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<side響也>
瑛への想い
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「営業部に配属になりました松坂瑛です。至らない点もあるかと思いますが、1日でも早く仕事に慣れるよう頑張りますので、ご指導のほどよろしくお願い申し上げます」
緊張しながらも溌剌とした笑顔を見せ、元気よく挨拶をする瑛に最初から好印象しかなかった。
「岬、お前が松坂の教育係だ。営業のイロハをじっくり教えてやってくれ。松坂、この岬は営業部トップの成績を誇るうちの不動のエースだからな。岬についてしっかりと勉強しろ」
「はい。岬先輩、松坂瑛と申します。勉強させていただきます」
「ああ、俺がみっちり仕込んでやるから、ついてこいよ」
はいと自信満々に言っていた瑛を、俺は少なからず心配していた。
営業に自信があって入ってくるやつの半分は大体最初の1、2ヶ月でその鼻っ柱をへし折られる。
営業は口だけ良くても、愛想が良くても、それで契約が取れるわけではない。
俺だって担当者からの最初の印象だけはよかったが、顔だけで契約が取れるほど甘い世界ではない。
相手先の情報をしっかりと頭に叩き込み、尚且つ緻密で細やかな気配りが必要なのだ。
瑛を連れ初めて営業先を回った時、最初の挨拶は申し分なくそのあとはただ静かに俺と相手先の担当者との話を聞いていたのだが、最後に担当者から瑛に質問が飛んだ。
「君はこの商品、どう思う? うちのイメージと少し合わないんじゃないかと思うんだが、どうかな?」
担当者は瑛の力量を見ようと思ったのか、少し意地悪な質問だったが、瑛は全く悩むことも言い淀むこともなく、
「あくまでも私の個人的な見解ですが……」
と話し出し、その答えに担当者が目を輝かせた。
「なるほどね。君の意見、うちでもかなり参考になったよ。ありがとう」
「そう仰っていただけて光栄です」
「――っ、いいな。この子は」
さっきスラスラと意見を言っている時とは違って、可愛らしい笑みを見せた瑛に担当者はすっかり気に入ったようだ。
「岬さん、素晴らしい後輩で羨ましいですよ。こんな後輩ばかりなら仕事もしやすそうだ」
「ええ。私も驚いています。まさかこうまでやってくれるとは……」
「ふふっ。岬さんがそこまで仰るとはね。今回は彼の分の初契約もということでいつもより倍でお願いしましょうか」
「えっ? よろしいのですか? ありがとうございます!!」
それからというもの、瑛を連れて行った先では毎回このようなことになり一気に契約も売り上げも倍増した。
「岬先輩、さすがですね! 先輩と一緒に働けるだけで、すごく勉強になります」
「何言ってるんだ、お前がしっかりと相手先をリサーチして意見を言ってくれるから契約も伸びてるんだぞ」
「ふふっ。全部先輩のおかげです。先輩が僕に教えてくれたんですよ」
「えっ? それはどういうことだ?」
「僕が高校生の頃、先輩がうちの学校に来て話をしてくれたんです。覚えてませんか? 蒼穹高校に来てくださったこと」
「蒼穹高校……ああ、そういえばゼミでお世話になった教授に頼まれて話をしにいったことがあったな。それを知っているということはまさか……」
「はい。僕、そこで先輩の話を伺って、絶対に営業職に就くんだ! って決めてたんです。あの時、会社の名前を伺っていたので、就活もこの会社メインで受けました。内定をいただいた時は先輩と一緒に働けるってとても嬉しかったです。まさか教育係になってくださるとは思ってもなかったですけど……」
瑛には一切俺に媚を売っているようには見えない。
きっと心からの言葉なんだろう。
俺の瑛への想いはその日を境にどんどん膨れていった。
* * *
「お前、それ本気なのか?」
大学時代の同期で、親友である坂下に好きな人ができたと話をすると、目を丸くして聞き返された。
まぁそれが普通の反応だよな。
「ああ。いつかは俺のものにしたいと思ってるんだ」
「あれだけ女にモテまくってたお前が、まさか年下の男にハマるとはな……」
