上 下
63 / 85
番外編

クリスマス2日前の楽しい家族デート 4

しおりを挟む
個室に案内され、4人で向かい合わせに座る。
もちろん私の前には理央。

美味しそうに食べているのをじっくりと見られる特等席。

まぁ、本当は私も凌也のように理央に料理を食べさせてやりたいけれど、それは凌也が許してくれないだろうし、私も久嗣さんとゆっくり食べたいから、それは諦めておこう。

理央と一緒に食べられるだけで幸せだものね。

成人したとはいえ、まだお酒を飲める年齢ではない理央とお酒に弱い私は、最高級のマスカットを使ったジュースをワイングラスでいただくことにした。

グラスだけでも凌也と同じにすると、理央がとっても喜ぶのよね。

今日の料理は創作フレンチ。
箸でもいただけるお店だから、理央も緊張せずに料理を楽しめるという久嗣さんの気遣い。
とはいえ、理央の料理は箸だろうがナイフとフォークだろうが、凌也が食べさせるのだから関係ないのだけど、目の前にナイフとフォークが置いてあったら理央が緊張しちゃうものね。

だからそれでいいの。

「かんぱーいっ!」

楽しそうにグラスをあげる理央を微笑ましく見つめる私たち3人。
やっぱり理央が来てくれて、うちの家族の雰囲気はかなり柔らかくなった。
元々仲が悪いなんてこと全くないけれど、凌也は中学生の頃から大人びた雰囲気で、勉強や運動なんかはともかく、人間関係……特に恋愛に関しては一線を引いてのめり込むなんてことは絶対になかった。
だからだろうか、私と久嗣さんが仲良くしているのを邪魔しないようにさりげなく距離を取ったりしていると感じるところもあった。

――あいつが、本当に好きになれる相手を見つけるまで、我々は見守っていてあげよう。

久嗣さんはよくそう言ってたっけ。
自分も同じだったから気持ちがわかるんだって。

――麗花に会ってから、私は好きという感情を知ったんだ。

だから、いつか凌也にも……と思っていた相手がまだ18になったばかりでしかも不幸な境遇で人生を過ごしてきた男の子だと知った時には驚きもしたけれど、今までと明らかに違う様子に、絶対に反対してはダメだと悟ったの。

実際に会ってみて、すぐに理央を好きになった。
こんなに可愛い子が私の息子になるというその事実がたまらなく嬉しくて、私の人生にさらなる潤いが増えた。

「理央、あ~ん」

美味しそうに凌也から食べさせてもらう姿を見つめながら、家族水入らずの至福のひととき。
ああ、もう最高っ!!

「それで、明後日からのフランス旅行の準備はもう万全なのか?」

「ああ、ロレーヌ総帥が何から何まで手配してくれているから、俺たちは空港に行くだけだよ」

「あっ、今日買ったお洋服はちゃんとキャリーに詰めてね」

「わかってるって。今日のセーター、理央も気に入っていたみたいだったからな」

「はい。すっごく柔らかくて着心地もよかったです」

「ふふっ。よかったわ。またフランスから帰ってきたらお出かけしましょうね。フランスのお土産話もたっぷりと聞かせて頂戴」

「はいっ!! ぜひっ!!」

嬉しそうに声を上げる理央を、私も久嗣さんも、そしてもちろん凌也も微笑ましく見つめていた。


食事もあっという間に終わり、後は理央とデザートを食べる予定。
もうすぐクリスマスだから、少し早めのクリスマスケーキを頼んでいるの。

ああ、理央の喜ぶ顔が楽しみだわ。


「お待たせいたしました」

「わぁっ!! すごいっ!!」

理央は運ばれてきたクリスマスケーキに目を輝かせている。
そうっ!
この顔が見たかったの。


昼間もイチゴを食べたけれど、やっぱりクリスマスケーキには生クリームとイチゴじゃないとね。
それに、サンタクロースとチョコレートの木のお家も。

「お母さんっ、お父さん。僕……こんなすごいケーキ、初めて見ました!」

理央が夢見てた王道ケーキだと思ってお願いしたけれど、理央はこのケーキの存在すらも知らない状況にいたんだと改めて感じさせられる。

「このサンタとお家は理央のだからね」

「いいんですかっ??」

「もちろんっ!!」

「わぁーっ、でもこんなに可愛いのに、食べちゃうの勿体無いな」

お皿に乗ったケーキの上に凌也が綺麗に飾ったけれど、理央は嬉しそうに見つめるだけ。
でも、理央の気持ちもわかるのよね。

そんな理央の姿を微笑ましく思いながら、久嗣さんとコーヒーを楽しんでいると、凌也が理央に耳打ちを始めた。

んっ? どうしたのかしら?

そう思っていると、理央は急に緊張した表情で凌也からバッグを受け取った。

久嗣さんも理央の行動がわからないみたい。

何も言葉を発さずにただ見ていると、理央はバッグから綺麗にラッピングされた袋を2つ取り出した。

えっ……これ、まさか……

「あの、お父さんとお母さんに……僕からの、クリスマスプレゼントです……気に入ってもらえるかわからないですけど、使ってもらえたら嬉しいです」

理央、からの……クリスマス、プレゼント……。

そんなこと、思っても見なかった。

あまりの嬉しさにプレゼントをもらう手が震える。

「あり、がと……」

そう言うのが精一杯で、久嗣さんに抱きしめられながら包みを開けると、中から淡い桜のような綺麗なピンク色の手袋が出てきた。

「えっ――、これ……まさかっ……」

「そう、理央の手編みなんだよ。父さんと母さんのために一生懸命編んでたんだ」

「ほおっ、これが手編みとは思えんな。いや、実に上手に編めてる。素晴らしいな」

これを、理央が……。
わっ、どうしましょう……。

嬉しすぎて、なんだか……おかしくなってきちゃった。

何か、お礼の言葉を言わないといけないのに……嬉しすぎて言葉が出てこない。

どうしようと思っているとスッと久嗣さんが私の顔にハンカチを当ててくれた。

「あっ……」

「いいよ、理央の贈り物が嬉しかったんだな」

気づけば、私は涙を流してしまっていた。

「お母さん……」

「麗花は嬉しすぎて言葉が出なかったようだよ」

久嗣さんのその言葉に、理央が私のそばに駆け寄ってきてくれる。

「お母さん……」

「理央っ、ありがとう。本当に嬉しいわ。一生大切にするから」

そう言って理央を抱きしめたけれど、その時だけは凌也も理央を奪いにはこなかった。



「すごくあったかくて綺麗な色ね。この色は誰が選んだの?」

「もちろん、理央だよ。母さんのイメージなんだろう?」

凌也が理央に尋ねると、理央は嬉しそうに笑顔を浮かべながら、

「お母さんの名前、綺麗な花って書いて、麗花さんですよね。僕にとって、一番綺麗な花は桜なので……それしか思いつかなくて……」

と少し恥ずかしそうに答えてくれた。

「ふふっ。嬉しいわ。私の父も、そう言って私の名前をつけてくれたそうよ」

「えっ……本当ですか?」

「ええ。だから、私も桜が大好き」

「お母さん……」

父の名前の由来を聞いた時から、私は桜が好きになった。
そして、今、改めて桜が大好きになった。

今度の春は、理央を連れてお花見にでも行きたいわ。
満開の桜の下で、可愛い息子と手を繋いで歩きたい。

凌也が許してくれれば……だけど。

ああ、今年はクリスマス前から幸せをもらったわ。



  *   *   *


次回クリスマスの朝のお話で一旦終了です。
どうぞお楽しみに♡
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...