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一生そばにいたい
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「改めてちゃんと挨拶がしたい。ここに座ってくれないか?」
上田先生の優しい声に、智さんが大きな手で僕の背中を支えてくれた。
不安とか驚きとかもういろんな感情が頭の中を駆け巡る中、ゆっくりと席に座ると智さんがハンカチで僕の涙を拭ってくれた。
ああ、そういえば涙を誰かに拭ってもらったのって初めてだ。
僕には涙を流した時に拭ってくれる人がいる。
それがものすごく嬉しいし、安心するんだ。
智さんが僕のことを紹介してくれる。
上田先生はうちの会社の顧問弁護士さんのことを知っているみたいだ。
そういえば顧問弁護士さんに相談するなんて考え、全然思いつかなかったな。
あの時たまたま智さんがいた弁護士事務所の前にいたから相談しようと思っただけだし。
あれがなかったら、誰にも相談できなかったままだ。
でもその顧問弁護士さんに協力を頼んだってことはもしかして、その先生も僕のことを知っているんだろうか?
そして目の前にいる上田先生も僕ことを……?
一気に不安になった僕にすぐに気づいて、智さんが
「暁、大丈夫だよ。依頼内容については上田先生は何も知らない」
と言ってくれてホッとした。
協力してもらった顧問弁護士の先生はもしかしたら知っているかもしれないけれど、社内でのトラブルを解消するために任されている人なんだし、それに僕以外にも被害者がいるって言ってたし、もし、会うようなことがあっても素知らぬふりをしてくれるよね。
「北原くん、安心していいよ。私の恋人も依頼がらみで知り合ったが、その内容については小田切くんも知らないんだ。同じ事務所で仕事をしていても、依頼人が望まない限り他の弁護士に話すことはしないよ。そういう信頼の元に成り立っている仕事だからね」
と言ってくれた。
そうか……そうだよね。
それならこのことはもう忘れよう。
もう全部解決してもらったんだから……。
いつものように智さんに美味しい料理を食べさせてもらっても、上田先生はにこやかな笑顔で僕たちをみているだけだ。
やっぱり智さんの言っていた通り、恋人同士が料理を食べさせ合うって普通のことなんだな。
今まで知らなかったけどそれが常識だったんだ。
やっぱり僕は世間のことを何も知らないで過ごしてきたんだな。
きっと上田先生も恋人さんとこんなふうに毎日食事をしているに違いない。
こういうのを我慢せずに普段の生活をさらけ出せる相手がいるのってなんだか幸せだ。
「そ、それはそうと、これから二人で住む家は考えてるのか?」
上田先生のその質問に、智さんがすぐにもう一緒に住んでいると答えたら、少しびっくりしたような顔をしていた。
やっぱり流石に早いと思われたのかな。
ちょっと不安に思っていると、智さんは
「少しの時間も離れたくないですからね。今は朝夕送迎して、お弁当も持たせてるんですよ」
と上田先生に報告をしていた。
それを聞いて上田先生から、小田切のやっていることについてどう思う? と尋ねられたので僕は正直に思った通りに伝えた。
正直びっくりしたけれど、僕と少しの時間も離れていたくないと言ってくれたのはすごく嬉しかったし、今の僕はもう一人でどうやって過ごしていたのかも思い出せないほど、智さんに頼り切っていて、たった数日なのにもう一人で暮らせる気がしない。
一緒に住み始めたら、智さんはともかく、僕のだらしないところとかみられて嫌われちゃうかもなんて心配はあったけど、智さんはそれすらも可愛いと言ってくれるから心配すら無くなってしまっている。
だから、智さんが僕のためにやってくれていること全てが嬉しいんだ。
上田先生は僕の返事に何故か深く納得していたけれど、僕をみてにっこりと笑顔を見せてくれたから失敗はしていないだろうとちょっとホッとした。
「先生、明日も仕事ですからそろそろお開きにしましょうか」
「そうだな。今日は北原くんを紹介してもらって、小田切くんの初めてみる表情をみられて楽しかったよ。北原くん、今日はわざわざありがとう」
「い、いえ。こちらこそ、ご一緒できて嬉しかったです」
「敦己……ああ、私の恋人だが、彼が来週末海外出張から帰国するんだ。君たちと紘には紹介しようと思っているからまたここで食事をしよう」
そう言われたけれど、聞きなれない名前が出てきた。
紘さんって、一体誰だろう?
