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第三章

国の未来とアズールの存在

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<sideルーディー>

たっぷりと蜜を口からも中からも摂取したからか、アズールの熱はすっかり下がり、穏やかな表情を浮かべ、心地良い寝息を立て始めた。

これでもう一安心だ。

そっとアズールを抱きかかえて、寝室へ運ぶ。

私がアズールと子どもたちを守るために寝室に威嚇フェロモンを撒き散らしていたために、アントンの診察の妨げになると判断して、義母上……いや、ヴェルナーだろうな……が、ソファーに寝かせてくれたのだろう。

そこまで気遣いのできるヴェルナーをアズールのそばに置いておいて本当に良かった。

アズールをベッドに寝かせて、私の上着を抱きしめさせておく。
ここに帰ってくるまでにたっぷりと私の汗と匂いが染み付いているから、少しの時間なら大丈夫だろう。

アズールが柔らかな表情を浮かべたのを見て、安心しながら寝室を出た。

そして、部屋の前にいた騎士にアントンを呼ぶように指示を出した。
アズールが妊娠したということしかまだわかっていないのだから、そこはしっかりと把握しておく必要がある。

「ルーディーさまっ、アズールさまのご様子はいかがですか?」

急いでやってきたアントンは開口一番にアズールの容態を聞いてきた。

「ああ、すっかり熱も下がって、穏やかに眠っている」

「おおっ、それはそれは本当にようございました。アズールさまの仰る通りにしていたら、私どもはこのヴンダーシューンのともしびを失っていたかも知れません」

「アズールの言う通りにとはどういうことだ?」

「ヴェルナー殿からお聞きではございませんか? アズールさまはご自分のお命の危険も顧みず、ご自分が耐え抜くから訓練が終わるまでルーディーさまに連絡をしないようにと仰ったのです」

「なんだと?! アズールが? なぜそのようなことを!」

「ルーディーさまが今回の特別遠征訓練を大切にしていらっしゃったからです。次期国王としてこの国の未来とそして、それを守る騎士たちのためにご参加を決意なさったのに、ご自分のためにその訓練を切り上げられるのが耐えられなかったのでしょう」

「あ――っ、だからあの時……」

――くん、れん……お、わった……?

唾液を飲ませて目を開いたアズールが私の姿を捉えた瞬間、すぐにその言葉を口にしたのか……。
想像もしていなかった事実に怒りにも似た感情が込み上げてくる。

「この国の未来のために? アズールの存在こそがこの国になくてはならないものであるのに、アズールは何を言っているんだ! アズールを失ったら、私だって、それこそ腹の子だって、生きていられないのに!」

あまりの感情に立っていられなくてフラフラしてしまう身体を必死に立たせていると、アントンが冷静に話を続けた。

「高熱をお出しになった時点で、ルーディーさまのご帰還までアズールさまのお身体が持ち堪えられるかどうかは微妙なところでございました。ヴェルナー殿はその事態を重く受け止められ、ご自分が全ての責任を取ると仰って、ルーディーさまをお迎えに行かれたのです。そのおかげで、アズールさまのお命を守ることができました。全てはヴェルナー殿の的確な判断のおかげでございます」

「ああ、本当だな。ヴェルナーをアズールのそばに置いて本当に良かった。この言葉に尽きる」

「ルーディーさま。差し出がましいことを申しますが、アズールさまにはきちんとご自分の存在についてお話をなさった方がよろしいかと存じます」

「ああ、今回身をもってわかった。しっかりとアズールに言い聞かせるとしよう。アントン、助かった」

「いえ、全てはヴェルナー殿のおかげでございます。それで、お腹のお子さまでございますが……」

「何かあるのか?」

「あの栄養の奪い方といい、アズールさまが高熱を出されたことといい、おそらくアズールさまのお腹にいらっしゃるのは『神の御意志』の可能性が高いかと……」

「なに? まことか?」

「100%とは申せませんが、かなり可能性は高いかと存じます。ですので、できればこれからも一日数回は蜜をお飲ませになるようにお願いいたします。たとえ、『神の御意志』ではなかったとしても、蜜はあくまでも栄養ですし、害にはなりません」

「わかった。そうしよう」

アントンに父上たちへの報告を任せ、私は寝室で眠るアズールの元に戻った。

きっとアズールはこの国の王妃として、将来の騎士の成長を慮ってくれたのだろう。
だが、アズールがいなくなったら、その将来すら消えて無くなってしまうのだ。

そこのところをしっかりと教えておかないとな。
次は決して誤った判断をしないように……。
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