上 下
253 / 282

お着替えをしよう

しおりを挟む
<side征哉>

「一花、疲れてないか?」

「ほんのちょっと。でも、嬉しい疲れなので大丈夫です」

重労働による疲れを経験している一花は、たとえ疲れていたとしても自分からは決して泣き言を言わない。
いや、あの経験があったからそれよりは疲れてはいないと無意識に考えてしまう。

その意識改革はなかなか難しい。

だからこそ、私も含めた周りが気遣ってやらなければいけないのだ。

それでも今日の疲れは嬉しい疲れだからと言ってくれた一花。
今日の結婚式が良い思い出となってくれたなら私は嬉しい。

「慣れない着物を着たからその疲れもあっただろう」

「でもとっても綺麗で嬉しかったです。直くんや敬介さんが着ていたみたいなドレスっていうのも素敵でしたね」

「一花、ドレスを着てみたくないか?」

「えっ? それは、着られるなら着てみたいですけど……」

「それならよかった。一花が着たいと言ってくれたら着てもらおうと思って一応用意はしていたんだ」

「えっ? 本当ですか?」

「ああ。直純くんたちのドレスを蓮見さんに用意してもらうことになったから、一緒に一花に似合うものを選ばせてもらったんだよ。見てみるか?」

「はい、みたいです」

「じゃあ、ちょっと待っていてくれ」

隣の衣装室にこっそりと用意しておいたドレスは、柔らかな桜色の袖付きのチュールドレス。
丈は膝丈より少し長いくらいで、桜の花刺繍が前身頃に施されてとても可愛らしい。
それを持って、一花に見せると目を輝かせて喜んでくれた。

「わぁーっ! 可愛いです!!」

「やっぱり一花には桜色が似合うと思ったんだが、気に入ってくれて嬉しいよ」

「これ、僕が着ていいんですか?」

「ああ。もちろんだよ。一花のものだ」

一花が着ていた色打掛から和装用の下着まで全て脱がせて、先にトイレに連れて行った。
水分はとっていたが汗で流れていたのか、量は少ない。
でも体調は良さそうだから問題はないだろう。

トイレから戻り、ドレス用の下着を身に付けさせる。
その姿だけでとてつもない興奮に襲われているが、ここはグッと我慢し、はち切れんばかりに昂っている愚息を抑えつけながら一花にドレスを着せた。

髪型は和装にもドレスにも似合うように頼んでいたから問題はない。

「私も一花のドレスに合うように着替えるから、少し待っていてくれ」

「はーい。あっ、僕のスマホをとってもらってもいいですか? 自撮りっていうのやってみたいです」

ああ、さっき教えてもらったと言っていたからな。

「ああ、鏡に映ったのを撮るのも自撮りだぞ」

「あ、そうか。はい、やってみます」

スマホを手渡しながら教えてやると、一花は嬉しそうに鏡にスマホを向けていた。

その間に私も一花のドレスに合うスーツに着替えるが、さっきの一花の可愛い姿で愚息がまだ昂りを見せている。
このままじゃやばいな。

さっとトイレに入り、処理をしてからスーツに着替えた。
一花が自撮りに夢中で私が遅いことに気づかないでよかった。

着替えを済ませて一花の元に戻ると、

「わぁっ、征哉さん! かっこいいです!」

と持っていたスマホでそのまま私を撮ってくれた。
ああ、こんなふうに素直に感情を表してくれるのが嬉しい。

「一花、少し立たせてみてもいいか?」

「はい。征哉さんが支えてくれるなら大丈夫です」

大きな鏡の前で優しく一花を立たせて、隣に並び立つ。
身長差は30cmは余裕であるだろうが、どうみたって私たちはお似合いの二人。

鏡に映った姿を自撮りした。

「このまま今日の宿に行こうな」

「今日のお泊まりは、直くんたちも一緒なんですよね?」

「ああ。部屋は別々だが、一緒に食事ならできるぞ」

「わぁー、楽しみです!! 僕のドレス姿、びっくりしてくれるかな?」

「ははっ。楽しみだな」

一花をお姫さま抱っこして部屋から出ると、

「貴船。お前たち着替えたんだな」

と声をかけられた。

「天沢。『も』ってなんだ? 他に着替えた人がいるのか?」

「ああ、緑川教授と貴船の母君に声をかけられて、うちの千里と、小石川くんと、それから『プリムローズ』の日南くんが着替えをしているよ。蓮見さんと浅香さんからもぜひにと声をかけられてね。断れなかったみたいだ」

「そうなのか。うちの母が無理をさせたな」

「いや、千里は大喜びしてたよ。皆さんの衣装が綺麗だって目を輝かせていたからね。小石川くんと日南くんはちょっと遠慮していたが、きっと喜んで出てくるはずだよ」

「なんでわかるんだ?」

「まぁ、後でわかるよ」

天沢はそう言って意味深に笑顔を向けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完結】薄倖文官は嘘をつく

七咲陸
BL
コリン=イェルリンは恋人のシルヴァ=コールフィールドの管理癖にいい加減辟易としていた。 そんなコリンはついに辺境から王都へ逃げ出す決意をするのだが… □薄幸文官、浮薄文官の続編です。本編と言うよりはおまけ程度だと思ってください。 □時系列的には浮薄の番外編コリン&シルヴァの後くらいです。エメはまだ結婚していません。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん
BL
 完璧を目指すエレンには、のほほんとした子犬のような婚約者のオリバーがいた。十三年間オリバーの尻拭いをしてきたエレンだったが、オリバーは平民の子に恋をする。婚約破棄をして欲しいとお願いされて、快諾したエレンだったが……  「頼む、一緒に父上を説得してくれないか?」    頭の中がお花畑の婚約者と、浮気相手である平民の少年との結婚を認めてもらう為に、なぜかエレンがオリバーの父親を説得することになる。  

公爵の義弟になった僕は、公爵に甘甘に溶かされる

天災
BL
 公爵の甘甘に溶かされちゃう義弟の僕。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...