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幸せを送り届ける
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<side甲斐>
「甲斐さんにご相談したいことがあるのです」
貴船コンツェルンの会長・征哉さんにそんな連絡をいただいたのは数日前。
わざわざ私の元に来てくださると仰っていただいたが、私の方が時間の都合がつけやすいと言って彼の会社にお邪魔した。
会長室に案内され、相談の内容を聞いて驚いたものの、征哉さんの真摯な願いに私もぜひ協力すると答えた。
彼の相談とは、フランにできれば結婚式のリングドッグをしてもらいたいということ。
「せっかくの結婚式ですから、一花が喜ぶことを全部叶えてあげたいと思っているんです。可愛がっているフランとグリが祝福してくれるとなればきっと大喜びすると思うんですよ。ただフランのストレスになるようなことはさせたくないので、フランができることを教えていただければと思いまして、ご連絡させていただきました」
「なるほど。大丈夫です、フランなら堂々とその大役をこなせると思いますよ」
「本当ですか!?」
「ええ。あの子は賢い子ですから、少し教えればすぐにできるようになりますよ」
「櫻葉さんにも内緒にしたいのですが、可能ですか?」
「そうですね……では、その結婚式の前日から、フランの定期健康診断ということで私が預かりましょう。その間にリングドッグとしての動きも覚えさせておきますよ」
「おおっ!! やっぱり甲斐さんに相談してよかったです。あの、できればグリとも絡ませたいんですがそれはどうでしょう?」
「それはフランとの相性も大事になってきますので、当日二人を会わせてみてからしか判断できませんが、フランの方は大丈夫でしょう。あの子は小さくて可愛いものが好きですからね」
「では当日お願いしてもよろしいですか?」
「ええ。お任せください」
「甲斐さんがどなたかを同伴されるのでしたらぜひお連れください」
「お気遣いありがとうございます。ですが、少し人見知りなので本人に聞いてからにしますね」
「ええ、当日でも構いませんよ。数人増えても問題ないと天沢からは言われていますから」
「はい。ありがとうございます」
それからすぐに櫻葉さんに連絡を入れ、定期健康診断の日付を伝えると一花さんの結婚式の日だと少しがっかりされた様子だった。
どうやら一緒に連れていく気だったようだ。
それでもフランのためだからということで納得していただき、結婚式前日に私のところに連れ帰った。
リングドッグをするということで籠を咥えさせて真っ直ぐに歩く練習をさせると、賢いフランはすぐにできるようになった。
これならうまくいきそうだ。
一花さんの喜ぶ顔が目に浮かぶな。
私の愛しい姫は流石に結婚式は知らない人ばかりで私が隣に居られないこともあって遠慮すると言っていたから、私のそばで手伝いをしてもらうことになった。
当日、誰にも知られないうちに愛しい姫とフランを連れて式場となる旧天沢邸別荘に向かった。
一花さんたちはもちろん、招待客にも完全サプライズということで誰にもみられないように離れの個室を待機場所にしてもらい、しばらく待っていると、征哉さんの秘書である志摩さんがやってきた。
「本日はよろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそ楽しみにしていたんですよ。それでグリは?」
「それが……グリは結婚式が始まるまでここには連れてこれないと思います。一花さんがずっとそばに置いていらっしゃいますので」
「そうですか……まぁ、でもそれは想定内です。緊張している時には癒しの存在が必要ですからね。とりあえず結婚式が始まったらすぐに連れてきてください」
「わかりました。あ、それからこれは貴船が用意したフランの衣装です」
「ははっ。ここまでしっかりと用意なさっているとは……さすがですね」
新郎のような可愛い白のベストを渡され、フランに着させるとフランも満更ではない様子で喜んでいた。
そして、とうとう結婚式が始まった。
千里さんというスタッフさんに連れてこられたグレーの色が可愛いウサギは、最初は怯えてケージから出てこない様子だったが、フランがおいでとでもいうように優しい声をかけると、おずおずとケージから出てきて、フランに近づいた。
フランがぺろっと舐めると、嬉しそうにぷぅぷぅと笑い声をあげ、フランの背中にぴょんと飛び乗った。
「わっ! 可愛いっ!!」
私の愛しい姫も小動物の可愛い戯れにすっかり心を射抜かれて、写真を撮りまくっている。
「こんなにも仲良しならうまくいきそうだな。フラン、グリを背中に乗せたまま一花さんのところにゆっくり歩いていくんだぞ」
「わんっ!」
グリに気を遣っているのが、いつもより控えめな返事だったけれどグリは怖がることなくフランの背中を楽しんでいるように見えた。
こんなにも仲良くなるのは想像していなかったが、嬉しい誤算だな。
そうしてフランとグリ、そして指輪の入った籠を持った愛しい姫を連れて静かに庭に向かい、身を隠してそっとその時を待った。
征哉さんの声にさっと現れたフランとグリの姿に、一花さんだけでなく、参列の皆さんからも声が上がる。
「さぁ、一花さんのところに行っておいで」
