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セオドアのために

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<side真守>

『わぁ! これ、素敵ですね!』

『ああ、これはジョージ一世より賜った聖剣だよ。我がグランヴィエ家の家宝だ』

『すごいなぁ、こんな歴史的なお宝をこんなにも間近で見られる日が来るなんて……』

『ふふっ。気に入ってくれて嬉しいよ』

セオドアがお屋敷の中を案内してくださって、今僕はギャラリーにいる。
入るのを躊躇ってしまいそうな豪華絢爛な装飾が施された部屋には、すばらしい美術品の数々が並べられていた。

絵画や宝石だけでなく、グランヴィエ家の方々が時の王に賜った剣や勲章も綺麗に飾られている。
これだけでこの一族がどれほどイギリスに貢献してきたかがわかるというものだ。

『グランヴィエ家なくしては、今のイギリスを語ることはできないようですね。すごいな』

『ああ。そうだな。我が祖先が守り受け継いでいたことを後世にも伝えていくことが私の大きな使命だと思っている』

『それは本当に素晴らしいことです。でもセオドアならできますよ』

『ああ、そのためにはマモルの力も必要だよ』

『えっ、僕も、ですか?』

『もちろん! 私の原動力はマモルなのだよ。マモルがずっとそばにいてくれたら、私は今まで以上に頑張れるだろうな。マモルは責任重大だぞ。この一族の存続にも関わるのだからな』

こう仰ってくれるけれど、正直僕がどれだけセオドアの手助けになれるかはわからない。
でも、そばにいてくれるだけでと言って下さるのなら、僕はセオドアのおそばでずっと尽くすだけだ。
男の僕でも好きだと言ってくれるセオドアのためなら僕は頑張って見せる。

『セオドア……僕、一生おそばにいます』

『マモル……ありがとう。嬉しいよ』

セオドアが嬉しそうに僕を抱きしめてくれる。
グランヴィエ家の今までの歴史が集まったこのギャラリーで思いを伝えると、一族の皆さんに見つめられているような気がして少し緊張してしまう自分がいる。
先祖の皆さん……どうか僕たちを見守ってください。
セオドアが不幸にならないように、僕は精一杯頑張ります。

心の中でそう誓いながら、しばらく抱き合っていた。


『わぁ、ここは書庫ですね』

『ああ、我がグランヴィエ家の書庫は大英図書館ほどの数はないが、貴重なものがたくさん置かれているのだよ。ある意味大英図書館よりも希少価値は高いと言われているんだ。一般開放はしていないから、読むことができるのは我が一族か王家に限られるがな』

『そんなすごい本があるんですね……』

『マモルは好きに使ってくれて構わないよ。日本のものも置かれているからきっと楽しめるだろう』

『はい。すごく楽しみです』

こんな素晴らしい本たちに囲まれて過ごす日常が訪れるなんて……信じられないくらい幸せだな。


『そろそろ食事にしよう。お腹も空いているだろう』

『まだ大丈――きゅるる――』

せっかくセオドアが案内してくださっていたのに、こんな時にどうしてお腹が鳴るんだろう。
確かにお腹は空いていたけど、もう少し空気を読んでくれたらいいのに。

慌ててお腹を押さえながら、聞こえていないかとセオドアを見上げると優しい笑顔が見えた。

『ふふっ。可愛い音が聞こえたな』

『――っ、恥ずかしいですっ』

お腹の音が聞かれてしまったことが恥ずかしかったけれど、

『恥ずかしがることはない。私はマモルの全てを愛おしいと思っているのだから』

と笑顔で言われたら恥ずかしさも消えていった気がした。


『マモルは何か食べたいものはあるか?』

『なんでもいいんですか?』

『ああ、もちろん。我が家のシェフは優秀だから、マモルの望むものを作ることができるよ』

そう自信満々に話すセオドアを少し可愛いなと思いつつ、僕はお願いすることにした。

『あの、じゃあ僕……セオドアの好きなものが食べたいです』

『えっ? 私の、好きなもの?』

『はい。セオドアがどんな料理をお好みなのか知りたいんです』

料理好きだった母さんによく言われていた。

――好きな人の好みを知ったら、それを作ってあげたくなるの。だから真守も好きな人のためにいつでも作れるように練習しておきましょう。

って。
母さんは父さんが美味しいという度にすごく嬉しそうだった。
そんな二人を見て、いつか僕も大切な人に作ってあげたいと思えるようになったんだ。

母さんに習っておいてよかったな。
ここのシェフさんたちには負けるだろうけど、いつか心を込めて作ったものをセオドアのために作ってみたいと思えるから。

『マモル……ああっ、マモルはどうしてそんなに可愛いことばかり言ってくれるのだろうな』

『えっ? セオドア?』

『マモルがそんなにも私を愛してくれているのだと伝わって嬉しいんだ。いつか、私に手料理をご馳走してくれるつもりなのだろう?』

『ふふっ。わかりました?』

『ああ、もうわかりすぎて嬉しいよ』

セオドアがこんなにも喜んでくれるなんて……。
僕にもセオドアのためにできることがあるんだな。
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