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二組の甘いキス

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<side一花>

佳史さんも史紀さんも素敵!
背伸びしてキスするっていいなぁ。
でも僕にはまだ難しいかな。

いや、やる気になればできるかも!!

やる前から無理だなんて思っちゃダメだよね!!

「い、一花さん……っ。なんだかすごく、ドキドキしてきました」

「大丈夫、きっとすぐに喜んで来てくれるよ。僕が征哉さんを呼んだら、直くんも呼んでね」

「は、はい」

僕の分まで緊張してくれてそうな直くんを見ていると、緊張もどこかに吹き飛んでしまった気がする。

次は僕たちだよと期待しているあやちゃんたちの視線を受けながら、僕たちは征哉さんたちに視線を向けた。

「征哉さん!」

「の、昇さんっ!」

その声に征哉さんは嬉しそうに、昇さんは少し後ろを焦ったように駆け寄ってくる。
直くんはものすごく顔を赤くしていたけれど、駆け寄ってきた昇さんの身体に隠れてもう僕の座っている場所からは見えない。
僕から見えるのは、嬉しそうな笑顔を見せる征哉さんだけだ。

「一花、どうした?」

佳史さんと史紀さんを見てこれから僕が征哉さんに何をしようとしているか、きっとわかっているはず。
だって、すごく嬉しそうだ。

そんな征哉さんが可愛くてたまらない。

よし!
頑張ってみよう。

「征哉さん……」

目の前にいる征哉さんの両腕に捕まって、スッと立ち上がる。
うん、立ち上がるのは楽にできるようになったな。

「い、一花っ」

僕を支えようと慌てて屈みながら腰に腕を回してくれる征哉さんに

「大好きです」

と告げて、唇を重ねた。
背伸びまではちょっと難しかったけれど、立ってキスはできたな。

軽く唇を重ねてゆっくりと離すと、嬉しそうな征哉さんが見える。

周りがザワザワしているけれど、今の僕には

「私も一花が大好きだよ」

という征哉さんの声しか聞こえなかった。

<side一眞>

未知子さんが甲斐くんの伴侶である伊月くんを着替えさせて戻ってきてから、突然有原くんが榎木くんを呼び出したと思ったら、みんなの前で堂々とキスを仕掛けた。
驚くのも束の間、次は史紀が伊吹くんを呼び出し真っ赤な顔でキスを仕掛けた。

ああ。なるほど、これは余興の一環だろう。

史紀もだが、普段ならキスを仕掛けられる方に違いない彼らの方からキスを仕掛けるのは、驚きと喜びが相まって、見ている方も楽しい。

さすが面白いことを考えるものだ。

こちらに残った者たちは次に誰が呼ばれるか、自分が呼ばれるかと期待に胸を膨らませているのがありありと感じられる。

私にはその相手がおらず、この余興に参加できないのは少し寂しい気もするが、いつも自信に漲っている彼らが、自分の名を呼ばれるか、キスを仕掛けられるかで一喜一憂している姿を見るのは楽しい。

次は誰だろうと他人事として楽しんでいると、名を呼ばれたのは征哉くんと、そして、最年少の昇くんだった。

「えっ? マジ?」

自分が呼ばれるとは想像していなかったのだろう。
なんせ、今までの二人は相手から唇にキスされているのだ。
新しく彼の父親となった磯山くんから、おでこと頬へのキスのみ許可されている彼からしてみれば、大人だけの余興だろうと考えても無理はない。

信じられない様子で茫然としている昇くんに、

「おい! 行くぞ!」

と背中を小突いて征哉くんは一花の元に向かい、その後を追いかけるように昇くんが駆け寄っていった。

二人は背中合わせに立ち、自分の愛しい人だけを見つめて向かいあうと、一花は征哉くんの腕にもたれ掛かりながらスッと立ち上がった。
一花が立つと、その身長差が際立つ。
これなら一花が背伸びをしても無理だろうし、そもそもまだ立てるようになったばかりの一花に爪先立ちは難しいだろう。
だが、征哉くんはそんなものはものともせずに流れるように自然に一花の高さに顔を近づけると、一花が嬉しそうに征哉くんの唇にキスをした。

親としては複雑なものがあるが、あんなにも一花の嬉しそうな顔を見れば、そんな気持ちなど消え去ってしまう。
むしろ、幸せならそれでいいとさえ思う。

新婚となった二人は幸せに満ち溢れているが、さて、隣の初々しいカップルはどうだろう?

磯山くんは見たいような見たくないような複雑な表情をしているが、それは私にもよくわかる。
父親というものは誰でも同じだ。

直純くんが昇くんの胸に両手を当てて思いっきり背伸びをすると、昇くんがグッと顔を近づける。
その瞬間、花が綻ぶようななんとも可愛い笑みを浮かべて、直純くんはスッと顔を横に向けると、チュッと軽く頬に当てた。

それを見て、磯山くんに安堵の表情が見えた。

溺愛する息子が唇にキスするところを見ずに済んでホッとしたのだろう。

昇くんにしてみれば少し残念だったのかもしれないと思ったが、ここから見える彼の顔はものすごく嬉しそうに見えたから、彼にとっては場所は関係なかったのかもしれない。
直純くんにキスされることに意義があったのだろう。

二組のそれぞれ違いのあるキスを見られて、私たちはすっかり盛り上がっていた。
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