起きて、まだ心がついていけないんだ。父さんと母さんがいなくなったことも、自分がイギリスにいることも……。僕、ここでやっていけるかな?」
明さんとアロンくんの前では笑顔いっぱいでこれからの生活が楽しみって笑っていたけど、やっはり不安だったんだよね。
だって、僕を抱っこしてくれている手がちょっと震えていたもん。
あの事故からまだ一週間も経ってないんだから当然だよ。
――大丈夫。僕がついているから。不安も何もかも全て受け止めるから、なんでも吐き出して……
真守くんを見ながら、そう訴えると
「ふふっ。なんだか元気もらえた気がする。言葉にすると気持ちが楽になるのかな」
と言いながら、僕を抱きしめてそのままソファーに横たわった。
「クマ……いつでも僕のこと見守っててね。父さんと母さんと一緒に……」
そうポツリと呟いて、真守くんは一筋の涙を流した。
イギリスに行くことを決めてから真守くんの涙を見たのは初めてだな。
これからはなんでも吐き出していいんだよ。
それからは真守くんは僕になんでも吐き出してくれるようになった。
――ねぇ、聞いて。クマ。今日、明さんのお仕事手伝ったら褒められたんだよ。
――ねぇ、聞いて。クマ。今日ね、アロンくんと一緒にお菓子を作ったんだ。
――ねぇ、聞いて。クマ。明日、湖に遊びに行くんだって。クマも一緒に行こうね。
毎日毎日報告をしてくれるのが楽しくて、僕は真守くんが部屋に戻ってくるのが楽しみでたまらなかった。
そんなある日、
「ねぇ、聞いて! クマ!」
といつもより興奮した様子で部屋に飛び込んできた真守くんは、
「あのね、グランヴィエ家のセオドアさまからパーティーの招待状が届いたんだ!!」
と教えてくれた。
「パーティーに来ていくタキシードも一緒に贈られて……ねぇ、どうしよう。ドキドキする!」
僕をギュッと抱っこしたり、ソファーに座らせたりしながら、タキシードを何度も見つめたりしてなんとも落ち着きがない。
ああ、真守くん。きっとこのセオドアさまが好きなんだ。
そう直感した。
だって、明さんがアロンくんを見ていた時と同じ目をしているんだもん。
それからパーティー当日まで、真守くんは毎日何度も何度もタキシードに触れては幸せそうな顔をしていた。
「はぁー、どうしてこんなことになっちゃったんだろう……」
あんなに楽しみしていたパーティーなのに、真守くんは帰ってきてからなんだかため息ばかり。
どうしたんだろうと思っていると、いつものように報告してくれた。
「ねぇ、聞いて。クマ……」
いつもより言葉に力がないのは、落ち込んでいるからかな。
「僕、なぜかわからないうちに、セオドアさまとラミロさまとデートすることになったんだ」
セオドアさまとデートは嬉しいはずだよね?
だって、真守くん……セオドアさまが好きなんだもの。
ラミロさまっていう人とのデートが不安なのかな?
「セオドアさまはタキシードも贈ってくださったしお礼もしたかったけど、ラミロさまは王子さまなんだって。僕みたいな庶民と王子さまがどんなデートしたらいいの?」
そっか。
ラミロさまは王子さまなんだ。
きっと可愛い真守くんが好きになっちゃったのかな。
当然だよね。
僕の真守くんは誰よりも可愛いもの。
って、そんなことを言ったら明さんに怒られちゃうかな。
大丈夫。
心配はいらないよ。
自分の心に忠実になればいいんだ。
ぎゅって抱きしめてくれる真守くんに訴えかけると、
「ああ、クマも一緒に連れていけたら緊張しないかもしれないんだけどな……」
と不安そうな言葉を口にしながらも最後には
「頑張ってくるから、応援しててね」
と笑顔を見せてくれた。
大丈夫。
僕もお父さんもお母さんもついてるからね。
無事にデートが終わりますように。
そして、笑顔で真守くんが帰ってきますように……。
そう願いながら真守くんが帰ってくるのを待っていると、
「ねぇ、聞いて! クマ!」
と今までにないくらいの勢いで部屋に飛び込んできた。
「僕ね、これからセオドアさまのお家で暮らすことになったの!」
えっ?
どうして?
いつの間にそんなこと?
