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夢現
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「北原さんから請け負ったあのご相談の件ですが、全て解決いたしました」
「はい。ありがとうございます」
ああ、小田切先生と過ごせる時間も本当にもうこれで終わってしまうんだ……。
安田さんとのことが解決して嬉しいはずなのに、これから先生と過ごせない方が辛くてたまらない。
一緒に過ごせないどころか、先生からのメッセージも、あの可愛いスタンプももう見られなくなっちゃうんだな。
この数日、先生からのメッセージが届くたびにドキドキして、胸の奥が疼いて幸せな時間だったのに……。
僕の話を真剣に聞いてくれたのは先生が初めてで、ただの憧れだと思っていたのに、僕はいつの間にか本気で先生のことを好きになっていたみたいだ。
もう会えないとわかってから自分の思いに気づくなんて、僕はどれだけばかなんだろう。
でも、たとえずっと前にわかっていたとしても、どうすることもできないんだ。
そう考えたら一人で悶々と悩み続けるよりはよかったのかな……。
うん、そう思おう。
「安田はすでに警察に身柄を拘束されています。今回の逮捕は公務執行妨害での逮捕ですが、すでに皆さんに書いていただいた告訴状と告発状は受理されていますので、その件でも逮捕されることになっています。一応初犯ですが被害人数とその悪質性から他にも余罪があると思われますのでそちらの捜査もされることになっています。今回は間違いなく実刑になりますので、北原さんの前に安田が現れることは当分ありません。ご安心ください」
「小田切先生……本当にありがとうございます。僕……なんてお礼を言ったらいいか……」
「私は弁護士としてやるべきことをやっただけですから」
先生にとって仕事の一つでも、先生と出会えたことは僕にとって大きな人生の転機だった。
だから、精一杯のお礼をしないと。
「あの、僕……本当に感謝してるんです。だから、お礼はいくらでもお支払いします。お好きな額を仰って下さい!」
「えっ?」
「僕、仕事ばっかりで趣味もないし、買い物も全然してないんでお金だけは貯まってます。だから、先生にいくらでもお支払いできると思います。僕の感謝の気持ちなので、先生のお好きな額を仰って下さい」
せめて先生の記憶にでも残れたらそれだけでいい。
他の望みなんて僕には勿体無い。
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい。北原さん、お金なんて結構ですよ」
「えっ……どうしてですか?」
僕が小田切先生にできる唯一のことなのに……。
「私は、北原さんの力になりたくて、私ができることをしただけです。北原さんにお金をいただくつもりは最初からありませんでしたよ」
「でも、それじゃあ……」
僕は先生の中に何も残せない。
先生に僕を覚えていてほしいのに。
それだけが望みなのに……。
「僕の気が済まないんです。あの、じゃあお金じゃなくても何か僕にしてほしいことはありませんか? 僕でも先生の力になれることはありませんか? お願いです。僕にも何か先生のためにさせて下さい」
「北原さん……」
「お願いします!」
僕は必死に頭を下げた。
なんとかして先生の記憶に残りたい。
その思いでいっぱいだったんだ。
「じゃあ、北原さん……あなたにしか、頼めないことをお願いしてもいいですか?」
「えっ、僕にしか?」
「ええ。そうです」
「はい。どんなことでも言って下さい。僕、なんでもしますから」
「その言葉……私以外には言ってはいけませんよ」
「えっ?」
何を言われたのかわからなくて聞き返そうとすると、先生は何も言わずにスッと立ち上がりそのまま僕の隣に腰を下ろした。
「わ――っ! えっ、あの……」
急に手を握られてドキドキする。
何?
一体何がどうなってるの?
「北原さん」
「は、はい……」
何?
どうして先生に見つめられてるの?
綺麗な瞳に見つめられて、心臓がもたないよ!
