イケメン御曹司の初恋

波木真帆

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初恋 恭一郎side

運命の人

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彼の瞳から溢れる涙はあまりにも美しすぎてそれが逆に私の心を抉った。
彼の方から声をかけてきてくれたし肩を抱いても腰に手を回しても、それどころか風呂に一緒に入って身体まで触らせてくれたから、彼も私のことを好いてくれているのだとばかり思っていた。
まさか寝室で彼の涙を見ることになろうとは……。

私自身、ここまで焦がれるような人に初めて出会えただけにすぐにでも彼を自分のものにしたくて先走ってしまったのかもしれない。
もう少し彼が心を開いてくれるまで待つべきだったんだ。

声をかけることもできないまましばらくの間、彼を抱きしめたままでいると
彼が震える声で『ごめんなさい……』と言ってきた。

そうか。私とセックスするのが怖いんじゃない。
泣いて嫌がるほど無理だと思ったんだ。

彼の瞳から溢れる涙は拒絶の証。
辛いな……。

それでも無理やり彼を自分のものにするわけにはいかない。
私は分別ある大人としてここは潔く引き下がろうと思った。

彼の気持ちがわかった以上、もうこれ以上彼を抱きしめておくわけにはいかない。
抱きしめていた腕の力を抜き、彼を自分から引き離すことにした。

彼の温もりと香りが感じられなくなるのがこんなにも辛いとは……。
こんな思いをしたのは初めてだ。

心の中で悲しみに沈みながら断腸の思いで彼と離れようとすると、彼は私の胸にもう一度顔を擦り付けてきた。

泣くほど嫌がっていたはずの彼のこの行動の意味がわからなくて名前を呼びかけると、
彼は縋りつきながら『離れたくない』と言ってきた。

一体どういうことなんだ?
持ちうる限りの知識をフル稼働して彼の行動の意味を考えるものの、全く答えにたどり着くことが出来ない。
理解してあげたいのに、共有できないことが歯痒くてたまらない。

どうすることもできないまま彼を抱き止めていると、彼は私に縋りついた状態のままゆっくりと口を開いた。

「僕……もうカッコよくなんてなれなくてもいい……」

「えっ?」

「僕……練習なんかじゃ嫌なんです! だからお願い、僕を好きになって!」

「ええっ?」

「だめ、ですか……?」

可愛い上目遣いに思わずグラっとして、このまま押し倒してしまいそうになる。
しかし、ちゃんと話さなければ。

「葵くん、練習って……いや、そうじゃなくて……ちょっと待って。
何か話が噛み合っていないみたいだ」

「えっ?」

「えっ?」

彼の話が一体なんの話なのか全く要領を得ず、私たちはお互いに意味がわからずに見つめあっていた。

このままではいけない、少し話をしようと持ちかけ、広いベッドの中央で向かい合って座った。

「練習ってどういうことだ?」

「えっ? だって……僕……恭一郎さんに格好良くなれる方法を教えてほしいって頼んだでしょう?」

「そんなことは言ってなかったはずだが……」

「えっ? うそっ……」

彼は愕然とした様子で黙り込んだ。

――あの、僕……実はあなたに一目惚れしてしまって……。
もし、よかったらその……僕に手取り足取り教えて欲しいんです!!

私はあの時の言葉を一言一句忘れてはいない。
それほどまでに彼からの告白が嬉しかったんだ。

彼に言われたことを口に出して伝えると、彼の顔が真っ青になったかと思えば、みるみるうちに真っ赤な顔で私の顔を見つめてきた。

「それじゃあ、恭一郎、さんは……僕のこと……?」

口を手で押さえながら何度も信じられないと言った様子で私を見つめる彼の瞳は、驚きの色を浮かべていた。

彼には私の思いが伝わっていなかったのか?
そういえば、彼に誘われたのが嬉しくて、彼に愛の言葉を告げるのを忘れていた。
それなら彼が不安になってしまうのも無理はない。

