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航の過去と新事実
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いつも読んでいただきありがとうございます!
未成年の相続等に関して色々と細かい法律があるのですが、作品の都合上その点は省略しています。
あくまでもフィクションとしてお楽しみください♡
新幹線を降り、前もって指定された場所へと向かうとタクシーは住宅街にある一軒家の前で止まった。
ここが約束の場所?
もしかして栗原先生とやらの自宅か?
少し緊張しながら玄関の呼び鈴を鳴らすと、玄関モニターから『どちら様ですか?』と声が聞こえた。
「本日お約束をしております倉橋と申します」
そう声をかけると、すぐに玄関の引き戸がガラガラと開いた。
「初めまして、倉橋さん。栗原と申します。お待ちしておりました。さぁ、どうぞ」
案内された部屋は日当たりの良い畳間で奥には大きな仏壇が見えた。
随分と立派な仏壇だな。
そういえばこの辺りは豪華で大きな仏壇を揃えるのが普通なんだったか。
「私、観光ツアー会社『K.Yリゾート』と芸能事務所『テリフィックオフィス』の代表をしております倉橋祐悟と申します。本日はお時間をいただきありがとうございます」
俺は胸ポケットから名刺を取り出し、お茶を出してくれた栗原先生に差し出した。
栗原先生はそれをじっくりと見ながら、『K.Yリゾート……すごいな』とポツリと呟いていた。
どうやら俺の会社を知ってくれているらしい。
「これはご丁寧にありがとうございます。
私は昨年教員を定年退職いたしまして無職なもので名刺の持ち合わせがなく失礼いたします。
それで今日は藤乃くんのことについて話を聞きに来られたということでしたね」
「はい。藤乃くんの家庭環境や高校時代の話、そしてあの会社に就職するに至った経緯などもお教えいただければと思いまして今回お伺いした次第です」
「そうですか……。あの失礼ですが、倉橋さんは藤乃くんの再就職先の雇い主だと伺っておりましたが、それだけの御関係ですか? そんな話を聞きにわざわざこんな田舎まで足を御運びになるのには何か理由があるのではと思いまして」
鋭いな。
だが、この先生がどこまで信用できるかはまだわからない。
俺と航の仲はまだ言わずにいたほうがいいか。
俺は航が前就職先であった『玻名崎商会』で酷い目にあわされていたこと、
暴行を受けそうになったホテルが友人のホテルだったことから被害者である航を探していたということ、
航の家庭環境を知ってもしかしたら義父に騙されているのではないかと思い調査していること、
を話した。
栗原先生はそれをただじっと聞いていたが最後まで聞き終わるとゆっくりと口を開き、航のことについて語り始めた。
「そう、ですか……。なるほど。よくわかりました。
藤乃くんは私が思っていたよりもずっと過酷な日々を過ごしていたようですね……。
私の話が藤乃くんのためになるのでしたら、お話しさせていただきます。
実は、藤乃くんの父親と私は高校時代の同級生でしてね、お互いに家庭を持ってからは家族ぐるみの付き合いをしていました。普段は航くんと呼んでいたのでそう呼ばせていただきましょうか。
彼は私と同じ教員を、彼の奥さんは町の薬局で薬剤師をしていました。航くんが5歳の時に彼が交通事故で亡くなってからは母1人子1人で働きながら一生懸命育てていましたよ。航くんは父親と同じ山紅館高校に進学して弁護士になるんだと毎日勉強を頑張ってましたね。
猛勉強の甲斐あって航くんが合格した時は私たちも一緒に合格祝いをしたんですよ。
ちょうどその時私も山紅館高校に異動になって航くん、私と一緒に通えるようになったって喜んでくれたんですよね」
少し涙ぐんだ様子で話す姿に本当に仲が良かったのだと思った。
そうか、元々友人で家族ぐるみの付き合いだったのか。
やけに詳しいと思ったんだよな。