グリを背中に乗せたフランを見送りながら、私たちは笑顔の新郎新夫に幸せを送り届けた。
「甲斐さんにご相談したいことがあるのです」
貴船コンツェルンの会長・征哉さんにそんな連絡をいただいたのは数日前。
わざわざ私の元に来てくださると仰っていただいたが、私の方が時間の都合がつけやすいと言って彼の会社にお邪魔した。
会長室に案内され、相談の内容を聞いて驚いたものの、征哉さんの真摯な願いに私もぜひ協力すると答えた。
彼の相談とは、フランにできれば結婚式のリングドッグをしてもらいたいということ。
「せっかくの結婚式ですから、一花が喜ぶことを全部叶えてあげたいと思っているんです。可愛がっているフランとグリが祝福してくれるとなればきっと大喜びすると思うんですよ。ただフランのストレスになるようなことはさせたくないので、フランができることを教えていただければと思いまして、ご連絡させていただきました」
「なるほど。大丈夫です、フランなら堂々とその大役をこなせると思いますよ」
「本当ですか!?」
「ええ。あの子は賢い子ですから、少し教えればすぐにできるようになりますよ」
「櫻葉さんにも内緒にしたいのですが、可能ですか?」
「そうですね……では、その結婚式の前日から、フランの定期健康診断ということで私が預かりましょう。その間にリングドッグとしての動きも覚えさせておきますよ」
「おおっ!! やっぱり甲斐さんに相談してよかったです。あの、できればグリとも絡ませたいんですがそれはどうでしょう?」
「それはフランとの相性も大事になってきますので、当日二人を会わせてみてからしか判断できませんが、フランの方は大丈夫でしょう。あの子は小さくて可愛いものが好きですからね」
「では当日お願いしてもよろしいですか?」
「ええ。お任せください」
「甲斐さんがどなたかを同伴されるのでしたらぜひお連れください」
「お気遣いありがとうございます。ですが、少し人見知りなので本人に聞いてからにしますね」
「ええ、当日でも構いませんよ。数人増えても問題ないと天沢からは言われていますから」
「はい。ありがとうございます」
それからすぐに櫻葉さんに連絡を入れ、定期健康診断の日付を伝えると一花さんの結婚式の日だと少しがっかりされた様子だった。
どうやら一緒に連れていく気だったようだ。
それでもフランのためだからということで納得していただき、結婚式前日に私のところに連れ帰った。
リングドッグをするということで籠を咥えさせて真っ直ぐに歩く練習をさせると、賢いフランはすぐにできるようになった。
これならうまくいきそうだ。
一花さんの喜ぶ顔が目に浮かぶな。
私の愛しい姫は流石に結婚式は知らない人ばかりで私が隣に居られないこともあって遠慮すると言っていたから、私のそばで手伝いをしてもらうことになった。
当日、誰にも知られないうちに愛しい姫とフランを連れて式場となる旧天沢邸別荘に向かった。
一花さんたちはもちろん、招待客にも完全サプライズということで誰にもみられないように離れの個室を待機場所にしてもらい、しばらく待っていると、征哉さんの秘書である志摩さんがやってきた。
「本日はよろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそ楽しみにしていたんですよ。それでグリは?」
「それが……グリは結婚式が始まるまでここには連れてこれないと思います。一花さんがずっとそばに置いていらっしゃいますので」
「そうですか……まぁ、でもそれは想定内です。緊張している時には癒しの存在が必要ですからね。とりあえず結婚式が始まったらすぐに連れてきてください」
「わかりました。あ、それからこれは貴船が用意したフランの衣装です」
「ははっ。ここまでしっかりと用意なさっているとは……さすがですね」
新郎のような可愛い白のベストを渡され、フランに着させるとフランも満更ではない様子で喜んでいた。
そして、とうとう結婚式が始まった。
千里さんというスタッフさんに連れてこられたグレーの色が可愛いウサギは、最初は怯えてケージから出てこない様子だったが、フランがおいでとでもいうように優しい声をかけると、おずおずとケージから出てきて、フランに近づいた。
フランがぺろっと舐めると、嬉しそうにぷぅぷぅと笑い声をあげ、フランの背中にぴょんと飛び乗った。
「わっ! 可愛いっ!!」
私の愛しい姫も小動物の可愛い戯れにすっかり心を射抜かれて、写真を撮りまくっている。
「こんなにも仲良しならうまくいきそうだな。フラン、グリを背中に乗せたまま一花さんのところにゆっくり歩いていくんだぞ」
「わんっ!」
グリに気を遣っているのが、いつもより控えめな返事だったけれどグリは怖がることなくフランの背中を楽しんでいるように見えた。
こんなにも仲良くなるのは想像していなかったが、嬉しい誤算だな。
そうしてフランとグリ、そして指輪の入った籠を持った愛しい姫を連れて静かに庭に向かい、身を隠してそっとその時を待った。
征哉さんの声にさっと現れたフランとグリの姿に、一花さんだけでなく、参列の皆さんからも声が上がる。
「さぁ、一花さんのところに行っておいで」
グリを背中に乗せたフランを見送りながら、私たちは笑顔の新郎新夫に幸せを送り届けた。
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