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食事会の目的
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店に入ると、店主から
『砂川さん、あっちの部屋に案内したから』と声をかけられた。
どうやら俺たちのために個室を開けてくれたらしい。
「ありがとう。適当におすすめ料理を頼む」
「ああ。任せておいてくれ。航くん、ゆっくりしてってね」
「あ、はい。ありがとうございます」
店主は俺には見せたことのないような温かい眼差しで航を見つめる。
その眼差しに恋愛の情が見えないことにホッとしながら、会う人会う人を惹きつけてしまう航に少し心配が募った。
部屋に入ると、すでに数種類の料理と酒が運ばれていた。
「藤乃くんも少しはお酒が飲めると店主に伺ったので、軽めのお酒を注文しておきました。
社長は泡盛で良いですよね?」
「ああ。ありがとう。じゃあ食事にしようか」
俺と砂川は食事と酒を楽しみながら、交互に西表ツアーで体験した面白話や珍しい動物との遭遇話を航に話して聞かせた。
航はそれをキラキラした目で楽しそうに聞きながら、昨日よりも早いスピードで酒を呑み進めていた。
俺は昨日の呑みっぷりから、航はある程度の容量を超えると饒舌にしかも記憶を失くすタイプだと踏んでいた。
航の体調を見ながら砂川と2人で軽めのお酒を呑ませ続けると、最初は話を聞いているだけだった航が少しずつ話し始めた。
最初はたわいもない話から始めて、少しずつ質問を増やしていきそして俺は賭けに出た。
「航はどうして前の会社に就職を決めたんだ? ずっと行きたいと思っていたところだったのか?」
「ううん~、ちがう~。ぼくは、ほんとうはべんごしになりたくて~、ずっとべんきょうしてたんだぁ~。
でも、おかあさんがしんじゃってぇ、れいじさんがこまっててぇ、それではたらくことにしたんだよ~」
「航、れいじさんって誰なんだ?」
「れいじさんはぁ、おかあさんのさいこんあいて~」
「そうか。航のお父さんか」
「ううん~、ちがう~。おとうさんはもうしんじゃったの~。れいじさんはおとうさんじゃない~」
「そうか。それでなんでれいじさんは困るんだ?」
「あのね、おかあさんにしゃっきんいっぱいあって、ほけんにもはいってなかったからかえせないって。
そうなったらこのいえ、うらないといけなくなるって。ぼくね、あのいえがなくなるのやだったんだぁ~。
おとうさんとのおもいであのいえしかないから~」
「それで就職したのか?」
「うん。れいじさんがあのかいしゃのしゃちょうとしりあいで、ぼくが~そこではたらいたら、おかあさんのしゃっきんぜんぶはらってくれるって~。ちゃんといちにんまえにはたらけるようになったらきゅうりょういっぱいくれるってぇ~、だからあそこにしろっていわれて~きめたんだけど~、でも、まいにちざつようばっかりで~、やだった~。
でも、どうしよう~、やめちゃったから、おかねかえせっていわれちゃうかな~」
砂川はボイスレコーダーで今までの会話を録音しながら、俺の顔を見つめてくる。
きっと俺と同じことを思っているんだ。
そう、あの社長の狙いは航だ。
おそらく母親の借金の話は嘘だろう。
保険がないのも嘘だな。
きっと航の母親は航に保険金を残していたはずだ。
それに父親の保険金もきっと航に残していたはずだ。
れいじとかいう再婚相手はそれを全部航から奪ったんだろう。
航が実父と過ごした家を人質にとって嘘話をでっち上げたに違いない。
「大丈夫だ。心配しないでいい。私が航の大事な家を守ってやるよ」
「ほんと~? ふふっ。うれし~」
真っ赤な顔でふんわりとした笑顔を浮かべる航を見て心が痛くなった。
すぐにでも航の家を調べないとな。
それにしてもあの社長が航狙いだとしたらどうして航は5年もの間無事でいられたんだ?
昨夜の航の状態を見るに、航には身体を暴かれたような形跡は見られなかった。
あれは間違いなく初めての反応だったし、それは間違いない。
多分あの沼田以外にも幾度となく襲われかけているはずで、航が抵抗できるとは思えないんだが……。
「航は毎日あの会社で何やってたんだ?」
「えっとぉ~、そうじとかぁ、おきゃくさんがきたらおちゃだしたりとかぁ、あとはよくのみにつれていかれてたぁ~」
呑みに連れていかれて、航は今のような状態になって無事でいられるとは思えない。
「呑みに行って何かおかしなことはなかったか?」
「う~んと、いつもおぼえてないけどいえにかえってたぁ~」
記憶のない航を毎回家まで送り届けていた人がいたってことか?
気になるが、航が覚えていない以上はこれ以上聞いても無駄か……。
「航はあの会社に友達はいたか?」
「うーん? ともだちぃ? ともだちかはわかんないけどときどきやさしくしてくれるひとがいたぁ」
そこまで話すと航はそのまま畳に寝転んでスヤスヤと眠ってしまった。
「砂川、今の話どう思う?」
砂川はボイスレコーダーのスイッチをオフにして、眠る航にそっと目をやった。
「おそらく藤乃くんの知らないところでこっそり守ってくれている人がいたということでしょう。
そうでもなければ、藤乃くんが5年もの間無事でいられるわけがありません」
「ああ。そうだな。大っぴらに守るとバレて守れなくなるから普段は知らないふりをしていたってところか」
「多分その人が伊織さんの話していた協力者じゃないですか?」
「多分そうだろうな。俺は東京に帰ったら、その栗原先生に会って話を聞いてくるよ。お前はその協力者から詳しく話を聞いてきてくれ。そのボイスレコーダーの会話はコピーして俺と安慶名さんにも頼む」
「畏まりました。それにしても、そのれいじとかいう義父。酷すぎですね。
奴が藤乃くんを騙して奪ったお金は全部回収してもらいますから」
「そっちは安慶名さんに頼めば楽勝だろう。地獄まで回収に行かせよう」
いつになく冷淡な表情をしている砂川が恐ろしく思えたが、多分俺も変わらないほど奴らにムカついている。
航の人生奪ったやつは根こそぎ制裁してやる。
それにしても……必死に勉強していたんだろうに。
いきなり受験を断念しないといけない航の悔しさは如何程だっただろうな。
もし今でも航に弁護士になりたい気持ちがあるのなら俺はいくらでも応援しよう。
きっと安慶名さんも相談に乗ってくれるはずだ。
「そろそろ帰るか。安慶名さんにもよろしく言っておいてくれ」
「はい。社長、今日は藤乃くんには指一本触れないでくださいよ」
「お前、俺をどれだけケダモノだと思ってるんだっ! 俺が無理やりするわけないだろうがっ!」
俺は砂川に文句を言いつつ店主にお礼を言って、航を抱きかかえ自宅へと戻った。
今日はゆっくり休んで今までの嫌な思い出は全て忘れてくれ。
これから俺と一緒に楽しい時間だけ過ごして生きていこう。
航……愛してるよ。
『砂川さん、あっちの部屋に案内したから』と声をかけられた。
どうやら俺たちのために個室を開けてくれたらしい。
「ありがとう。適当におすすめ料理を頼む」
「ああ。任せておいてくれ。航くん、ゆっくりしてってね」
「あ、はい。ありがとうございます」
店主は俺には見せたことのないような温かい眼差しで航を見つめる。
その眼差しに恋愛の情が見えないことにホッとしながら、会う人会う人を惹きつけてしまう航に少し心配が募った。
部屋に入ると、すでに数種類の料理と酒が運ばれていた。
「藤乃くんも少しはお酒が飲めると店主に伺ったので、軽めのお酒を注文しておきました。
社長は泡盛で良いですよね?」
「ああ。ありがとう。じゃあ食事にしようか」
俺と砂川は食事と酒を楽しみながら、交互に西表ツアーで体験した面白話や珍しい動物との遭遇話を航に話して聞かせた。
航はそれをキラキラした目で楽しそうに聞きながら、昨日よりも早いスピードで酒を呑み進めていた。
俺は昨日の呑みっぷりから、航はある程度の容量を超えると饒舌にしかも記憶を失くすタイプだと踏んでいた。
航の体調を見ながら砂川と2人で軽めのお酒を呑ませ続けると、最初は話を聞いているだけだった航が少しずつ話し始めた。
最初はたわいもない話から始めて、少しずつ質問を増やしていきそして俺は賭けに出た。
「航はどうして前の会社に就職を決めたんだ? ずっと行きたいと思っていたところだったのか?」
「ううん~、ちがう~。ぼくは、ほんとうはべんごしになりたくて~、ずっとべんきょうしてたんだぁ~。
でも、おかあさんがしんじゃってぇ、れいじさんがこまっててぇ、それではたらくことにしたんだよ~」
「航、れいじさんって誰なんだ?」
「れいじさんはぁ、おかあさんのさいこんあいて~」
「そうか。航のお父さんか」
「ううん~、ちがう~。おとうさんはもうしんじゃったの~。れいじさんはおとうさんじゃない~」
「そうか。それでなんでれいじさんは困るんだ?」
「あのね、おかあさんにしゃっきんいっぱいあって、ほけんにもはいってなかったからかえせないって。
そうなったらこのいえ、うらないといけなくなるって。ぼくね、あのいえがなくなるのやだったんだぁ~。
おとうさんとのおもいであのいえしかないから~」
「それで就職したのか?」
「うん。れいじさんがあのかいしゃのしゃちょうとしりあいで、ぼくが~そこではたらいたら、おかあさんのしゃっきんぜんぶはらってくれるって~。ちゃんといちにんまえにはたらけるようになったらきゅうりょういっぱいくれるってぇ~、だからあそこにしろっていわれて~きめたんだけど~、でも、まいにちざつようばっかりで~、やだった~。
でも、どうしよう~、やめちゃったから、おかねかえせっていわれちゃうかな~」
砂川はボイスレコーダーで今までの会話を録音しながら、俺の顔を見つめてくる。
きっと俺と同じことを思っているんだ。
そう、あの社長の狙いは航だ。
おそらく母親の借金の話は嘘だろう。
保険がないのも嘘だな。
きっと航の母親は航に保険金を残していたはずだ。
それに父親の保険金もきっと航に残していたはずだ。
れいじとかいう再婚相手はそれを全部航から奪ったんだろう。
航が実父と過ごした家を人質にとって嘘話をでっち上げたに違いない。
「大丈夫だ。心配しないでいい。私が航の大事な家を守ってやるよ」
「ほんと~? ふふっ。うれし~」
真っ赤な顔でふんわりとした笑顔を浮かべる航を見て心が痛くなった。
すぐにでも航の家を調べないとな。
それにしてもあの社長が航狙いだとしたらどうして航は5年もの間無事でいられたんだ?
昨夜の航の状態を見るに、航には身体を暴かれたような形跡は見られなかった。
あれは間違いなく初めての反応だったし、それは間違いない。
多分あの沼田以外にも幾度となく襲われかけているはずで、航が抵抗できるとは思えないんだが……。
「航は毎日あの会社で何やってたんだ?」
「えっとぉ~、そうじとかぁ、おきゃくさんがきたらおちゃだしたりとかぁ、あとはよくのみにつれていかれてたぁ~」
呑みに連れていかれて、航は今のような状態になって無事でいられるとは思えない。
「呑みに行って何かおかしなことはなかったか?」
「う~んと、いつもおぼえてないけどいえにかえってたぁ~」
記憶のない航を毎回家まで送り届けていた人がいたってことか?
気になるが、航が覚えていない以上はこれ以上聞いても無駄か……。
「航はあの会社に友達はいたか?」
「うーん? ともだちぃ? ともだちかはわかんないけどときどきやさしくしてくれるひとがいたぁ」
そこまで話すと航はそのまま畳に寝転んでスヤスヤと眠ってしまった。
「砂川、今の話どう思う?」
砂川はボイスレコーダーのスイッチをオフにして、眠る航にそっと目をやった。
「おそらく藤乃くんの知らないところでこっそり守ってくれている人がいたということでしょう。
そうでもなければ、藤乃くんが5年もの間無事でいられるわけがありません」
「ああ。そうだな。大っぴらに守るとバレて守れなくなるから普段は知らないふりをしていたってところか」
「多分その人が伊織さんの話していた協力者じゃないですか?」
「多分そうだろうな。俺は東京に帰ったら、その栗原先生に会って話を聞いてくるよ。お前はその協力者から詳しく話を聞いてきてくれ。そのボイスレコーダーの会話はコピーして俺と安慶名さんにも頼む」
「畏まりました。それにしても、そのれいじとかいう義父。酷すぎですね。
奴が藤乃くんを騙して奪ったお金は全部回収してもらいますから」
「そっちは安慶名さんに頼めば楽勝だろう。地獄まで回収に行かせよう」
いつになく冷淡な表情をしている砂川が恐ろしく思えたが、多分俺も変わらないほど奴らにムカついている。
航の人生奪ったやつは根こそぎ制裁してやる。
それにしても……必死に勉強していたんだろうに。
いきなり受験を断念しないといけない航の悔しさは如何程だっただろうな。
もし今でも航に弁護士になりたい気持ちがあるのなら俺はいくらでも応援しよう。
きっと安慶名さんも相談に乗ってくれるはずだ。
「そろそろ帰るか。安慶名さんにもよろしく言っておいてくれ」
「はい。社長、今日は藤乃くんには指一本触れないでくださいよ」
「お前、俺をどれだけケダモノだと思ってるんだっ! 俺が無理やりするわけないだろうがっ!」
俺は砂川に文句を言いつつ店主にお礼を言って、航を抱きかかえ自宅へと戻った。
今日はゆっくり休んで今までの嫌な思い出は全て忘れてくれ。
これから俺と一緒に楽しい時間だけ過ごして生きていこう。
航……愛してるよ。
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