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ご機嫌の理由

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「志摩くん、磯山先生から返信が来ていた」

「もう、ですか?」

志摩くんが驚くのも無理はない。
私でも驚いてしまったのだから。

「ああ、それほど磯山先生も彼のことを心配なさっていたということだろう。ぜひ、彼と谷垣くんを話をさせてあげてほしいと仰っていたよ」

「そうですか、それなら安心です。それで日時はいつ頃のご予定ですか?」

「今週の土曜日、午後一時が都合が良いそうだ。君たちの都合はどうだ?」

志摩くんはすぐにスケジュールをチェックし、

「問題ありません。その時間で進めてくださって結構です」

と答えた。

その上で、

「私も一緒にお伺いしても構いませんか?」

と尋ねてきた。

「ああ、私もそのつもりで君に話をしようと思っていた。流石に直純くんと話をする時は谷垣くんと二人になるだろうが、谷垣くんを一人で磯山先生のご自宅に行かせるのは心配だろう? いや、特別なにか心配なことがあるというわけではないが心情的にどうかと思ったんだ」

「会長のお気持ちに感謝します。私も昨日、尚孝さんに話をした時に一緒に行くと約束しましたので、今日はその旨をお願いしようと思っていたのです。会長の方から私たちの都合を聞いてくださって安心しました」

「そうか、それならよかった。では土曜日の午後一時、頼むよ。まだ子どもだからなにか美味しいものでもお土産に持って行ってやってくれ」

「承知しました。なにかアレルギーの類はお聞きですか?」

「いや、磯山先生からは特に何もなかった。彼に何かあれば必ず連絡をなさるお方だから、そこは心配しなくていいだろう」

「そうですね。では、尚孝さんと相談して手土産を持参します」

「ああ、頼むよ」

私にプリンを紹介してくれた志摩くんだ。
子どもが喜びそうなお土産なら私より断然詳しいだろう。
それに、志摩くんが勧めてくれたプリンは、今でも一花の好きなものの上位に入る。
きっと、相手が喜ぶものをセレクトできるに違いない。


「一花、ただいま」

その日の仕事を終え、部屋に向かうと

「征哉さん!」

と満面の笑みを浮かべた一花に迎えられた。

谷垣くんは笑顔の一花の隣で笑顔を向けながら、私と一緒に入ってきた志摩くんの手を取ってさっと部屋を出ていった。
いつもなら一言、二言くらいは話をして帰るのに。
何があったのだろう?
一花のご機嫌な様子と何か関係があるのか?

「どうした? 今日は一段とご機嫌だな」

「はい。これ……」

「んっ? あっ!」

一花は枕元からそっとと包みを取り出し、手渡してくれた。
このラッピングには見覚えがある。
以前、櫻葉会長に贈っていたものと同じだ。

「一花……っ」

「やっと完成したんです。だから、征哉さんに受け取ってもらえると思ったら嬉しくて……」

「そうか、ありがとう。開けてもいいか?」

「はい」

少し緊張をしているのか、頬をほんのり赤らめているのが可愛い。

包みの中から出てきたのは、ブルーグリーンの色味がなんとも綺麗なマフラー。
母がよくマフラーを作っていたから柄の知識は多少私にもあるが、一花の作ってくれたマフラーはアラン模様と透かし編みの両方が施されていて、あまりの美しさに目を奪われる。

これだけ作るのがどれほど大変だったか、それは私の想像以上だろう。
しかも並列で櫻葉会長の分も作っていたのだ。
櫻葉会長のマフラーもかなり難しい編み方で驚いたのに、これはさらに上をいく。

一花の技術の高さに驚かされるばかりだ。

「すごいな! こんなに素晴らしい贈り物は初めてだよ!!」

「征哉さん……よかった、嬉しい」

「一花、大変だっただろう。本当にありがとう。これを一花の手で私に巻いてくれないか?」

「はい」

一花の小さな手が、私の手からマフラーを優しくとってゆっくりと私の首にかけてくれる。

くるくると二周ほど巻いて、軽く重ね合わせると

「どうですか?」

とまだ赤らんだ顔で尋ねてくる。

「ああ、本当にあったかいな。これで今年の冬は寒さ知らずだ」

「ふふっ。その色、征哉さんにすごく似合ってます」

「一花が選んでくれたこの色は、私も大好きになったよ」

「征哉さん……」

「ありがとう、一花……」

「んんっ……」

一花を胸に抱き、唇を重ねる。
甘いけれど重ねるだけのキスをして、ゆっくりと離すと

「せい、やさん……もっと、したぃ……です」

と恍惚とした表情で私を見上げる。

くっ!
ああ、愛しい恋人にこんなおねだりされて拒めるはずがない。

「ああ、私の部屋に行こうか」

耳元でそう囁くと、一花は身体を震わせながら小さく頷いた。
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