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二人の呑み会

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「彼は松川さんといって、石垣のイリゼホテルの支配人をしているんだよ」

松川くんにピッタリと寄り添って得意げな顔で紹介する名嘉村くんはなんとも可愛らしい。
なんせ名嘉村くんにとっては自慢の恋人だからな。
こうして紹介するのが楽しくてたまらないのだろう。
そんな名嘉村くんをみる松川くんも嬉しそうだ。

誰が見てもただの友人には見えない距離感だが、平松くんだけはまだ二人の関係がなんなのかわからないようで、

「あの、でもそんなすごい人がどうしてここに……?」

と不思議そうな表情をしている。
これで松川くんも平松くんがどれだけ鈍感か気づいただろう。

「なんだ、郁未いくみ。まだ話をしていなかったのか?」

松川くんはわざと名嘉村くんを名前で呼んでみせて二人の関係をわからせようとしたみたいだが、当の平松くんは

「もしかして兄弟、とか……あっ、でも苗字が違いますよね……」

とまだ理解ができない様子。

そんな平松くんに名嘉村くんは笑顔で

「松川さんは、僕の大事な人です」

と言ったけれど、それでもまだ理解が追いついていない平松くんに、今度ははっきりと恋人だと告げた。

「ええーーっ!! 恋人……?」

本当にわかっていなかったのだろう。
向こう三軒両隣に聞こえるほどの驚きっぷりに思わず笑みが溢れる。

名嘉村くんは

「驚かせてごめんね」

と言っていたがその表情が楽しそうで微笑ましくなる。

「平松くん、だったかな。郁未と仲良くしてくれているそうだね」

「そ、そんな……っ。仲良くしていただいているのはこちらの方です。名嘉村さんがいつも隣にいて、優しく声をかけてくれるので安心して仕事ができます。本当に優しいので仲良くしてくださってありがたいです」

「そうか、それならよかった。なぁ、郁未」

「そうですね。平松くんの気持ちが聞けて嬉しいよ」

松川くんは名嘉村くんを褒められて嬉しそうだ。
それに名嘉村くん自身も可愛い後輩からの忖度のない言葉に心から嬉しそうな表情をみせている。

やはり平松くんのいるところには笑顔が絶えないな。

そんな話をしていると部屋の中から少し焦げたような匂いが漂ってきたことに気づいた。
同じくその匂いに気づいた松川くんが声をかけると名嘉村くんは慌てたように中に戻って行った。

そうか、今日はパエリアか。
今度私も作ってみようか。
なんて、名嘉村くんについつい対抗してしまいそうになる。

自分の大人げなさに少し恥ずかしくなりながら、安慶名さんからの差し入れを渡し、店に戻ることにした。

もちろん、食事会の終わり頃に迎えにくることを約束して……。

店へ戻る道すがら、

「平松くんの印象はどうだった?」

と尋ねてみた。

「ふふっ。可愛いですね。みました? 八尋さんが渡したデザートを嬉しそうに抱きしめてましたよ」

「ああ、あれを無自覚にする子なんだよ。心から喜んでくれる。本当に可愛い子なんだ」

「八尋さん、もうメロメロじゃないですか。八尋さんが一方的に好きなら見守ろうと思ってましたが、平松くんも八尋さんのことかなり好きだって誰がみてもわかりますよ。もうそろそろ一気に押したらどうですか?」

「ようやく見つけた運命の相手だからね。完全に自覚して、平松くんの方から言ってくれるまでもう少し頑張ってみるよ」

「本当にガツガツしてないんですね。尊敬します」

「ははっ。逃げられるのが怖いだけさ」

早く松川くんや安慶名さんみたいに、心も身体も繋がれたら……と思うが、この気持ちを育てるのも悪くないと思う自分がいる。
それくらい平松くんを大切にしたいんだ。

「仲間さん、すみません。遅くなりました」

「いやいや、のんびり呑ませてもらってたよ。じゃあ、そろそろ我々は帰ろうか。八尋さんも今日はのんびりと松川さんと呑んだらいい」

「はい。じゃあお言葉に甘えて……」

そんな気遣いをしてくれる仲間さんたちに、

「今日のお代はいいですよ。私の奢りです」

と言ったけれど、

「何言ってるんだ、八尋さん。そんなことされちゃ、呑みに来れなくなるよ。ほら、とっときなって」

そう言ってポンと一万円をテーブルに置くと、

「じゃあまた」

と帰っていった。

本当にあの人たちは……。
いいお客さんに恵まれて私は幸せだな。

「じゃあ、松川くん。呑もうか」

暖簾を中に入れて、二人の飲み会の始まりだ。

「あそこの棚から好きな泡盛を出してくれていいよ」

そう声をかけ、松川くんが選んでいる間に。料理を何品かさらに盛り付けてテーブルに並べた。

「名嘉村くんのパエリアには負けるだろうが、食べてくれ」

「なんだか初めてみる料理もありますね」

「ああ、毎日平松くんに食べさせてるから試作がてらいろいろ作ってみたんだ。味見して感想を聞かせてくれ」

「なるほど。それならしっかり味見させていただきますよ」

「ふふっ。お手柔らかに頼むよ」

そんな軽口を言い合いながら、私たちの楽しい時間は始まった。
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