頭の中にハテナがいっぱい浮かんでいるけれど、でも真守くんがとっても嬉しそうだからいいのかな。
僕は連れて行ってくれるかな……。
ちょっと心配しちゃったのも束の間、
「クマも一緒に行こうね。僕とずっと一緒だからね」
と言って、僕を抱っこしてくれたんだ。
荷物を持って、片手に僕を抱っこしてくれてどこかの部屋に向かう。
真守くんが声をかけると、
『ああ、マモルっ! 無理をしなくても私が荷物を取りに行ったのだぞ』
と甘く優しい言葉をかけながらこっちに駆けてくる人がいる。
うわっ! すっごくかっこいい。
お父さんも明さんもジョージさんもみんなかっこよかったけど、この人はその誰よりもかっこいい。
もしかして、この人がセオドアさま?
真守くんを好きだって気持ちがいっぱいいっぱい溢れてる。
僕もこの人がいるお家に一緒に行けるんだ。
真守くんが幸せな姿を見守れるんだな。
よかった。
『僕の宝物なんです。父からの最後の贈り物で……このクマさんが僕の命を救ってくれた恩人、ふふっ、恩クマかな、なんですよ』
僕のことを聞かれて、真守くんはセオドアさまにそう説明してくれた。
セオドアさまはぬいぐるみの僕を馬鹿にすることもなく、それどころか、
『実は私の家にも大きなクマのぬいぐるみがあるのだ。その隣に一緒に座らせよう』
と言ってくれた。
えっ? セオドアさまのお家にもクマがいるの?
どんなクマだろう。
僕と仲良くしてくれるかな。
ドキドキしながら、真守くんと一緒にセオドアさまのお家に行った。
お城みたいな大きなお家に驚いている真守くんと同じくらい僕も驚いた。
真守くんの部屋に案内されて、僕はリビングのソファーに置かれた。
ねぇ、早くセオドアさまのお家にいるクマさんに会いたいな。
早く連れて行って!
そう訴えたけれど、セオドアさまはずっと真守くんにつきっきりで僕をソファーから動かしてくれない。
うーん、ここのクマさんに紹介してくれるのはまだ先なのかな?
明日には連れて行ってくれるかな?
そう思って待っていたけれど、真守くんはセオドアさまに奥の部屋に連れて行かれたままちっとも出てきてくれない。
それどころか、セオドアさまだけが部屋の外に出てきて
『私が無理をさせすぎて……熱を出しているんだ。だから、すぐにメイソンを……』
と青ざめた表情でここの執事さんのローマンさんに話しかけている。
えっ? 真守くんが熱を?
そんなこと僕と出会ってから一回もなかったのに!
あの部屋でセオドアさまは真守くんに何を無理させたんだろう。
セオドアさまに文句を言ってやりたいくらいだったけれど、ローマンさんとメイソンさんっていうお医者さんからセオドアさまは怒られていたみたいだったから、仕方ない。許してやろうかな。
それから数日経って、ようやく僕をここのクマさんのところに連れて行ってもらえることになった。
『これが私のクマだよ』
セオドアさまが紹介してくれた瞬間、僕はズキューンと心を打ち抜かれたような気がした。
ど、どうしよう。
カッコ良すぎて目が離せない。
どうしよう、どうしよう。
僕が混乱しているのに、セオドアさまは僕を真守くんから受け取り、彼の隣に並べてしまった。
きゃーっ!!
ダメダメ!
まだ心の準備ができてない!
それなのにセオドアさまは、彼を後ろから包み込むように僕に抱きつかせる。
そ、そんなーっ!!
は、恥ずかしくて壊れてしまいそう。
でも、彼の温もりがすごく嬉しい。
僕たちの目の前で真守くんとセオドアさまもギュッと抱きしめあっているのが見える。
あっ、僕たちと同じだ。
そう思った瞬間、心に訴えかけてくる声が聞こえる。
なんだろう?
ドキドキしながら聞いてみると、
『I fell in love with you at first sight』
って僕を抱きしめてくれている彼が言っている。
僕に一目惚れ?
本当?
僕もあなたに一目惚れしたかも……
そう訴えると、彼は嬉しそうに僕をギュッと抱きしめてくれた。
真守くんのおかげで僕も大好きな相手が見つかったみたい。
これからはここで幸せになるね。
そう思いながら、セオドアさまと一緒に部屋を出ていく幸せそうな真守くんの姿を見送ったんだ。
* * *
お遊びの思いつきで書いたのに長くなりすぎて慌てて終わらせました(汗)
次回の番外編は日本編を書けるかな。
どうぞお楽しみに♡
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