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楽しい風呂

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「一花、そろそろ風呂に入ろうか」

「はい」

「フランは私と部屋に行こうな」

「ワンっ!」

楽しそうに遊んでいた二人…‥いや、一人と一匹か……に声をかけ、私は一花を抱き上げた。

「着替えも必要なものも全て整えているから安心してくれ」

「お義父さん、ありがとうございます」

「お風呂場はこちらでございます」

二階堂さんに案内され、中に入ると一花用なのか、座りやすそうな椅子が置かれている。
一花の服を手際よく脱がせ、私もあっという間に裸になる。

慣れているとはいえ、この瞬間はいつも一花の視線を感じて少し緊張してしまう。
それが如実に愚息に現れるから、ここはいつも理性が必要だ。

「さぁ、入ろうか」

一花にとっては我が家と旅館以外で入る初めての風呂だ。
だからだろうか、少しはしゃいでいるのがわかる。

ガラガラと引き戸を開け、足を踏み入れた途端、

「わぁっ!」

と一花が大きな声を上げたのは、いい香りの入浴剤が入っていたことも理由の一つだろうが何よりの理由は浴槽の中に置かれたおもちゃたちだろう。
水の上を動くおもちゃや可愛い人形たち。
広い浴槽の中をアヒルのおもちゃが泳いでいるのが見える。
ふふっ。どうやらお義父さんは一花をまだまだ小さな子どもだと思っているようだな。

だが、おもちゃなどで遊んだことがなかった一花にはこれはかなり輝いて見えるらしい。

「征哉さん! 早く入りたいです」

「ああ、わかった。だが、先に髪と身体を洗ってからだぞ。その間、これを持っているといい」

湯船に浮かんでいたウサギのぬいぐるみを取り出して、一花に渡すと

「わぁ、グリみたい!」

と喜んでいた。

この浴室を見て、すっかり子どもに戻ったようだな。

お風呂遊び用のウサギを手に喜んでいる一花を椅子に座らせて、髪と身体をさっと洗い流す。
私もさっと済ませて、一花を抱きかかえ湯船に足を入れた。
湯の揺れに生じて、大きさの違う黄色のアヒルたちが一花を取り囲むように近づいてくる。

「ふふっ。アヒルさん可愛い!」

「ほら、一花。こんなのもあるぞ」

目に入った船を手に取ると、ゼンマイ式で動くようだがその船はかなりリアルだ。

ゼンマイを巻いて走らせると、

「わぁ、すごい! すごい!」

とかなり喜んでいる。
しばらくおもちゃで遊んでいたが、あまり長湯になってしまっては一花の体調にも悪い。

もう少し遊びたそうな一花に、うちにもおもちゃを置こうと宥めて風呂を出た。

出てからもずっとウサギやアヒル、船のことを話していてよほど楽しかったのだとわかる。

着替えを終えて脱衣所を出ると、廊下が薄暗いのがわかる。
あれ? と思っていると、すぐに二階堂さんがやってきた。

「レモン水をお持ちしました。どうぞ」

ああ、なるほど。
風呂に入って火照った顔を私が誰にも見せたくないと思ったのに気づいたのだろう。
いや、もしかしたらお義父さんの頃からの慣習だったのかもしれない。
だからこの明るさか……。

さすがだなと思いながらお礼を言い、一花に飲ませると

「二階堂さん! お風呂がすごかったの!」

と興奮冷めやらぬ様子で報告していた。

「ふふっ。旦那さまが全てお揃えになったのですよ。一花さまが喜んでくださったのなら、旦那さまもさぞお喜びになることでしょう」

「あの船はどちらで買われたのですか? かなりリアルで素晴らしい作りでしたよ」

「あれは旦那さまにお聞きになられた方がよろしいかと存じます。旦那さまは今日の寝室であるあちらの客間にいらっしゃいますよ」

にっこりと微笑まれてある考えが頭に浮かんだが、なるほどそれなら本人に尋ねた方がいいだろう。

グラスを渡し、私は一花を連れてその客間に向かった。

部屋に入ると、広々とした部屋に布団が敷かれているのが見える。
あれが、一花と川の字で寝るために特注したという布団だな。

「ああ、出てきたか。風呂はどうだった?」

「すっごく楽しかったです! グリに似ているウサギさんも、可愛いアヒルさんも、それにあの船、すっごくかっこよかったです」

「おお、そうか。あの船を気に入ってくれたか。あれはな、私の持っている船のミニチュアなんだよ。かなり精巧に作らせたからゼンマイで動く以外は本物だぞ」

やはりそうか。
一花のためにあれも特注したのか。
お義父さんがこの泊まりをどれだけ楽しみにしていたかがわかるな。

「いつか、その船に乗って出かけようか。海は気持ちいいぞ」

「船に、乗る? わぁー、乗ってみたいです!!」

「一花が歩けるようになったら行こうな。海の上で魚釣りするのも楽しいぞ!」

「お魚釣り? 楽しそう!! はい、僕頑張ります!!」

一花の新しい目標ができたな。

目を輝かせている一花の笑顔にお義父さんも目を細めていた。
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