73 / 77
番外編
学生時代の思い出 <中編>
しおりを挟む
サクッと終わらそうと思ったんですが、新入生ならこういう行事もあるよね……と思いついて一話増えました(汗)
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
今日は新入生行事の一つ。
身体測定と健康診断がある。
学生が多いから学部ごとに日にちが分けられていて、俺たち経済学部(男子)は今日の午前中の三時間の間に、個人票を片手に各々で空いているところから回り、最後に総務課に提出することになっていた。
ちなみに女子は午後の三時間で、全ての時間帯で他学部の学生と異性は完全立ち入り禁止となっている。
指定された日に受けられない場合には各自で病院に行き、結果を学校に提出しなければならないことになっていて、その診断書代も含めて全て自己負担な上に時間も手間もかかることから、ほとんどの学生が都合をつけてやってくる。
俺たちも例に違わず、それを受けることにしたのだが、どうも浅香の様子がおかしい。
そういえば、さっさと行って早く終わらそうぜと声をかけた時から何だかおかしかった。
「浅香、どうしたんだ?」
「いや、これ全員で一緒にやるのか?」
「全員でって、流れ作業みたいなもんだろ、こういうのは」
「流れ作業?」
俺の言葉にどうやらピンときていないらしい。
「高校の時もやっただろう? 例えば、一組は身長から測って、二組は体重とか、もう忘れたのか?」
「それが普通なのか?」
「普通かどうかはわからないけど、そういうのが多いと思う。桜守は違うのか?」
「うちは身体測定と健康診断の時はそれぞれのかかりつけの病院から先生が来てくれて、病院ごとにそれぞれ臨時の診察室ができるんだ。それで一人ずつ、診察室に入って診てもらう感じかな。だから、ああやって上半身裸で並んで待ってたりとかなかったからびっくりして……」
「…………あー、なるほど」
さすが桜守としか言いようがない。
「えっ? じゃあ、体育の授業の着替えとかどうしてたんだ?」
「えっ? だって、更衣室にはそれぞれ個室があるだろう? 狭いけど、一人で着替えるには十分だし」
「…………そうか」
だから水泳も楽しそうとか言ってたんだ。
個室なら誰の目も気にせずに着替えられるからな。
ああ、もう根本から違ったな。
そもそも俺らがいた高校と桜守を一緒にしたのがダメだった。
「でも、大学ではこういうシムテムならそれに従うよ。上の服を脱いで並んで待つんだよな」
浅香がちらりと見た方向には、上半身裸でこっちを……いや、浅香を見て、ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべる奴らがいた。
あいつら、絶対に浅香の裸見るのが目的だろ。
こっそり写真でも撮られたら最悪だ。
「いやいや、ちょっと待て。今日はここで受けないでおこう。お前のかかりつけの病院に行こうぜ」
「えっ、でもわざわざ行くのも面倒だろ? それに、生まれた時からずっと診てくれてた先生が、ついこの前引退したから新しいかかりつけの病院を探しているところなんだ。だからどっちにしても診てもらうのは無理だし」
「ああ、わかった。じゃあ、いい病院を紹介するよ。それならいいだろう?」
「えっ? どこ?」
「うちの両親の病院」
「はっ? えっ? 倉橋の両親って医者なの?」
「ああ、ちょうど今日は休診日だから今から開けてやってもらうよ」
「そんな、いいのか?」
「ああ、浅香のこと話したら一度会ってみたいって話してたしな。ちょうど良かったよ。そうと決まれば善は急げ。すぐに行こうぜ。蓮見、俺、親に電話していくから、先に駐車場行っておいてくれ」
「オッケー」
蓮見が浅香を連れていくのを見送りながら、俺は急いで父親に電話をかけた。
ーどうした? 珍しいな、お前から電話してくるのは。
ーああ。ちょっと頼みたいことがあって……
そう言って浅香の話を伝えると、
ーははっ。さすが桜守の子だな。そんなことになるかと思ってたんだよ。
ーそうなのか?
