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大事な話

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「おお、倉橋。お疲れ~!」

うーん、声をかけてくる浅香はいつもと同じように見えるが、なんとなく違う気がするんだよな。
なんだ? どこが違うんだ?

「ああ、蓮見はまだか?」

「そろそろくるはずだけど、今日は朝陽くんをスタジオまで送ってから来るって言ってたからな」

「ふーん。なぁ、浅香……」

「なんだ?」

「お前、なんかあったか?」

「ぶっ、ゴホッ、ゴホッ」

俺の言葉に浅香は飲みかけのコーヒーを勢いよく吐き出した。

「な、なんで?」

「いや、なんとなく?」

不思議そうな表情で俺を見つめる浅香にやっぱり違和感は拭えなかったが、

「おお、お前たち早かったな」

という蓮見の声にうやむやになってしまった。

浅香は蓮見がくると途端に緊張したような面持ちになって、

「ちょっと大事な話があるんだが……」

と俺たちを事務所にある自室へと連れて行った。

「なんだ? どうしたんだ?」

戸惑う俺をよそに蓮見は何もかもわかったような表情で、

「やっぱり落ちたか……」

と言い出した。

落ちた?
一体なんのことだ?
と思っていると、浅香の口から衝撃的な言葉が告げられた。

「俺……大切なパートナーができた。俺はその人と一生を共に歩んでいきたいと思ってる」

まさか浅香にそんな大事な人が現れたとは思ってもみなかった。
驚く俺の隣で蓮見は

「お前が覚悟したなら祝福する」

と全てを知っているような口ぶりだ。

詳しく話すように詰め寄ると、浅香は笑って浅香の相手を教えてくれた。

えっ? 浅香の大事な人が蓮見の兄貴・周平さん……?
いつの間にそんなことに?
俺が東京を離れるまではそんな素振りも何もなかったよな?
何がどうなってこんなことになったんだ?
もう驚きすぎて声も出ない。

驚く俺を他所に浅香は嬉しそうに周平さんとの出会いから今日までの出来事を教えてくれた。

話すこと全てが驚くべき内容だったが、遊びでの恋愛もなかったような浅香がこんな頬を緩ませて幸せそうに周平さんのことを話しているのをみると、いい相手に巡り会えて良かったと思わずにはいられない。

周平さんのことは事務所を設立した頃に一度蓮見に紹介してもらったことがあったが、やたら俺のことを見ていたんだよな。
なんであんなに見られているんだろうとあのときは不思議だったが、蓮見から俺が浅香を狙ってそうだったら、共同経営は辞めさせるつもりだったと周平さんが言ってたと聞き、心から良かったと思った。

しかし、俺たち3人全員が同性の恋人を作るとはな……こういうところまで俺たちは似ているということなんだろう。

それにしても今日は奴らの制裁について蓮見と浅香に協力を依頼するつもりで航のことを話そうと考えていたが、正直なところどうやって話を切り出そうかとタイミングを計っていた。
まさかこんな良い機会が巡ってくるとは思いもしなかったが、これなら話もしやすいな。

俺は浅香の話が一段落するのを待って俺と航の話を切り出した。

俺の会社に応募してきたのが、偶然にも浅香のホテルで被害に遭いそうになった相手だったというところから、今日までの出来事を全て話し切ると、浅香も蓮見も驚きと同時に怒りを滲ませていた。

「お前の大事な人は今は大丈夫なのか?」

「ああ。今、俺の家に住まわせてる。前のアパートは奴らに知られてるからな」

「そうか、お前の家にいるなら安心だな」

蓮見も浅香も俺を見ながら少しホッとした表情になった。
こんなふうに真剣に考えてくれるから、俺はこいつらとずっと親友としていられるんだ。

「それでその会社への報復はできてるんだな?」

「ああ、そっちの方は安慶名さんとうちの砂川に任せているから、全く問題ない。明日明後日には全て明るみに出るだろう。今回お前たちにこの話を持ちかけたのは協力してほしいことがあって……」

そう言って俺は、航を殴りつけた上司、薬を盛って襲おうとしたGK興業の沼田、そして、航の義父の3人への報復計画を話した。

「3人の所在に関してはすでに調査済みだ。大体の行動も把握してるからすぐに誘き出せるぞ。ほら、これ」

俺は二人の前にばさっと資料を置いた。
それには写真付きで奴らのここ数日の行動が事細かに書かれている。
これらは全て安慶名さんの知り合いだという探偵のユウさんが調査してくれたものだが、彼にはこれまでもいろいろな面でお世話になっている。
一般的な興信所の料金よりはかなりの高額だが、調べるスピードは元より調査内容にも間違いなど一切なく、それを考えれば安いと思えるほどの仕事をしてくれる。

「さすが、仕事が早いな」

それらを食い入るように見ながら、浅香が笑顔で尋ねてくる。

「この義父には儲け話をちらつかせたらすぐに引っかかりそうじゃないか?」

「そうだな。なら、兄貴に頼むか?」

「ええっ? なんで周平さん??」

蓮見からの提案に浅香は驚いていたが、確かに俺たち三人より周平さんの方が貫禄もあるし、説得力がありそうに見えるな。

「俺も蓮見よりは周平さんが適任だと思う」

「えーっ、で、でも忙しいから難しいかも……」

「いやいや、お前が頼んだら兄貴はすぐにオッケーするよ。ほら、倉橋とその大事な人のためにお前がひと肌脱いでやれよ」

「浅香、頼む!!」

俺が手を合わせて拝むと、

「ゔーっ、わかったよ」

と言ってすぐにスマホを取り出した。
流れるような手つきでメッセージを送るとすぐにピコンと返事が返ってきた。

浅香はそれを見ながら

「オッケーだって。今からこっちにきてくれるみたいだよ」

と俺たちに知らせている最中にもう一度ピコンとメッセージが入った。

浅香はそれを見て一瞬にして顔を赤らめた。
きっと周平さんから何かしらの愛の囁きでも入っていたんだろう。

いまいち信じられずにいたが、本当に恋人なんだな。
浅香のこんな反応を初めてみるから正直驚きしかない。

蓮見はこんな浅香の姿も見慣れたと言った様子で、

「それでこっちの奴の囮には誰を使う?」

と話題をさらっと変えてきた。

「ああ、そっちは朝陽くんにお願いしたいん――」
「ダメに決まってるだろっ!!!!」

ダメもとで話した俺の提案に蓮見は間髪入れずに断ってきた。
やっぱりダメか……。
朝陽くんなら完璧なんだがな……。

仕方ない。

「なら、うちの若い子たちか……それか、蓮見……お前のところの新川くんと盛山くんに頼むのはどうだ?」

「あの子たちに?」

「ああ、石垣での馬鹿な女たちを嵌めるのにも協力してもらったんだが、あっという間に引っ掛けてくれて助かったんだ。航のことを狙っていた沼田なら、盛山くんに簡単に落ちるだろ? 一人じゃ危ないから新川くんも一緒にさ。お前から頼んでくれないか?」

「うーん、俺が頼めばやってくれるとは思うがとりあえず連絡してみるよ。元々あの子たちは来週、研修で東京の店舗に来させる予定だったから、もしやってくれるならその研修の予定を早めればいいし。その代わり、あの子たちに礼はしてくれるんだろうな?」

「ああ。もちろんだ。謝礼は払うし、希望を言ってもらえればなんでも叶えるよ」

「ははっ。わかったよ。連絡してみる」

あの二人がやってくれるなら、もう成功の未来しか見えないな。
俺は本当に周りに恵まれている。
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