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一花くんの質問

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<side有原佳史>

久しぶりに訪れた銀座でまさかこんなことになろうとは思っても見なかった。
私はただ限定スイーツが食べたかっただけなのに……。

でも、あの・・浅香さんと一緒にテーブルを囲めるなんて、夢のようだ。

四学年上の浅香さんとは大学で交流こそなかったが、私のゼミの恩師である緑川教授と、浅香さんのゼミの恩師である鳴宮教授が親友ということもあって、誘われたお茶会ではよく話題に上がっていた。

若くしてイリゼホテルグループのオーナーとして手腕を発揮し、業績は右肩上がり。
きめ細やかなサービス、食事の美味しさ、高級感のある上品で落ち着いた部屋。
そのどれもがホテルを利用したすべての人を虜にする要素を持ち、一度宿泊をするとよそのホテルでは泊まりたくなくなると言われているほどだ。

そんなすごい人なのに物腰も柔らかく、甘いものが好きで、可愛らしいところがあるのだと鳴宮教授が教えてくれた。
いつか、一緒にお茶会できたらいいねと言われていたけれど、一足早くここでお茶をできるとは驚きしかない。

緑川教授に会った時にこの日のことを話せば、きっと、ずるいー! と言われるに違いない。
いや、鳴宮教授にも言われるかな。

そんなお二人の姿を思い出して、思わず笑みを溢すと

「あの……榎木先生の、恋人さん……」

と可愛いらしく呼びかけられた。

「ふふっ。佳史でいいよ。一花くん」

「はい。えっと、佳史さん……弁護士さんって、かっこいいですね」

キラキラとした目で見つめてくれるけれど、一花くんのこんな可愛い視線をもらって、貴船さんに申し訳なく感じてしまうのは、賢吾から貴船さんのかなり嫉妬深いところを聞いていたからだ。
今もあちらから貴船さんの視線を感じる気がする。

「ありがとう。一花くんに言ってもらえると嬉しいな。でも、貴船さんの方がかっこいいよ。弁護士の資格もお医者さんの資格も持っている上に、大きな会社の会長さんまでやっているんだからね」

「あっ、そっか……そうですね、ふふっ。征哉さん、すごいんだ」

本当に貴船さんは常識じゃ考えられないほど能力が高い人だ。
一花くんはきっとそこまではわかっていないだろうけれど、ただ純粋に自分の恋人が褒められて嬉しいんだろう。
満面の笑みを見せる一花くんを見て、私は浅香さんと顔を見合わせて笑った。

「お待たせいたしました」

「わぁ! 美味しそう!!」

運ばれてきたデザートプレートがあまりにも可愛く、そして美味しそうで思わず声を出してしまった。

「あっ、すみません。ついテンションが上がってしまって……」

「いえいえ、そんなに喜んでいただけると嬉しいですよ。ねぇ、一花くん」

「はい。あの、佳史さん……このケーキ、すっごく美味しかったですよ」

「一花くんのおすすめはどれ?」

「えっと……どれも美味しかったんですけど、でもこのメロンがすっごく美味しかったです」

「じゃあ、一花くんのおすすめから頂こうかな」

一花くんなら二口サイズほどの小さなメロンケーキをパクリと一口で頬張ると、鼻に抜ける芳醇な香りとクリーミーで柔らかな果肉の濃厚な甘味が口の中に広がる。

「んんっ!!」

飲み込んでしまうのが勿体無いほど美味しい。
たっぷりと味わって

「これ、本当に美味しいですね。一花くんのおすすめだけのことはあるな」

と感想を伝えると一花くんはもちろん、浅香さんも笑顔を見せてくれた。

その後も、これもあれもとおすすめを教えられ、あっという間に半分ほど食べ終わったところで浅香さんに尋ねられた。

「榎木先生とはもう長くお付き合いされているんですか?」

「え? ええ。はい。実は小学校の時からの同級生で、高校の時から、その……付き合っているので、もう十五年以上は一緒にいますね」

「十五年以上? それはすごいですね」

「あの、浅香さんと蓮見さんは……?」

「まだ全然ですよ。周平さんはずっと私のことを知ってくださっていたみたいなんですけど、無理だろうと思って声をかけてくださらなかったみたいで……ようやく最近纏まった感じでしょうかね」

「そうなんですね。でも、きっと蓮見さんのことだから、浅香さんに近づこうとしている人は排除していたでしょうね」

「わかります?」

「ええ、もちろんです。さっきお話ししただけでも、浅香さんへの独占欲のようなものを感じましたから」

そういうと、浅香さんは少し照れながらも嬉しそうに見えた。

「あの……ちょっと、お二人に聞きたいことがあるんですけど、聞いてみてもいいですか?」

「なんでも聞いてくれていいよ。ねぇ、有原くん」

「はい。私でよければなんでもいいですよ」

「わぁ、よかった。あの、恋人さんとのキスって気持ちいいですか?」

「「えっ?」」

キスッテ、キモチイイ、デスカ……。

一瞬聞き間違いだと思った。
無邪気な笑顔でそんなことを尋ねられるなんて思ってもみなかったから。

私はなんて返したらいいのか、わからなくて救いを求めるように浅香さんに視線を向けた。
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