ーああ。私たちも桜守に呼ばれて健康診断しているからな。
ー知らなかった……。
ーそれだけ秘匿事項になってるってことだよ。
ーなるほど。
ーじゃあ、浅香くんは瞳子に診させよう。お前と涼平くんは私が診る。
ーああ、それで頼むよ。今からすぐに行くから。
ーわかった。準備しておくよ。
電話を切った後、俺はほっと息を吐いた。
今日ほど、両親が医者であったことを幸運だと思ったことはない。
その後、浅香を俺の車に乗せて、蓮見は後ろからついてきて、二台の車で両親の病院に向かった。
浅香の顔を見た途端、母が大喜びしていたのは、ずっと可愛い息子が欲しいと言っていたからだろう。
両親のおかげで無事に身体測定と健康診断を終えられて本当に良かった。
ああ、それにしても桜守……すごいな。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
今日は新入生行事の一つ。
身体測定と健康診断がある。
学生が多いから学部ごとに日にちが分けられていて、俺たち経済学部(男子)は今日の午前中の三時間の間に、個人票を片手に各々で空いているところから回り、最後に総務課に提出することになっていた。
ちなみに女子は午後の三時間で、全ての時間帯で他学部の学生と異性は完全立ち入り禁止となっている。
指定された日に受けられない場合には各自で病院に行き、結果を学校に提出しなければならないことになっていて、その診断書代も含めて全て自己負担な上に時間も手間もかかることから、ほとんどの学生が都合をつけてやってくる。
俺たちも例に違わず、それを受けることにしたのだが、どうも浅香の様子がおかしい。
そういえば、さっさと行って早く終わらそうぜと声をかけた時から何だかおかしかった。
「浅香、どうしたんだ?」
「いや、これ全員で一緒にやるのか?」
「全員でって、流れ作業みたいなもんだろ、こういうのは」
「流れ作業?」
俺の言葉にどうやらピンときていないらしい。
「高校の時もやっただろう? 例えば、一組は身長から測って、二組は体重とか、もう忘れたのか?」
「それが普通なのか?」
「普通かどうかはわからないけど、そういうのが多いと思う。桜守は違うのか?」
「うちは身体測定と健康診断の時はそれぞれのかかりつけの病院から先生が来てくれて、病院ごとにそれぞれ臨時の診察室ができるんだ。それで一人ずつ、診察室に入って診てもらう感じかな。だから、ああやって上半身裸で並んで待ってたりとかなかったからびっくりして……」
「…………あー、なるほど」
さすが桜守としか言いようがない。
「えっ? じゃあ、体育の授業の着替えとかどうしてたんだ?」
「えっ? だって、更衣室にはそれぞれ個室があるだろう? 狭いけど、一人で着替えるには十分だし」
「…………そうか」
だから水泳も楽しそうとか言ってたんだ。
個室なら誰の目も気にせずに着替えられるからな。
ああ、もう根本から違ったな。
そもそも俺らがいた高校と桜守を一緒にしたのがダメだった。
「でも、大学ではこういうシムテムならそれに従うよ。上の服を脱いで並んで待つんだよな」
浅香がちらりと見た方向には、上半身裸でこっちを……いや、浅香を見て、ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべる奴らがいた。
あいつら、絶対に浅香の裸見るのが目的だろ。
こっそり写真でも撮られたら最悪だ。
「いやいや、ちょっと待て。今日はここで受けないでおこう。お前のかかりつけの病院に行こうぜ」
「えっ、でもわざわざ行くのも面倒だろ? それに、生まれた時からずっと診てくれてた先生が、ついこの前引退したから新しいかかりつけの病院を探しているところなんだ。だからどっちにしても診てもらうのは無理だし」
「ああ、わかった。じゃあ、いい病院を紹介するよ。それならいいだろう?」
「えっ? どこ?」
「うちの両親の病院」
「はっ? えっ? 倉橋の両親って医者なの?」
「ああ、ちょうど今日は休診日だから今から開けてやってもらうよ」
「そんな、いいのか?」
「ああ、浅香のこと話したら一度会ってみたいって話してたしな。ちょうど良かったよ。そうと決まれば善は急げ。すぐに行こうぜ。蓮見、俺、親に電話していくから、先に駐車場行っておいてくれ」
「オッケー」
蓮見が浅香を連れていくのを見送りながら、俺は急いで父親に電話をかけた。
ーどうした? 珍しいな、お前から電話してくるのは。
ーああ。ちょっと頼みたいことがあって……
そう言って浅香の話を伝えると、
ーははっ。さすが桜守の子だな。そんなことになるかと思ってたんだよ。
ーそうなのか?
ーああ。私たちも桜守に呼ばれて健康診断しているからな。
ー知らなかった……。
ーそれだけ秘匿事項になってるってことだよ。
ーなるほど。
ーじゃあ、浅香くんは瞳子に診させよう。お前と涼平くんは私が診る。
ーああ、それで頼むよ。今からすぐに行くから。
ーわかった。準備しておくよ。
電話を切った後、俺はほっと息を吐いた。
今日ほど、両親が医者であったことを幸運だと思ったことはない。
その後、浅香を俺の車に乗せて、蓮見は後ろからついてきて、二台の車で両親の病院に向かった。
浅香の顔を見た途端、母が大喜びしていたのは、ずっと可愛い息子が欲しいと言っていたからだろう。
両親のおかげで無事に身体測定と健康診断を終えられて本当に良かった。
ああ、それにしても桜守……すごいな。
662
お気に入りに追加
1,489
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる