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尚孝さんの涙
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<side一花>
志摩さんと尚孝さんがいつものように揃って一緒に来て、志摩さんは征哉さんと仕事に向かった。
「昨日は楽しかったみたいで安心したよ」
「はい。直くん……とってもいい子で、会えてよかったです」
「そうか、よかった」
「尚孝さんのおかげです」
「ううん、僕は少し話をしただけ。直純くんが勇気を出して、そして一花くんがそれを受け止めてくれたから上手く行ったんだよ」
「尚孝さん……」
「直純くんにとっても、一花くんにとっても歳の近い友人ができてよかったと思うよ」
「はい。僕……なんだか直純くんが弟みたいで楽しいです」
「ふふっ。僕と一緒だ」
「えっ?」
「僕も一花くんを弟のように思ってるよ。きっと浅香さんもそう思ってるんじゃないかな」
そうか、僕にはお兄ちゃんもいて、弟もできたんだ。
ふふっ。なんだかくすぐったい感じがする。
でも、いつも尚孝さんや敬介さんにいろいろと教えてもらってるから、僕も直くんの質問には答えられるようにならないとな。
あの時、好きな人のことはうまく教えてあげられたと思うけど、これからも頑張らないと!!
「さぁ、今日もリハビリ始めようか」
「はい、がんばります!!!」
筋力トレーニングや身体の動かし方などいつものようにメニューをこなしていって、最後は歩く練習だ。
「今日はちょっと目標を作ろうかな」
「目標、ですか?」
「うん。ちょっと待ってて。準備するから」
そういうと、尚孝さんは少し離れた場所に高い台を置き、そこに何かをぶら下げた。
「じゃあ、一花くん。ここまで歩いて、自分の力でこれを取りに来てみようか」
以前の僕なら簡単に取りに行ける場所。
多分このベッドから三メートルもない。
だけど一メートル歩けるのがやっとの僕にはかなりの試練だ。
でも、頑張らないとね!!
ゆっくりとベッドから下りて、歩行器に支えられて立つ。
だいぶ足も立つことを思い出してくれて、違和感がなくなってきた。
けれど、足を動かすとなると話は別だ。
鉛のように重い足を前に出すのも難しい。
「んーっ! くっ!」
汗が吹き出してくるのを感じながらも一生懸命に足を前に出すと少しずつ進んでいるのがわかる。
「いいよ、ちゃんとできてる。もう少しだよ」
「うぅ――っ! あっ!!」
「やったぁ!!」
「はぁーっ、はぁーっ」
足を前に動かすのが難しくてなかなか進めずにいたけれど、必死に前に進んでいるうちにコツンとボールが頭に当たった。
それを自分の手で取ると、尚孝さんが大喜びしながら駆け寄ってきてくれた。
「一花くん! やったよ!!」
「は、はい。僕……自分で取れたんですね」
「ああ、よく頑張ったね」
振り向くと、ベッドから結構歩いてきたのが実感できる。
「もうすぐ歩行器じゃなくて、片手杖でも歩けるようになるよ」
「わぁ! それだと、もっといろんなところに行けるようになるんですよね?」
「うん。一花くんの行きたいところにどこでも行けるよ」
もう二度と歩けなくなるかもしれないって言われた僕が、どこでも行けるようになるなんて……信じられないくらいだ。
「これも全部尚孝さんのおかげです」
「違うよ、一花くんが頑張ったからだよ」
そう言ってくれるけれど、尚孝さんがいなかったら絶対にここまで回復できてない。
「じゃあ、今度は頑張ってベッドまで戻ってみようか」
「はい! がんばります!」
ここにくるまでは大変だった。
でも帰りは足が動きを覚えてくれているかのように、さっきよりは楽に足が動かせた気がした。
「はぁーっ、はぁーっ」
疲れたけれどそれでも嬉しい疲れだ。
「マッサージをして終わりにしよう」
「はい」
「それにしても今日はすごくやる気だったね」
「はい。だって、直くんと約束したんです」
「約束?」
「早く歩けるようになって、いろんなところに行こうって」
「ああ、だから片手杖をあんなに喜んだんだ?」
「はい。それに……尚孝さんにも早く歩けるようになるところを見せて、僕の事故のことを早く忘れてほしいなって……」
「――っ!」
「僕は本当にもう大丈夫なので、罪悪感なんか持たなくていいですよ。今の僕は幸せですから」
「あ、りがとう……一花くん」
「もう、泣かないでください」
尚孝さんの涙に釣られて、僕も泣きそうになってしまった。
志摩さんと尚孝さんがいつものように揃って一緒に来て、志摩さんは征哉さんと仕事に向かった。
「昨日は楽しかったみたいで安心したよ」
「はい。直くん……とってもいい子で、会えてよかったです」
「そうか、よかった」
「尚孝さんのおかげです」
「ううん、僕は少し話をしただけ。直純くんが勇気を出して、そして一花くんがそれを受け止めてくれたから上手く行ったんだよ」
「尚孝さん……」
「直純くんにとっても、一花くんにとっても歳の近い友人ができてよかったと思うよ」
「はい。僕……なんだか直純くんが弟みたいで楽しいです」
「ふふっ。僕と一緒だ」
「えっ?」
「僕も一花くんを弟のように思ってるよ。きっと浅香さんもそう思ってるんじゃないかな」
そうか、僕にはお兄ちゃんもいて、弟もできたんだ。
ふふっ。なんだかくすぐったい感じがする。
でも、いつも尚孝さんや敬介さんにいろいろと教えてもらってるから、僕も直くんの質問には答えられるようにならないとな。
あの時、好きな人のことはうまく教えてあげられたと思うけど、これからも頑張らないと!!
「さぁ、今日もリハビリ始めようか」
「はい、がんばります!!!」
筋力トレーニングや身体の動かし方などいつものようにメニューをこなしていって、最後は歩く練習だ。
「今日はちょっと目標を作ろうかな」
「目標、ですか?」
「うん。ちょっと待ってて。準備するから」
そういうと、尚孝さんは少し離れた場所に高い台を置き、そこに何かをぶら下げた。
「じゃあ、一花くん。ここまで歩いて、自分の力でこれを取りに来てみようか」
以前の僕なら簡単に取りに行ける場所。
多分このベッドから三メートルもない。
だけど一メートル歩けるのがやっとの僕にはかなりの試練だ。
でも、頑張らないとね!!
ゆっくりとベッドから下りて、歩行器に支えられて立つ。
だいぶ足も立つことを思い出してくれて、違和感がなくなってきた。
けれど、足を動かすとなると話は別だ。
鉛のように重い足を前に出すのも難しい。
「んーっ! くっ!」
汗が吹き出してくるのを感じながらも一生懸命に足を前に出すと少しずつ進んでいるのがわかる。
「いいよ、ちゃんとできてる。もう少しだよ」
「うぅ――っ! あっ!!」
「やったぁ!!」
「はぁーっ、はぁーっ」
足を前に動かすのが難しくてなかなか進めずにいたけれど、必死に前に進んでいるうちにコツンとボールが頭に当たった。
それを自分の手で取ると、尚孝さんが大喜びしながら駆け寄ってきてくれた。
「一花くん! やったよ!!」
「は、はい。僕……自分で取れたんですね」
「ああ、よく頑張ったね」
振り向くと、ベッドから結構歩いてきたのが実感できる。
「もうすぐ歩行器じゃなくて、片手杖でも歩けるようになるよ」
「わぁ! それだと、もっといろんなところに行けるようになるんですよね?」
「うん。一花くんの行きたいところにどこでも行けるよ」
もう二度と歩けなくなるかもしれないって言われた僕が、どこでも行けるようになるなんて……信じられないくらいだ。
「これも全部尚孝さんのおかげです」
「違うよ、一花くんが頑張ったからだよ」
そう言ってくれるけれど、尚孝さんがいなかったら絶対にここまで回復できてない。
「じゃあ、今度は頑張ってベッドまで戻ってみようか」
「はい! がんばります!」
ここにくるまでは大変だった。
でも帰りは足が動きを覚えてくれているかのように、さっきよりは楽に足が動かせた気がした。
「はぁーっ、はぁーっ」
疲れたけれどそれでも嬉しい疲れだ。
「マッサージをして終わりにしよう」
「はい」
「それにしても今日はすごくやる気だったね」
「はい。だって、直くんと約束したんです」
「約束?」
「早く歩けるようになって、いろんなところに行こうって」
「ああ、だから片手杖をあんなに喜んだんだ?」
「はい。それに……尚孝さんにも早く歩けるようになるところを見せて、僕の事故のことを早く忘れてほしいなって……」
「――っ!」
「僕は本当にもう大丈夫なので、罪悪感なんか持たなくていいですよ。今の僕は幸せですから」
「あ、りがとう……一花くん」
「もう、泣かないでください」
尚孝さんの涙に釣られて、僕も泣きそうになってしまった。
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