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直純くんの涙

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<side一花>

すごく楽しみにしていたけど、なんだか少し緊張してきた。
うまく話せるかな?

でも、直純くんは僕より四つも年下だと言っていたし、僕の方から話しかけてあげないと不安になっちゃうよね。
そういえば、自分より小さな子と話をするってすごく久しぶりな気がする。

施設にいたときはずっと小さな子のお世話をしてきたけれど、お店で働くようになってからは小さい子を見たことがなかったかも。
あのお店、お客さんで来る人は大人の男の人ばっかりだったしな。

直純くん……どんな子だろうな。
本当にお友達になれたらいいんだけど……。

何か話しやすくなる方法とかないかな?
うーん、折り紙とか持って行こうか?
編み物の方が興味あるかな?

あっ、そうだ!!

「一花、そろそろ出かけようか」

「はい。あの、征哉さん……ちょっとお願いがあるんですけど……」

「どうした? 一花からお願いだなんて珍しいな」

「あの、直純くんと会う時にグリも連れて行ったらダメですか?」

「えっ? グリを?」

「はい。僕もだけど、きっと直純くんも緊張しているだろうし。グリがいたら雰囲気が和むかなって……」

「ああ、なるほどな。それはいいかもしれないな。グリが良さそうなら連れて行こうか」

征哉さんがグリのところに行って、一緒に行くか? と声をかけるとグリは嬉しそうに寝床から飛び出してきた。
ふふっ。やっぱりグリは僕たちの言葉がわかっているみたいだな。

「会長、お車の支度ができました」

「ああ、志摩くん。ありがとう。今日はグリも連れていくことにしたからな」

「承知しました」

征哉さんと志摩さんは、今日のこのために午前中で仕事を切り上げてお昼過ぎには帰ってきてくれた。
磯山先生のお家まで志摩さんが運転してくれるみたい。

あのキャンピングカーに乗るのはsaraさんに会いに行った時以来。
なんだかすごくワクワクしてきた。

征哉さんに抱っこされて、車に乗り込む。
僕の座る場所が、この前よりもさらに広々としたベッドになっていて驚いてしまう。

「一花がもっと寛げるように改良したんだよ」

さらっとそんなことを言ってくれるけれど、僕のことをいつでも思ってくれているんだと思うと嬉しくなる。

車はとうとう磯山先生の家に向かって動き始めた。

「一花、駐車場に着いたら私だけが降りて彼を連れてくる。車の中で二人でゆっくりと話したらいい。話終わったらこのブザーを鳴らしてくれたら、私たちが迎えに行くからな」

「わかりました」

この車の中で二人っきりか。
ドキドキするけど直純くんのことを考えたら、大人が誰もいない状況の方が安心なんだろうな。

「ここにある冷蔵庫に、二人分のプリンを用意しているから話をしながら食べてくれ。ああ、無理にとは言わないからな」

「わーっ! 征哉さん、ありがとうございます!」

僕の大好きなプリン。
直純くんもプリン食べて美味しかったって言ってたからきっと用意してくれたんだろうな。
征哉さんって本当に優しい。

磯山先生のお家は僕たちが住んでいるお家からそんなに離れていないみたい。
大きな建物で驚いてしまう。

「すごいですね!」

「ああ、磯山先生の家は一階が弁護士事務所になっているんだ。ご自宅は上にあるよ。このままガレージに入れるからな」

そんな説明を受けながら、車は駐車場へ入って行った。

「さぁ、着いた。一花、体調は大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」

「何かあったらすぐにブザーを押してくれ。私が迎えにくるから」

「わかりました」

征哉さんは僕のほっぺたにちゅっとキスをすると、ゆっくりと車を降りていった。

この広い車の中に僕一人……。

ああ、なんだか緊張してきちゃったな。

それからどれくらい時間が経っただろう。
多分そこまで待っていないと思うけど、ドキドキしているから時間の感覚がわからない。

ちょっと不安になっていると、

「ぷぅぷぅ」

とグリの鳴き声が聞こえた。

「あっ、グリ! 僕を安心させようとしてくれているんだね」

嬉しくなって、キャリーバッグからグリを出すと、ぴょーんと僕のところに飛んできてくれた。

「ふふっ、やっぱりグリが一緒でよかったよ」

グリのもふもふとした柔らかな背中を撫でていると落ち着いてくる。

「グリ、今日は新しいお友達に会えるからね。仲良くしてね」

そう話しかけていると、ゆっくりと車のドアが開かれていく音が聞こえてきた。

「あ、あの……なお、ずみです……。しつれい、します……」

僕が座っている場所からはまだ姿は見えない。
けれど、小さくて不安そうな声に、

「どうぞ、入って」

とできるだけ怖がらせないように声をかけると、階段を上がる音が聞こえてきた。

「こっちだよ」

僕が動けないのがもどかしい。
声をかけると、ようやく彼の姿が見えた。

「あ、あの……」

か細い声をあげるその子は、身長も体型も僕に似ている気がした。

「こんにちは」

笑顔で声をかけると、彼の大きな目から大粒の涙がポロポロと溢れた。
そして、その場に崩れ落ちると、

「一花さんっ、ごめんなさいっ!! 母さんが酷いことをして本当にごめんなさいっ!! ごめんなさいっ!!」

とさっきまでのか細い声がどこに行ったのかと思ってしまうほど大きな声で、床に顔を擦り付けながら必死に何度も僕に謝っていた。

「直純くん……顔をあげて」

驚いたけれどなんとか話を聞いて欲しくて、優しく声をかけると直純くんは涙で顔中をくしゃくしゃにしたまま顔をあげた。

それを見て、僕の膝にいたグリが直純くんに目掛けて飛んでいった。

「わっ! えっ、ウサギ?」

「ふふっ。グリっていうんだ。直純くんが泣いてるから慰めようと思ったんじゃないかな。いっぱい抱っこしてあげて」

「えっ……」

僕が笑ったから驚いたんだろうか?
信じられないと言った表情で僕を見つめている。
グリはそんな直純くんのほっぺをぺろぺろと舐めていた。

「わっ、くすぐったいっ!!」

「ふふっ。グリは直純くんのこと気に入ったみたい。ねぇ、そんなところにいないで、こっちにきて。話をしよう」

そういうとようやく直純くんはフラフラと立ち上がって、僕のすぐそばにある椅子に座ってくれた。
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