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<side征哉>
「一花、疲れてないか?」
「ほんのちょっと。でも、嬉しい疲れなので大丈夫です」
重労働による疲れを経験している一花は、たとえ疲れていたとしても自分からは決して泣き言を言わない。
いや、あの経験があったからそれよりは疲れてはいないと無意識に考えてしまう。
その意識改革はなかなか難しい。
だからこそ、私も含めた周りが気遣ってやらなければいけないのだ。
それでも今日の疲れは嬉しい疲れだからと言ってくれた一花。
今日の結婚式が良い思い出となってくれたなら私は嬉しい。
「慣れない着物を着たからその疲れもあっただろう」
「でもとっても綺麗で嬉しかったです。直くんや敬介さんが着ていたみたいなドレスっていうのも素敵でしたね」
「一花、ドレスを着てみたくないか?」
「えっ? それは、着られるなら着てみたいですけど……」
「それならよかった。一花が着たいと言ってくれたら着てもらおうと思って一応用意はしていたんだ」
「えっ? 本当ですか?」
「ああ。直純くんたちのドレスを蓮見さんに用意してもらうことになったから、一緒に一花に似合うものを選ばせてもらったんだよ。見てみるか?」
「はい、みたいです」
「じゃあ、ちょっと待っていてくれ」
隣の衣装室にこっそりと用意しておいたドレスは、柔らかな桜色の袖付きのチュールドレス。
丈は膝丈より少し長いくらいで、桜の花刺繍が前身頃に施されてとても可愛らしい。
それを持って、一花に見せると目を輝かせて喜んでくれた。
「わぁーっ! 可愛いです!!」
「やっぱり一花には桜色が似合うと思ったんだが、気に入ってくれて嬉しいよ」
「これ、僕が着ていいんですか?」
「ああ。もちろんだよ。一花のものだ」
一花が着ていた色打掛から和装用の下着まで全て脱がせて、先にトイレに連れて行った。
水分はとっていたが汗で流れていたのか、量は少ない。
でも体調は良さそうだから問題はないだろう。
トイレから戻り、ドレス用の下着を身に付けさせる。
その姿だけでとてつもない興奮に襲われているが、ここはグッと我慢し、はち切れんばかりに昂っている愚息を抑えつけながら一花にドレスを着せた。
髪型は和装にもドレスにも似合うように頼んでいたから問題はない。
「私も一花のドレスに合うように着替えるから、少し待っていてくれ」
「はーい。あっ、僕のスマホをとってもらってもいいですか? 自撮りっていうのやってみたいです」
ああ、さっき教えてもらったと言っていたからな。
「ああ、鏡に映ったのを撮るのも自撮りだぞ」
「あ、そうか。はい、やってみます」
スマホを手渡しながら教えてやると、一花は嬉しそうに鏡にスマホを向けていた。
その間に私も一花のドレスに合うスーツに着替えるが、さっきの一花の可愛い姿で愚息がまだ昂りを見せている。
このままじゃやばいな。
さっとトイレに入り、処理をしてからスーツに着替えた。
一花が自撮りに夢中で私が遅いことに気づかないでよかった。
着替えを済ませて一花の元に戻ると、
「わぁっ、征哉さん! かっこいいです!」
と持っていたスマホでそのまま私を撮ってくれた。
ああ、こんなふうに素直に感情を表してくれるのが嬉しい。
「一花、少し立たせてみてもいいか?」
「はい。征哉さんが支えてくれるなら大丈夫です」
大きな鏡の前で優しく一花を立たせて、隣に並び立つ。
身長差は30cmは余裕であるだろうが、どうみたって私たちはお似合いの二人。
鏡に映った姿を自撮りした。
「このまま今日の宿に行こうな」
「今日のお泊まりは、直くんたちも一緒なんですよね?」
「ああ。部屋は別々だが、一緒に食事ならできるぞ」
「わぁー、楽しみです!! 僕のドレス姿、びっくりしてくれるかな?」
「ははっ。楽しみだな」
一花をお姫さま抱っこして部屋から出ると、
「貴船。お前たちも着替えたんだな」
と声をかけられた。
「天沢。『も』ってなんだ? 他に着替えた人がいるのか?」
「ああ、緑川教授と貴船の母君に声をかけられて、うちの千里と、小石川くんと、それから『プリムローズ』の日南くんが着替えをしているよ。蓮見さんと浅香さんからもぜひにと声をかけられてね。断れなかったみたいだ」
「そうなのか。うちの母が無理をさせたな」
「いや、千里は大喜びしてたよ。皆さんの衣装が綺麗だって目を輝かせていたからね。小石川くんと日南くんはちょっと遠慮していたが、きっと喜んで出てくるはずだよ」
「なんでわかるんだ?」
「まぁ、後でわかるよ」
天沢はそう言って意味深に笑顔を向けた。
「一花、疲れてないか?」
「ほんのちょっと。でも、嬉しい疲れなので大丈夫です」
重労働による疲れを経験している一花は、たとえ疲れていたとしても自分からは決して泣き言を言わない。
いや、あの経験があったからそれよりは疲れてはいないと無意識に考えてしまう。
その意識改革はなかなか難しい。
だからこそ、私も含めた周りが気遣ってやらなければいけないのだ。
それでも今日の疲れは嬉しい疲れだからと言ってくれた一花。
今日の結婚式が良い思い出となってくれたなら私は嬉しい。
「慣れない着物を着たからその疲れもあっただろう」
「でもとっても綺麗で嬉しかったです。直くんや敬介さんが着ていたみたいなドレスっていうのも素敵でしたね」
「一花、ドレスを着てみたくないか?」
「えっ? それは、着られるなら着てみたいですけど……」
「それならよかった。一花が着たいと言ってくれたら着てもらおうと思って一応用意はしていたんだ」
「えっ? 本当ですか?」
「ああ。直純くんたちのドレスを蓮見さんに用意してもらうことになったから、一緒に一花に似合うものを選ばせてもらったんだよ。見てみるか?」
「はい、みたいです」
「じゃあ、ちょっと待っていてくれ」
隣の衣装室にこっそりと用意しておいたドレスは、柔らかな桜色の袖付きのチュールドレス。
丈は膝丈より少し長いくらいで、桜の花刺繍が前身頃に施されてとても可愛らしい。
それを持って、一花に見せると目を輝かせて喜んでくれた。
「わぁーっ! 可愛いです!!」
「やっぱり一花には桜色が似合うと思ったんだが、気に入ってくれて嬉しいよ」
「これ、僕が着ていいんですか?」
「ああ。もちろんだよ。一花のものだ」
一花が着ていた色打掛から和装用の下着まで全て脱がせて、先にトイレに連れて行った。
水分はとっていたが汗で流れていたのか、量は少ない。
でも体調は良さそうだから問題はないだろう。
トイレから戻り、ドレス用の下着を身に付けさせる。
その姿だけでとてつもない興奮に襲われているが、ここはグッと我慢し、はち切れんばかりに昂っている愚息を抑えつけながら一花にドレスを着せた。
髪型は和装にもドレスにも似合うように頼んでいたから問題はない。
「私も一花のドレスに合うように着替えるから、少し待っていてくれ」
「はーい。あっ、僕のスマホをとってもらってもいいですか? 自撮りっていうのやってみたいです」
ああ、さっき教えてもらったと言っていたからな。
「ああ、鏡に映ったのを撮るのも自撮りだぞ」
「あ、そうか。はい、やってみます」
スマホを手渡しながら教えてやると、一花は嬉しそうに鏡にスマホを向けていた。
その間に私も一花のドレスに合うスーツに着替えるが、さっきの一花の可愛い姿で愚息がまだ昂りを見せている。
このままじゃやばいな。
さっとトイレに入り、処理をしてからスーツに着替えた。
一花が自撮りに夢中で私が遅いことに気づかないでよかった。
着替えを済ませて一花の元に戻ると、
「わぁっ、征哉さん! かっこいいです!」
と持っていたスマホでそのまま私を撮ってくれた。
ああ、こんなふうに素直に感情を表してくれるのが嬉しい。
「一花、少し立たせてみてもいいか?」
「はい。征哉さんが支えてくれるなら大丈夫です」
大きな鏡の前で優しく一花を立たせて、隣に並び立つ。
身長差は30cmは余裕であるだろうが、どうみたって私たちはお似合いの二人。
鏡に映った姿を自撮りした。
「このまま今日の宿に行こうな」
「今日のお泊まりは、直くんたちも一緒なんですよね?」
「ああ。部屋は別々だが、一緒に食事ならできるぞ」
「わぁー、楽しみです!! 僕のドレス姿、びっくりしてくれるかな?」
「ははっ。楽しみだな」
一花をお姫さま抱っこして部屋から出ると、
「貴船。お前たちも着替えたんだな」
と声をかけられた。
「天沢。『も』ってなんだ? 他に着替えた人がいるのか?」
「ああ、緑川教授と貴船の母君に声をかけられて、うちの千里と、小石川くんと、それから『プリムローズ』の日南くんが着替えをしているよ。蓮見さんと浅香さんからもぜひにと声をかけられてね。断れなかったみたいだ」
「そうなのか。うちの母が無理をさせたな」
「いや、千里は大喜びしてたよ。皆さんの衣装が綺麗だって目を輝かせていたからね。小石川くんと日南くんはちょっと遠慮していたが、きっと喜んで出てくるはずだよ」
「なんでわかるんだ?」
「まぁ、後でわかるよ」
天沢はそう言って意味深に笑顔を向けた。
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