「俺も自分で驚いてるよ。でも瑛への想いはどうしようもないんだ」
「だが、お前の会社は上層部の奴らがかなり頭の固い爺さんばかりだろう? いくら成績トップでも男同士なんて認めないんじゃないか? すぐに無理やり縁談を持ってくるはずだ。お前が言うことを聞かないとわかればきっと彼の方に焚き付けるぞ」
「ああ、俺もそれが心配なんだ。だから、起業しようと思ってる。今すぐじゃないぞ、しっかりと瑛を守れるくらいに基盤を作ってから瑛を連れて会社を辞める予定だ」
「それまでに彼に恋人ができたらどうするんだ?」
「まぁその心配もないわけじゃないが、おそらく大丈夫だろう」
「なんだ、いやに自信たっぷりじゃないか? 何かあるのか?」
ニヤついた顔で尋ねてくる坂下に俺は自信満々に答えた。
「瑛は俺に好意を持ってる。上司としてではなく、俺個人にな」
「なんだ、もう両思いなのかよ」
「瑛は自分の思いに気づいていないようだけどな。だから準備が整うまで瑛に変な虫が寄ってこないように見張るだけだ」
「それはお前の得意分野だろう? 準備が整うまではせいぜい気持ちがバレないようにするんだな」
「ああ、わかってるよ」
それから俺は教育係を終えてからもさりげなく瑛のそばにいて、瑛に声がかからないように裏で手を回し続けた。
* * *
「あ、あの……岬さん。松坂さんって恋人とかいらっしゃるんですか?」
この質問も何度聞かれただろう。
その度に
「ああ、松坂には大切な人がいるそうだよ。その人以外は目に入らないそうだから、好きになっても無駄だな」
と答えてやる。
がっかりした表情を見せる女性社員をどれだけ見たことか……。
だが、諦めると思いきやそのあとは決まって瑛に色目を使ってくる。
さっさと諦めればいいのに、瑛の前でわざわざ資料をばら撒いて見せたり、わからないところがあると言っては瑛を呼びつけたり、お礼と言っては食事に誘ったり……本当に面倒臭い奴らだ。
瑛は自分が狙われているとは全然思ってもいないから、優しく対応してあげているがそれが逆に奴らに自信を与えてしまっている。
もう本当に瑛の鈍感さには困ったものだ。
だがそれも可愛いと思ってしまうのだから、俺も大概、瑛にハマってしまっている。
緊張しながらも溌剌とした笑顔を見せ、元気よく挨拶をする瑛に最初から好印象しかなかった。
「岬、お前が松坂の教育係だ。営業のイロハをじっくり教えてやってくれ。松坂、この岬は営業部トップの成績を誇るうちの不動のエースだからな。岬についてしっかりと勉強しろ」
「はい。岬先輩、松坂瑛と申します。勉強させていただきます」
「ああ、俺がみっちり仕込んでやるから、ついてこいよ」
はいと自信満々に言っていた瑛を、俺は少なからず心配していた。
営業に自信があって入ってくるやつの半分は大体最初の1、2ヶ月でその鼻っ柱をへし折られる。
営業は口だけ良くても、愛想が良くても、それで契約が取れるわけではない。
俺だって担当者からの最初の印象だけはよかったが、顔だけで契約が取れるほど甘い世界ではない。
相手先の情報をしっかりと頭に叩き込み、尚且つ緻密で細やかな気配りが必要なのだ。
瑛を連れ初めて営業先を回った時、最初の挨拶は申し分なくそのあとはただ静かに俺と相手先の担当者との話を聞いていたのだが、最後に担当者から瑛に質問が飛んだ。
「君はこの商品、どう思う? うちのイメージと少し合わないんじゃないかと思うんだが、どうかな?」
担当者は瑛の力量を見ようと思ったのか、少し意地悪な質問だったが、瑛は全く悩むことも言い淀むこともなく、
「あくまでも私の個人的な見解ですが……」
と話し出し、その答えに担当者が目を輝かせた。
「なるほどね。君の意見、うちでもかなり参考になったよ。ありがとう」
「そう仰っていただけて光栄です」
「――っ、いいな。この子は」
さっきスラスラと意見を言っている時とは違って、可愛らしい笑みを見せた瑛に担当者はすっかり気に入ったようだ。
「岬さん、素晴らしい後輩で羨ましいですよ。こんな後輩ばかりなら仕事もしやすそうだ」
「ええ。私も驚いています。まさかこうまでやってくれるとは……」
