上 下
54 / 279

嬉しい知らせ

しおりを挟む
「じゃあ、早速櫻葉会長に連絡をしてくるよ。ひかるはここで母さんと待っていてくれ」

「わかりました」

ひかるの髪にキスを贈り、私は自室に向かった。

それにしても櫻葉会長とこんな縁で繋がることになるとは思ってもみなかったな。
櫻葉会長はどんな反応をするだろうか。
やはり緊張するな。

父が亡くなった時に、櫻葉会長が送ってくれた手紙にプライベート用の連絡先が書かれていた。
それを取り出し電話をかけると数コールののちに電話がつながった。

ーもしもし。

ーお忙しいところ恐れ入ります。私、貴船玄哉の息子で征哉と申します。櫻葉会長のお電話でお間違えございませんか?

ーああ、征哉くんか。久しぶりだな。

ーはい。ご無沙汰しております。お元気でお過ごしですか?

ーああ。今はかなり気楽に過ごさせてもらっているよ。時折会社には行くが、史紀ふみのりが頑張ってくれているから私としては安心しているよ。

ーええ。史紀さんのお話は私にも届いていますよ。新たな事業を拡大したり頑張っているそうですね。

ーははっ。まだまだ征哉くんの足元にも及ばないが、史紀のことを頼むよ。

ーはい。私で力になれることでしたらおまかせください

ーそれで今日は一体どうしたんだ? こちらプライベート用にかけてくるなんて、初めてじゃないか?

ーはい。実はとても大事な話があって、ご連絡いたしました次第です。

私の声が変わったことに気づいたのか、櫻葉会長の方の空気が変わったのが電話口でもよくわかった。

ーどうした? 何か大変なことでもあったのか?

ー本来ならば、電話などではなくお会いしてお話しするべき案件なのですが、まずはこちらで失礼します。実は、櫻葉会長の息子さんと思われる人物が見つかりました。

ーな――っ、それは本当か? どこだ? どこにいるんだ?

ー櫻葉会長、落ち着いてください。

ーああ、すまない。つい……。

ーいえ、お気持ちはわかります。実は、彼と縁があって一ヶ月ほど前から私の家で暮らしているのです。

ーえっ? 征哉くんの家に? どうしてそんなことに?

ーはい。実は――

ひかるが病院から誘拐されてから、施設で育ったこと。
ある店に引き取られて奴隷のような生活を送っていたこと。
ひと月ほど前に母を庇って事故に遭い、ひかるが一生歩けないと診断されたこと。
その後、ひかるを引き取り我が家で世話をしながらリハビリを頑張っていること。

それらをかい摘んで伝えると最初は静かに聞いていた櫻葉会長だったが、電話口からすすり泣きのようなものを感じた。

ー櫻葉会長、大丈夫ですか?

ーああ。先日、磯山先生が我が家に来られた時から、もしかしたら息子が見つかったのかもしれないという仄かな期待はしていたんだ。だが、今までも息子に似ている人がいるという情報に期待しては裏切られていたから、期待することを諦めていたんだ。だが、今度こそ本当なのだな……。

ーはい。櫻葉会長の息子さんが誘拐された当時着ていた服も、彼が着ていたものだという証言もありますし、何よりあの三つ並んだホクロもありますよ。間違いないとは思いますが、もし気になるようでしたらDNA鑑定もしてはっきりさせても構いません。

ーいや、征哉くんがそこまで言ってくれるんだ。間違いはないだろう。あの、それで……息子には会わせてもらえるだろうか? もし、彼が混乱するというのなら、父親だと名乗らなくてもいいんだ。ただ元気でいる姿が見たい。

ー実は、櫻葉会長にお話しする前に彼にはもう話をしました。

ーえっ? 本当に?

ーはい。彼はずっと自分が捨てられたと聞かされていたので、最初は困惑しているようでしたが、自分が無理やり病院から連れ出されて、櫻葉会長が今でも彼を探しているという話を伝えたら、会ってみたいと言っていましたよ。

ー――っ!!! そうか……。ああ、なんて優しい子なのだろうな……。

ーええ、本当に。母が申しておりましたよ、彼が優しい麻友子さんによく似ていると。

ーま、ゆこに……。そうか……ありがとう。

ーいつ頃、お会いになりますか? 彼が今はあまり動けない状況ですので、我が家にお越しいただくことになりますが。

ー私はいつでも構わない。征哉くんの都合に合わせよう。

ーそれでは明後日の午後でもよろしいですか?

ーああ、わかった。息子への贈り物を用意しても構わないか?

ーええ。彼も喜びます。それではお待ちしております。何かあればいつでもご連絡ください。

櫻葉会長の声、本当に嬉しそうだった。
生まれてすぐに離れて18年ぶりに会うのだからな。

その間、ずっとひかるのことを忘れずに過ごしてきたわけか……。

ひかるとの仲は流石に電話で話すわけにはいかなかった。
明後日、直接会って許しをいただくとしよう。
まずは親子の対面をさせてからだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】勇者様の思い通り~魔王や魔族たちに何故か溺愛されてます

浅葱
BL
【12/18 完結後番外編を上げました】 「私と結婚してこの魔の国を治めてはくれぬか?」  妖艶な美女の姿をした魔王にそう言われ、勇者は泣いた。 「なんで女性ばっかなんだよおおおーーー!」と。  勇者の恋愛対象は男性なのに、見目よし、実力ありのせいか勇者パーティーは全員女性だった。  魔王城に辿り着くまで、パーティーの女性たちに毎晩夜這いをかけられて女性不信マックスになっていた勇者。  これはもう魔王に殺してもらうしかないとまで思いつめて魔王城に着いたら、魔王まで女性でしかも勇者に求婚してくる始末。  勇者は絶望したが、魔王の元の姿は男性型で、しかも変化が得意と知って?  元の姿は背が低めの少年魔王(変化が得意。アレはでかい)+魔族とか魔物×顔はイケメンだけどムキムキマッチョな童貞処女ビッチ勇者。  魔族や魔物は強い者が好きで、その者に従う傾向がある。勇者は妄想をこじらせ過ぎていろんな男性に愛されたいと強く願っていたから、魔王、魔族、魔物にめちゃくちゃ愛されるようになる。  超テンプレ。誰もが書いてる設定での安定のハッピーエンドです。  魔王とのらぶえち(変化あり)あり、魔族や魔物とのらぶえちもあり。小スカとか二輪挿しもあるし、ありえないところからの出産もあるよ(ぉぃ 公開セッ/総受け/巨根攻め/結腸責め/複数攻め/尿道責め/小スカ/拡張/二輪挿し/乳首責め/触手責め/駅弁/出産あり 注:勇者以外がされる描写もあります。そちらには注意書きを改めて入れます~ 9/2 表紙のイラストはNEOZONE様に描いていただきました! 魔王(エリーアス)と勇者(クルト)と侍従長(イオール)です! 美麗イラストめちゃくちゃ嬉しいです!! 12/1 fujossyの「第三回 fujossy小説大賞」に参加します! 修正更新していきますのでよろしくー https://fujossy.jp/books/25823

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

処理中です...