143 / 279
一花くんの質問
しおりを挟む
<side有原佳史>
久しぶりに訪れた銀座でまさかこんなことになろうとは思っても見なかった。
私はただ限定スイーツが食べたかっただけなのに……。
でも、あの浅香さんと一緒にテーブルを囲めるなんて、夢のようだ。
四学年上の浅香さんとは大学で交流こそなかったが、私のゼミの恩師である緑川教授と、浅香さんのゼミの恩師である鳴宮教授が親友ということもあって、誘われたお茶会ではよく話題に上がっていた。
若くしてイリゼホテルグループのオーナーとして手腕を発揮し、業績は右肩上がり。
きめ細やかなサービス、食事の美味しさ、高級感のある上品で落ち着いた部屋。
そのどれもがホテルを利用したすべての人を虜にする要素を持ち、一度宿泊をするとよそのホテルでは泊まりたくなくなると言われているほどだ。
そんなすごい人なのに物腰も柔らかく、甘いものが好きで、可愛らしいところがあるのだと鳴宮教授が教えてくれた。
いつか、一緒にお茶会できたらいいねと言われていたけれど、一足早くここでお茶をできるとは驚きしかない。
緑川教授に会った時にこの日のことを話せば、きっと、ずるいー! と言われるに違いない。
いや、鳴宮教授にも言われるかな。
そんなお二人の姿を思い出して、思わず笑みを溢すと
「あの……榎木先生の、恋人さん……」
と可愛いらしく呼びかけられた。
「ふふっ。佳史でいいよ。一花くん」
「はい。えっと、佳史さん……弁護士さんって、かっこいいですね」
キラキラとした目で見つめてくれるけれど、一花くんのこんな可愛い視線をもらって、貴船さんに申し訳なく感じてしまうのは、賢吾から貴船さんのかなり嫉妬深いところを聞いていたからだ。
今もあちらから貴船さんの視線を感じる気がする。
「ありがとう。一花くんに言ってもらえると嬉しいな。でも、貴船さんの方がかっこいいよ。弁護士の資格もお医者さんの資格も持っている上に、大きな会社の会長さんまでやっているんだからね」
「あっ、そっか……そうですね、ふふっ。征哉さん、すごいんだ」
本当に貴船さんは常識じゃ考えられないほど能力が高い人だ。
一花くんはきっとそこまではわかっていないだろうけれど、ただ純粋に自分の恋人が褒められて嬉しいんだろう。
満面の笑みを見せる一花くんを見て、私は浅香さんと顔を見合わせて笑った。
「お待たせいたしました」
「わぁ! 美味しそう!!」
運ばれてきたデザートプレートがあまりにも可愛く、そして美味しそうで思わず声を出してしまった。
「あっ、すみません。ついテンションが上がってしまって……」
「いえいえ、そんなに喜んでいただけると嬉しいですよ。ねぇ、一花くん」
「はい。あの、佳史さん……このケーキ、すっごく美味しかったですよ」
「一花くんのおすすめはどれ?」
「えっと……どれも美味しかったんですけど、でもこのメロンがすっごく美味しかったです」
「じゃあ、一花くんのおすすめから頂こうかな」
一花くんなら二口サイズほどの小さなメロンケーキをパクリと一口で頬張ると、鼻に抜ける芳醇な香りとクリーミーで柔らかな果肉の濃厚な甘味が口の中に広がる。
「んんっ!!」
飲み込んでしまうのが勿体無いほど美味しい。
たっぷりと味わって
「これ、本当に美味しいですね。一花くんのおすすめだけのことはあるな」
と感想を伝えると一花くんはもちろん、浅香さんも笑顔を見せてくれた。
その後も、これもあれもとおすすめを教えられ、あっという間に半分ほど食べ終わったところで浅香さんに尋ねられた。
「榎木先生とはもう長くお付き合いされているんですか?」
「え? ええ。はい。実は小学校の時からの同級生で、高校の時から、その……付き合っているので、もう十五年以上は一緒にいますね」
「十五年以上? それはすごいですね」
「あの、浅香さんと蓮見さんは……?」
「まだ全然ですよ。周平さんはずっと私のことを知ってくださっていたみたいなんですけど、無理だろうと思って声をかけてくださらなかったみたいで……ようやく最近纏まった感じでしょうかね」
「そうなんですね。でも、きっと蓮見さんのことだから、浅香さんに近づこうとしている人は排除していたでしょうね」
「わかります?」
「ええ、もちろんです。さっきお話ししただけでも、浅香さんへの独占欲のようなものを感じましたから」
そういうと、浅香さんは少し照れながらも嬉しそうに見えた。
「あの……ちょっと、お二人に聞きたいことがあるんですけど、聞いてみてもいいですか?」
「なんでも聞いてくれていいよ。ねぇ、有原くん」
「はい。私でよければなんでもいいですよ」
「わぁ、よかった。あの、恋人さんとのキスって気持ちいいですか?」
「「えっ?」」
キスッテ、キモチイイ、デスカ……。
一瞬聞き間違いだと思った。
無邪気な笑顔でそんなことを尋ねられるなんて思ってもみなかったから。
私はなんて返したらいいのか、わからなくて救いを求めるように浅香さんに視線を向けた。
久しぶりに訪れた銀座でまさかこんなことになろうとは思っても見なかった。
私はただ限定スイーツが食べたかっただけなのに……。
でも、あの浅香さんと一緒にテーブルを囲めるなんて、夢のようだ。
四学年上の浅香さんとは大学で交流こそなかったが、私のゼミの恩師である緑川教授と、浅香さんのゼミの恩師である鳴宮教授が親友ということもあって、誘われたお茶会ではよく話題に上がっていた。
若くしてイリゼホテルグループのオーナーとして手腕を発揮し、業績は右肩上がり。
きめ細やかなサービス、食事の美味しさ、高級感のある上品で落ち着いた部屋。
そのどれもがホテルを利用したすべての人を虜にする要素を持ち、一度宿泊をするとよそのホテルでは泊まりたくなくなると言われているほどだ。
そんなすごい人なのに物腰も柔らかく、甘いものが好きで、可愛らしいところがあるのだと鳴宮教授が教えてくれた。
いつか、一緒にお茶会できたらいいねと言われていたけれど、一足早くここでお茶をできるとは驚きしかない。
緑川教授に会った時にこの日のことを話せば、きっと、ずるいー! と言われるに違いない。
いや、鳴宮教授にも言われるかな。
そんなお二人の姿を思い出して、思わず笑みを溢すと
「あの……榎木先生の、恋人さん……」
と可愛いらしく呼びかけられた。
「ふふっ。佳史でいいよ。一花くん」
「はい。えっと、佳史さん……弁護士さんって、かっこいいですね」
キラキラとした目で見つめてくれるけれど、一花くんのこんな可愛い視線をもらって、貴船さんに申し訳なく感じてしまうのは、賢吾から貴船さんのかなり嫉妬深いところを聞いていたからだ。
今もあちらから貴船さんの視線を感じる気がする。
「ありがとう。一花くんに言ってもらえると嬉しいな。でも、貴船さんの方がかっこいいよ。弁護士の資格もお医者さんの資格も持っている上に、大きな会社の会長さんまでやっているんだからね」
「あっ、そっか……そうですね、ふふっ。征哉さん、すごいんだ」
本当に貴船さんは常識じゃ考えられないほど能力が高い人だ。
一花くんはきっとそこまではわかっていないだろうけれど、ただ純粋に自分の恋人が褒められて嬉しいんだろう。
満面の笑みを見せる一花くんを見て、私は浅香さんと顔を見合わせて笑った。
「お待たせいたしました」
「わぁ! 美味しそう!!」
運ばれてきたデザートプレートがあまりにも可愛く、そして美味しそうで思わず声を出してしまった。
「あっ、すみません。ついテンションが上がってしまって……」
「いえいえ、そんなに喜んでいただけると嬉しいですよ。ねぇ、一花くん」
「はい。あの、佳史さん……このケーキ、すっごく美味しかったですよ」
「一花くんのおすすめはどれ?」
「えっと……どれも美味しかったんですけど、でもこのメロンがすっごく美味しかったです」
「じゃあ、一花くんのおすすめから頂こうかな」
一花くんなら二口サイズほどの小さなメロンケーキをパクリと一口で頬張ると、鼻に抜ける芳醇な香りとクリーミーで柔らかな果肉の濃厚な甘味が口の中に広がる。
「んんっ!!」
飲み込んでしまうのが勿体無いほど美味しい。
たっぷりと味わって
「これ、本当に美味しいですね。一花くんのおすすめだけのことはあるな」
と感想を伝えると一花くんはもちろん、浅香さんも笑顔を見せてくれた。
その後も、これもあれもとおすすめを教えられ、あっという間に半分ほど食べ終わったところで浅香さんに尋ねられた。
「榎木先生とはもう長くお付き合いされているんですか?」
「え? ええ。はい。実は小学校の時からの同級生で、高校の時から、その……付き合っているので、もう十五年以上は一緒にいますね」
「十五年以上? それはすごいですね」
「あの、浅香さんと蓮見さんは……?」
「まだ全然ですよ。周平さんはずっと私のことを知ってくださっていたみたいなんですけど、無理だろうと思って声をかけてくださらなかったみたいで……ようやく最近纏まった感じでしょうかね」
「そうなんですね。でも、きっと蓮見さんのことだから、浅香さんに近づこうとしている人は排除していたでしょうね」
「わかります?」
「ええ、もちろんです。さっきお話ししただけでも、浅香さんへの独占欲のようなものを感じましたから」