「ふふっ。岬さんがそこまで仰るとはね。今回は彼の分の初契約もということでいつもより倍でお願いしましょうか」
「えっ? よろしいのですか? ありがとうございます!!」
それからというもの、瑛を連れて行った先では毎回このようなことになり一気に契約も売り上げも倍増した。
「岬先輩、さすがですね! 先輩と一緒に働けるだけで、すごく勉強になります」
「何言ってるんだ、お前がしっかりと相手先をリサーチして意見を言ってくれるから契約も伸びてるんだぞ」
「ふふっ。全部先輩のおかげです。先輩が僕に教えてくれたんですよ」
「えっ? それはどういうことだ?」
「僕が高校生の頃、先輩がうちの学校に来て話をしてくれたんです。覚えてませんか? 蒼穹高校に来てくださったこと」
「蒼穹高校……ああ、そういえばゼミでお世話になった教授に頼まれて話をしにいったことがあったな。それを知っているということはまさか……」
「はい。僕、そこで先輩の話を伺って、絶対に営業職に就くんだ! って決めてたんです。あの時、会社の名前を伺っていたので、就活もこの会社メインで受けました。内定をいただいた時は先輩と一緒に働けるってとても嬉しかったです。まさか教育係になってくださるとは思ってもなかったですけど……」
瑛には一切俺に媚を売っているようには見えない。
きっと心からの言葉なんだろう。
俺の瑛への想いはその日を境にどんどん膨れていった。
* * *
「お前、それ本気なのか?」
大学時代の同期で、親友である坂下に好きな人ができたと話をすると、目を丸くして聞き返された。
まぁそれが普通の反応だよな。
「ああ。いつかは俺のものにしたいと思ってるんだ」
「あれだけ女にモテまくってたお前が、まさか年下の男にハマるとはな……」
「俺も自分で驚いてるよ。でも瑛への想いはどうしようもないんだ」
「だが、お前の会社は上層部の奴らがかなり頭の固い爺さんばかりだろう? いくら成績トップでも男同士なんて認めないんじゃないか? すぐに無理やり縁談を持ってくるはずだ。お前が言うことを聞かないとわかればきっと彼の方に焚き付けるぞ」
「ああ、俺もそれが心配なんだ。だから、起業しようと思ってる。今すぐじゃないぞ、しっかりと瑛を守れるくらいに基盤を作ってから瑛を連れて会社を辞める予定だ」
「それまでに彼に恋人ができたらどうするんだ?」
「まぁその心配もないわけじゃないが、おそらく大丈夫だろう」
「なんだ、いやに自信たっぷりじゃないか? 何かあるのか?」
ニヤついた顔で尋ねてくる坂下に俺は自信満々に答えた。
「瑛は俺に好意を持ってる。上司としてではなく、俺個人にな」
「なんだ、もう両思いなのかよ」
「瑛は自分の思いに気づいていないようだけどな。だから準備が整うまで瑛に変な虫が寄ってこないように見張るだけだ」
「それはお前の得意分野だろう? 準備が整うまではせいぜい気持ちがバレないようにするんだな」
「ああ、わかってるよ」
それから俺は教育係を終えてからもさりげなく瑛のそばにいて、瑛に声がかからないように裏で手を回し続けた。
* * *
「あ、あの……岬さん。松坂さんって恋人とかいらっしゃるんですか?」
この質問も何度聞かれただろう。
その度に
「ああ、松坂には大切な人がいるそうだよ。その人以外は目に入らないそうだから、好きになっても無駄だな」
と答えてやる。
がっかりした表情を見せる女性社員をどれだけ見たことか……。
だが、諦めると思いきやそのあとは決まって瑛に色目を使ってくる。
さっさと諦めればいいのに、瑛の前でわざわざ資料をばら撒いて見せたり、わからないところがあると言っては瑛を呼びつけたり、お礼と言っては食事に誘ったり……本当に面倒臭い奴らだ。
瑛は自分が狙われているとは全然思ってもいないから、優しく対応してあげているがそれが逆に奴らに自信を与えてしまっている。
もう本当に瑛の鈍感さには困ったものだ。
だがそれも可愛いと思ってしまうのだから、俺も大概、瑛にハマってしまっている。
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