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番外編
宏樹の後悔 <前編>
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<side宏樹>
「あーあ。やっぱ、あいつを手放したのは惜しかったかなー」
ベッドに力無く横たわりながら、少し前に振ったやつのことを思い出していた。
同じ年の男だが、綺麗な顔立ちをしていて隣を歩かせても恥ずかしくないどころか、俺の男としての格を上げてくれるようなそんな奴だった。
とはいえ、元々バイとは言っても男が多少イケるだけで基本は女の方が好みだった俺は、常務の娘に惚れられたのをきっかけにあいつを振った。
あいつとは2年前、ゲイが集まるBARにたまたま立ち寄った時に出会った。
仕事もできてイケメンで何一つ不自由ない生活を送れそうな奴がゲイで、しかもそれを隠したまま今まで一人も付き合ったことがない。
こんなエリートが俺よりも下なんだ、そう思うだけで俺の自尊心がくすぐられた。
恋愛にも慣れていない奴は、俺が言葉巧みに褒めて愛の言葉を囁けばすぐに落ちてきた。
デートに誘い、最初こそ金を払ってやれば、次からは奴が払ってくれるようになった。
どこに行くにも金もいらない。
欲しいものがあるから探しに行きたいと誘えば結局買ってくれるし、たまにキスやハグをしてやれば満足そうに俺についてきた。
従順なペットのようなあいつを俺は気に入っていたんだ。
まぁ、いくら綺麗なやつとはいえ、男とキスやハグより先に進む気はなかったが流石にそれなしでこれ以上引きつけることもできなくて、たまに擦りあって出させるくらいはやってやってた。
そして愛の言葉さえ言ってやればあいつはなんでもしてくれる。
数ヶ月連絡を取らなくても呼んだらすぐにやってくるし、本当に都合のいい男ってあいつみたいなことを言うんだろう。
そんな生活を続けて2年。
あるきっかけで常務の娘と知り合うチャンスがあって、とんとん拍子に進んだ。
――ゆくゆくは君を娘の婿にしたいと考えているが、他に女性の影はないだろうな? いや、君はモテそうだから念の為にな。
そう言われて、すぐにあいつを切り捨てた。
他の女性ではないが、知られて余計な騒ぎになるのは避けたい。
あいつは俺からの別れ話に信じられないと言った表情を見せたが、さすがエリートだけあって俺の言葉ですぐに結婚話が出ていることに気づき、あっけなく納得してくれた。
俺としては縋り付いてくることを多少期待していたが、その点だけが期待外れだったな。
縋り付いてきさえすれば、この後もこっそりとそばに置いていてやろうと思ったがまぁいい。
けれど、これでもう終わりか……と思った時、やつの身体に未練があった。
他の男を抱く気にはさらさらなかったが、こいつならアナルにぶちこんでやっても気持ちよさそうな身体はしている。
綺麗な顔をしたエリートを喘がせるのもいい思い出になりそうだ。
そう思って、こっちから最後の思い出に誘ってやったのに、バカにするなと俺を思いっきり押しのけやがった。
今まで可愛がってきてやったのに。
飼い犬に手を噛まれるとはまさにこういうことだな。
あれから半年。
常務の娘との結婚話は順調に進み、最近は会うたびに結婚式場での打ち合わせやら、招待客のリスト制作やらで面倒な日々が続いている。
しかも、お色直しを五回もしたいだの、結婚式までに高額なエステに通いたいだの、挙げ句の果てには新婚旅行は豪華客船で1ヶ月海外を回りたいだの、金がかかることばかりねだってきやがる。
だが、常務から結婚祝いにと港区の高層マンションを買ってもらっているだけに、邪険に扱うこともできないし本当に面倒臭い。
「あいつは本当に金払いが良いのに、面倒なことも言ってこないし楽だったよな」
ふとあいつのことを思い出して、スマホを眺める。
俺と別れてまだ半年なら、まだ次のやつなんてできてないだろう。
なんてったって俺が付き合ってやるまで一度も恋愛なんてしていないやつだ。
すぐ次なんてできるわけがない。
今頃俺のことを思い出してよりを戻したがっているのかもしれないな。
そう思って電話をかけてみたが、ワンコールの後に
<おかけになった電話番号への通話は、おつなぎできません>
というアナウンスが流れる。
「はぁ? なんだ、これ」
何度も掛け直してみたけれどやっぱり同じでようやく俺は、あいつに着信拒否されていることに気づいた。
ふざけた真似しやがって!
