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ネクタイの意味

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「毎日透也くんから電話が来るんですか? ラブラブですね」

「高遠くんも離れていたらきっと同じだろう?」

「まぁ、そうですね。僕の方がこっちにきたのは少し先だったので、その間は今の支社長たちみたいに毎日電話してましたよ。ねぇ、祥也さん」

「ああ、そうだな。離れている分、声も聞きたいし顔も見たいからな」

実感のこもったその声にきっと祥也さんは離れていた日々を思い出したんだろうなと思った。

「それよりも大夢は大智さんのことをプライベートでも支社長と呼ぶつもりなのか?」

それは俺も思ってた。
流石に自宅でも支社長と呼ばれるのはなんとなくむず痒い。

「でも……なんて呼んだらいいか……」

「普通に名前でいいよ。苗字でもいいけど、高遠くんの好きな方でいいよ」

「あの……じゃあ、大智さんと呼んでもいいですか? 僕のことは大夢と呼んで下さい」

部下を名前呼びか……。
なんか変な感じと思ったけど、考えてみたら高遠くんは透也のお兄さんの恋人だから義兄弟ってことになるんだよね……。
まぁ籍は入れられないから感覚だけだけど。
でも家族になることに間違いはない。
なら名前呼びでも問題ないか。

「わかった。大夢くん、でいいかな?」

「わぁっ! 感激です!! 支社長……いえ、大智さんに名前で呼んでもらえるなんて!!」

頬を赤らめて俺の方を振り向く姿が可愛くて仕方がない。
なんか一応義兄になるはずだけど、弟みたいだな。

「大夢、そんなに大智さんに可愛い顔を見せたら、俺も嫉妬するぞ」

「ふふっ。祥也さんったら。冗談ばっかり」

大夢くんはそう笑っているけれど、祥也さんは本気だろうな。
だって、そういうところも透也とそっくりだから。

俺がジャックと笑顔で話していただけでもちょっと嫉妬してたし。
ふふっ。田辺……いや、日下部兄弟は揃って嫉妬深いってことかな。

「さぁ、着いたよ」

そういうと大きな門扉が開き、中へと進んでいく。
芝生が広がる広い庭の中を駆け抜けると大きくて可愛らしい家が見えた。

「えっ……すごいおっきなお家」

驚く俺をよそに車は玄関の隣にあるガレージに入って行った。
この車以外にも数台の車が置いてある。
そのどれもが高級車だ。

「大智さん? どうかしましたか?」

「い、いや……こんなに大きな家に住んでるなんて知らなくて……」

「ああ、そうですよね。初めてだとびっくりしますよね。僕も今日からここで暮らすと言われた時は驚きましたよ」

「あ、じゃあこの家は祥也さんの?」

「というか、もともとお祖父さんの別荘だったみたいで、祥也さんがロサンゼルスで暮らすと報告したら生前贈与でいただいたみたいですよ。元々はもっと落ち着いたお家だったみたいなんですけど、好きにしていいと言われたらしく、結構大掛かりなリノベーションしたんです。僕と暮らしてからもちょこっと手を入れたところもあるんですよ」

「へぇー、でもそういうの一緒に作るって感じで楽しいな」

「そうなんですよ!! だからこの家、すごく気に入ってるんです」

得意げに話す大夢くんの隣で祥也さんが嬉しそうにしている。
そりゃあそうだよね。
大事なパートナーに自分と暮らす家が気に入ってると言われてるんだから。

俺も透也がこっちで暮らすようになったら、社宅を出て二人で暮らす家を探すのも楽しいかも。
あの社宅は気に入っているけれど、お風呂とかもっと広かったら透也と二人で入ってものんびりできそうだし、それに隣の声を気にしなくてもいいしな。

なんて何を考えてるんだろう、俺は。
透也とのそんなこと・・・・・を考えてばかりいるみたいで恥ずかしい。


「こっちから中に入れるからどうぞ」

変なことを考えていたせいで、少し顔が熱くなりながらも慌てて大夢くんたちに駆け寄る。

ガレージからそのまま中に入ると、吹き抜けのある広いリビングが現れた。

大きなガラス越しにガレージの様子がよく見えるのが面白い。
庭が見える方にも大きな窓があって開放感たっぷりだ。

広いリビングの中で存在感を表している大きなソファーも革張りで高級感がある。
実際に使えそうなアンティーク調の暖炉もかっこいい。

可愛らしさと格好良さをうまく融合したような部屋がなんだかものすごく落ち着く。
そう、まるで祥也さんと大夢くんのいいとこ取りしたようなそんな感じなんだ。

いいな、この家。
中に入ってからの方がしみじみ思う。

「ふふっ。大智さん、気に入ってもらえたみたいですね」

「ああ、いい家だよ。最高だな」

「じゃあ、今日はぜひ泊まって行ってください」

「え、でも着替えも持ってきてないし、明日は仕事だし……」

「大丈夫ですよ。大智さんと僕、あまり体型も変わらないですから、着替えとかは僕のを使ってください。新品の下着もちゃんとあるので。ワイシャツも新しいのがあるのでそれを使ってもらって大丈夫ですよ。ネクタイも僕は使ってもらってもいいんですけど、多分透也くんが知ったら怒ると思うんでネクタイはやめておきましょうか」

「えっ? なんでネクタイは透也が怒るんだ?」

「えっ? もしかして大智さん、知らないんですか?」

「知らないって何が?」

「ネクタイは独占欲の表れなんですよ。大智さん、たまに透也くんのネクタイをつけてきてますよね?」

「えっ、なんでわかった?」

「わかりますよ、大智さんぽくないのに、大智さんにすごく似合ってるんできっと恋人から貰ったものだろうなって噂になってましたから。でも付けているのが新品じゃなかったから、僕は絶対に透也くんが自分のを付けさせてると思ってたんですよ、あれはマーキングですよ」

「マーキング?」

「そうです。この人は自分のものだから手を出すなってネクタイで牽制していたんですよ」

うそ……。
知らなかった。
だから透也のネクタイつけて行った時は会社のみんながちょくちょく俺に話しかけにきていたのか?

俺、そんなことも知らずに、

――透也のネクタイ締めてたら、仕事中もずっと透也がそばにいるような気がして……安心した

とか言っちゃったけど……。

それってもっとマーキングしてほしいって自分からねだってるみたいじゃないか。

だからあの時透也はすごく嬉しそうにしていたのか。
うわっ、なんか俺……最初からものすごく透也のことめちゃくちゃ好きじゃないか。
それに気づいていなかったなんて……ほんと恥ずかしい。
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