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絢斗くんがやりたいこと

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<side未知子>

色打掛に着替えた一花くんと征哉が庭で撮影する様子を少し離れた場所から見守る。
白無垢姿も美しかったけれど、さすが浅香さん一押しの色打掛。
一花くんにとてもよく似合っている。

この晴れ姿を見られることも嬉しいし、何より一花くんと征哉が立っているところを見られるなんて想像もしていなかったから驚いてしまった。

歩くのを練習していたことは知っていたけれど、あの時の様子を見ていると一人で何の介助もなしに立ち上がって、しかも歩き出すなんてまだまだ先のことだと思っていたから。

きっとこの日のために必死で練習したのね。

――僕は何も……貴船会長を喜ばせたいという一花くんの熱意の表れですよ。

尚孝くんのおかげねと褒めた私に、尚孝くんはそんな言葉を返してきた。
確かに一花くんの頑張りはもちろんだろう。
でも導いてくれる存在があったからこそだ。

あの日、病院で一生歩くことができないかもしれないと宣告されていた時のことを覚えているからこそ、今回のあの姿は私にとってものすごく嬉しい出来事だった。

本当に一花くんは、私たちに幸せを与えてくれる天才ね。

征哉と一花くんの撮影が終わり、みんなで二人の元に向かう。
目的は一花くんと写真を撮ること。

尚孝くんや佳史くんが一花くんを支えて、自撮りしたり、征哉たちが少し離れた場所から構えるカメラに笑顔を向けたり、それぞれ思い思いの方法で一花くんとの写真を楽しんだ。

私のスマホのカメラには、直純くんと一花くんの笑顔の写真がおさまっている。

この二人の笑顔が見たいとずっと思っていた夢が叶ったわ。

本当に直純くんもあの日会った時とは表情の柔らかさが違う。
磯山さんと絢斗くんのところに引き取られて本当に良かったと心から思う。

「未知子ママ。一緒に撮りましょう!」

笑顔の一花くんに誘われて、二人だけの写真を撮ってもらう。
ああ、これは私の宝物だわ。

ねぇ、麻友子さん。
見てくれているかしら?
あなたの子どもはこんなにも素敵な友人に囲まれて幸せになったわ。

そして玄哉さんも、幸せそうな息子の姿を見てくれているかしら?
きっと驚いているでしょうね。
でもこれがきっと本当の征哉の姿。
ようやく私たちも見ることができたのよ。

この上ない幸せを噛み締めながら撮影会も終わり、征哉は一花くんを連れて支度部屋に戻って行った。

「楽しかったですね」

目をキラキラ輝かせた絢斗くんの表情を見るだけで、この言葉が本当だとよくわかる。

「ええ。本当に」

「ねぇ、未知子さん。もう一つやりたいことがあるんですけど、協力してもらえません?」

「もう一つやりたいこと? 何かしら?」

「あの……」

そっと耳打ちされて、その楽しそうな話に思わず顔が綻ぶのを隠すことができなかった。

「それ、いいわね! もう私、選ぶのが楽しくて楽しくて」

「でしょう? 敬介くんにも協力してもらって話をしに行きましょう!」

どうして浅香さんも? と思ったけれど、とりあえず浅香さんの元に急いだ。

「ねぇ、敬介くん。ちょっといいかな?」

「はい。どうかしましたか?」

蓮見さんと寛いでいる浅香さんにさっきの計画を話すと、

「ああ、いいですよ。ねぇ、周平さん」

「ええ。今日持ってきたものはどれも差し上げるつもりで来ましたから」

と二人とも太っ腹な言葉で返してくれた。

お礼を言って彼らを探しにいくと、すぐに二人は見つかった。

「千里さんと和泉いずみさんだったかしら? 今日は素敵な結婚式をありがとう。お食事もとっても美味しかったわ」

「こちらこそ、貴船さんと一花さんには突然のお願いにもかかわらずご快諾くださって感謝しています」

「それはそうと、お二人に大事な話があるのよ」

「何かありましたか?」

「実はね、今日の結婚式のためにたくさん衣装を持ってきてもらったのだけど、せっかくだからあなたたちもお着替えさせてもらえないかしら? と思って。声を掛けさせていただいたの」

「えっ? 私たちが、ですか?」

「ええ。どうかしら? 私、すっかり服を選ぶのが楽しくなってしまって……ねぇ、絢斗くん」

「そうなんですよ。選んだものはドレスでもお着物でもプレゼントしていただけるそうなので、着替えてみませんか?」

「えっ、でも……」

和泉さんの方は少し戸惑っているようだけど、

「和泉さん、せっかくの機会だからお受けしようよ」

と千里さんは目を輝かせてくれている。

これなら大丈夫そう。

「ねぇ、きっと佐久川さんもみたいっていうはずだよ」

「ちょ――っ、千里さんっ!!」

一気に真っ赤になる和泉さんをみて、私と絢斗くんは顔を見合わせた。

ああ、なるほど。
そういうことか……。

やっぱり幸せって繋がるものなのね。

「さぁ、行きましょう」

二人の手をとって衣装部屋に連れて行き、

「好きなものを見ていてちょうだい」

と声をかけて、最後の一人を探しに行った。
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