彼が練習だとか話していた意味はわからないままだが、もうそれはいい。
今は彼に自分の思いを伝える方が先だ。


「葵くん、中庭に佇む君の姿が私の目に映った時から、これは運命だと思っていた。
君を愛してるんだ。ずっと私の傍にいて欲しい」


『愛してる』

初めてこの言葉を口にした。
私には本気で好きになれる相手などできるはずもないと思っていた。
佐原の名前や財産などにとらわれずに本気で私を好きになってくれる人に初めて愛を告白できたのだ。
こんなに嬉しいことがあるだろうか。

彼が目を丸くしてパチンと瞼を閉じると、キラキラと輝く涙の粒がポロッと頬を伝わった。

「恭一郎さん……僕もあなたが大好きです」


ああ。彼からの告白がこんなに嬉しいとは……。
嬉しすぎて天にも昇る心地だ。

「ああ。私も葵くんのことが好きだ」

ほんの少し離れているのももどかしくて彼を強く抱きしめ腕の中に閉じ込めた。
さっき手放そうとした温もりが私の元へ戻ってきたことが嬉しかった。

彼の唇を奪いたい。
その衝動が抑えきれずに彼の唇を奪った。

甘くて柔らかな唇に理性が吹き飛んでしまい、あっという間に箍まで外れてしまった私は、気づけばキスどころかお互い一糸纏わぬ姿で抱き合い、今、彼は私の腕の中でスヤスヤと眠りについている。

お腹が空いていたはずの彼を昼も食べさせずに無理をさせてしまった。
起きたらすぐに食事をさせなければ。

彼の柔らかな髪を撫でていると、先ほどまで私のモノを最奥まで咥え込みながら、甘い声をあげる葵の淫らな姿が甦ってくる。
その姿にまた昂りそうになるのを必死に抑えながら、広いベッドの中で眠る葵をそっと抱きしめた。

私も少し眠ろうかとも思ったが、興奮状態で眠れるはずもない。
可愛い葵の寝顔を見て楽しんでいると、リビングの方で着信音が聞こえた。

このまま放っておきたいが、あの着信音は父だ。
取らなければ後がうるさい。

しかもこちらが取るまで絶対に切りはしないだろう。
せっかく眠っている葵を起こすわけにはいかない。

仕方なく、起こさないように葵の傍から抜け出てサッとバスローブを羽織りながらリビングへと向かった。

「もしもし」

「私だ。今日のことを説明しろ」

「なんのことでしょうか?」

「しらばっくれるな。若狭の娘に恋人を紹介したそうじゃないか?
お前に恋人がいるなどと私は聞いていないぞ」

「そうでしょうね。今日初めて会ったのですから」

「初めて? どういうことだ?」

「ホテルの中庭にいたんですよ、私の天使が。
反対されても別れるつもりはありませんから」

「珍しいな。お前がそこまで執着するのは。余程の相手と見えるな。で、どこの子だ?」

「わかりません。まだ名前と大学しか聞いていないので。
付け加えていうなら、彼は私の正体すら知りませんよ。そんなことに興味はないようです」

「そうか。ようやくいい相手に巡り合ったようだな。お前がそんな子に巡り会えたのなら、別れさせる気など毛頭ない。
近いうちに私に紹介しろ。私のおかげで出会えたんだからいいだろう?」

「わかりました。恋人が寂しいがるといけませんので、これで失礼します」

「ああ。約束は守るようにな。それから若狭の娘の方は気にしなくていい。こっちでなんとかしておくから」

「ありがとうございます」

父との電話をきり、私は静かに寝室へと戻った。
葵の手が私の姿を探しているように動くのを嬉しく思いながら、私は彼の隣に体を滑り込ませた。

やっと出会えた私の運命の人。
絶対に手放したりはしないから、覚悟しておいてくれ。
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