くそっ、面白くない!!
でも考えてみればもしかしたら振られてすぐに勢いのままに着信拒否をしたまま忘れてしまっているのかもしれない。
それで俺からの着信がないと嘆いているのかも。
あいつにはそんな天然なところがある。
それなら俺があいつのところに直接出向いてやろう。
あいつの仕事先は何か迷惑がかかってはいけないからと頑なに教えるのを拒みやがったから、どこに勤めているかは知らないが、家の場所だけはわかっている。
自宅も頑なに教えようとしなかったのがうざくて、こっそり後をつけて住所を調べたことがある。
そこにいけばいい。
善は急げだ!
俺はすぐに家を出て、あいつの住んでいた家に向かった。
しかも何度チャイムを鳴らしても出てこない。
腹が立って何度も何度も鳴らしてやったが反応もなく、
「くそっ! 居留守使ってやがるな!!」
玄関で騒いでいると、管理人という奴がやってきて声をかけられた。
「何をしていらっしゃるのですか?」
「お前、ここの管理人か?」
「はい。そうですが」
「なら、ちょうどいい。ここに住んでるやつに用があってきたんだけど、いないみたいだから合鍵で開けてくれ。管理人なら全部屋の鍵持ってるだろ」
「そんなことできるはずがないでしょう! こちらの方にお会いしたいのなら、約束を取り付けてお越しください」
「なんだと?! ふざけんな! 良いから開けろよ! 鍵持ってんだろ!」
融通の効かない管理人に苛立って文句を言うと、
「いい加減にしてください! そのようなことを言われてもできないものはできません。それにそこに住んでいた方なら、半年前に引っ越しされましたよ!」
「はぁ? 引っ越し? 出鱈目なこと言ってんなよ!」
「出鱈目ではございません。海外に行かれたと伺っておりますので当分は戻られないかと思いますが」
「海外だと? くそっ! 本当にあいつふざけやがって!!!」
バァーンとドアを蹴飛ばして、俺はあいつの家を出た。
わざわざ俺が出向いてやったって言うのにふざけやがって。
あーあ、こんな日は飲みにでも行かないとやってられない。
俺は苛立ちを抑えられずにそのまま行きつけのBARに向かった。
「あーあ。やっぱ、あいつを手放したのは惜しかったかなー」
ベッドに力無く横たわりながら、少し前に振ったやつのことを思い出していた。
同じ年の男だが、綺麗な顔立ちをしていて隣を歩かせても恥ずかしくないどころか、俺の男としての格を上げてくれるようなそんな奴だった。
とはいえ、元々バイとは言っても男が多少イケるだけで基本は女の方が好みだった俺は、常務の娘に惚れられたのをきっかけにあいつを振った。
あいつとは2年前、ゲイが集まるBARにたまたま立ち寄った時に出会った。
仕事もできてイケメンで何一つ不自由ない生活を送れそうな奴がゲイで、しかもそれを隠したまま今まで一人も付き合ったことがない。
こんなエリートが俺よりも下なんだ、そう思うだけで俺の自尊心がくすぐられた。
恋愛にも慣れていない奴は、俺が言葉巧みに褒めて愛の言葉を囁けばすぐに落ちてきた。
デートに誘い、最初こそ金を払ってやれば、次からは奴が払ってくれるようになった。
どこに行くにも金もいらない。
欲しいものがあるから探しに行きたいと誘えば結局買ってくれるし、たまにキスやハグをしてやれば満足そうに俺についてきた。
従順なペットのようなあいつを俺は気に入っていたんだ。
まぁ、いくら綺麗なやつとはいえ、男とキスやハグより先に進む気はなかったが流石にそれなしでこれ以上引きつけることもできなくて、たまに擦りあって出させるくらいはやってやってた。
そして愛の言葉さえ言ってやればあいつはなんでもしてくれる。
数ヶ月連絡を取らなくても呼んだらすぐにやってくるし、本当に都合のいい男ってあいつみたいなことを言うんだろう。
そんな生活を続けて2年。
あるきっかけで常務の娘と知り合うチャンスがあって、とんとん拍子に進んだ。
――ゆくゆくは君を娘の婿にしたいと考えているが、他に女性の影はないだろうな? いや、君はモテそうだから念の為にな。
そう言われて、すぐにあいつを切り捨てた。
他の女性ではないが、知られて余計な騒ぎになるのは避けたい。
あいつは俺からの別れ話に信じられないと言った表情を見せたが、さすがエリートだけあって俺の言葉ですぐに結婚話が出ていることに気づき、あっけなく納得してくれた。
