上 下
197 / 286
第三章

聞いておきたいこと

しおりを挟む
「ねぇ、ルー」

「どうした? 検査で疲れたか?」

「ううん、そうじゃなくて……そろそろ、お義父さまと爺に赤ちゃんのこと、直接報告した方がいいかなって」

「アズール……」

父上には、義父上と義母上がアズールの妊娠を伝えに行ってくれたが、最初はすぐに宴をしようと大騒ぎしていたらしい。
父上なりにアズールのことを思ってくれているが故のことだとはわかっているが、流石に妊娠したばかりの不安定な時期にそんなことは絶対にさせられない。

義母上がしっかりと父上に話をしてくれたおかげで、父上は無闇矢鱈に連絡してくることもなくじっと見守ることにしてくださったようだ。

時折、アズールが好みそうな菓子や食材が届くのも父上の優しさの表れなのだろう。

私もそろそろ父上を呼んでもいいかと思ったこともあったが、アズールの体調が良くなってきたとはいえ、まだ万全ではない。
父上と会えば、自由奔放に見えるアズールでさえも少なからず緊張もするだろうし、人を迎え入れるのは疲れもするだろう。
アズールと腹の子たちに何かあったらと思うとなかなか許可は出せずにいた。

「先生……少しくらいは平気ですよね?」

「そうですね……今日のアズールさまを拝見する限りでは、大丈夫かと存じます。ただ、お会いになられる時に少しでもご気分が悪かったり、話の途中でもお疲れになったと感じた場合はすぐにお休みになってください。それがお約束いただけるのでしたら主治医として、許可をお出しすることはできますよ」

アントンの言葉に少し考えるが、私も別に父上を排除したいわけではない。

「わかった。じゃあ、そのように父上に話をしてみよう。アズールが会いたいといえばすぐに飛んできそうだがな」

「お義父さまと爺に会うのは久しぶりだもんね。あ、でも赤ちゃんが二人っていうのは、まだ内緒にしててね。会った時、報告するんだぁ!」

「ああ、わかったよ。そうしよう。じゃあ、早速早馬を出すように頼んでくるからアズールはここで待っていてくれ」

「うん、わかったー!」

アズールを部屋に残し、アントンと部屋を出たのは気になったことをしっかりと聞いておくためだ。

「アズールは本当に大丈夫か?」

「はい。ルーディーさまのおかげでアズールさまがお食事を召し上がれるようになりましたから、最近は体力もしっかりついてきていますよ。お腹のお子さま方も順調に大きくなっておられますし、ベッドから下りて歩き回ったりされずに、お話をなさるだけでしたら問題はございません」

「そうか……なら、よかった」

「ふふっ」

「何がおかしい?」

「失礼いたしました。アズールさまのことをこれほど真剣にお考えくださる、ルーディーさまのようなお方がついていてくださったらアズールさまもさぞご安心なさるだろうと思っただけです」

「アズールは私の人生を大きく変えてくれた大切な存在だからな。それに私との大切な子をあの小さな身体で育ててくれているのだ。真剣に考えるのは当然だろう?」

「ルーディーさまのようなお方ばかりがいらっしゃれば、全ての妊婦は幸せで過ごせますよ。何かご不安なことがございましたら、何なりとお聞きください」

そう言われて、私はずっと聴きたかったことを尋ねることにした。

「それならば、ひとつ聞きたいことがあるのだが……」

「なんでございましょう?」

「その、なんだ……閨、のことなのだが……」

あれだけアズールが心配だと言っておきながら、こんなことを尋ねるのは人としてどうかと思われるだろうか……。
だが、私としても限界なのは事実なのだ。
だから知っておきたい、それだけだ。

「子が生まれるまでは、避けるべき、なのだろうな?」

ここでそうだと言われたら、それは我慢するしかない。
可愛らしいアズールを前に18年も待ち続けたのだ。
数ヶ月くらい、アズールと子のために我慢して見せる。

「ルーディーさま。私は感動しております」

「どういうことだ?」

「失礼を承知でお話しさせていただきますが、今までの獣人のお方はお相手が妊娠中であってもその欲を満たされていたと伺っております。もちろん、ウサギ族はそんな欲を受け止められるだけの力をお持ちですが、激しさがゆえに少なからず子が流れたこともあると聞き及んでおります」

「な――っ、そのようなことが?」

「はい。ですが今のお話ですと、アズールさまのご懐妊が判明してからルーディーさまはお手をお出しになっていらっしゃらないのでしょう?」

「あ、ああ。アズールと子に負担がかかると思ったからな。それにアズールの体調も万全ではなかっただろう?」

「そうでございますね。ですが、それを考慮できないのも獣人のお方の特徴でございました。ですから、私は感動しているのです」

「今までの獣人がどうかわからんが、私は自分の欲のためにアズールと子を危険に晒したくないだけだ。それがアズールの伴侶として、子らの父として当然のことだろう」

「はい。それでも素晴らしいことでございます。結果からお伝えしますと、交わり自体は悪いことではございません」

「そ、そうなのか?」

絶対にダメだと言われると思っていただけにアントンの言葉は驚きでしかなかった。

「はい。アズールさまは特に、ルーディーさまの唾液でお食事を召し上がられるようになりましたので、ルーディーさまの体液はアズールさまにとってはお薬と同じでございます。妊娠中はお薬が飲めないこの状況で、ルーディーさまの体液はアズールさまの万能薬だと言っていいでしょう。なぜここまで効果があったかは推測になりますが、恐れながらルーディーさま……アズールさまに幼少期から体液を定期的にお与えになっておられましたか?」

「えっ……あ、ああ。結果的に与えていたことになるのだろうな」

そう言って、私は、離れて暮らすアズールにマーキングのために定期的に自分の蜜を染み込ませたブランケットを渡していたことを告げた。

「アズールは眠りながらそれを吸っていたから、結果的に摂取していたことになったのだろうな」

「なるほど……そういうことでございましたか。だからなのですね。アズールさまがこれまで健やかにお過ごしになられていたのは。やはり、ルーディーさまの体液、特に蜜にはアズールさまの体調を整える作用があると思われます。ご懐妊で体調を崩されたのは今までに摂取した体液の効果を全て使い果たされたからでしょう。とすれば、アズールさまには積極的にルーディーさまの体液を摂取なさることをお勧めします」

「ということは、アズールとの閨は……」

「激しくなさるのは母体とお子さま方のお命を危険に晒しますのでお控えいただきたいですが、優しくなさるのはアズールさまの体調のためにもよろしいかと存じます。体液の中でも一番蜜が成分が強いですので、それを飲ませるだけでも十分かと」

「激しくしなければ良いということだな?」

「はい。ただ体調によっては避けられて蜜だけをお飲ませになるように対応していただきたいと存じます」

「わかった、それは約束しよう」

アントンから事実上の許可が出たことで、私は早馬を出すのを一旦保留にしてすぐにアズールの元に戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...