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新しい家族が増えた

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<side征哉>

「ひかる、よかったな」

「はい。僕……とっても嬉しいです」

ひかるは腕の中で眠るグリの背中を優しく撫でながら、目に涙を浮かべている。

その涙をそっと指で拭ってやると、

「征哉さん……本当にありがとうございます」

と私を見上げながらお礼を言ってくれる。

「僕があの時グリともっといたいなって思ったのを気づいてくれていたんでしょう?」

「ああ、それと同時にグリもひかるを必要としている気がしたんだ。ひかるも自分がお世話する存在がいると、張り合いが出るだろう?」

「はい。僕……これからもっとリハビリ頑張ります!」

「早速いい方向に動きそうだな」

「あっ、グリのお部屋とかはどうしたらいいんですか?」

「それなら心配はいらないよ。もう用意しているんだ。ちょっと待っていてくれ」

ひかるのベッドから下りて一旦部屋を出る。
牧田を呼んで隣の部屋に準備していたフェンスをひかるの部屋に運び、畳二畳ほどのスペースを囲った。
床には芝生に似たラグを敷き遊びスペースの完成だ。
そのスペースの奥に浅香さんがグリを連れてくる時に持ってきてくれたケージを設置して、いつでも遊びスペースに出られるように入り口を開けておいた。
トイレはケージのすぐ隣に設置した。
一緒に入っていたメモにはもうトイレのしつけはしっかりとできていると記載があった。
ただ初めての場所では慣れずに何度か粗相もすることもあるようだが優しくトイレの場所を教えてあげてほしいと書かれていた。

こういう点ではウサギも子どもも同じようなものなのかもしれない。

二畳ほどのスペースで足りるのかと心配だったがウサギは基本ケージの中で生活し、運動するときや遊び時に外に出てくるからこれくらいでちょうどいいらしい。

この広さがあれば、ひかるも遊びスペースの中に入ってグリと戯れることができる。

「準備ができたよ。一緒に入ってみよう」

グリを抱っこしたひかるを抱きかかえて、一緒に遊びスペースの中に入りラグの上にそっと座らせてやると、

「わぁっ! ふかふかして気持ちがいいですね。これならグリも気持ちよさそう!」

と可愛い声をあげる。

「あのケージがグリの部屋だから、普段はあそこで生活するようになるよ。トイレはあっちだから、グリがトイレ以外のところでしていたら、優しく教えてあげてくれ」

「わかりました! 僕、施設では小学生の時から何人もの赤ちゃんのお世話を任されていて、トイレトレもしてたので汚されても全然気にならないから大丈夫です!! こうやって座ったままでもお掃除はできますからお世話は任せてください!」

「――っ、そうか……でも無理はしないでくれ」

あっけらかんと話をしているが、どれだけこき使われていたんだろうな。
小学生の頃から赤ちゃんの世話を言いつけられるとは……ずっと働き詰めだったのだろうな。

「ひかるくん、私もグリのお世話を一緒にするからね」

「お母さん、ありがとうございます。あっ、お母さんもグリを抱っこしてみてください。ふわふわでとっても可愛いですよ」

「ふふっ。じゃあ、抱っこしてみようかしら」

ひかるがそっと母にグリを手渡すと、一瞬起きるようなそぶりを見せたがそのまま母の腕の中で眠ってしまった。
よかった、母もグリに気に入られたようだな。

「他にグリに必要なものは今、志摩くんと谷垣くんが買い物に行ってくれているから、後で持ってきてくれるよ」

と話をしたところで、部屋の扉が叩かれ牧田が入ってきた。

「旦那さま、志摩さまと谷垣さまがお越しになりました」

「ああ、いいタイミングだったな。すぐにここに呼んでくれ」

「承知しました」

それからすぐに部屋に入ってきた志摩くんの手には大きな袋がいくつもあり、谷垣くんも小さな袋を一つ持っていた。
ふふっ。やはり可愛い相手には重い荷物を持たせるわけがないな。
それでも荷物を持ちたいといった谷垣くん用の荷物を持たせたというところだろう。

「会長、いいスペースができていますね」

「ああ、あとは志摩くんたちが買ってきてくれたものを設置するだけだ」

「わかりました。すぐに用意しますね」

そういうと志摩くんは手際よく給水ボトルをケージと遊びスペースの二箇所に設置し、齧り木もいくつかの大きさのものを置いていた。
その他にもグリが遊べるトンネルやボールなども用意してあって、遊びスペースはあっという間に充実した。
これならきっとグリも楽しんでくれるだろう。

「ウサギ用の餌のペレットと牧草は浅香さんのご友人の方が定期的にこちらに送ってくださるそうです。後でその方に連絡をとっておきますね」

「ああ、一週間分の餌と牧草は浅香さんが持ってきてくださったから当分はこれでいけるだろう」

その餌を設置していると、グリがその餌の匂いに気づいたようで目を覚ました。

母の腕からぴょんと飛び降りると一目散に餌に駆けていく。
ひかるはそんなグリの様子を嬉しそうに見つめていた。

しばらく遊びスペースの中でグリと戯れてから、ひかるをベッドに戻した。
すると、ひかるはさっき浅香さんからもらったウサギの形をした名刺を大切そうに取り出し、

「グリに何か心配なことがあった時、本当にかけても大丈夫でしょうか?」

と尋ねてきた。

「ああ、構わないよ。浅香さんもひかるを信頼して渡してくれたのだからな」

そういうと、ひかるは嬉しそうにその名刺を見つめていた。
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