「ところが、状況が変わったのは、航くんが高校2年生になった頃だったでしょうか。突然、奥さん……航くんのお母さんが再婚されることになって、しかもそれがあんまり評判の良くない相手だったので、みんなして反対したんですけどね。航くんを守るためには仕方ないと言い張って、結局再婚したんです。その時は航くんの大学進学のためにお金が必要だとかそういうことなのだと思ってましたが、今考えてみればもしかしたら何か弱みを握られていたのかもしれませんね」
なるほど。
航の母親もまた、れいじとかいうやつに騙されてたってことだろうな。
「お母さんが再婚されてから、航くんは笑顔が少なくなりました。成績だけは落ちることはありませんでしたが、あの頃はいつ見ても無理してる表情をしてましたから顔見るたびに心配で。その上、高校3年生の秋にお母さんが事故で亡くなられてからは唯一の拠り所がなくなってしまったからか、勉強も諦めてしまったようで受験はしないと言い出しました。最初は肉親を亡くした悲しみのせいだと一生懸命説得してたんですが、お母さんの借金返済のために働かないといけないとポロッと零しているのを聞いて、その上、本人の就職への決意が強くて結局説得はできませんでした。
それならばとうちのOBやOGに航くんの就職先を斡旋してくれるように頼んだんですが、義父に紹介されたという会社に就職を決めたと言われて、そのまま航くんは卒業していきました。
東京に行ってからの航くんの動向が気になって私はずっと心配してたんです」
「藤乃くんが東京に就職してからは義父は1人でその家に?」
「はい。噂でしか聞いてませんが、義父は航くんが東京へ行って本当はすぐに家を売り払うつもりだったそうなんです。
ですが、名義が航くんになっていてどうにもこうにも売れず、結局はあの家に住みついたままになっています。今は時々、どこかへふらっと出ていってはまた舞い戻ってくるような生活で……」
「なるほど。その家の名義が藤乃くんということですが、家の税金やそのほかはどうなっているんでしょうか?」
就職してからは航は一度も実家には帰っていないといっていたし、そもそも航は父親と暮らした実家を守るために就職を決めたはずだ。実家が自分名義になっているなど知るはずもない。
『ああ、それなら……』
と栗原先生は急に立ち上がり、隣の部屋に会った箪笥の引き出しをゴソゴソと探し、何かを手に戻ってきた。
「これを……」
みると、航名義の通帳だ。
「拝見しても?」
「はい。どうぞ」
通帳を開いてみるとそこには8桁を優に超える金額が入っていた。
「これは……?」
「航くんの父親からの遺産です。
航くんの父親が亡くなった時、奥さんは夫婦としての共有財産を自分が引き継ぎ、航くんには父親が独身時代に貯めていた貯金の全てと家の名義を相続させたんです。その当時未成年だった航くんには私の妻が特別代理人になりました」
「奥さまが?」
「はい。私の妻は奥さんの遠縁にあたり法律関係の仕事をしているので手続きも全て滞りなく済ませました。
この通帳は奥さんがずっと保管していたのですが事故で亡くなる数ヶ月前にこれを預かって欲しいと頼まれまして。この通帳の件は義父には知らせていなかったようですね。私は時々記帳をしにいくだけですが、自宅にかかる税金などの費用はここから引き落とされています。本当はお母さんが亡くなられて航くんが借金に困っていると話を聞いたときにこの通帳を返そうと思っていたのですが、このことは航くんが20歳になるまでは絶対に誰にも言わないで欲しいと口止めをされていたんです。それで20歳の誕生日を迎える頃に手紙を送ったんですよ、お母さんから預かったのを渡したいからって。ですが、何度手紙を送っても返事は来ずじまいで何度か東京へ出向き家にも足を運んだんですが、自宅には戻ってきてないのか、いつ見にいっても郵便も溜まっていて……連絡が欲しいと書き置きも残したんですがね。ですから、今回ご連絡いただいてホッとしたというのが大きかったです。無事でいてくれたんだとね」
航の母親は自分の未来について何かを察知していたんだろうか。
8桁以上の金が入った通帳を預けるほどこの先生のことを信用していたんだな。
20歳まで渡さないように頼んだのはおそらく義父に取られないようにするため。
航はきっと先生からの手紙の存在にも気づいていなかっただろうな。
先生が航の家に行っても会えなかったのも無理はない。
ほとんど寝に帰るだけだったと言っていたし。
義父が今でもその家に住んでいるのなら探しやすいな。
すぐにでもとっ捕まえて制裁してやりたいが、航を酷い目に合わせたやつだ。
じっくり計画を練ってからにするか。
「藤乃くんが『玻名崎商会』に就職を決めた経緯はご存知ですか?」
「航くんが急に就職を決めたと言ってきてからは何度も聞いたんですが、あまり詳しいことは話してもらえなかったんですよ。ただ偶然町の飲み屋で義父が『息子が就職してくれたら金がたんまり入る』と話しているのを聞いたとそこのスタッフが教えてくれたことがあります」
「金がたんまり……そうですか。そのスタッフさんからお話を聞くことは可能ですか?」
「いえ、それが航くんが就職したころくらいでしょうか、店をやめたらしくて今はどこで何をしているか……」
「そうですか……その人の名前はご存じではないですか?」
『ああ、それなら……』と先生は自分の鞄に手を伸ばし、名刺入れから一枚の名刺を取り出した。
「この人ですよ。彼は山紅館に異動になる前に受け持っていた生徒で、その店に就職した時に作ってみたんだと一枚私にくれたんですよ」
「そうなんですか。これ、写真に撮らせていただいてもよろしいですか?」
「はい。構いませんよ」
俺はその名刺を撮り、後で安慶名さんと砂川に送ることにした。
聞きたいことは全部聞けたし、そろそろお暇するか。
「興味深い話を聞かせていただいて本当に助かりました。ありがとうございます」
「いいえ。あの、この通帳を航くんにお渡しいただけますか?
父親もそれを望んでいるでしょうから」
差し出した先生の手が少し震えているのは、ようやく航に渡せるとホッとしている証拠か。
「わかりました。私が責任持って藤乃くんに渡しておきます」
「よろしくお願いします」
頭を下げる先生の姿になんとなく家族の情のようなものが見えて、俺は違和感を感じた。
もしかして彼は……。
そう思った時、俺に目を向けた先生に
「お時間がありましたら、お参りして行かれませんか?」
と声をかけられた。
未成年の相続等に関して色々と細かい法律があるのですが、作品の都合上その点は省略しています。
あくまでもフィクションとしてお楽しみください♡
新幹線を降り、前もって指定された場所へと向かうとタクシーは住宅街にある一軒家の前で止まった。
ここが約束の場所?
もしかして栗原先生とやらの自宅か?
少し緊張しながら玄関の呼び鈴を鳴らすと、玄関モニターから『どちら様ですか?』と声が聞こえた。
「本日お約束をしております倉橋と申します」
そう声をかけると、すぐに玄関の引き戸がガラガラと開いた。
「初めまして、倉橋さん。栗原と申します。お待ちしておりました。さぁ、どうぞ」
案内された部屋は日当たりの良い畳間で奥には大きな仏壇が見えた。
随分と立派な仏壇だな。
そういえばこの辺りは豪華で大きな仏壇を揃えるのが普通なんだったか。
「私、観光ツアー会社『K.Yリゾート』と芸能事務所『テリフィックオフィス』の代表をしております倉橋祐悟と申します。本日はお時間をいただきありがとうございます」
俺は胸ポケットから名刺を取り出し、お茶を出してくれた栗原先生に差し出した。
栗原先生はそれをじっくりと見ながら、『K.Yリゾート……すごいな』とポツリと呟いていた。
どうやら俺の会社を知ってくれているらしい。
「これはご丁寧にありがとうございます。
私は昨年教員を定年退職いたしまして無職なもので名刺の持ち合わせがなく失礼いたします。
それで今日は藤乃くんのことについて話を聞きに来られたということでしたね」
「はい。藤乃くんの家庭環境や高校時代の話、そしてあの会社に就職するに至った経緯などもお教えいただければと思いまして今回お伺いした次第です」
「そうですか……。あの失礼ですが、倉橋さんは藤乃くんの再就職先の雇い主だと伺っておりましたが、それだけの御関係ですか? そんな話を聞きにわざわざこんな田舎まで足を御運びになるのには何か理由があるのではと思いまして」
