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第三章
聞いておきたいこと
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「ねぇ、ルー」
「どうした? 検査で疲れたか?」
「ううん、そうじゃなくて……そろそろ、お義父さまと爺に赤ちゃんのこと、直接報告した方がいいかなって」
「アズール……」
父上には、義父上と義母上がアズールの妊娠を伝えに行ってくれたが、最初はすぐに宴をしようと大騒ぎしていたらしい。
父上なりにアズールのことを思ってくれているが故のことだとはわかっているが、流石に妊娠したばかりの不安定な時期にそんなことは絶対にさせられない。
義母上がしっかりと父上に話をしてくれたおかげで、父上は無闇矢鱈に連絡してくることもなくじっと見守ることにしてくださったようだ。
時折、アズールが好みそうな菓子や食材が届くのも父上の優しさの表れなのだろう。
私もそろそろ父上を呼んでもいいかと思ったこともあったが、アズールの体調が良くなってきたとはいえ、まだ万全ではない。
父上と会えば、自由奔放に見えるアズールでさえも少なからず緊張もするだろうし、人を迎え入れるのは疲れもするだろう。
アズールと腹の子たちに何かあったらと思うとなかなか許可は出せずにいた。
「先生……少しくらいは平気ですよね?」
「そうですね……今日のアズールさまを拝見する限りでは、大丈夫かと存じます。ただ、お会いになられる時に少しでもご気分が悪かったり、話の途中でもお疲れになったと感じた場合はすぐにお休みになってください。それがお約束いただけるのでしたら主治医として、許可をお出しすることはできますよ」
アントンの言葉に少し考えるが、私も別に父上を排除したいわけではない。
「わかった。じゃあ、そのように父上に話をしてみよう。アズールが会いたいといえばすぐに飛んできそうだがな」
「お義父さまと爺に会うのは久しぶりだもんね。あ、でも赤ちゃんが二人っていうのは、まだ内緒にしててね。会った時、報告するんだぁ!」
「ああ、わかったよ。そうしよう。じゃあ、早速早馬を出すように頼んでくるからアズールはここで待っていてくれ」
「うん、わかったー!」
アズールを部屋に残し、アントンと部屋を出たのは気になったことをしっかりと聞いておくためだ。
「アズールは本当に大丈夫か?」
「はい。ルーディーさまのおかげでアズールさまがお食事を召し上がれるようになりましたから、最近は体力もしっかりついてきていますよ。お腹のお子さま方も順調に大きくなっておられますし、ベッドから下りて歩き回ったりされずに、お話をなさるだけでしたら問題はございません」
「そうか……なら、よかった」
「ふふっ」
「何がおかしい?」
「失礼いたしました。アズールさまのことをこれほど真剣にお考えくださる、ルーディーさまのようなお方がついていてくださったらアズールさまもさぞご安心なさるだろうと思っただけです」
「アズールは私の人生を大きく変えてくれた大切な存在だからな。それに私との大切な子をあの小さな身体で育ててくれているのだ。真剣に考えるのは当然だろう?」
「ルーディーさまのようなお方ばかりがいらっしゃれば、全ての妊婦は幸せで過ごせますよ。何かご不安なことがございましたら、何なりとお聞きください」
そう言われて、私はずっと聴きたかったことを尋ねることにした。
「それならば、ひとつ聞きたいことがあるのだが……」
「なんでございましょう?」
「その、なんだ……閨、のことなのだが……」
あれだけアズールが心配だと言っておきながら、こんなことを尋ねるのは人としてどうかと思われるだろうか……。
だが、私としても限界なのは事実なのだ。
だから知っておきたい、それだけだ。
「子が生まれるまでは、避けるべき、なのだろうな?」
ここでそうだと言われたら、それは我慢するしかない。
可愛らしいアズールを前に18年も待ち続けたのだ。
数ヶ月くらい、アズールと子のために我慢して見せる。
「ルーディーさま。私は感動しております」
「どういうことだ?」
「失礼を承知でお話しさせていただきますが、今までの獣人のお方はお相手が妊娠中であってもその欲を満たされていたと伺っております。もちろん、ウサギ族はそんな欲を受け止められるだけの力をお持ちですが、激しさがゆえに少なからず子が流れたこともあると聞き及んでおります」
「な――っ、そのようなことが?」
「はい。ですが今のお話ですと、アズールさまのご懐妊が判明してからルーディーさまはお手をお出しになっていらっしゃらないのでしょう?」
「あ、ああ。アズールと子に負担がかかると思ったからな。それにアズールの体調も万全ではなかっただろう?」