そういうと、浅香さんは少し照れながらも嬉しそうに見えた。
「あの……ちょっと、お二人に聞きたいことがあるんですけど、聞いてみてもいいですか?」
「なんでも聞いてくれていいよ。ねぇ、有原くん」
「はい。私でよければなんでもいいですよ」
「わぁ、よかった。あの、恋人さんとのキスって気持ちいいですか?」
「「えっ?」」
キスッテ、キモチイイ、デスカ……。
一瞬聞き間違いだと思った。
無邪気な笑顔でそんなことを尋ねられるなんて思ってもみなかったから。
私はなんて返したらいいのか、わからなくて救いを求めるように浅香さんに視線を向けた。
482
お気に入りに追加
4,683
あなたにおすすめの小説
【完結】勇者様の思い通り~魔王や魔族たちに何故か溺愛されてます
浅葱
BL
【12/18 完結後番外編を上げました】
「私と結婚してこの魔の国を治めてはくれぬか?」
妖艶な美女の姿をした魔王にそう言われ、勇者は泣いた。
「なんで女性ばっかなんだよおおおーーー!」と。
勇者の恋愛対象は男性なのに、見目よし、実力ありのせいか勇者パーティーは全員女性だった。
魔王城に辿り着くまで、パーティーの女性たちに毎晩夜這いをかけられて女性不信マックスになっていた勇者。
これはもう魔王に殺してもらうしかないとまで思いつめて魔王城に着いたら、魔王まで女性でしかも勇者に求婚してくる始末。
勇者は絶望したが、魔王の元の姿は男性型で、しかも変化が得意と知って?
元の姿は背が低めの少年魔王(変化が得意。アレはでかい)+魔族とか魔物×顔はイケメンだけどムキムキマッチョな童貞処女ビッチ勇者。
魔族や魔物は強い者が好きで、その者に従う傾向がある。勇者は妄想をこじらせ過ぎていろんな男性に愛されたいと強く願っていたから、魔王、魔族、魔物にめちゃくちゃ愛されるようになる。
超テンプレ。誰もが書いてる設定での安定のハッピーエンドです。
魔王とのらぶえち(変化あり)あり、魔族や魔物とのらぶえちもあり。小スカとか二輪挿しもあるし、ありえないところからの出産もあるよ(ぉぃ
公開セッ/総受け/巨根攻め/結腸責め/複数攻め/尿道責め/小スカ/拡張/二輪挿し/乳首責め/触手責め/駅弁/出産あり
注:勇者以外がされる描写もあります。そちらには注意書きを改めて入れます~
9/2 表紙のイラストはNEOZONE様に描いていただきました! 魔王(エリーアス)と勇者(クルト)と侍従長(イオール)です! 美麗イラストめちゃくちゃ嬉しいです!!
12/1 fujossyの「第三回 fujossy小説大賞」に参加します! 修正更新していきますのでよろしくー
https://fujossy.jp/books/25823
二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです
矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。
それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。
本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。
しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。
『シャロンと申します、お姉様』
彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。
家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。
自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。
『……今更見つかるなんて……』
ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。
これ以上、傷つくのは嫌だから……。
けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。
――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。
◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _)
※感想欄のネタバレ配慮はありません。
※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる