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サプライズの成功のために

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「一花」

「あっ、征哉さん。お帰りなさい!」

「ああ、ただいま」

ベッドに座り、谷垣くんと話をしていた一花がこちらを向いて笑顔を見せてくれる。
ああ、この子の可愛い花嫁姿が見られると思っただけで興奮してしまうな。

そっと近づいて一花を抱きしめ、ただいまのキスをしている間に志摩くんと谷垣くんも同じように恋人同士の儀式をしているようだ。

一花にとってはもう見慣れた光景だから気にする様子もない。
だからこそ、志摩くんたちがいる前でもこうして堂々とキスをしてくれるのだ。

一息ついてから、

「谷垣くん。一花から週末の話は聞いたか?」

と尋ねると、身体をピクッと震わせた。
もうだいぶ慣れてくれたかと思ったが、まだ私の声は彼に威圧を与えてしまっているようだ。
まぁ無理もないな。

「しゅ、週末の話、ですか?」

「ああ、天沢に頼まれてパンフレットの撮影がてら結婚式を挙げるという話だよ。当日、悪いが志摩くんには運転手兼スケジュール管理として同行してもらうから、谷垣くんにも一緒に来てもらいたい」

「は、はい。喜んでお供させていただきます」

「そうか、ありがとう。あとで志摩くんにも聞くと思うが、その日は近くの保養所で泊まってもらうことになっている。休日返上で付き合ってもらう代わりにそこでのんびり過ごしてもらいたいと思っているからそのつもりで来てほしい」

「保養所、ですか?」

「ああ、我が貴船コンツェルンの保養所だ。社員たちがいつでも泊まりに来られるように作ったものだから社員たちの中には同じ日に宿泊に来ているものもいるだろうが、私たちが泊まるのは別棟だから気遣いは無用だ。部屋に露天風呂もついているからのんびり過ごしてくれ」

「は、はい。楽しみです」

「征哉さん、僕もそこに泊まれるんですか?」

「ああ。もちろんだよ」

「わー、楽しみです!!」

無邪気に喜んでくれる一花を可愛いと思いながらも、私の頭の中はサプライズでいっぱいになっていた。

祝福してくれる人たちの姿を見たら、一花はどれだけ喜んでくれるだろうな。
想像するだけで胸が熱くなる。

当日まではしっかりと内緒にしておかないとな。


そしてあっという間に当日の朝を迎えた。

志摩くんが各方面と打ち合わせをしっかりとしてくれたおかげでもうすっかり準備も万端。
私は一花と共に向かうだけでいい。

「えっ……未知子ママ、来られないんですか?」

一花はてっきり一緒に出かけると思っていたのだろう。
母が予定があって早々に出かけてしまったと伝えるとあからさまにがっかりした表情を見せていた。

本当は母は牧田の運転で呉服屋に一花のサイズに直してもらった白無垢を取りにいき、私たちが到着するまでに天沢が用意してくれた支度部屋に届けてくれる算段になっているのだが、母が来ること自体をサプライズにしているのだから、それをいうわけにもいかない。

「天沢の方は急遽決まったことだったから、母さんの予定を動かせなかったんだよ。残念だが、帰ってから映像と写真を見せることにしよう」

「わかりました……」

「ああ、そうだ。母さんも出かけているし、私たちも遠出をするから今日はグリも一緒に連れて行こう」

「グリも一緒ですか? はい。わかりました」

可愛がっているグリも一緒に連れて行くということで少しは機嫌が治ったことにホッとしながら、駐車場に向かうともうすでに志摩くんと谷垣くんが来てくれていた。

志摩くんも谷垣くんには内緒にするように言っておいたから準備もなかなかに難しかっただろう。
本当に志摩くんには感謝している。

「志摩くん、今日も長距離の運転になるが頼むよ」

「承知しました。途中何箇所か休憩しますので、その時はお知らせします」

「ああ。わかった。谷垣くんも志摩くんのサポートを頼む」

「は、はい。承知しました」

せっかくの休日に二人も連れ出して申し訳なかったが、今夜は保養所でゆっくりと寛いでもらうとしよう。

車に乗り込み、いつもの席に座らせて一花から見える位置にグリをケージごと固定して、車はゆっくりと走り出した。

揺れに生じて一花は途中で眠ってしまっていたが、天沢の店がある場所に近づくと目を覚ました。

「あれ? もうこんなところまで……」

「ふふっ。よく眠っていたな。昨日はあまり寝られなかったか?」

「ちょっとドキドキして……でも、大丈夫です」

「そうか。一花はいつも通りでいいからな。何も心配することはない」

「はい。征哉さんが一緒だから大丈夫です」

そんな話をしている間に車は駐車場に到着した。
窓から見ても他に車は見えない。
手筈通り、招待客はここからは見えないもう一つの駐車場に車を止めてくれているのだろう。

私はこれからの計画を楽しみに、一花を抱きかかえて車を降りた。
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