俺としては縋り付いてくることを多少期待していたが、その点だけが期待外れだったな。
縋り付いてきさえすれば、この後もこっそりとそばに置いていてやろうと思ったがまぁいい。
けれど、これでもう終わりか……と思った時、やつの身体に未練があった。
他の男を抱く気にはさらさらなかったが、こいつならアナルにぶちこんでやっても気持ちよさそうな身体はしている。
綺麗な顔をしたエリートを喘がせるのもいい思い出になりそうだ。
そう思って、こっちから最後の思い出に誘ってやったのに、バカにするなと俺を思いっきり押しのけやがった。
今まで可愛がってきてやったのに。
飼い犬に手を噛まれるとはまさにこういうことだな。
あれから半年。
常務の娘との結婚話は順調に進み、最近は会うたびに結婚式場での打ち合わせやら、招待客のリスト制作やらで面倒な日々が続いている。
しかも、お色直しを五回もしたいだの、結婚式までに高額なエステに通いたいだの、挙げ句の果てには新婚旅行は豪華客船で1ヶ月海外を回りたいだの、金がかかることばかりねだってきやがる。
だが、常務から結婚祝いにと港区の高層マンションを買ってもらっているだけに、邪険に扱うこともできないし本当に面倒臭い。
「あいつは本当に金払いが良いのに、面倒なことも言ってこないし楽だったよな」
ふとあいつのことを思い出して、スマホを眺める。
俺と別れてまだ半年なら、まだ次のやつなんてできてないだろう。
なんてったって俺が付き合ってやるまで一度も恋愛なんてしていないやつだ。
すぐ次なんてできるわけがない。
今頃俺のことを思い出してよりを戻したがっているのかもしれないな。
そう思って電話をかけてみたが、ワンコールの後に
<おかけになった電話番号への通話は、おつなぎできません>
というアナウンスが流れる。
「はぁ? なんだ、これ」
何度も掛け直してみたけれどやっぱり同じでようやく俺は、あいつに着信拒否されていることに気づいた。
ふざけた真似しやがって!
くそっ、面白くない!!
でも考えてみればもしかしたら振られてすぐに勢いのままに着信拒否をしたまま忘れてしまっているのかもしれない。
それで俺からの着信がないと嘆いているのかも。
あいつにはそんな天然なところがある。
それなら俺があいつのところに直接出向いてやろう。
あいつの仕事先は何か迷惑がかかってはいけないからと頑なに教えるのを拒みやがったから、どこに勤めているかは知らないが、家の場所だけはわかっている。
自宅も頑なに教えようとしなかったのがうざくて、こっそり後をつけて住所を調べたことがある。
そこにいけばいい。
善は急げだ!
俺はすぐに家を出て、あいつの住んでいた家に向かった。
しかも何度チャイムを鳴らしても出てこない。
腹が立って何度も何度も鳴らしてやったが反応もなく、
「くそっ! 居留守使ってやがるな!!」
玄関で騒いでいると、管理人という奴がやってきて声をかけられた。
「何をしていらっしゃるのですか?」
「お前、ここの管理人か?」
「はい。そうですが」
「なら、ちょうどいい。ここに住んでるやつに用があってきたんだけど、いないみたいだから合鍵で開けてくれ。管理人なら全部屋の鍵持ってるだろ」
「そんなことできるはずがないでしょう! こちらの方にお会いしたいのなら、約束を取り付けてお越しください」
「なんだと?! ふざけんな! 良いから開けろよ! 鍵持ってんだろ!」
融通の効かない管理人に苛立って文句を言うと、
「いい加減にしてください! そのようなことを言われてもできないものはできません。それにそこに住んでいた方なら、半年前に引っ越しされましたよ!」
「はぁ? 引っ越し? 出鱈目なこと言ってんなよ!」
「出鱈目ではございません。海外に行かれたと伺っておりますので当分は戻られないかと思いますが」
「海外だと? くそっ! 本当にあいつふざけやがって!!!」
バァーンとドアを蹴飛ばして、俺はあいつの家を出た。
わざわざ俺が出向いてやったって言うのにふざけやがって。
あーあ、こんな日は飲みにでも行かないとやってられない。
俺は苛立ちを抑えられずにそのまま行きつけのBARに向かった。
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