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いつか二人を……

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ー敬介、どうした?

ーあっ、周平さん。今、大丈夫ですか?

ーそんな心配はいらない。どんな時でも敬介からの連絡は私の最優先事項だよ。

ーふふっ。嬉しいです。

さらっと優しい言葉をかけられて、お電話口で顔が綻んでしまった。

ーそれで、どうした?

ーあっ、今アプリからの注文が――

ーえっ? 敬介のところにも?

ーえっ? ってことは周平さんのところもですか?

ーああ、一花くんからウサギ耳がついた上着の注文があった。

ーわぁ! やっぱり! あれ、一花くんなら絶対に気に入ってくれるって思ったんですよね。

貴船さんからお買い物アプリで、一花くんに買い物をさせたいと話が来た時に、一花くんのための衣装も揃えようという話になって、周平さんとどんな洋服がいいか考えたんだ。

それで、俺がグリと同じ耳をつけた上着はどうかとアイディアを出したら、すぐにそれを採用してくれてあっという間に作り上げてくれた。
それがすぐに一花くんの目に止まって注文まで来るなんて!
うちのマンゴータルトの注文も嬉しかったけれど、俺の考えた洋服に注文が入ったのを聞くのはもっと嬉しい。

まぁ、周平さんの洋服が最高だからアイディアは二の次なんだけれど。

ー敬介のセンスは抜群だな。これからもアイディアを頼むよ。

ーふふっ。任せてください。

冗談だとわかっていても周平さんに褒められて頼られるのは嬉しい。

ーそれで、アプリの注文がどうした?

ーああ、そうなんです。一花くんからうちにマンゴータルトの注文があって……

ーそうか。買い物アプリを楽しんでくれているみたいだな。

ーはい。このまますぐに貴船さんのご自宅にお届けしますよ。

ーああ、きっと喜ぶだろう。敬介のところのマンゴータルトは最高だからな。

ーはい。悠真くんのところのマンゴーですから。

ーははっ。そうだな。ああ、そうだ。マンゴータルトと一緒に、あの紅茶も届けてやるといい。伊織が話していた紅茶、あれはマンゴータルトとの相性がピッタリだろう?

ーああ、そうですね。わかりました。じゃあ、また。

ーああ、この時間に敬介と話せて幸せだよ。愛しているよ。

そんな愛の言葉が聞こえて電話が切れた。

こっちこそ周平さんの声を聞けるだけで幸せだ。

俺はウキウキしながら、総支配人と調理部に連絡を入れた。


<side未知子>

蓮見さんのところの息子さんが作ってくれたというお買い物アプリはすっかり一花くんのお気に入り。
今も尚孝くんと二人で楽しそうに選んでいるのが見える。

今まで人のためどころか、自分の買い物もしたことがなかったんだから当然ね。
でも本当にいいものを作ってくれたものだわ。

値段も書かれていないから一花くんも気にしなくて済むし、何より自分のものを買おうという気になれるのがいい。
今までずっと自分のことなんか抑えつけて生きてきたのだから。
これまでの分も楽しんでもらわなくちゃ!

そうそう。
磯山先生のところに引き取られたという子はどうしているかしら?

征哉から話を聞いた夜からずっとテレビをつけたら一花くんの話ばかり。
騒がれるのも無理はないわね。
なんと言ってもあの櫻葉グループの御曹司となるはずだった一花くんが誘拐されて、その犯人が18年の時を経て捕まり、しかもその誘拐された一花くんが無事に生きて戻ってきたのだから。

実行犯も共犯者もその日のうちに日本中で知らない人がいないくらいに知れ渡って、彼女たちの自宅前には人が押し寄せていると言っていた。

すでに共犯者の夫の方は海外に発ったと聞いているし、子どもは磯山先生のご自宅にいる。
本当に素早い対応で正解だったわね。

でもいくらいいところに引き取られたとしても、母親が捕まり、父親とも離れて14歳の子が寂しくないわけがない。
私にも何かできることはないかしら。

ちょっと様子が気になって、絢斗くんに電話してみることにした。

ーはい。もしもし。緑川です。

ーああ、絢斗くん。私、貴船未知子です。今、お電話大丈夫かしら?

ー未知子さんっ、私も近々ご連絡しようと思っていたんです。

ーあら、そうなの?

ーはい。きっと、直純くんのことですよね?

ーええ。あなた方のところで引き取ったと聞いたからちょっと気になって連絡してみたの。それでどう? 

ーそれが……心配になるくらい良い子で……びっくりしてます。というか、よほど厳しく躾けられたんでしょうね。食事の時も黙々と食べていて……卓さんも驚いてしました。

ーそう……。直純くんも直純くんで辛い生活を過ごしてきたのかもしれないわね。

ーあの、そちらでその誘拐された一花くんを預かっていると伺ったんですけど……。

ーええ。預かっているというか、もううちの子どもなのよ。私の養子として籍に入れたの。

ーあっ、そうなんですね。私、そこまで聞いてなくて……。てっきり櫻葉さんのところにお戻りになるのかと……

ーふふっ。そんなことしたら征哉が怒ってしまうわ。

ーえっ? それってどういう……

ーふふっ。征哉はね……一花くんを愛してるの。もう結婚したも同然でそばにいるのよ。

ーああ、そうなんですね……。ふふっ。未知子さん、良かったですね。ずっと愛する人に出会ってほしいと仰ってましたから。

ーええ。本当に喜んでいるのよ。一花くん、すごく良い子だから。

ーそれを聞いて安心しました。直純くんも、自分の母親のせいで不幸にさせてしまったって一花くんのことをずっと心配していて……だから、征哉くんがそばにいると知ったら少しは気が楽になると思います。

ーそう……一花くんのことを心配してくれているのね。

ーええ。本当に優しい子なんです。

ーいつか直純くんと一花くんを会わせてやりたいわ。また当分は世間も騒がしいだろうし、征哉の感情も追いつかないだろうけど。いつか、会わせたいわね。

ーそうですね。直純くんも会って話したいこともあるでしょうから。

ーでもとりあえず、直純くんが元気だとわかって良かったわ。

ーはい。これから頻繁に連絡を入れますね。

ーええ、そうしてくれると助かるわ。私も連絡入れるわね。

そう言って、電話を切った。
まだまだ心配なところもあるけれど、ひとまず元気そうで安心したわ。

ホッと胸を撫で下ろしていると、玄関の呼び鈴が聞こえた。
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