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第三章
待ち焦がれていた一報
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<sideフィデリオ>
ルーディーさまとアズールさまは、公爵家に里帰りされたアズールさまのご懐妊が発覚したと同時に、体調不良のためにベッドを離れられず、また無理もさせたくないという公爵さまご夫妻のご意向もあり、そのままルーディーさまと共に公爵家にお住まいになっていらっしゃる。
陛下は最初こそ、すぐにお城に戻らせて宴を! なんてことを仰っておいでだったが、公爵夫人のアリーシャさまにガツンと釘を刺されてからは静かにルーディーさまとアズールさまからのご連絡をお待ちになっていた。
アズールさまが果物のジュースが飲めたと聞けばすぐに最高級の飲み物を贈り、肉を食べられたと聞けばすぐに最高級のお肉を贈る。
そんな日々を過ごしていたある日、ようやく待ち焦がれていた一報が城に届いた。
ああ、考えてみれば長い日々だった。
アズールさまがお城からいなくなった途端、火が消えたように城内が静まり返り、働いている者たちの士気が上がらない。
アズールさまがいなくなって初めて、その存在の大きさに気付かされたのだ。
きっと公爵家でも同じだったのだろう。
アズールさまが長年お過ごしになった公爵家では、アズールさまがお城で過ごされるようになってから使用人たちもきっとやり場のない寂しさを持って過ごしていたに違いない。
「陛下っ! 陛下っ!!」
「フィデリオ、どうした?」
「公爵家から早馬が参りました」
「何? 公爵家から? もしかしてアズールに身に何か?」
「こちらをどうぞお読みください」
届けられた手紙を陛下に渡すと、
「おおーっ!!! アズールが私と其方を呼んでいるぞ!!」
と嬉しそうな声をおあげになる。
「私も一緒に、でございますか? アズールさまご本人がおっしゃっておいでなのですか?」
「ああ、そうだ。今日医師の診察を受けて、少しの時間なら我々と過ごしても良いと許可をもらえそうだ。ということですぐに公爵家に向かうぞ!!」
まさか私も一緒に呼んでもらえるとは……。
ああ、なんて幸せなのだろうな。
陛下と共に急いで身支度を整え、私たちは急いでヴォルフ公爵家に向かった。
早馬が届いてまだ一時間ほどしか経っていない。
それくらいに待ち侘びていた一報だったのだ。
公爵邸に到着し、駆け出すように玄関に向かう陛下に付き添っていくと、すぐに扉が開かれた。
「陛下。お待ち申し上げておりました。どうぞ中にお入りくださいませ」
執事のベンではなく、ヴォルフ公爵に迎えられ中に案内される。
「アズールの体調はどうだ?」
「はい。おかげさまでようやく落ち着いたようです。いっときは食事も何も食べることができずに体重も落ちて心配しておりましたが、ルーディーが献身的にアズールのそばについていてくださるので、安心しております。今ではすっかり元気を取り戻しましたよ」
「そうか。夫夫で一緒に乗り越えているのなら安心だな」
ご自分の後悔を振り返りながら、亡き王妃さまを思い浮かべていらっしゃるのだろう。
今はただルーディーさまとアズールさまを見守るだけだ。
「陛下。僭越ながら、私から一言だけお伝えしとうございます」
ルーディーさまとアズールさまの自室の扉の前で止まったヴォルフ公爵が神妙な顔つきで陛下に声をかけた。
「なんだ? 何かあるのか?」
「どうぞお気をつけください」
「な――っ? それはどういう意味だ?」
「中に入られたらお分かりいただけるかと存じます」
そんな意味深な言葉を告げ、ヴォルフ公爵は扉を叩いた。
「私だ。陛下とフィデリオ殿をお連れした」
その呼びかけに中から
「どうぞ」
と声が聞こえる。
ヴォルフ公爵は扉を開けもせず、すっと身体を引いて
「どうぞお入りください」
と一歩後退した。
その様子に不思議に思いながらも私が扉を開いた瞬間
「ぐっ――!!!」
「うぅ――!!!」
むわりと部屋を覆い尽くす強い匂いにその場に言葉を失った。
「こ、これは……」
陛下は眉を顰めながらも中に入っていく。
それに釣られるように私も中に入ると、ヴォルフ公爵はそれに続くことなく扉をさっと閉めていた。
二人で奥に入ると、リビングのソファーに腰をかけるルーディーさまとその膝に抱きかかえられたアズールさまのお姿が見えた。
「ああっ! お義父さまっ!! それに爺も!! 会いに来てくれて嬉しい!!!」
嬉しそうな笑顔で迎えてくれるアズールさまに私も口角が上がるが、アズールさまに近づくたびに匂いがどんどん強くなっていく。
「ア、アズール。元気そうだな。腹の子も順調だと聞いた。何よりだな」
「うん! ルーのおかげなんだよ」
「そうか、ルーディーが世話をしてくれているからこんなに元気になったのか?」
「それもあるけど、ルーの蜜をたくさん飲んだからアズール、元気になったの。ルーの蜜はね、アズールのお薬なんだよ!! だからいっぱい飲んだの!!」
「――っ!!!!」
驚いて、ルーディーさまに視線を向けると少しお疲れの様子が見える。
なるほど、ヴォルフ公爵の仰っていたことはこういうことだったか。
私たちの出迎えに執事のベンが来なかったことも頷ける。
この部屋中に漂うルーディーさまの強い匂いを狐族である彼が受け止められるわけがない。
それにしてもルーディーさまの蜜が、アズールさまのお薬とは……。
狼獣人とウサギ族はそういった面でも互いに必要な存在なのだな。
* * *
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回で無事に200話を迎えることができました。
これもひとえに読んでくださっている皆さまのおかげです。
完結までもう少しだけ続きますが最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
いつも応援ありがとうございます!!
ルーディーさまとアズールさまは、公爵家に里帰りされたアズールさまのご懐妊が発覚したと同時に、体調不良のためにベッドを離れられず、また無理もさせたくないという公爵さまご夫妻のご意向もあり、そのままルーディーさまと共に公爵家にお住まいになっていらっしゃる。
陛下は最初こそ、すぐにお城に戻らせて宴を! なんてことを仰っておいでだったが、公爵夫人のアリーシャさまにガツンと釘を刺されてからは静かにルーディーさまとアズールさまからのご連絡をお待ちになっていた。
アズールさまが果物のジュースが飲めたと聞けばすぐに最高級の飲み物を贈り、肉を食べられたと聞けばすぐに最高級のお肉を贈る。
そんな日々を過ごしていたある日、ようやく待ち焦がれていた一報が城に届いた。
ああ、考えてみれば長い日々だった。
アズールさまがお城からいなくなった途端、火が消えたように城内が静まり返り、働いている者たちの士気が上がらない。
アズールさまがいなくなって初めて、その存在の大きさに気付かされたのだ。
きっと公爵家でも同じだったのだろう。
アズールさまが長年お過ごしになった公爵家では、アズールさまがお城で過ごされるようになってから使用人たちもきっとやり場のない寂しさを持って過ごしていたに違いない。
「陛下っ! 陛下っ!!」
「フィデリオ、どうした?」
「公爵家から早馬が参りました」
「何? 公爵家から? もしかしてアズールに身に何か?」
「こちらをどうぞお読みください」
届けられた手紙を陛下に渡すと、
「おおーっ!!! アズールが私と其方を呼んでいるぞ!!」
と嬉しそうな声をおあげになる。
「私も一緒に、でございますか? アズールさまご本人がおっしゃっておいでなのですか?」
「ああ、そうだ。今日医師の診察を受けて、少しの時間なら我々と過ごしても良いと許可をもらえそうだ。ということですぐに公爵家に向かうぞ!!」
まさか私も一緒に呼んでもらえるとは……。
ああ、なんて幸せなのだろうな。
陛下と共に急いで身支度を整え、私たちは急いでヴォルフ公爵家に向かった。
早馬が届いてまだ一時間ほどしか経っていない。
それくらいに待ち侘びていた一報だったのだ。
公爵邸に到着し、駆け出すように玄関に向かう陛下に付き添っていくと、すぐに扉が開かれた。
「陛下。お待ち申し上げておりました。どうぞ中にお入りくださいませ」
執事のベンではなく、ヴォルフ公爵に迎えられ中に案内される。
「アズールの体調はどうだ?」
「はい。おかげさまでようやく落ち着いたようです。いっときは食事も何も食べることができずに体重も落ちて心配しておりましたが、ルーディーが献身的にアズールのそばについていてくださるので、安心しております。今ではすっかり元気を取り戻しましたよ」
「そうか。夫夫で一緒に乗り越えているのなら安心だな」
ご自分の後悔を振り返りながら、亡き王妃さまを思い浮かべていらっしゃるのだろう。
今はただルーディーさまとアズールさまを見守るだけだ。
「陛下。僭越ながら、私から一言だけお伝えしとうございます」
ルーディーさまとアズールさまの自室の扉の前で止まったヴォルフ公爵が神妙な顔つきで陛下に声をかけた。
「なんだ? 何かあるのか?」
「どうぞお気をつけください」
「な――っ? それはどういう意味だ?」
「中に入られたらお分かりいただけるかと存じます」
そんな意味深な言葉を告げ、ヴォルフ公爵は扉を叩いた。
「私だ。陛下とフィデリオ殿をお連れした」
その呼びかけに中から
「どうぞ」
と声が聞こえる。
ヴォルフ公爵は扉を開けもせず、すっと身体を引いて
「どうぞお入りください」
と一歩後退した。
その様子に不思議に思いながらも私が扉を開いた瞬間
「ぐっ――!!!」
「うぅ――!!!」
むわりと部屋を覆い尽くす強い匂いにその場に言葉を失った。
「こ、これは……」
陛下は眉を顰めながらも中に入っていく。
それに釣られるように私も中に入ると、ヴォルフ公爵はそれに続くことなく扉をさっと閉めていた。
二人で奥に入ると、リビングのソファーに腰をかけるルーディーさまとその膝に抱きかかえられたアズールさまのお姿が見えた。
「ああっ! お義父さまっ!! それに爺も!! 会いに来てくれて嬉しい!!!」
嬉しそうな笑顔で迎えてくれるアズールさまに私も口角が上がるが、アズールさまに近づくたびに匂いがどんどん強くなっていく。
「ア、アズール。元気そうだな。腹の子も順調だと聞いた。何よりだな」
「うん! ルーのおかげなんだよ」
「そうか、ルーディーが世話をしてくれているからこんなに元気になったのか?」
「それもあるけど、ルーの蜜をたくさん飲んだからアズール、元気になったの。ルーの蜜はね、アズールのお薬なんだよ!! だからいっぱい飲んだの!!」
「――っ!!!!」
驚いて、ルーディーさまに視線を向けると少しお疲れの様子が見える。
なるほど、ヴォルフ公爵の仰っていたことはこういうことだったか。
私たちの出迎えに執事のベンが来なかったことも頷ける。
この部屋中に漂うルーディーさまの強い匂いを狐族である彼が受け止められるわけがない。
それにしてもルーディーさまの蜜が、アズールさまのお薬とは……。
狼獣人とウサギ族はそういった面でも互いに必要な存在なのだな。
* * *
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回で無事に200話を迎えることができました。
これもひとえに読んでくださっている皆さまのおかげです。
完結までもう少しだけ続きますが最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
いつも応援ありがとうございます!!
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