気になって尋ねてみると、どうやら上田先生の弟さんらしい。
先生の恋人さんの同僚で、智さんの大学時代の友達みたいだ。
そんな偶然があるんだ……。
やっぱり世の中って広いようで狭いんだな。
その弟さんの紹介で恋人さんと出会ったから紹介すると話していたけれどそんな場に僕までついて行っていいのか気になってしまう。
けれど、上田先生は
「北原くんなら、敦己と仲良くなれそうだ。敦己は28歳で北原くんより少し年上だが、童顔だからかな……北原くんと同じ年くらいに見えるよ」
と優しく言ってくれた。
僕より3つ上か……。
同じ男性の恋人がいる人と知り合えるのって初めてかも。
田辺もそうだって言ってたけど、きっと田辺は智さんたちと同じっぽいし。
敦己さん、か……。
仲良くなれたらいいなぁ。
帰り際、
「北原くん、小田切のことをよろしく頼むよ。君の存在が何よりも重要らしい。一生そばにいてやってくれ」
と上田先生に言われて、そっと智さんをみると穏やかな表情で僕をみていた。
僕の方が智さんがいないともうダメになっているんだよ。
そう言いたくなる。
人前で自分の気持ちを告げるのは恥ずかしかったけれど、ここは適当に言葉を濁すのは良くないと思った。
「はい。僕も一生そばにいたいと思ってます」
上田先生の目を見ながら真剣にそう言った瞬間、智さんは僕の手を優しく握ってくれた。
智さんの手の温もりが伝わってくる。
ああ、僕は本当に幸せだ。
上田先生に別れを告げて、車に乗り込み僕たちの家に帰る。
「暁……明日も仕事だけど、少しだけでいい。暁を愛したいんだ。いいか?」
「はい。僕もそうお願いしようと思ってました」
「――っ!!!」
それから家に着くまでの間、智さんは一度も口を開かなかったけれど、ずっと大きな手で僕の手を優しく握ってくれていた。
上田先生の優しい声に、智さんが大きな手で僕の背中を支えてくれた。
不安とか驚きとかもういろんな感情が頭の中を駆け巡る中、ゆっくりと席に座ると智さんがハンカチで僕の涙を拭ってくれた。
ああ、そういえば涙を誰かに拭ってもらったのって初めてだ。
僕には涙を流した時に拭ってくれる人がいる。
それがものすごく嬉しいし、安心するんだ。
智さんが僕のことを紹介してくれる。
上田先生はうちの会社の顧問弁護士さんのことを知っているみたいだ。
そういえば顧問弁護士さんに相談するなんて考え、全然思いつかなかったな。
あの時たまたま智さんがいた弁護士事務所の前にいたから相談しようと思っただけだし。
あれがなかったら、誰にも相談できなかったままだ。
でもその顧問弁護士さんに協力を頼んだってことはもしかして、その先生も僕のことを知っているんだろうか?
そして目の前にいる上田先生も僕ことを……?
一気に不安になった僕にすぐに気づいて、智さんが
「暁、大丈夫だよ。依頼内容については上田先生は何も知らない」
と言ってくれてホッとした。
協力してもらった顧問弁護士の先生はもしかしたら知っているかもしれないけれど、社内でのトラブルを解消するために任されている人なんだし、それに僕以外にも被害者がいるって言ってたし、もし、会うようなことがあっても素知らぬふりをしてくれるよね。
「北原くん、安心していいよ。私の恋人も依頼がらみで知り合ったが、その内容については小田切くんも知らないんだ。同じ事務所で仕事をしていても、依頼人が望まない限り他の弁護士に話すことはしないよ。そういう信頼の元に成り立っている仕事だからね」
と言ってくれた。
そうか……そうだよね。
それならこのことはもう忘れよう。
もう全部解決してもらったんだから……。
いつものように智さんに美味しい料理を食べさせてもらっても、上田先生はにこやかな笑顔で僕たちをみているだけだ。
やっぱり智さんの言っていた通り、恋人同士が料理を食べさせ合うって普通のことなんだな。
今まで知らなかったけどそれが常識だったんだ。
やっぱり僕は世間のことを何も知らないで過ごしてきたんだな。
きっと上田先生も恋人さんとこんなふうに毎日食事をしているに違いない。
こういうのを我慢せずに普段の生活をさらけ出せる相手がいるのってなんだか幸せだ。
「そ、それはそうと、これから二人で住む家は考えてるのか?」
上田先生のその質問に、智さんがすぐにもう一緒に住んでいると答えたら、少しびっくりしたような顔をしていた。
やっぱり流石に早いと思われたのかな。
ちょっと不安に思っていると、智さんは
「少しの時間も離れたくないですからね。今は朝夕送迎して、お弁当も持たせてるんですよ」
と上田先生に報告をしていた。
それを聞いて上田先生から、小田切のやっていることについてどう思う? と尋ねられたので僕は正直に思った通りに伝えた。
正直びっくりしたけれど、僕と少しの時間も離れていたくないと言ってくれたのはすごく嬉しかったし、今の僕はもう一人でどうやって過ごしていたのかも思い出せないほど、智さんに頼り切っていて、たった数日なのにもう一人で暮らせる気がしない。
一緒に住み始めたら、智さんはともかく、僕のだらしないところとかみられて嫌われちゃうかもなんて心配はあったけど、智さんはそれすらも可愛いと言ってくれるから心配すら無くなってしまっている。
だから、智さんが僕のためにやってくれていること全てが嬉しいんだ。
上田先生は僕の返事に何故か深く納得していたけれど、僕をみてにっこりと笑顔を見せてくれたから失敗はしていないだろうとちょっとホッとした。
「先生、明日も仕事ですからそろそろお開きにしましょうか」
「そうだな。今日は北原くんを紹介してもらって、小田切くんの初めてみる表情をみられて楽しかったよ。北原くん、今日はわざわざありがとう」
「い、いえ。こちらこそ、ご一緒できて嬉しかったです」
「敦己……ああ、私の恋人だが、彼が来週末海外出張から帰国するんだ。君たちと紘には紹介しようと思っているからまたここで食事をしよう」
そう言われたけれど、聞きなれない名前が出てきた。
紘さんって、一体誰だろう?
気になって尋ねてみると、どうやら上田先生の弟さんらしい。
先生の恋人さんの同僚で、智さんの大学時代の友達みたいだ。
そんな偶然があるんだ……。
やっぱり世の中って広いようで狭いんだな。
その弟さんの紹介で恋人さんと出会ったから紹介すると話していたけれどそんな場に僕までついて行っていいのか気になってしまう。
けれど、上田先生は
「北原くんなら、敦己と仲良くなれそうだ。敦己は28歳で北原くんより少し年上だが、童顔だからかな……北原くんと同じ年くらいに見えるよ」
と優しく言ってくれた。
僕より3つ上か……。
同じ男性の恋人がいる人と知り合えるのって初めてかも。
田辺もそうだって言ってたけど、きっと田辺は智さんたちと同じっぽいし。
敦己さん、か……。
仲良くなれたらいいなぁ。
帰り際、
「北原くん、小田切のことをよろしく頼むよ。君の存在が何よりも重要らしい。一生そばにいてやってくれ」
と上田先生に言われて、そっと智さんをみると穏やかな表情で僕をみていた。
僕の方が智さんがいないともうダメになっているんだよ。
そう言いたくなる。
人前で自分の気持ちを告げるのは恥ずかしかったけれど、ここは適当に言葉を濁すのは良くないと思った。
「はい。僕も一生そばにいたいと思ってます」
上田先生の目を見ながら真剣にそう言った瞬間、智さんは僕の手を優しく握ってくれた。
智さんの手の温もりが伝わってくる。
ああ、僕は本当に幸せだ。
上田先生に別れを告げて、車に乗り込み僕たちの家に帰る。
「暁……明日も仕事だけど、少しだけでいい。暁を愛したいんだ。いいか?」
「はい。僕もそうお願いしようと思ってました」
「――っ!!!」
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