275 / 286
第三章
国の未来とアズールの存在
しおりを挟む
<sideルーディー>
たっぷりと蜜を口からも中からも摂取したからか、アズールの熱はすっかり下がり、穏やかな表情を浮かべ、心地良い寝息を立て始めた。
これでもう一安心だ。
そっとアズールを抱きかかえて、寝室へ運ぶ。
私がアズールと子どもたちを守るために寝室に威嚇フェロモンを撒き散らしていたために、アントンの診察の妨げになると判断して、義母上……いや、ヴェルナーだろうな……が、ソファーに寝かせてくれたのだろう。
そこまで気遣いのできるヴェルナーをアズールのそばに置いておいて本当に良かった。
アズールをベッドに寝かせて、私の上着を抱きしめさせておく。
ここに帰ってくるまでにたっぷりと私の汗と匂いが染み付いているから、少しの時間なら大丈夫だろう。
アズールが柔らかな表情を浮かべたのを見て、安心しながら寝室を出た。
そして、部屋の前にいた騎士にアントンを呼ぶように指示を出した。
アズールが妊娠したということしかまだわかっていないのだから、そこはしっかりと把握しておく必要がある。
「ルーディーさまっ、アズールさまのご様子はいかがですか?」
急いでやってきたアントンは開口一番にアズールの容態を聞いてきた。
「ああ、すっかり熱も下がって、穏やかに眠っている」
「おおっ、それはそれは本当にようございました。アズールさまの仰る通りにしていたら、私どもはこのヴンダーシューンの灯を失っていたかも知れません」
「アズールの言う通りにとはどういうことだ?」
「ヴェルナー殿からお聞きではございませんか? アズールさまはご自分のお命の危険も顧みず、ご自分が耐え抜くから訓練が終わるまでルーディーさまに連絡をしないようにと仰ったのです」
「なんだと?! アズールが? なぜそのようなことを!」
「ルーディーさまが今回の特別遠征訓練を大切にしていらっしゃったからです。次期国王としてこの国の未来とそして、それを守る騎士たちのためにご参加を決意なさったのに、ご自分のためにその訓練を切り上げられるのが耐えられなかったのでしょう」
「あ――っ、だからあの時……」
――くん、れん……お、わった……?
唾液を飲ませて目を開いたアズールが私の姿を捉えた瞬間、すぐにその言葉を口にしたのか……。
想像もしていなかった事実に怒りにも似た感情が込み上げてくる。
「この国の未来のために? アズールの存在こそがこの国になくてはならないものであるのに、アズールは何を言っているんだ! アズールを失ったら、私だって、それこそ腹の子だって、生きていられないのに!」
あまりの感情に立っていられなくてフラフラしてしまう身体を必死に立たせていると、アントンが冷静に話を続けた。
「高熱をお出しになった時点で、ルーディーさまのご帰還までアズールさまのお身体が持ち堪えられるかどうかは微妙なところでございました。ヴェルナー殿はその事態を重く受け止められ、ご自分が全ての責任を取ると仰って、ルーディーさまをお迎えに行かれたのです。そのおかげで、アズールさまのお命を守ることができました。全てはヴェルナー殿の的確な判断のおかげでございます」
「ああ、本当だな。ヴェルナーをアズールのそばに置いて本当に良かった。この言葉に尽きる」
「ルーディーさま。差し出がましいことを申しますが、アズールさまにはきちんとご自分の存在についてお話をなさった方がよろしいかと存じます」
「ああ、今回身をもってわかった。しっかりとアズールに言い聞かせるとしよう。アントン、助かった」
「いえ、全てはヴェルナー殿のおかげでございます。それで、お腹のお子さまでございますが……」
「何かあるのか?」
「あの栄養の奪い方といい、アズールさまが高熱を出されたことといい、おそらくアズールさまのお腹にいらっしゃるのは『神の御意志』の可能性が高いかと……」
「なに? まことか?」
「100%とは申せませんが、かなり可能性は高いかと存じます。ですので、できればこれからも一日数回は蜜をお飲ませになるようにお願いいたします。たとえ、『神の御意志』ではなかったとしても、蜜はあくまでも栄養ですし、害にはなりません」
「わかった。そうしよう」
アントンに父上たちへの報告を任せ、私は寝室で眠るアズールの元に戻った。
きっとアズールはこの国の王妃として、将来の騎士の成長を慮ってくれたのだろう。
だが、アズールがいなくなったら、その将来すら消えて無くなってしまうのだ。
そこのところをしっかりと教えておかないとな。
次は決して誤った判断をしないように……。
たっぷりと蜜を口からも中からも摂取したからか、アズールの熱はすっかり下がり、穏やかな表情を浮かべ、心地良い寝息を立て始めた。
これでもう一安心だ。
そっとアズールを抱きかかえて、寝室へ運ぶ。
私がアズールと子どもたちを守るために寝室に威嚇フェロモンを撒き散らしていたために、アントンの診察の妨げになると判断して、義母上……いや、ヴェルナーだろうな……が、ソファーに寝かせてくれたのだろう。
そこまで気遣いのできるヴェルナーをアズールのそばに置いておいて本当に良かった。
アズールをベッドに寝かせて、私の上着を抱きしめさせておく。
ここに帰ってくるまでにたっぷりと私の汗と匂いが染み付いているから、少しの時間なら大丈夫だろう。
アズールが柔らかな表情を浮かべたのを見て、安心しながら寝室を出た。
そして、部屋の前にいた騎士にアントンを呼ぶように指示を出した。
アズールが妊娠したということしかまだわかっていないのだから、そこはしっかりと把握しておく必要がある。
「ルーディーさまっ、アズールさまのご様子はいかがですか?」
急いでやってきたアントンは開口一番にアズールの容態を聞いてきた。
「ああ、すっかり熱も下がって、穏やかに眠っている」
「おおっ、それはそれは本当にようございました。アズールさまの仰る通りにしていたら、私どもはこのヴンダーシューンの灯を失っていたかも知れません」
「アズールの言う通りにとはどういうことだ?」
「ヴェルナー殿からお聞きではございませんか? アズールさまはご自分のお命の危険も顧みず、ご自分が耐え抜くから訓練が終わるまでルーディーさまに連絡をしないようにと仰ったのです」
「なんだと?! アズールが? なぜそのようなことを!」
「ルーディーさまが今回の特別遠征訓練を大切にしていらっしゃったからです。次期国王としてこの国の未来とそして、それを守る騎士たちのためにご参加を決意なさったのに、ご自分のためにその訓練を切り上げられるのが耐えられなかったのでしょう」
「あ――っ、だからあの時……」
――くん、れん……お、わった……?
唾液を飲ませて目を開いたアズールが私の姿を捉えた瞬間、すぐにその言葉を口にしたのか……。
想像もしていなかった事実に怒りにも似た感情が込み上げてくる。
「この国の未来のために? アズールの存在こそがこの国になくてはならないものであるのに、アズールは何を言っているんだ! アズールを失ったら、私だって、それこそ腹の子だって、生きていられないのに!」
あまりの感情に立っていられなくてフラフラしてしまう身体を必死に立たせていると、アントンが冷静に話を続けた。
「高熱をお出しになった時点で、ルーディーさまのご帰還までアズールさまのお身体が持ち堪えられるかどうかは微妙なところでございました。ヴェルナー殿はその事態を重く受け止められ、ご自分が全ての責任を取ると仰って、ルーディーさまをお迎えに行かれたのです。そのおかげで、アズールさまのお命を守ることができました。全てはヴェルナー殿の的確な判断のおかげでございます」
「ああ、本当だな。ヴェルナーをアズールのそばに置いて本当に良かった。この言葉に尽きる」
「ルーディーさま。差し出がましいことを申しますが、アズールさまにはきちんとご自分の存在についてお話をなさった方がよろしいかと存じます」
「ああ、今回身をもってわかった。しっかりとアズールに言い聞かせるとしよう。アントン、助かった」
「いえ、全てはヴェルナー殿のおかげでございます。それで、お腹のお子さまでございますが……」
「何かあるのか?」
「あの栄養の奪い方といい、アズールさまが高熱を出されたことといい、おそらくアズールさまのお腹にいらっしゃるのは『神の御意志』の可能性が高いかと……」
「なに? まことか?」
「100%とは申せませんが、かなり可能性は高いかと存じます。ですので、できればこれからも一日数回は蜜をお飲ませになるようにお願いいたします。たとえ、『神の御意志』ではなかったとしても、蜜はあくまでも栄養ですし、害にはなりません」
「わかった。そうしよう」
アントンに父上たちへの報告を任せ、私は寝室で眠るアズールの元に戻った。
きっとアズールはこの国の王妃として、将来の騎士の成長を慮ってくれたのだろう。
だが、アズールがいなくなったら、その将来すら消えて無くなってしまうのだ。
そこのところをしっかりと教えておかないとな。
次は決して誤った判断をしないように……。
185
お気に入りに追加
5,274
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる