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無自覚に煽られる

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予約投稿時間を間違えてました……すみません(汗)






朝を迎え、藤乃くんが身体をモゾモゾと動かし始めた。
そろそろ藤乃くんの寝顔も今日のところは見納めかと思っていると、

「う、ん……っ、いい、におい……」

と可愛らしい寝言を言いながら、俺の胸元に擦り寄ってきてふわっとした笑顔を見せてくれた。

「――っ!」

あまりにも可愛いその仕草と、俺の匂いをいい匂いと思ってくれているのだと思ったら嬉しさが込み上げる。

ゆっくりと目を開ける藤乃くんに『おはよう』と声をかけると、藤乃くんが急にパニックを起こし始めた。

どうやら夜中に起きてからのことを忘れてしまっているようだ。
抱きしめて藤乃くんの背中を撫でながら落ち着かせると、ようやく思い出してくれたらしい。
この分なら、俺が夜中に彼をおかずにヤった・・・ことは何もバレてないな。
ふぅ……良かった。

俺と一緒に寝たおかげでよく眠れたと笑顔で言ってくれる藤乃くんには少し罪悪感はあるが、あれ以上の我慢は息子・・にもよくなかったから許して欲しい。

逆に俺がよく眠れなかったことに気づいたのか、謝ってくれるがそんな必要は全くない。
思いっきり寝顔も何もかも堪能しまくったんだから1日くらいの徹夜くらいなんの問題もない。

それよりも藤乃くんに伝えなければいけないことがある。
おそらく彼は気づいていないのだろうが、このままというわけにはいかないだろう。

俺の身体に巻きついているこの足。
しかもTシャツの中から可愛いアレ・・が飛び出して、俺のお腹に擦り付けているという事実。

勿体無いが、これ以上は息子にもキツいからな。

藤乃くんにそれを伝えるとものすごい勢いで狼狽えて、急いで足を下ろそうとして痛みに顔を引き攣らせた。

『そんなに急いで動かしたらダメだ』と注意しつつも俺のせいだと思った。
もう少し配慮して言ってやれば良かったか。

大体そんなに謝ることでもない、そうむしろ役得……。

思わず自分の心の声が漏れ出て、慌てて誤魔化した。

『俺のことを抱き枕だと思ってくれていい』
そう言ったのは確かに俺だ。

だが……

「この抱き枕……ぴったりフィットで気持ち良すぎてもう他の抱き枕使えそうにないですね」

恍惚とした表情でそんなことを言い出す始末。

そのくせ、言った本人は煽っているわけでもないんだからほんとタチが悪い。
グッと昂る息子を必死に押さえつけて、大人の対応ができた……はずだ。多分。

『そろそろ起きよう』と声をかけ、藤乃くんをトイレに連れて行く。
トイレの前で待つのはマナー違反かと思ったが、終わったらすぐ連れ帰るためだ。
そうだ、なんの他意もない。
だが、藤乃くんが用を足す音にいささか興奮する自分がいることに驚いた。
俺、こんな性癖ないはずなんだが……うーん、どうも藤乃くんのことになるとどうにもおかしくなる。

それに藤乃くんの世話をすることが楽しくてたまらない自分にも驚いている。
自分が人に尽くすタイプでは全然ないことはよくわかっているはずなのに、何故だろう。
そんなことを思いながらも、トイレの後、顔を洗うのも手伝い率先して着替えも手伝った。
やっぱり藤乃くんといる俺はいつもの俺じゃない。

ああ、そうか。

彼を自分の手で仕上げる……それが俺の喜びになるんだ。
俺は藤乃くんを自分色に染めたいんだ。
そう、俺なしじゃいられなくなるほど甘やかせて俺だけを見るようにしたい。

だが、鈍感な藤乃くんには今、言っても気づいてもらえないだろう。
なら、外堀から埋めて行くまでだ。

覚悟してろよっ!!


スーツに着替えさせ、準備が整ったところで部屋食かレストランかどちらにするか尋ねると、レストランに行きたそうなのが表情で見てすぐにわかったが、きっと足のことを考えて部屋食にと言い出しそうだ。

『今日はレストランに行こう』と誘ってやると、目の奥が輝いたのがすぐにわかった。
ふふっ。こういうところやっぱり可愛い。

『レストランに行きたいって顔してる』と教えてやると、自分で頬を揉み揉みと触り出した。
ほんと、こういう仕草がくそ可愛いんだよな、この子。

レストランに連れて行こうと藤乃くんを抱き抱えると、周りの目を気にしたのか『下りましょうか?』と言い出した。
ふふっ。下ろすわけがない。
むしろ見せつけたい。

『怪我人が何言ってるんだ』と言って、そのままレストランまで宝物のように優しく抱きかかえて連れて行った。

『わぁー、見て。イケメンが可愛い子抱っこしてる』
『うわぁー、お似合い』
『あの子、めっちゃ可愛いな。あの子なら俺、イケるわ』
『ちょっとーっ!』
『だって、そう思うだろ?』
『まぁね。いいなぁ、見つめ合ってる』
『あれ、相当好き合ってるでしょ』

ここで出会う宿泊者はお互いに素知らぬふりをするもんだが、よっぽど俺たちが印象的だったんだろうな。
まぁ、悪意は感じられないからいいか。

『あの子なら俺、イケるわ』だけは許しがたいが。
後で顔と名前だけ記憶しておこう。


レストランに入ると、わらわらと俺たちに近づいてこようとするスタッフに『安慶名シェフ』を呼ぶようにと声をかけ、奥の席へと向かった。

悪いが、藤乃くんとの時間をスタッフに邪魔されたくはないからな。

広いテーブルに向かい合わせではなく隣の席に座らせて、『足が心配だから食事の世話をしてやろう』と声をかけた。
正直食事するのに足は関係ないと言われればそれまでだが、笑顔で押し通してやると彼は納得してくれたようだった。

良かったとホッとしながら、今日の船の件について話そうとした時、突然スタッフに声をかけられた。
しかも、俺の本名で。

その瞬間、藤乃くんとの楽しい時間が穢された気がして、スーッと感情が冷えて行くのがわかった。

大体安慶名シェフだけと言ったはずなのに、なんでここに来てるんだ?
しかもそんな気味の悪い笑顔を貼り付けて。

これで藤乃くんとの仲がうまくいかなくなったら責任取ってくれるのか?

俺の今までの頑張りが邪魔された怒りがじわじわと込み上げてどうしようもない。

『いいから下がれ』と問答無用にスタッフを下げさせると、スタッフは謝罪の言葉を言いヨロヨロと去っていった。

『はぁーっ』と大きなため息を吐くと藤乃くんの心配そうに俺の名前を呼ぶのが聞こえる。
その心地よい声に心の中の嫌な気持ちが瞬く間に晴れて行くのがわかった。

ああ、藤乃くんの顔を見るだけで自然に笑顔が溢れる。

嫌なことは忘れて藤乃くんとの会話を楽しもう。

今日は無事に船が運行することを伝えると、藤乃くんはホッとしながらも少し顔を曇らせた。

どうやら面接に緊張しているらしい。
まぁ彼の今までの経験から緊張しないわけがないのだが、それ以上に自分の実力に自信がないのが気になる。
高校時代、あれほどの学力の高さなら覚えも早いだろうし、一般企業ならすぐ即戦力になるはずなのに。
それだけのあの会社で否定され続けてきたんだろうな。

『みんな初めてだから大丈夫、西表を好きなその気持ちがあればいいんだ』と背中を押すと、
『自分にとって西表が夢のような場所に思えたんだ』と言ってくれた。
と同時に『西表に行けばあの会社で辛い思いをしていたことも帳消しになるんじゃないか』とも話した藤乃くんの気持ちが痛いほどよくわかって、なんと返していいのか言葉に詰まった。

思い出したかのように俺が西表に行く理由を尋ねられて慌てて誤魔化したが、詳しい追及はなかった。
藤乃くん、こういうところは察しがいいんだよな。
本当に不思議だ。
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