「私の、恋人になってください」
「……えっ? い、ま……なん、て……?」
「北原さんを初めて見たときから惹かれていました。北原さんの憂いが解決するまではと思って必死に抑えてきましたが、もう我慢できないんです。絶対に幸せにしますから、私の恋人になってほしいんです」
「えっ、あっ……えっ? あ、あの……ほ、んとうに? じょう、だんとか……?」
「冗談でこんなこと言いませんよ。私は弁護士ですから、嘘をついたり騙したり決して傷つけたり泣かせたりしないと誓います。ですから、北原さんの恋人にしていただけませんか? はい以外の言葉は聞きたくないです。北原さん、どうか……」
小田切先生の切羽詰まったような瞳に、僕は夢見心地のまま
「は、い……せん、せいの……こい、びとに、して、ください……」
と答えていた。
「はい。ありがとうございます」
ああ、小田切先生と過ごせる時間も本当にもうこれで終わってしまうんだ……。
安田さんとのことが解決して嬉しいはずなのに、これから先生と過ごせない方が辛くてたまらない。
一緒に過ごせないどころか、先生からのメッセージも、あの可愛いスタンプももう見られなくなっちゃうんだな。
この数日、先生からのメッセージが届くたびにドキドキして、胸の奥が疼いて幸せな時間だったのに……。
僕の話を真剣に聞いてくれたのは先生が初めてで、ただの憧れだと思っていたのに、僕はいつの間にか本気で先生のことを好きになっていたみたいだ。
もう会えないとわかってから自分の思いに気づくなんて、僕はどれだけばかなんだろう。
でも、たとえずっと前にわかっていたとしても、どうすることもできないんだ。
そう考えたら一人で悶々と悩み続けるよりはよかったのかな……。
うん、そう思おう。
「安田はすでに警察に身柄を拘束されています。今回の逮捕は公務執行妨害での逮捕ですが、すでに皆さんに書いていただいた告訴状と告発状は受理されていますので、その件でも逮捕されることになっています。一応初犯ですが被害人数とその悪質性から他にも余罪があると思われますのでそちらの捜査もされることになっています。今回は間違いなく実刑になりますので、北原さんの前に安田が現れることは当分ありません。ご安心ください」
「小田切先生……本当にありがとうございます。僕……なんてお礼を言ったらいいか……」
「私は弁護士としてやるべきことをやっただけですから」
先生にとって仕事の一つでも、先生と出会えたことは僕にとって大きな人生の転機だった。
だから、精一杯のお礼をしないと。
「あの、僕……本当に感謝してるんです。だから、お礼はいくらでもお支払いします。お好きな額を仰って下さい!」
「えっ?」
「僕、仕事ばっかりで趣味もないし、買い物も全然してないんでお金だけは貯まってます。だから、先生にいくらでもお支払いできると思います。僕の感謝の気持ちなので、先生のお好きな額を仰って下さい」
せめて先生の記憶にでも残れたらそれだけでいい。
他の望みなんて僕には勿体無い。
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい。北原さん、お金なんて結構ですよ」
「えっ……どうしてですか?」
僕が小田切先生にできる唯一のことなのに……。
「私は、北原さんの力になりたくて、私ができることをしただけです。北原さんにお金をいただくつもりは最初からありませんでしたよ」
「でも、それじゃあ……」
僕は先生の中に何も残せない。
先生に僕を覚えていてほしいのに。
それだけが望みなのに……。
「僕の気が済まないんです。あの、じゃあお金じゃなくても何か僕にしてほしいことはありませんか? 僕でも先生の力になれることはありませんか? お願いです。僕にも何か先生のためにさせて下さい」
「北原さん……」
「お願いします!」
僕は必死に頭を下げた。
なんとかして先生の記憶に残りたい。
その思いでいっぱいだったんだ。
「じゃあ、北原さん……あなたにしか、頼めないことをお願いしてもいいですか?」
「えっ、僕にしか?」
「ええ。そうです」
「はい。どんなことでも言って下さい。僕、なんでもしますから」
「その言葉……私以外には言ってはいけませんよ」
「えっ?」
何を言われたのかわからなくて聞き返そうとすると、先生は何も言わずにスッと立ち上がりそのまま僕の隣に腰を下ろした。
「わ――っ! えっ、あの……」
急に手を握られてドキドキする。
何?
一体何がどうなってるの?
「北原さん」
「は、はい……」
何?
どうして先生に見つめられてるの?
綺麗な瞳に見つめられて、心臓がもたないよ!
「私の、恋人になってください」
「……えっ? い、ま……なん、て……?」
「北原さんを初めて見たときから惹かれていました。北原さんの憂いが解決するまではと思って必死に抑えてきましたが、もう我慢できないんです。絶対に幸せにしますから、私の恋人になってほしいんです」
「えっ、あっ……えっ? あ、あの……ほ、んとうに? じょう、だんとか……?」
「冗談でこんなこと言いませんよ。私は弁護士ですから、嘘をついたり騙したり決して傷つけたり泣かせたりしないと誓います。ですから、北原さんの恋人にしていただけませんか? はい以外の言葉は聞きたくないです。北原さん、どうか……」
小田切先生の切羽詰まったような瞳に、僕は夢見心地のまま
「は、い……せん、せいの……こい、びとに、して、ください……」
と答えていた。
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