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楽しみな約束

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<side征哉>

「一花、まさか櫻葉会長の分までマフラーを編んでいるとは思わなかったぞ」

帰りの車の中でそのことを告げると、

「麻友子お母さんのお墓参りに行く時に、お母さんの作ってくれたあの服をぬいぐるみに着せていくっていうのはずっと考えてましたけど、お父さんにも何かしてあげられたら……って思ってたんです。そうしたら未知子お母さんがお父さんにもマフラーを編んであげたらどうかって言ってくれて……。でも、お父さんに会う日が早くなったので、ここのところお父さんのしか編めていなくて……征哉さんのマフラーの完成が遅くなってしまってごめんなさい……」

と謝られてしまった。

「ああ、違うんだよ。一花。私は別に怒っているわけではない。あれほどのマフラーを二本も編み上げるのは大変だっただろうと、一花の身体が心配になっただけだ」

「征哉さん……よかった。でも、大丈夫です。マフラーを編むのってすごく楽しくて……喜んでくれるかなって思いながら編むのはとても楽しいです」

「そうか。ならいいが、無理はしないでいいからな」

「はい。征哉さんのマフラーももうすぐできるので完成したら使ってくれますか?」

「ああ、もちろんだよ。その時は一花が首に巻いてくれるんだろう?」

「はい。僕でよかったら喜んで」

「ああ、ぜひやってくれ。実は一花にマフラーを巻いてもらっている櫻葉会長が羨ましくて仕方がなかったんだ」

「ふふっ。征哉さんったら……」

一花は冗談だと思っているようだが、私はいつだって真剣だ。
一花の全てを私が独占したいといつだって思っている。

ただ一花に呆れられたくなくて我慢しているだけだ。

自宅に戻り、

「少し休むか?」

と尋ねると、

「ちょっとだけグリと遊びたいです」

と言い出した。

「このところ、編み物が忙しくてグリとあまり遊べてなかったので……。

「そうだったか。わかった。でも少しだけだぞ」

グリのいるサークルの中に一花を座らせると、グリが嬉しそうにケージから飛び出してきた。

一花は小さなボールを手に持って誘うとそれを目掛けて駆けてくる。

「ふふっ。グリ、このボール大好きだもんね」

楽しそうにグリと遊んでいる一花を見ていると、写真を撮らずにはいられなかった。

「一花、こっち向いて」

「えっ? あっ!」

不意を突いて声をかけると、グリを抱っこしたまま可愛くこちらを向く。

「ああ、最高の写真が撮れたな」

「いきなりでびっくりしちゃいました」

「いきなりでもいつでも一花は可愛いぞ」

「征哉さんったら……」

「これは浅香さんに送ろうか。ほら、一花もグリもよく撮れてる」

そう言って、撮った写真を見せると一花が嬉しそうに笑う。

「浅香さんと明後日会えるんですよね?」

「ああ、そうだな」

「じゃあ、その話と一緒にこの写真を送ります」

もうすっかりメッセージに写真をつけて送るのも上手になった一花は私から写真を受け取ると、メッセージを入れてそのまま浅香さんに送っていた。

すると数分もしないうちに

<グリの表情を見たらどれだけ愛されているかがわかるな。グリを大切に育ててくれている一花くんと明後日会えるのを楽しみにしているよ。ちなみに、一花くんはメロンは好きかな?>

と浅香さんからメッセージが届いた。

「メロンって、前に食べたあの甘いのですよね?」

「ああ、そうだ。一花はメロンも好きだよ」

「はーい」

私の言葉を聞いて嬉しそうにメッセージを返す一花にまたすぐにメッセージが返ってくる。
しかも可愛らしいスタンプ付きで。

もうすっかり浅香さんとは仲良しになっているようだ。
これなら明後日も心配はいらないな。

<side浅香敬介>

「周平さん、一花くんからメッセージが届きましたよ」

「本当に定期便だな。それで今日はどんな写真だ?」

「ふふっ。見てください」

「おお、これはまた、可愛らしいな」

「きっと不意打ちで貴船さんが撮られたものでしょう。無防備な感じが出ていてとても可愛ですね」

毎日一花くんから送られてくるグリとの写真。
最初こそ、グリの成長記録のような写真だったけれど、一度一花くんと一緒に写っている写真を送ってくれたのが可愛くて喜びのメッセージを返したところ、それからは一花くんと一緒に映った写真が増えていった。

次第に、この写真を見ることが俺の癒しになっていた。

「それにしても明後日、一花くんがうちのホテルに来てくれるなんて……嬉しい限りですね」

「ああ、あのぬいぐるみ作家のsaraさんを紹介してあげたお礼をしたいと言われたから、無理を承知で頼んでみたのだが、了承してくれてよかったと思っているよ。時期が時期だけに外に出すのを躊躇うかと思っていたが、早々に実現できてよかった。その間、警備は私に任せてくれ。敬介は一花くんとゆっくり楽しんでくれていいから」

「はい。ありがとうございます」

周平さんはいつだって俺を最優先にしてくれる。
今回のお礼も俺のために一花くんとの時間を作ってもらえるように頼んでくれた。

一花くんは弟のような感じで守ってあげたくなるんだよな。
本当に可愛いんだ。

パティシエには特別なものを用意するように頼んでいるし、喜ぶ顔を見るのが今から楽しみでたまらない。
ああ、早く明後日にならないかな。
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