上 下
241 / 279

若いが故の悩み

しおりを挟む
<side征哉>

お義父さんや二階堂さんと交代で写真を撮り終え、一花に食事を取らせるべく抱きかかえて席についた。

「お疲れさん」

その言葉と共に天沢がさっと私たちの目の前に料理が置いた。
大きなトレイには十割蕎麦のせいろと今が旬の山菜と海老の天ぷら。
蕎麦がきや蕎麦豆腐、鴨肉のローストなどの小鉢が五品。
そして、黒蜜ときな粉がかかった美味しそうな蕨餅もあって、かなり豪勢な食事が並んでいる。

「わぁ、美味しそう!」

一花の屈託のない笑顔に天沢も嬉しそうだ。

「さっき、今回のブライダルパンフレットの責任者と話したんだが」

「ああ、どうだった? 正直言って結婚式に夢中だったから、撮影のことは一切頭になかったよ。上手くできたか心配だな」

「いや、それがその責任者がもう大泣きで」

「えっ? 泣いてた?」

「ああ、最初から最後までずっと感動しっぱなしだったらしい。お前と一花さんのおかげだよ」

「そうか。だがそもそもお前がいい提案をしてくれたおかげだからな。お前の役に立てたならよかったよ」

「ありがとう。ゆっくり食事していってくれ」

天沢は私の肩をポンと叩いて、その場を立ち去った。

「上手くいったんですか?」

「ああ、そうみたいだ。一花が可愛いから当然だな。さぁ、私が食べさせよう。一花、何から食べたい?」

「僕、これ食べてみたいです」

一花が指差したのは小鉢に入った蕎麦がき。
天沢がちゃんと分かってくれているようで一花の蕎麦がきには山葵が乗っていない。
まだ辛子や山葵のような刺激物は食べさせていないからな。

箸で一口サイズに切り分けて口に運んでやると、

「んっ! お団子みたいでおいしいです!!」

と食感を楽しんでいるようだ。

こうやって少しずつ知らないものを知っていく。
その場面に立ち会えるのが何よりも楽しい。

たくさんの小鉢や料理が並んでいたが、全てが一花仕様になっているため、完食できて満足そうだ。
磯山先生から直純くんの分も一花と同じものにして欲しいという要望があったため、全く同じものを用意したが、あちらも無事に完食できたようだ。

全ての皿が空っぽになったトレイを見て、直純くんが喜んでいるのがここからでも確認できる。

一花も残すことを極端に嫌がるが、きっと直純くんも同じなのだろうな。

「あの、貴船さん。今日の宿泊場所なんですけど……」

そっと隣に寄ってきて小声で尋ねてきたのは、磯山先生の甥っ子である昇くんだ。
小声で話しかけてくるということはあまり聴かれたくない話なのだろう。

隣の席に座っていた母と話をしている一花に少し背を向けて話をすることにした。

「ここからそこまで距離は離れていないから安心してくれ」

「いや、その温泉がついてるって聞いたんですけどそれって大浴場ですか?」

「ああ、その心配か。もちろん大浴場も完備しているしそこも利用可能だが、今回君たち参列者のために用意している部屋が特別棟だから、部屋に一つずつ露天風呂を完備しているよ」

「部屋に、露天風呂……」

「一応磯山先生からは夕食は君たちと一緒で、寝る部屋は別々でと言われているから隣同士の部屋を用意しているよ。磯山先生の話では直純くん、温泉に行きたいと話をしていたみたいだから喜ぶんじゃないか?」

「え、ええ。それはそうなんですけど……せっかくの露天風呂一人で入らせるのは可哀想ですよね?」

「それはそうだろうな。君が一緒に入ってやるんじゃないのか?」

「えっ、でもそれは流石に……」

「じゃあ大浴場に連れていくか? 不特定多数に彼の裸が見られる方が我慢できるか?」

「――っ、いやそれは……」

「だったら、露天風呂に一緒に入った方がいいんじゃないか?」

「でも、俺……我慢できるかどうか……」

まぁ、心配するのも無理はない。
昇くんは性欲旺盛な高校生。
だが、相手が一花よりも無知な中学生相手となれば、ためらってしまうだろう。
私だって、一花と一緒に温泉に入ったときは興奮してしまったが、一花の年齢もあって無事に先に進むことはできた。
昇くんの場合はそれができないから難しいだろうな。

「じゃあ、磯山先生と絢斗さんと一緒に入ってもらうように頼むか?」

「それは……」

絢斗さんは喜びそうだが、磯山先生がな……。
グリにさえ、嫉妬するような人だ。
直純くんが絢斗さんの裸を見てしまうのは流石に許せないだろうし、磯山先生自身も直純くんの裸を昇くんよりも先に見てしまうことに躊躇いそうだ。

さて、どうするのが一番いいか……。
困ったものだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】勇者様の思い通り~魔王や魔族たちに何故か溺愛されてます

浅葱
BL
【12/18 完結後番外編を上げました】 「私と結婚してこの魔の国を治めてはくれぬか?」  妖艶な美女の姿をした魔王にそう言われ、勇者は泣いた。 「なんで女性ばっかなんだよおおおーーー!」と。  勇者の恋愛対象は男性なのに、見目よし、実力ありのせいか勇者パーティーは全員女性だった。  魔王城に辿り着くまで、パーティーの女性たちに毎晩夜這いをかけられて女性不信マックスになっていた勇者。  これはもう魔王に殺してもらうしかないとまで思いつめて魔王城に着いたら、魔王まで女性でしかも勇者に求婚してくる始末。  勇者は絶望したが、魔王の元の姿は男性型で、しかも変化が得意と知って?  元の姿は背が低めの少年魔王(変化が得意。アレはでかい)+魔族とか魔物×顔はイケメンだけどムキムキマッチョな童貞処女ビッチ勇者。  魔族や魔物は強い者が好きで、その者に従う傾向がある。勇者は妄想をこじらせ過ぎていろんな男性に愛されたいと強く願っていたから、魔王、魔族、魔物にめちゃくちゃ愛されるようになる。  超テンプレ。誰もが書いてる設定での安定のハッピーエンドです。  魔王とのらぶえち(変化あり)あり、魔族や魔物とのらぶえちもあり。小スカとか二輪挿しもあるし、ありえないところからの出産もあるよ(ぉぃ 公開セッ/総受け/巨根攻め/結腸責め/複数攻め/尿道責め/小スカ/拡張/二輪挿し/乳首責め/触手責め/駅弁/出産あり 注:勇者以外がされる描写もあります。そちらには注意書きを改めて入れます~ 9/2 表紙のイラストはNEOZONE様に描いていただきました! 魔王(エリーアス)と勇者(クルト)と侍従長(イオール)です! 美麗イラストめちゃくちゃ嬉しいです!! 12/1 fujossyの「第三回 fujossy小説大賞」に参加します! 修正更新していきますのでよろしくー https://fujossy.jp/books/25823

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

処理中です...