「そうでございますね。ですが、それを考慮できないのも獣人のお方の特徴でございました。ですから、私は感動しているのです」
「今までの獣人がどうかわからんが、私は自分の欲のためにアズールと子を危険に晒したくないだけだ。それがアズールの伴侶として、子らの父として当然のことだろう」
「はい。それでも素晴らしいことでございます。結果からお伝えしますと、交わり自体は悪いことではございません」
「そ、そうなのか?」
絶対にダメだと言われると思っていただけにアントンの言葉は驚きでしかなかった。
「はい。アズールさまは特に、ルーディーさまの唾液でお食事を召し上がられるようになりましたので、ルーディーさまの体液はアズールさまにとってはお薬と同じでございます。妊娠中はお薬が飲めないこの状況で、ルーディーさまの体液はアズールさまの万能薬だと言っていいでしょう。なぜここまで効果があったかは推測になりますが、恐れながらルーディーさま……アズールさまに幼少期から体液を定期的にお与えになっておられましたか?」
「えっ……あ、ああ。結果的に与えていたことになるのだろうな」
そう言って、私は、離れて暮らすアズールにマーキングのために定期的に自分の蜜を染み込ませたブランケットを渡していたことを告げた。
「アズールは眠りながらそれを吸っていたから、結果的に摂取していたことになったのだろうな」
「なるほど……そういうことでございましたか。だからなのですね。アズールさまがこれまで健やかにお過ごしになられていたのは。やはり、ルーディーさまの体液、特に蜜にはアズールさまの体調を整える作用があると思われます。ご懐妊で体調を崩されたのは今までに摂取した体液の効果を全て使い果たされたからでしょう。とすれば、アズールさまには積極的にルーディーさまの体液を摂取なさることをお勧めします」
「ということは、アズールとの閨は……」
「激しくなさるのは母体とお子さま方のお命を危険に晒しますのでお控えいただきたいですが、優しくなさるのはアズールさまの体調のためにもよろしいかと存じます。体液の中でも一番蜜が成分が強いですので、それを飲ませるだけでも十分かと」
「激しくしなければ良いということだな?」
「はい。ただ体調によっては避けられて蜜だけをお飲ませになるように対応していただきたいと存じます」
「わかった、それは約束しよう」
アントンから事実上の許可が出たことで、私は早馬を出すのを一旦保留にしてすぐにアズールの元に戻った。
「どうした? 検査で疲れたか?」
「ううん、そうじゃなくて……そろそろ、お義父さまと爺に赤ちゃんのこと、直接報告した方がいいかなって」
「アズール……」
父上には、義父上と義母上がアズールの妊娠を伝えに行ってくれたが、最初はすぐに宴をしようと大騒ぎしていたらしい。
父上なりにアズールのことを思ってくれているが故のことだとはわかっているが、流石に妊娠したばかりの不安定な時期にそんなことは絶対にさせられない。
義母上がしっかりと父上に話をしてくれたおかげで、父上は無闇矢鱈に連絡してくることもなくじっと見守ることにしてくださったようだ。
時折、アズールが好みそうな菓子や食材が届くのも父上の優しさの表れなのだろう。
私もそろそろ父上を呼んでもいいかと思ったこともあったが、アズールの体調が良くなってきたとはいえ、まだ万全ではない。
父上と会えば、自由奔放に見えるアズールでさえも少なからず緊張もするだろうし、人を迎え入れるのは疲れもするだろう。
アズールと腹の子たちに何かあったらと思うとなかなか許可は出せずにいた。
「先生……少しくらいは平気ですよね?」
「そうですね……今日のアズールさまを拝見する限りでは、大丈夫かと存じます。ただ、お会いになられる時に少しでもご気分が悪かったり、話の途中でもお疲れになったと感じた場合はすぐにお休みになってください。それがお約束いただけるのでしたら主治医として、許可をお出しすることはできますよ」
アントンの言葉に少し考えるが、私も別に父上を排除したいわけではない。
「わかった。じゃあ、そのように父上に話をしてみよう。アズールが会いたいといえばすぐに飛んできそうだがな」
「お義父さまと爺に会うのは久しぶりだもんね。あ、でも赤ちゃんが二人っていうのは、まだ内緒にしててね。会った時、報告するんだぁ!」
「ああ、わかったよ。そうしよう。じゃあ、早速早馬を出すように頼んでくるからアズールはここで待っていてくれ」
「うん、わかったー!」
アズールを部屋に残し、アントンと部屋を出たのは気になったことをしっかりと聞いておくためだ。
「アズールは本当に大丈夫か?」
「はい。ルーディーさまのおかげでアズールさまがお食事を召し上がれるようになりましたから、最近は体力もしっかりついてきていますよ。お腹のお子さま方も順調に大きくなっておられますし、ベッドから下りて歩き回ったりされずに、お話をなさるだけでしたら問題はございません」