鋭いな。
だが、この先生がどこまで信用できるかはまだわからない。
俺と航の仲はまだ言わずにいたほうがいいか。
俺は航が前就職先であった『玻名崎商会』で酷い目にあわされていたこと、
暴行を受けそうになったホテルが友人のホテルだったことから被害者である航を探していたということ、
航の家庭環境を知ってもしかしたら義父に騙されているのではないかと思い調査していること、
を話した。
栗原先生はそれをただじっと聞いていたが最後まで聞き終わるとゆっくりと口を開き、航のことについて語り始めた。
「そう、ですか……。なるほど。よくわかりました。
藤乃くんは私が思っていたよりもずっと過酷な日々を過ごしていたようですね……。
私の話が藤乃くんのためになるのでしたら、お話しさせていただきます。
実は、藤乃くんの父親と私は高校時代の同級生でしてね、お互いに家庭を持ってからは家族ぐるみの付き合いをしていました。普段は航くんと呼んでいたのでそう呼ばせていただきましょうか。
彼は私と同じ教員を、彼の奥さんは町の薬局で薬剤師をしていました。航くんが5歳の時に彼が交通事故で亡くなってからは母1人子1人で働きながら一生懸命育てていましたよ。航くんは父親と同じ山紅館高校に進学して弁護士になるんだと毎日勉強を頑張ってましたね。
猛勉強の甲斐あって航くんが合格した時は私たちも一緒に合格祝いをしたんですよ。
ちょうどその時私も山紅館高校に異動になって航くん、私と一緒に通えるようになったって喜んでくれたんですよね」
少し涙ぐんだ様子で話す姿に本当に仲が良かったのだと思った。
そうか、元々友人で家族ぐるみの付き合いだったのか。
やけに詳しいと思ったんだよな。
「ところが、状況が変わったのは、航くんが高校2年生になった頃だったでしょうか。突然、奥さん……航くんのお母さんが再婚されることになって、しかもそれがあんまり評判の良くない相手だったので、みんなして反対したんですけどね。航くんを守るためには仕方ないと言い張って、結局再婚したんです。その時は航くんの大学進学のためにお金が必要だとかそういうことなのだと思ってましたが、今考えてみればもしかしたら何か弱みを握られていたのかもしれませんね」
なるほど。
航の母親もまた、れいじとかいうやつに騙されてたってことだろうな。
「お母さんが再婚されてから、航くんは笑顔が少なくなりました。成績だけは落ちることはありませんでしたが、あの頃はいつ見ても無理してる表情をしてましたから顔見るたびに心配で。その上、高校3年生の秋にお母さんが事故で亡くなられてからは唯一の拠り所がなくなってしまったからか、勉強も諦めてしまったようで受験はしないと言い出しました。最初は肉親を亡くした悲しみのせいだと一生懸命説得してたんですが、お母さんの借金返済のために働かないといけないとポロッと零しているのを聞いて、その上、本人の就職への決意が強くて結局説得はできませんでした。
それならばとうちのOBやOGに航くんの就職先を斡旋してくれるように頼んだんですが、義父に紹介されたという会社に就職を決めたと言われて、そのまま航くんは卒業していきました。
東京に行ってからの航くんの動向が気になって私はずっと心配してたんです」
「藤乃くんが東京に就職してからは義父は1人でその家に?」
「はい。噂でしか聞いてませんが、義父は航くんが東京へ行って本当はすぐに家を売り払うつもりだったそうなんです。
ですが、名義が航くんになっていてどうにもこうにも売れず、結局はあの家に住みついたままになっています。今は時々、どこかへふらっと出ていってはまた舞い戻ってくるような生活で……」
「なるほど。その家の名義が藤乃くんということですが、家の税金やそのほかはどうなっているんでしょうか?」
就職してからは航は一度も実家には帰っていないといっていたし、そもそも航は父親と暮らした実家を守るために就職を決めたはずだ。実家が自分名義になっているなど知るはずもない。
『ああ、それなら……』
と栗原先生は急に立ち上がり、隣の部屋に会った箪笥の引き出しをゴソゴソと探し、何かを手に戻ってきた。
「これを……」
みると、航名義の通帳だ。
「拝見しても?」
「はい。どうぞ」
通帳を開いてみるとそこには8桁を優に超える金額が入っていた。
「これは……?」
「航くんの父親からの遺産です。
航くんの父親が亡くなった時、奥さんは夫婦としての共有財産を自分が引き継ぎ、航くんには父親が独身時代に貯めていた貯金の全てと家の名義を相続させたんです。その当時未成年だった航くんには私の妻が特別代理人になりました」
「奥さまが?」
「はい。私の妻は奥さんの遠縁にあたり法律関係の仕事をしているので手続きも全て滞りなく済ませました。
この通帳は奥さんがずっと保管していたのですが事故で亡くなる数ヶ月前にこれを預かって欲しいと頼まれまして。この通帳の件は義父には知らせていなかったようですね。私は時々記帳をしにいくだけですが、自宅にかかる税金などの費用はここから引き落とされています。本当はお母さんが亡くなられて航くんが借金に困っていると話を聞いたときにこの通帳を返そうと思っていたのですが、このことは航くんが20歳になるまでは絶対に誰にも言わないで欲しいと口止めをされていたんです。それで20歳の誕生日を迎える頃に手紙を送ったんですよ、お母さんから預かったのを渡したいからって。ですが、何度手紙を送っても返事は来ずじまいで何度か東京へ出向き家にも足を運んだんですが、自宅には戻ってきてないのか、いつ見にいっても郵便も溜まっていて……連絡が欲しいと書き置きも残したんですがね。ですから、今回ご連絡いただいてホッとしたというのが大きかったです。無事でいてくれたんだとね」
航の母親は自分の未来について何かを察知していたんだろうか。
8桁以上の金が入った通帳を預けるほどこの先生のことを信用していたんだな。
20歳まで渡さないように頼んだのはおそらく義父に取られないようにするため。
航はきっと先生からの手紙の存在にも気づいていなかっただろうな。
先生が航の家に行っても会えなかったのも無理はない。
ほとんど寝に帰るだけだったと言っていたし。
義父が今でもその家に住んでいるのなら探しやすいな。
すぐにでもとっ捕まえて制裁してやりたいが、航を酷い目に合わせたやつだ。
じっくり計画を練ってからにするか。
「藤乃くんが『玻名崎商会』に就職を決めた経緯はご存知ですか?」
「航くんが急に就職を決めたと言ってきてからは何度も聞いたんですが、あまり詳しいことは話してもらえなかったんですよ。ただ偶然町の飲み屋で義父が『息子が就職してくれたら金がたんまり入る』と話しているのを聞いたとそこのスタッフが教えてくれたことがあります」
「金がたんまり……そうですか。そのスタッフさんからお話を聞くことは可能ですか?」
「いえ、それが航くんが就職したころくらいでしょうか、店をやめたらしくて今はどこで何をしているか……」
「そうですか……その人の名前はご存じではないですか?」
『ああ、それなら……』と先生は自分の鞄に手を伸ばし、名刺入れから一枚の名刺を取り出した。
「この人ですよ。彼は山紅館に異動になる前に受け持っていた生徒で、その店に就職した時に作ってみたんだと一枚私にくれたんですよ」
「そうなんですか。これ、写真に撮らせていただいてもよろしいですか?」
「はい。構いませんよ」
俺はその名刺を撮り、後で安慶名さんと砂川に送ることにした。
聞きたいことは全部聞けたし、そろそろお暇するか。
「興味深い話を聞かせていただいて本当に助かりました。ありがとうございます」
「いいえ。あの、この通帳を航くんにお渡しいただけますか?
父親もそれを望んでいるでしょうから」
差し出した先生の手が少し震えているのは、ようやく航に渡せるとホッとしている証拠か。
「わかりました。私が責任持って藤乃くんに渡しておきます」
「よろしくお願いします」
頭を下げる先生の姿になんとなく家族の情のようなものが見えて、俺は違和感を感じた。
もしかして彼は……。
そう思った時、俺に目を向けた先生に
「お時間がありましたら、お参りして行かれませんか?」
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