「そうか……なら、よかった」
「ふふっ」
「何がおかしい?」
「失礼いたしました。アズールさまのことをこれほど真剣にお考えくださる、ルーディーさまのようなお方がついていてくださったらアズールさまもさぞご安心なさるだろうと思っただけです」
「アズールは私の人生を大きく変えてくれた大切な存在だからな。それに私との大切な子をあの小さな身体で育ててくれているのだ。真剣に考えるのは当然だろう?」
「ルーディーさまのようなお方ばかりがいらっしゃれば、全ての妊婦は幸せで過ごせますよ。何かご不安なことがございましたら、何なりとお聞きください」
そう言われて、私はずっと聴きたかったことを尋ねることにした。
「それならば、ひとつ聞きたいことがあるのだが……」
「なんでございましょう?」
「その、なんだ……閨、のことなのだが……」
あれだけアズールが心配だと言っておきながら、こんなことを尋ねるのは人としてどうかと思われるだろうか……。
だが、私としても限界なのは事実なのだ。
だから知っておきたい、それだけだ。
「子が生まれるまでは、避けるべき、なのだろうな?」
ここでそうだと言われたら、それは我慢するしかない。
可愛らしいアズールを前に18年も待ち続けたのだ。
数ヶ月くらい、アズールと子のために我慢して見せる。
「ルーディーさま。私は感動しております」
「どういうことだ?」
「失礼を承知でお話しさせていただきますが、今までの獣人のお方はお相手が妊娠中であってもその欲を満たされていたと伺っております。もちろん、ウサギ族はそんな欲を受け止められるだけの力をお持ちですが、激しさがゆえに少なからず子が流れたこともあると聞き及んでおります」
「な――っ、そのようなことが?」
「はい。ですが今のお話ですと、アズールさまのご懐妊が判明してからルーディーさまはお手をお出しになっていらっしゃらないのでしょう?」
「あ、ああ。アズールと子に負担がかかると思ったからな。それにアズールの体調も万全ではなかっただろう?」
「そうでございますね。ですが、それを考慮できないのも獣人のお方の特徴でございました。ですから、私は感動しているのです」
「今までの獣人がどうかわからんが、私は自分の欲のためにアズールと子を危険に晒したくないだけだ。それがアズールの伴侶として、子らの父として当然のことだろう」
「はい。それでも素晴らしいことでございます。結果からお伝えしますと、交わり自体は悪いことではございません」
「そ、そうなのか?」
絶対にダメだと言われると思っていただけにアントンの言葉は驚きでしかなかった。
「はい。アズールさまは特に、ルーディーさまの唾液でお食事を召し上がられるようになりましたので、ルーディーさまの体液はアズールさまにとってはお薬と同じでございます。妊娠中はお薬が飲めないこの状況で、ルーディーさまの体液はアズールさまの万能薬だと言っていいでしょう。なぜここまで効果があったかは推測になりますが、恐れながらルーディーさま……アズールさまに幼少期から体液を定期的にお与えになっておられましたか?」
「えっ……あ、ああ。結果的に与えていたことになるのだろうな」
そう言って、私は、離れて暮らすアズールにマーキングのために定期的に自分の蜜を染み込ませたブランケットを渡していたことを告げた。
「アズールは眠りながらそれを吸っていたから、結果的に摂取していたことになったのだろうな」
「なるほど……そういうことでございましたか。だからなのですね。アズールさまがこれまで健やかにお過ごしになられていたのは。やはり、ルーディーさまの体液、特に蜜にはアズールさまの体調を整える作用があると思われます。ご懐妊で体調を崩されたのは今までに摂取した体液の効果を全て使い果たされたからでしょう。とすれば、アズールさまには積極的にルーディーさまの体液を摂取なさることをお勧めします」
「ということは、アズールとの閨は……」
「激しくなさるのは母体とお子さま方のお命を危険に晒しますのでお控えいただきたいですが、優しくなさるのはアズールさまの体調のためにもよろしいかと存じます。体液の中でも一番蜜が成分が強いですので、それを飲ませるだけでも十分かと」
「激しくしなければ良いということだな?」
「はい。ただ体調によっては避けられて蜜だけをお飲ませになるように対応していただきたいと存じます」
「わかった、それは約束しよう」
アントンから事実上の許可が出たことで、私は早馬を出すのを一旦保留にしてすぐにアズールの元に戻った。
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